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【第三章更新中】最弱たる牙の王  作者: 吉 稲荷
第二章 酷暑極寒大わらわ、鼠と犬と夢うつつ
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第六話 凸凹師弟

 精霊薬とかいう激烈に苦い薬でドーピングにドーピングを重ね、なんとか犬人さん達の治療し終えた俺は、かつて経験したことがないほどの頭痛に襲われて意識を手放していた。

 目が覚めるとさっきまで治療していたはずの俺が、逆に治療用のベッドに寝かされており、申し訳ないやら恥ずかしいやらで酷く複雑な気持ちになった。

 コソコソと起き上がって周囲を見渡すと、タヌキのような見た目をした癒し系の犬人さんと目が合い、すぐさま走って誰かを呼びにいっているのが見えた。


 少ししてベルとリルが現れ、開口一番に労いの言葉を掛けてくれた。


『お疲れ師匠、もう身体は平気?』

『おう……って、し、師匠? 俺のことか? 急にどうしたんだよ、リル?』

『師匠はあれだけの治癒技能を操ってカヴァルの皆を救ってくれたんだ。十分尊敬に値する師匠だよ』

『あれだけのって、ちょっと教えたらタヌキさん達だって同じくらいに使えてたぞ? 言い過ぎだろ』

『そこも含めて僕は尊敬してるんだよ。一体師匠の知識でどれだけの進歩があったと…』

『わ、わかった。わかったからやめてくれ。あんまり褒められたものでもないんだっ』


 前世の知識のいずれかがリルの琴線に触れたようで、恋する乙女のような熱視線に体がムズムズする。

 確かに常人よりは医学知識があることには変わりないだろうが、それとて本やお医者さんから聞きかじった程度だ。

 人のふんどしで相撲を取るのは真っ平ごめんだった。


『むぅ、僕の感動と感謝が伝わってないような…』

『そ、それよりベル、どうして犬人さん達がこんな状況になったのか教えてくれよ。リルから色々聞いたんだろ?』

『ん、聞いた』


 強引に話を打ち切り、ベルに説明を求めると、この街の現状や抱えている問題をかいつまんで話してくれた。


 なんでも、一ヶ月程前からここ『月下の凍て地』で魔物の大量発生、いわゆるスタンピードが頻発しているらしい。

 最初は偶然かと思って個別に対処していたそうだが、余りに頻発するので流石におかしいと調査隊を結成することになったのが、つい一週間前のことだという。

 調査隊として選ばれたのはドンドンを含む犬人の騎士、カヴァルの者達であり、丁度昨日調査から帰ってきたらしい。

 調査隊曰く、順調に調査は進み、原因と思われる()()()を発見したまでは良かったが、そこからが想定外の連続だったとのこと。

 先遣隊が謎の霧の中に突入して数秒後に眠りに落ち、その先遣隊を救出するのに手間取っていると異常に大きい魔物が襲ってきて、それに釣られる形で小型の魔物まで襲い掛かってきて逃亡戦は熾烈を極めたのだという。

