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第三話:はじめての自由
ナースステーションで異常を察知した看護師が駆けつけた時、そこにはもう「哀れな少女」はいなかった。
窓枠に腰掛け、夜風に長い髪をなびかせる影。
その隣には、虎のような体躯に変貌し、背中に漆黒の羽を畳んだ異形の猫・ルルが控えている。
「……これが、外の空気」
結衣は、生まれて初めて自分の足で「地面(窓枠)」を掴んでいた。
右目の奥では、数秒先に部屋へ踏み込んでくる看護師の、怯えきった表情が視えている。
「ルル、行こう。この世界を、私の思い通りに塗り替えるために」
ルルが低く喉を鳴らした。それは、人類にとっての終焉の鐘。
結衣は地上三階の窓から、迷わず夜の闇へと身を投げた。
落下する直前、ルルの翼が大きく広がり、彼女を優しく抱きとめる。
自由。
それは、最悪の形で叶えられた。
父・佐藤が「王」となる運命を歩み始めた頃。
その娘は、最も深い呪いから生まれた「自由の女神」として、滅びゆく街へと解き放たれた。
「まずは、私を閉じ込めたこの『壁』から壊してあげる」
結衣が指を鳴らした瞬間、巨大な病院の建物が、地下から這い出た数万匹のネズミの群れによって、音を立てて崩落し始めた。




