第13話 汚泥は出立の足もを汚す
少し短めに纏めました。
「さて……こんなものか。」
ボルグから刀と装備を受け取った俺と木葉は一旦"始まりの酒場"へ戻り、改めて旅の身支度を整えていた。
本当は刀や装備を受け取ったらすぐにでも出立しようとも考えていたが、ミラに『旅慣れした木葉ならともかく、ド素人のアンタが武器一本でどう旅をするってんだい?』と諭されてしまい、それもそうだと言うことで街で携帯食料や回復薬などの最低限の必需品を買って行くことになった。
しかも、本来なら装備が完成するまでの1ヶ月、住まわせて貰っている上でのタダ働きという契約だったハズなのだが、ミラから想定以上の稼ぎが出たからといって給料まで貰ってしまった為、結局木葉の大量のポケットマネーは使わずに必需品を買い揃えることが出来てしまった。ミラ様々だ。
今は足りないものはないかと軽くチェックをしていた所だ……と言っても、チェックをするのは外套の内ポケットに入れた最低限の回復薬程度なのでチェックをするもしないもあまり関係ないのだが……。
本命は、腕輪のスキル"収納"だ。
使う機会もなかなか無かったので忘れ気味ではあったが、やはり想像通りいくらでも仕舞っておけるらしい。大きさの制限も無さそうだ。俺の"白竜"―――自分の"刀"にそう名前を付けてみた―――も簡単に収納出来た。
ついでに簡単に色々と試してみたのだが、まず、"収納"した物は自分の身に纏う所有物の範囲内ならばどこへでも出現させることができるらしい。例えば、外套を纏った上で、"取り出し"で背中に出現させたいと思えばちゃんと思った通りに背中に出現させることが出来た。(固定具を付けていなかったので滑り落ちて落としてしまったのは我ながらアホだった。)
……勿論、そこもちゃんと検証した。
かなり使い勝手が良いようで、ちゃんと固定具を付けたまま"取り出し"をすれば勝手に固定具と一緒に出現し、しかも勝手に体に取り付けられるという便利っぷりだ。
逆に固定具だけ体に付けて収納せず、刀のみを"取り出し"してもちゃんと固定具の方にすっぽり収まっていた。応用すれば戦闘時にもフェイントとかで使えそうだな。
さて、この便利スキルだが、俺は今の所木葉にもまだ腕輪の事は話していない……というか、話せるタイミングがなかなか掴めない。
本当はこんなコソコソとスキルを使っていないでミラとかにも教えておきたいのだが、このスキルがどこまでこの世界で普通の物なのか分からない以上、迂闊に話して驚かれすぎても困る。
木葉には旅途中ならいくらでも話すタイミングはありそうだが、世話になったミラにもこんなチート能力を持っている事を話していないのは、なんだか罪悪感が湧く……。さてどうするか。
そうして悩んでいるとタイミング良く部屋の扉が叩かれる。
「矢刀殿、準備はよろしいか?」
扉の外側から木葉の声がする。そろそろ出発か。
「ああ、大丈夫だ。」
返事をし、扉を開けると案の定、身支度を済ませた木葉がそこには立っていた。
普段の旅衣装の上に外套を羽織り、腰から僅かに覗く柄の先端がなんとも冒険者じみた雰囲気を醸し出している……あらやだかっこいい。
……まぁ、何やら曰く付きの刀らしい事も確かだ。
流石に今は落ち着いて考える事ができる。もし、"妖刀"であることが本当なら、ヤマトに関する事件に進展が見込めるかもしれない。
木葉にはいずれ、それとなく俺のスキル関連の話題で刀の事も伝えたほうが良いだろう。ただ、今ではない。
それにしても……木葉は"収納"スキルは持っていないと思うが、殆どここへ来た時と装備量が変わらないのが驚きだ。
…………まぁ、クナイとか有り得ない位置にあったからな……。きっとくノ一だから修行で鍛えた特殊な"収納"スキルがあるに違いない。うん。くノ一だからね。そうだよね。
