第一話 正義の味方?
第三章スタートです!
ここ最近いろいろと折り合いが悪く、毎日更新は厳しいかもしれませんが、できるだけこまめに更新したいと思っているので、引き続きお楽しみいただけたら嬉しいですっ!
月と星々の灯りが輝く凍えた森『月下の凍て地』を数日掛かりでいち早く抜けると、そこには澄んだ小川とそれに連なる木々が生い茂っていた。
小川の先、遥か奥には遠く離れたここからでも途方もない大きさであることが伝わる巨山が鎮座しており、その影響なのか小川や森の中には嘘のように巨大な岩々がごろごろと転がっている。
凍て地を越え、久方ぶりの太陽に感動した二匹の魔物は、会話もなしにその暖気を噛み締めていたが、それを邪魔するように無骨な大岩の集合体が迫っていた。
神々しい覇気を放つ美しい白猫、ベルはその気配にとっくに気付いていたが、今はただ太陽の熱を堪能するため、魔物の接近に気付く様子もない能天気な大鼠、デントが盾になるようそっと立ち位置を変えた。
『デント、魔物来てる』
『んあっ? どこだぁ、ベル様の日向ぼっこを邪魔しようとはふてぇ野郎は。ささ、やっちまってくだせぇベル様』
『んん、動きたくない。まかせた』
『うんうん、流石はベル様……って、俺がやるのかっ?』
『ん、最近のデントはたるんでるから丁度いい。そんなに強い魔物じゃないからデントでも平気……たぶん』
最後の最後に不穏な言葉を残しつつ、ベルは梃子でも動かないと決意したのか、だらりと地面に寝そべった。
勤勉かつ生真面目な普段のベルからは想像もできないあられもない姿だったが、余程凍て地の寒さが堪えていたのかもしれない。
『はぁ、やるしかないよなぁ』
俺とてまだ日光浴を続けたい所ではあったが、渋々頭を切り替え、周囲を見渡して状況を確認する……までもなく、堂々と地面を震わせながら歩いてきた大岩を睨む。
『うおぅ、ふぁんたじぃ』
その魔物は獣人さん達を優に超える二メートルほどの体を大岩のみで構成し、それでもなお軽快に動く様はまさに異世界全開で、少なからず気分が高揚する。
アニメや漫画で見たソレに比べると秀麗さも可愛さも微塵も存在しなかったが、ソレを端的に言い表すのであれば、間違いなくかの有名なゴーレムであった。
俺が感心している間にもゴーレムは顔(といっても目も鼻もないただの岩ではあるが)をこちらに向け、ゴッゴッと走り始める。
『っと、挨拶もなしにいきなりかっ。《鑑定》!』
ベルを巻き込まないよう俺は一度距離をとり、ついでにゴーレムへと《鑑定》を掛ける。
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個体名:(なし)
種族名:ロックゴーレム Lv 21/50
状態 :健康
生命力:1630/1630
精神力:820/820
攻撃力:159
知力 :105
敏捷 :111
技量 :96
運 :124
技能:
《練気》《地均し》《礫弾》《自己再生》
特性:
《打撃耐性 Lv1》《斬撃耐性 Lv2》《石岩耐性 Lv2》《剛体》
称号:
(なし)
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厄介そうな技能はこれといって見当たらず一先ず安心するが、凍て地ではほとんど休憩も戦闘もなしに走り抜けて来たので、俺のレベルも上がってはいない。
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個体名:ローデント=オーヴィーズ
種族名:デンジャラスコレクターラット Lv 1/50
状態 :健康
生命力:1700/1700
精神力:1230/1230
攻撃力:117
知力 :222
敏捷 :133
技量 :124
運 :241
技能:
《齧削》《瘴牙》《蝕液》《静骸》《練気》《瞬脚》《朧翔》《鑑定》《癒しの波動》《清めの波動》《頬界》
特性:
《疫病耐性 Lv2》《飢餓耐性 Lv2》《斬撃耐性 Lv1》《打撃耐性 Lv1》《精撃耐性 Lv1》《石岩耐性 Lv1》《水氷耐性 Lv1》《火炎耐性 Lv1》《登攀》《掘削》《石喰》
称号:
《鼠王の因子》《託されし者》《誇り高き魔物》《運命の反逆者》
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ステータスではこちらが有利、しかし油断できる程容易い敵ではなさそうだと、体の強張りを感じる。
傍から見る分には興奮冷めやらぬファンタジー魔物達ではあるが、いざ戦闘ともなるとその生態や弱点を零から探すことになるので、その点では苦手意識を感じていた。
『まずは小手調べ……《蝕液》っ!』
一直線に向かってくるゴーレムに対し、俺は距離を保つことを意識しながら、デンジャラスコレクターラットへと進化して手に入れた新技能《蝕液》を放つ。
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《蝕液》
岩石すら蝕む強酸の液体を放つ
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自分の口から出したとは思いたくない乳白色と黄色が混じったその液体は、比較的ゆっくりな速度で放たれるが、奴の進行方向も相まってか、いとも容易くその顔岩に直撃した。
顔岩は《蝕液》を受けた場所からボロボロに崩れていき、その様子は水に触れた綿あめのようであった。
『……』
ロックゴーレムは突然のことに驚いたように立ち止まり、ただ無言(いや口も顔もないんだけども)で膝をつく。
臓器も何もあったものではなさそうだが、一応頭がある以上急所なのかと狙ってみたが、どうやら功を奏したようだ。
俺は新たな技能の威力と思わぬ収穫に笑みを浮かべ、再度現状を確認するため、《鑑定》を掛けた。
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個体名:(なし)
種族名:ロックゴーレム Lv 21/50
状態 :健康
生命力:1510/1630
精神力:820/820
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個体名:ローデント=オーヴィーズ
種族名:デンジャラスコレクターラット Lv 1/50
状態 :健康
生命力:1700/1700
精神力:1140/1230
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『ありゃ? 思ったよか平気そうだぞ? ってか精神力食いすぎじゃねぇ?』
何一つ思い通りになっていない両者のステータスを見て、俺は首を傾げて眉間に皺を寄せる。
大したダメージもないのに未だ動かないゴーレムを不審に思い、『もう一発いっとくか?』と思考を重ねていると、奴はようやく動きをみせ、何を思ったのか崩壊しかかっていた顔岩を無造作に手に取った(とれるんだ、それ……)。
続けて、近くにあった手頃なサイズの大岩を反対の手に持ち、崩壊した顔岩と見比べ(いや顔はさ……ないんだけどさ、そんな感じっていうか)、手に取った大岩の方を気に入ったのか新しい大岩を頭として付け替えた。
『お、おう、そんな付け替え自由なのね? ちなみに体力も……そりゃまあ回復してるよね。顔を入れ替えて、元気百倍、ってな訳ですかい。それが許されるのは、愛と勇気だけが友達の丸顔ヒーローだけですぜ?』
顔を入れ替え、心なしシャープな顔立ちになったゴーレムを如何ともし難い顔で眺め、俺は次にどう動くのかを慎重に見定める。
まだまだ精神力に余裕はあり、このまま《蝕液》主体で戦い続けても勝ちを拾えそうだが、あんなに簡単に回復されてしまっては決着がつく頃にはまたぞろ気絶しそうだった。
『つっても物理攻撃の効きも悪そうなんだよなぁ、岩だし。どうしたもん、ってあぶねぇ!!!』
俺の思考時間にゴーレムが律儀に付き合うはずもなく、奴は手に持っていた元顔岩を容赦なくこちらへ投げる。
