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第三章:起源(オリジン)の不在
そのウイルスの正体は、誰にも分からなかった。
ネズミが媒介したのか、鳥が運んできたのか、あるいは野良猫を介して増殖したのか。
かつてのパンデミックが「人から人へ」の連鎖だったのに対し、今回のそれは「環境そのもの」が牙を剥いたようだった。
触れるもの、吸い込む空気、目に見える動物たちすべてが、死を運ぶベクター(媒介者)へと変貌していく。
人々は再びドアを閉ざした。
しかし、今回はマスクだけでは防げない。換気のために開けた窓から、鳩の羽が舞い込む。隙間風に乗って、ネズミの微粒子が忍び寄る。
「僕たちは、大きな勘違いをしていたんだ」
隔離された病棟で、佐藤は震える手でペンを走らせる。
「ウイルスに打ち勝ったんじゃない。
僕たちはただ、彼らのテリトリーに深く入り込みすぎただけなんだ。
終息したという錯覚の裏で、自然界は次の『淘汰』を準備していた……」
外では、一羽の鳩が窓辺に止まり、じっとこちらを見つめている。
その瞳は、濁った赤色に染まっていた。
「これは、あり得なくはない話である。」