*
階段を降りて一階には既にミラが待っていた。
「寂しくなっちまうねぇ、本当ならウチの店は誰も働き手は雇わない主義だったんだけどね。アンタ達が想像以上の働きをしてくれたもんだからさ、アタシ一人で店を回せるか心配になっちまうよ。」
そうして店の外を見るミラ。
「木葉ちゃんいかないでくれぇ~~!」「もう1日、もう1日だけでいいから!」「そんなぁ!ずっとこの店で働いておくれよぉ~~!」「木葉さん結婚してくださあああい!!」「お願いします!後1回で良いですから僕を蹴って下さい木葉様!!!」「1回だけオ、オラに足を舐めさせて欲しいでフ!!」
…………店の外は阿鼻叫喚の騒ぎだった。
どこから噂を聞きつけたのか、木葉のお世話になった客達が大集結していた。
客と言っても大方木葉のファンだろうが、どう考えても明らかに関わっちゃダメなタイプの声も聞こえたんですけど…………。
ミラが目を光らせているため、客達はビビって入っては来ないが、それにしてもなかなかの量だ。これは流石に表口からは出られないだろう。
「はぁ、困ったもんだねぇ。」
「…………申し訳ないミラ殿。」
「ははっ!アンタが謝ることじゃないさ。折角の見送りだけど、これは裏口から出てってもらうしか無いだろうね…………ん?」
ミラがそう言って裏口へ案内しようと立ち上がり、ふと、入口を見る。
俺達も釣られて窓を見るが、相変わらず大量の人集りがあるだけだ。
「おお!木葉ちゃんがこっちを見たぞ!」
「違うね!俺の方を見たに決まってる!」
「何を言ってるでフか!オラの爽やかイケメンフェイスに決まってるでフよ!!」
「「それはねぇだろ……。」」
同じく俺もそう思うぞ客Aと客Bよ。あぁ!アレだけ笑顔を振りまいていたハズの木葉さんの背後からなんか見えちゃいけないオーラ的なモノが見え始めてる……!
「…………どうやら気の所為みたいだね。」
「ん?何かあったのか?」
「いや!なんでもないさ!気にしないでおくれ。さ、裏口はこっちさ。」
「……そうか。」
何か含みのある気になる言い方ではあるが、俺はミラはあまり詮索を好まないのを知っている。
だから深くは追求しなかった。
裏口は店の裏手の路地と繋がっており、店の入口のある表通りからは少し迂回しないと入ってこれないらしい為、客に集られる事も無い筈、だそうだ。
厨房のある部屋の横を通り、ついぞ入ったことはなかったミラの寝室の横を通った先に裏口の扉はあった。
「さ、またいつでも街へ戻ってきな!いつでもここへ来れば泊めてやるよ!」
そう言って、ミラが裏口の戸を開けようと近づく。
だが。
この時、何故か俺はその戸を開けてはいけない気がしていた。
凄まじい悪寒が体を過ったのだ。
ミラがゆっくりと扉に手を掛けようとしているのが見える。
「開け―――――」
俺が思わず開けるなと言おうとした刹那だった。
―――――風が走った。
「葉隠流、一之太刀―――――露斬り。」
そんな声が聞こえたか聞こえない内に
バゴォォォォォォン!!!!
と目の前の木製の扉は粉々に砕け散った。
「なっ…………!」
「な、なんだい!?」
余りの爆風に思わず目を瞑ってしまう。
「チッ、アタシも落ちぶれたもんだね……目線は気の所為なんかじゃなかったよ……!」
横でそんな声が聞こえたか聞こえない内にその声も一瞬で遠ざかり、バシュン!と何かを切り裂くような音が響く。
爆風が収まったのを見計らい、何事かと恐る恐る目を開けてみれば…………俺は絶句した。
裏口のあった空間は跡形もなくなっており、木片の残骸と、何故か泥とおぼしきものが辺りに飛散していた。
そして何より驚いたのは…………。
ズゥゥゥゥゥン!!!
片腕の無い、巨大な人の形をした泥の塊が目の前で暴れ回っていた。
店の損害額がヤバそうです。




