第20話
新しい朝が来た。希望の朝だ。
なぜだか今日はすっきり目覚められた気がする。昨晩先生たちが帰った後、新しい魔法を2つ覚えた。身体強化を覚えたので、バーナー流剣術と合わせれば、街のゴロツキ程度ならまず負けないだろうし、ドレインがあれば魔力切れの心配がないため、継続して戦える。属性魔法を失って知らないうちに不安に思っていたのだろう、それが解消されたが故の安眠だったのだ思う。
日課になりつつあるソナーを展開、先日できなかった父さんの部屋まで範囲を広げて立体に展開。
扉の前に2人、父さんの部屋に2人の反応。
扉の前にいるのはアイサとリーサだな、で、父さんの部屋は・・・父さんと母さんが・・・ベットの上で何やらゴソゴソと・・・これ以上はやめておこう。父さん、母さんにもプライバシーがある。
消費した魔力をドレインで回復し、扉の前の2人に挨拶する。
「あー、坊ちゃま〜、おはようございます〜。昨日、私たちもお話に参加させてくれたおかげで、やっと避けられてた理由がわかりました〜。」
この語尾が伸びてゆる〜い感じの喋り方はリーサだ。心なしか昨日よりもホワホワしてる気がする。
そして、そんなリーサを鋭い目付きで見てるのはアイサ。
「ハートランド様、おはようございます。リーサもこう申している通り、私どもにまで、あのような秘密を教えていただきありがとうございます。私どもをそこまで信用してくださってくれたということ感謝の念に堪えません。私どもはハートランド様の秘密を守り、終生の忠誠を誓います。」
綺麗なお辞儀をし、リーサにも強要するアイサ。終生の忠誠もいいけど、3人にも幸せになってもらいたい。
「アイサもリーサもありがとうね。終生の忠誠を誓ってくれてありがたいけど、自分の幸せもちゃんと考えてね。特にアイサはもう23歳、、、な、なんでもありません。」
年齢の話が出た瞬間、アイサからとんでもない威圧感を感じて言葉を噤む。昨日、シエラ先生で思い知ったのにいけない、いけない。でもこれだけの美人さんなんだから恋人の1人や2人いてもおかしくないんだけどな。メイサやリーサもそろそろそういう歳だけど、まだ子供っぽいところがあるからな。
「ね、ねぇアイサ。アイサはすっごい美人じゃない?だから恋人とかそういう人はいないの?もしいるならアイサには幸せになってもらいたいから、応援するよ。」
「いません!」
あー、また怒らせちゃったかぁ。
「私は終生、ハートランド様のそばに置かせていただければそれで幸せです。」
えーっ!
「いやいや、ボクはまだ10歳だし、そういうのはまだ、、、。」
「私もずっとお側に置いてくださいませ〜。」
リーサも便乗して来た。
いやいやいや、何これ?ひょっとして俺ってモテモテ?
「いやいや、アイサもリーサも美人なんだから、僕みたいなやつじゃなくて、もっといい男の人いるだろうから!」
「女神に愛される以上の男性がいるとでも?」
なんかアイサが怖い。獣の目というか、これが肉食系?しかも10歳の男の子にするような目付きじゃない。アイサも色々と心に闇を抱えているのかもしれない。ショタ、、、考えるのはやめておこう。
「と、とにかく、ボクのことはいいから他にいい人がいたらその人と幸せになってよね!」
俺は逃げるように話を切って食堂に向かう。
「私は?」
いつのまにかメイサが背後にいて尋ねて来た。気配を感じさせず、俺の背後を取るとはこやつ、出来る。
「え、えっとメイサも美人さんだから、素敵な人見つけてね。」
「無理。」
即答された。
「私は姉様やリーサよりも坊っちゃまのことが好き。この気持ちは誰にも負けない。」
いつになくやる気を見せるメイサに驚く。
「ありがとう。でもボクはまだ10歳だからそういうのまだわからないんだ。」
とりあえずこの場から逃げ出したい思いで、10歳を盾にして逃れる。
「じゃあ、待ってる。。。」
そう言ってメイサは立ち去っていった。相変わらず、謎な子だ。みんな、俺が今日から寮に入ると知っているので、しばらくは会えなくなる。それゆえの発言だったのかもしれない。とりあえずご飯食べて学園行くか。
軽い朝食を口にし、アイリスへの朝のコミュニケーションをたっぷりとって満たされた状態で馬車に乗り学園に向かう。入寮の準備はセバスとメアリーが手分けしてやってくれたようで、しばらくは寮生活になる。
