↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された「効果不明」のエンチャンターは、隣国で計測不能と言われる  作者: まる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/30

第十一話 波紋

バルグナー団長が測定棟に来たのは、それから三十分後だった。


 六十代の大柄な男で、白い顎鬚をたくわえている。魔法師団の長にふさわしい威厳があった。レイアとは面識があるらしく、短く挨拶を交わした。


「計測不能とは、大げさではないか。三台全てか」


「はい。上限突破で測定不能です。現状の設備では正確な数値が出ません」


 バルグナーが俺を見た。


「これがその者か」


「アインと申します」


「どこの出身だ」


「ガルディアの東部の村で、王都に出てギルドに三年いました」


「師匠は」


「独学です」


 バルグナーが眉を上げた。


「独学で計測不能か」


「意識的に発動させた結果ではないようです。常時、周囲に付与が乗り続ける能力のようで、本人にも詳細は分かっていません」


 レイアが横から補足した。バルグナーはしばらく俺を見つめ、何かを考えていた。


「少し試させてくれ」


「何をしますか」


「あなたの近くで、術を一つ使う。違いを確認したい」


 俺は頷いた。


 バルグナーが短い詠唱で、小さな炎を出した。掌に乗るほどの大きさだ。それをしばらく維持してから、俺の方に近づいてきた。


 炎が、少し大きくなった。


 バルグナーが炎を消した。


「付与の密度が上がった。近づいただけでな」


「以前から、そのような報告が?」


「威力ではない。質だ。炎の安定性が上がった。ぶれが消えた」


 バルグナーは一度外を向いて、考えてから振り返った。


「他の団員を呼んでいいか。五人ほど、腕の確かな者を。実証をしたい」


「構いません」


 三十分後、測定棟に七人の魔法師が集まっていた。B級からA級の団員たちで、全員が俺の近くで術を試した。


 一人目。剣に魔力を流す強化術。剣が、通常より三割増しで光った。


 二人目。防御結界。同じ術で、より広い面積をカバーできた。


 三人目。回復術。効果の速度が上がった。


 四人目。探知術。感知範囲が広がった。


 五人目が術を試した後、静かに言った。


「これは……私の限界値を超えています」


 全員が同じ反応を示した。


 バルグナーが腕を組んだ。


「国家機密級の能力だ。今日のことは、ここにいる者以外に話すな」


「了解しました」


 団員たちが、次々と頷いた。


 俺は、その光景を、どこか遠くのことのように眺めていた。


 俺のエンチャントで、この国の一流の魔法師たちが、自分の限界を超えている。


 三年間、荷物番だった俺が。



◇



 レイアが俺の隣に来た。


「大丈夫か」


「……頭が、少し追いつかないです」


「そうだろうな」


「俺は本当に、こんな能力を持っていたんですか」


「そうだ」


 俺は測定棟の天井を見上げた。白い石の天井だった。


 三年間、毎日かけていたエンチャント。毎日「効いてる気がしない」と言われていたエンチャント。それが、実は国家機密級だった。


 笑うべきか泣くべきか、どちらでもない気がした。ただ、何かが確定したという感覚だけがあった。


 バルグナーが俺の前に来た。


「アイン殿」


 その口調が、変わっていた。さっきまでの「これがその者か」から、明らかに変わっていた。


「私の名はバルグナー・ヴェスタン。アルヴェイン王国魔法師団長だ。今日のことで、あなたへの見解を改めた」


「……」


「あなたの能力は、私が五十八年間で見てきた、どの付与魔法師とも違う。単純な強化ではなく、対象者の本来の力を引き出す。老いや疲労で失われたものを補う。そういう性質の付与だ」


「俺は、ただ、そこにいただけです」


「それが、あなたの能力だ」


 バルグナーはそう言うと、一つ、頼みがあると続けた。


「今後、私の訓練に同席してもらえないか。週に一度でいい。あなたがいる状態で訓練を積めば、衰えを抑えられる可能性がある」


「え、でも俺は侯爵家に……」


「ライナード殿には話を通す。侯爵も望む方向だろう」


 レイアが、少し離れたところから言った。


「父はこうなると言っていた」


「団長がですか」


「あなたのことを、ここで使いたくなると」


 バルグナーが、少し苦笑した。


「ヴォルドハルト侯爵には、先を読まれたな。では、公式に申し入れをしよう」


 俺は、頭を下げるしかなかった。


 昨日まで、俺は追放された荷物番だった。それが今、国の魔法師団長から、直々に協力を求められている。


 変わりすぎて、頭がついていかなかった。



◇



 その夜、屋敷に戻った俺は、夕食の席で、まだ今日のことを整理できずにいた。


「顔色が悪い」


 レイアが言った。


「悪いですか」


「青くはないが、焦点が合っていない」


「……団長が、俺に敬語を使いました」


「それが気になっているのか」


「今まで、俺に丁寧に話しかけてきた人間が、あまりいなかったので」


 レイアは少し間を置いた。


「慣れろ」


「慣れますかね」


「慣れる」


 断言だった。でも、今回は少し違う響きがあった。そうなってほしいという、意思のある断言だった。


 俺はスープを一口飲んだ。温かかった。


 三年間、俺を「荷物番」と呼んだ人間はいても、「アイン殿」と呼ぶ人間はいなかった。国家機密級と言われても、まだ実感が湧かない。


 でも、一つだけ、はっきりしたことがある。


 俺の力は、本物だった。


 それだけは、もう誰にも否定できない事実になった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。