第22話
ムラト視点です
「じゃあ、準備いいかな?はじめっ!」
俺はあいつが気に入らない。俺の愛する人をエロい目で見やがった。そりゃあ、あいつはこの世界で最も美しくて可憐だから、多少目が向いてしまうのはわかる。
でもだからといってあんな目で見ていいとは俺が許さない。
たかが人間のガキに狼の獣人であり、足に身体強化を施した俺が負けるはずがない。
ほら、あいつの驚いた顔、俺が目の前にいることにびっくりしてやがる。
俺の二刀流の餌食になりやがれ!
ボンッ!
えっ?
消えた?いきなり奴の持つ剣が消えた。
ま、まあいい。好都合だ!死ね!
両手に一本づつ持った木剣で斬りつける。
ボンッ、ボンッ!
「はあっーーー?」
思わず声が出てしまった。
ありえないだろう?攻撃した俺の剣が消えるとか。
それをした奴もまた何故だか驚いている。お互いに呆然と見合う。
「え、えっと、この場合、どうしよう?」
「素手でやる?」
オーロラとかいう俺たちの担任だというガキと今日から俺の担任だというあのエロガキが、なんか物騒なことを言っている。
叩きつけた木剣が消えるような相手に素手でやったらどうなることか?考えなくてもわかりそうなもんなのに。
呆れてさっきまでの怒りが消えちまった。
はあー、また怒りで我を忘れていたみたいだ。
また、ナナに後で怒られるんだろうな。
まあ、怒ったナナの顔も好きだから、よしとするか。
「やめだ。素手なんかでやったらどうなるかわかったもんじゃねぇ。お前が強いのはわかったよ。引き分けってことにしといてやる。」
うまく誘導して引き分けに持ち込む。
「そっかぁ、引き分けかぁ。まあ、剣がなくなっちゃうんじゃ戦えないよね。じゃあ、今度もっと丈夫な剣でやろうね!」
爽やかな顔してとんでもねえこと言いやがって、もう少し俺自身も強くならなくちゃいけない。でないとナナを守れないから。あいつは強いけど、俺が守るんだ。
「それはそうとてめえ、いや、ハートランドとか言ったか。その魔法はなんだ?」
「えっ?何って身体強化の魔法だよ。君も使えるっていうからボクも使ったんだけど。」
「はぁ?ふざけんな。そんな全身に魔力巡らせて、木剣をかき消す身体強化なんてあるわけねえだろう?身体強化ってのは俺みたいに部分的に肉体を強化して、速さや力を強化することを言うんだよ!デタラメ言うんじゃねえ!」
「えっ?そうなの?部分的でよかったんだ。知らなかったよ。何せ昨日覚えたばかりで、今日が初めての実践だから。身体強化を使う人も始めて見るから、勝手がわからなかったんだ。教えてくれてありがとう。」
なんとも拍子抜けするやろうだ。昨日覚えただと?ふざけた野郎だ。俺が身体強化を覚えるまでどれだけかかったと思ってるんだ!だ、だが、それにしてもあれだけの魔力を全身で纏ったくせに、なんともなさそうな顔してるとか、あいつどれだけの魔力を持ってるんだ?とんでもない化け物だって言うのはわかった。だが、絶対負けねえ!ナナの隣に立つのは俺だ!
「おい、化け物、これからよろしく頼むぜ。お前のその技が使えるようになれば、俺も化け物の仲間入りだ。さっさとその技教えやがれ!」
「え、あ、うん、よろしくね!でも君って魔力どれくらいあるのかな?これ、結構浪費が激しいから、そこから鍛えるところから始めようか。」
くっ!痛いところをつきやがる。でもまあ、教えてくれるって言うんだから教えておいてもらってやるか。
「おぅ、わかった。魔力増やすところからだな。それとそこのちびっ子、お前は何ができるんだ。お前もこいつと同じ化け物なんだろう?お前も俺に何か教えやがれ。」
「ち、ちびっ子。そ、それは私のことを言っているのかな?犬っころ!」
急速にオーロラの魔力が高まっていく。感知しなくてもわかる、それくらいヤバイ!
「ストップ!オーロラ!君は先生なんだろう?生徒の挑発に乗るな!」
「うっ、ご、ごめんなさい。ハートランド君がそう言うならやめる。」
ヤバイヤバイヤバイ!あのちびっ子もとんでもないじゃねえか!あいつが止めなかったら大怪我、いや死んでいたかもしれない。
「ま、まあ、今回は許してやらぁっ!」
尻尾が思いっきり下がっていることに気付かないムラトはそんな強気な発言をしているが、それを見逃さなかったハートランドとナナ、そしてマユリちゃんは微笑ましくその光景を眺めていた。