 三名の犠牲者を出しながら街に帰りついた時には、調査隊のほぼ全員が浅くない傷を負っていたらしい。


 そして、その調査隊の面々を集めたのがこの治療院で、治療を生業とするタヌキさん達は昨日から一睡もせず、こうして治療に奔走していたという。


『僕の、僕の判断ミスのせいだ。僕がついていればゴメスやゴルディア、ゴドウィンだって…』

『そうではありません、リル様っ! 我々みなで決めたことではありませんかっ。夫や他の二人とて小隊の長、部下を守れたとあれば獣人の誇り…』

『いいんだ、ポーラ。この責任は僕のものだ。僕の大切な家族を奪った奴にきっちりその報いは受けさせる。これは犬人の神獣たる僕の務めだよ』

『リル様……』


 説明する中で、リルの金色の瞳には色濃く怒りの念が滲み、タヌキさんはおろおろとその場で動揺していた。

 死傷者が出た以上仕方がないが、俺はこの世界に来て初めて誰かが本気で怒っている姿を見た。


『リル、怒っちゃダメ。ポーラさんが困ってる』

『……ご、ごめん、そんなつもりじゃなかったんだ』

『私に謝っても仕方ない』

『そ、そうだよね、ごめんポーラ。ほんと頼りない神獣だ』

『い、いえっ、決してそのようなことはありませんっ! リル様は私達の誇りですっ』


 ぺこぺこ、ぺこぺことリルとタヌキさんが交互に頭を下げ、何とも言えない気まずい空間が出来上る。

 ベルに通訳してとも言えない緊迫した状況の中、会話内容が分からない俺は人一倍気まずさを覚えながら、空気を換えるように話を切り出した。


『なぁリル、そんな大変な状況でなんでドンドンは俺達を迎えに来れたんだ? 約束してた訳じゃないんだろ?』

『ドンドン? ……ああ、ゴードンのことか。それなら簡単だよ。僕達、というか一部の犬人族は《占星術》を使って()()()()()()んだ』

『み、未来がかっ?! ……すげぇな犬人さん』

『といっても、二週間以上かかって準備した上で、限定的な未来しか見えないけどね。今回の騒動にあたって、もちろんそれをした訳だけど、そこで見えたのがベル姉ちゃんと師匠がこの森にやってくる姿だったんだ。僕達の未来視には必ず意味がある、だからゴードンに無理を言って迎えに行ってもらったんだ』


 ほえぇと驚愕しきりに頷く。

 前世は占いなんて統計学の一部くらいにしか思っちゃいなかったが、この世界では認識を改める必要があるらしい。


『なるほどねえ。まあベルが来るとなればそりゃあ希望の星に違いない。並みの魔物なんざちょちょいのちょいだぜ』

『ん、任せてほしい』

『頼もしい限りだけど、ベル姉ちゃんだけじゃなくて、師匠も正しく僕達の希望だったよ。師匠が居なければ、今だってまだ痛みに苦しむ人達でここは溢れていたと思う』

『お、おう、そりゃあ力になれてよかったぜ。ただ、戦闘じゃあマジで役に立たねえから勘違いしないでくれよ。過信するとすぐ死ぬからな? ほんとだぞ? 最弱だからな?』


 勘違いで神輿に乗せられて、死地へ赴くのは流石に勘弁願いたかったのでそう言い含める。


 リルはやや不満そうだったが、こればっかりは譲れない。

 同じ神獣だからとベルやリルのような働きを求められても正直答えられる気が全くしない(そういえばリルのステータスも中々にぶっ壊れてたしな)。


『で、状況はわかったが、これからどうすんだ? 今から早速ぶっ飛ばしに行くのか?』

『いや、早くても明後日、というかほぼ絶対明後日だね』

『ん? 明日じゃなくて、明後日なのか? 俺に気を遣ってるなら別に役に立たねえから気にしなくていいぞ? ああいや、治療したばっかの犬人さん達がいるからか?』

『まあそれもあるけど……明後日はね、()()なんだよ』

『まんげつ?』


 我ながら間の抜けた復唱ではあったが、そのおかげがリルが懇切丁寧に言葉の意味を教えてくれた。


 リル含め犬人族は、月の巡りでその性質が変わるそうだ。

 月明りのない新月には、七割程度の力しか出せない代わりに《占星術》や《治癒術》といった技能の精度があがり、月の光が溢れる満月には、技能が上手く使えない代わりに身体能力が三割程強くなるのだという。

 どちらにせよ一長一短あるらしいが、獣人の身体能力の高さを考慮すれば、満月の日が戦闘力は一番高くなるそうだ。


 普段は戦わないタヌキさん達のような面々でも満月であれば、それなりに戦うことができるため(といってもどうせ俺より強いのだろうが)、明後日が決行日となるようだ。


『これも師匠のお陰だよ。師匠が治療してくれなきゃ明後日には絶対間に合わなかったし、そういう意味でも…』

『だぁあ! も、もうやめてくれっ。治療したのはほとんどタヌキさん達だし、褒めるなら彼女たちを褒めてくれっ』

『ふっ、デント照れてる。可愛いとこある』

『だ、だってよぉ、ほんとに俺の成果じゃねえんだよぉ。そりゃあ俺だって素直に褒められてぇけどさぁ……知らなかったとはいえ、俺が砂漠で遊んでなきゃとか思うとどうにもやりきれなくてさぁ』


 ボソボソと言い訳を零す内に、段々と罪悪感すら芽生えてくるようになる。

 リルは隙あらば俺をヨイショしようとするし、ベルには鼻で笑われるし、折角頑張ったというのになんだか散々だと、無性にやるせなさが脳裏を過ぎった。

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