『ちょ、あいたっ! ずるっ、遠距離攻撃とかっ』
崩れかけていた顔岩は投げられたことで遂に崩壊し、散弾の要領で俺へと押し寄せる。
直撃を避けようとしたせいか訳も分からない軌道の礫が命中し、致命傷ではないものの体の各所に鈍痛が走った。
奴はそれを見て、味をしめたのか今度は小粒の岩を握り潰し、直ぐに俺へと放ち始める。
『《練気》、《瞬脚》!』
俺は焦りながらも冷静に移動技能を発動させ、瞬間的に最高速へと加速する。
両足には技能発動時の仄かな光が宿り、物理法則すら置き去りにした高速移動は、襲い来る散弾を回避するには些か過剰で、踏み込んだ地面が大きく抉れた。
すかさず俺は、そのままの速度でもう一度地面を抉ってゴーレムへと迫り、今度は修復が困難そうな胸部の一枚岩へと《瞬脚》を放つ。
『かってぇぇ!!! そりゃそうだよなっ、くそっ!』
ギリギリ目視できそうな細かな罅が入る代わりに、俺の可愛らしい後ろ足に激痛が反射し、悪態を吐きながら蹴りの勢いを使って奴から離れる。
その際に《蝕液》をぶち込んでみたが、警戒されていたのか腕を使って器用に防がれてしまった。
再び睨み合いにもつれ込み、俺は《癒しの波動》、奴は《自己再生》によって傷を癒しながら、息を整える。
《蝕液》の当たった腕も、その辺に転がっている岩へとすぐに置き換わり、両者の精神力を消費しただけで状況は完全に振り出しに戻ってしまった。
『やっぱ、攻撃力がどうしたって足んねぇな……すまねぇベル! ちと厳しそうだから、助けてもらえるかっ!』
出来るだけ休ませてあげたかったが、これ以上の戦闘は消耗が激しすぎると、俺は助けを求める。
しかし、心優しいベルはいざとなれば助けてくれるつもりだったのかこちらを見ていたものの、俺が声を掛けた瞬間、ぷいっとそっぽを向いてしまった。
『べ、ベルさん? 割と真面目にキツイんだけど』
絶望に暮れる中、『気絶覚悟でやるしかないか?』とゴーレムを見据えると今度はゴーレムすらもそっぽを向き、俺は一匹不可解な状況に首を傾げた。
『なんだ? 戦闘中に……ん? なんか聞こえる?』
感覚を研ぎ澄ませてベル達が見ている方に意識を向けると、微かではあるが、ゴゴゴゴ、という音と振動がこちらに向かってきているのを感じ取る。
近付くにつれ、その気配も鮮明になっていき、明らかな強者の接近に寝そべっていたベルが徐に立ち上がった。
『ど、どうするベル? 逃げるかっ?』
『……』
ベルに問いかけるも返事はなく、俺達は敵も味方もなくただ立ち尽くして、その強者が現れるのを待った。
そして、技能を巡らせ、いつでも離脱できるよう警戒すること数秒、予想よりも早くその瞬間は訪れる。
『とぉ! たすけをねがうジャクシャをすくうっ、さいきょーセンシ、ここにサンジョウ! ジャクシャをいじめるワルモノはクレナイのイクサオトメ、リカがセイバイしてあげるからねっ! しゅたっ』
警戒していたにも関わらず目にもとまらぬ速度で飛来したナニカは、俺の全力の蹴りを受けてびくともしなかったゴーレムを何の抵抗もなく粉々にして、得意気に口上をあげる。
ワルモノとやらは既に息絶えてしまったが、現れたナニカ、いや謎の少女はぶんぶんとやりすぎなくらいに首を振って、俺とベルを交互に見比べていた。
『あ、あのう、どちら様で…』
『ワルモノはっけんっ! くいしんぼうのねずみさんめ、このリカのメがしろいウチは……あれ、あかだったかな?』
『……黒じゃないの』
『そう、くろっ。リカのメがくろいウチは……どうなるの? まあよくわかんないけど、セイバイしてあげるっ!!』
『えぇ……そんな雑なぁ』
謎の少女はほんのりとぼけた口調とは裏腹に、本当に体に技能を宿し始め、よく分からない決めポーズ(両手を広げて威嚇する熊みたいだ)を披露する。
『それじゃ、いくよっ!!』
そうして、正義も悪もない、むしろ正義の皮を被ったワルモノによる不毛な第二ラウンドが幕を開けた。