昨日、シエラ先生に言われていたので、教室ではなく職員棟と向かう。職員棟は生徒がいるのとは別の建物で教師たちの個室と研究室がある。
「失礼します。ハートランド・バーナーです。シエラ先生はいらっしゃいますか?」
「あー、おはよう。ハートランドくんね、シエラ先生から話は聞いているよ。まだシエラ先生は来てないからそこで座って待っているといい。」
白い髪に白いヒゲ、頭は薄く、真ん中あたりが輝いている。眉毛が伸びすぎて目元が隠れているくらい。どこにでもいそうな温和なおじいちゃんといった風な人がソファを勧めてくれた。遠慮なくソファに腰掛けて待たせてもらうとする。
「シエラ先生からは優秀な生徒だから、授業を受けさせる必要がないと言われているけど、本当に大丈夫かい?この学園ではシエラ先生が一番魔法に詳しいから信用してはいるが、君はまだ10歳だし。入試の成績は満点だったから、優秀なのはわかっているんだが、、、。」
そりゃ、学生として入学して数日でクラス担任を任せるなんてどうかしてるとしか思えない。このおじいちゃんの疑問はもっともだ。
「こりゃ、たまげたのぉー。たしかにこれだけ魔法について知っているなら教えても意味がないかも知れん。」
待っている間に色々魔法についての質問をされたので、一応、全て知っていることだったので、サクサクと答えていたら、先ほどのお褒めの言葉である。お眼鏡には叶ったようだ。
そうこうしていると扉が開いてシエラ先生がやってきた。
「あら、学園長、ハートランドくんのお相手をしてくれていたんですね。で、どうですか?」
今日も白いシャツからこぼれ落ちんばかりの立派なものを揺らしながら、こちらに近寄ってくる。
って、この人学園長だったかぁ。そういえば式の時に見かけたな。周りの生徒や保護者ばかり見ていたため、教師陣は見ていなかったっけ。シエラ先生にも気付いてなかったんだから、どこにでもいそうなこのおじいちゃんのことなんて、目に入らなかったとしてもしょうがない。うん、そういうことにしよう。
「合格じゃ。むしろ予想以上といっていい。10歳とはとても思えん。試してみる価値はある。」
急におじいちゃんの雰囲気が変わり、眉毛の隙間から怪しい目が光り、こちらを見据える。これまでの会話が俺を欺くためのものだったと気づく。ま、学園長ってくらいだから、それなりの人物でないと成り立たないんだろう。
「まあ、私が見込んだ子なので、間違いはないですよ。さっそくEクラスへ向かいたいんですけど、よろしいですか?」
学園長はうなづき、少し離れたところにいた女性に声をかける。
「先生、ちょっとこちらへ。」
小柄で肩までに切りそろえられた輝く金色の髪にこの世界では珍しい黒い瞳の少女と言った風で、身長も俺より少し小さいくらいで、同年代と見間違うほどの人だった。
先生と呼ばれた女性は、俺の前に立ち、
「オーロラ・カールスバーグよ。よろしくね!」
と満面の笑みで俺に挨拶してきた。俺も席を立ち挨拶しようとすると、目の前の女性がいきなり涙を流し始めた。
「ぎょっ」としてこちらがあたふたしていると、
「あれ?なんで私泣いてるんだろう?」
とキョトンとしていた。思いっきり泣いているのに表情は泣いているとは思えない。
「まあ、いっか。あなたと同じ私も10歳の担任だから仲良くやろうね!」
だいぶ軽い?物事をあまり深く考えない性格のようだ。しかも10歳で教師って俺と同じくらい魔法に詳しいのか?
「オーロラ先生は10歳にして王国一の風魔法使いなのよ。風を操って空も飛べちゃうんだから。まあ、でも風以外使えないから、Eクラスの担任として採用したんだけど、もってこいでしょ?」
シエラ先生が意味ありげに俺に向かって話す。
「ちょっと!今、私が話してるんだからシエラ先生は後にしてよね!」
シエラ先生に対して、ずいぶん強気だな。
「はい、はい、まあ、今日は彼の初日だし私も一緒に紹介しにいくわ。」
シエラ先生、やっぱり大人だ。軽くいなしている。
こうして俺は新担任としてEクラスをオーロラ先生と共にシエラ先生を補佐という形で受け持つことになった。それにしてもオーロラってディ○ニーの中にそんな姫がいたような、まさか、どっかのお姫様なんてことないよな?と緊張感のないことを考えていた。




