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【第一章完結】最弱たる牙の王  作者: 吉 稲荷
第二章 酷暑極寒大わらわ、鼠と犬と夢うつつ
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第七話 決戦前夜(前編)

【お知らせ&お詫び】

今回、二度目の簡易地図が登場するのですが、筆者のスマホの画面サイズを元に作成しているため、もしかしたらスマホの機種によっては途轍もなく見辛いかもしれません(すみません)。


スマホで読まれている方が多いとのことだったので、文章自体もスマホ準拠なのですが、死ぬほど見辛い箇所等ありましたら修正いたしますので、コメントいただけると嬉しいです。

 ベル達と話した後、拭えない疲労感を癒すため泥の様に眠りについた俺は、一夜明けて『月下の凍て地』の地形図を思い描いていた。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 月下の凍て地 簡易地図

             北


           魔族の領域




           星見の雪原


 西         犬人族の街    不死の炎漠 東

           (現在地)


    凍息の密林


        謎の霧


           魔族の領域


             南


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 犬人族の街から見て東が俺達が居た『不死の炎漠』だ。

 流石にあれだけの熱を放っていれば『月下の凍て地』にも影響があるらしく、炎漠から離れる南西方向に進めば進むほど、気温は下がっていくらしい。

 この極寒の街ですら『月下の凍て地』の中では比較的暖かい方であり、南西では吐く息すら凍るほどの寒さになるのだとか。逆に、北東に進むと氷点下ではあるものの落ち着いた気候となるようで、犬人さん達はそこで天体観測等を行うのだという。


 明日の決戦に備え、英気を養っても良かったが、俺はどうしてもやっておきたいことがあり、リルから事前に周辺の地理情報を訊き出してた。


『役に立たねぇとはいえ、進化くらいはしとかねぇとな』


 態々準備してくれた寝室で一匹寂しく、ぷぃと鳴く。


 現在の俺のレベルは二十七。

 《運命の反逆者》の称号があれば、多分あと三レベル上げれば進化ができるはずだ。


-------------------------------------------------

《運命の反逆者》

 過酷な定めに逆らい続ける運命の反逆者、理を捻じ曲げ他種族への進化を可能とする

-------------------------------------------------


 南西は色々状況が分からないこともあって俺には危険だし、選択肢は北にある『星見の雪原』一択。

 どんな魔物が出るかは分からないが、ここは魔境だ。

 全く出ないなんてこともないだろう。


『……つっても、一人じゃやっぱ不安だよなぁ』


 ぼやきつつ辺りを見渡しても、頼れるもふもふ姫、ベルの姿は見当たらない。

 寝ぼけていたためあまり覚えていないが、そういえば今朝方リルと一緒に偵察に行くと言っていたような気がする。


 ベル達の偵察任務中に俺が勝手に野垂れ死んだとあれば、ベルの目覚めが悪いだろうし、ここは一つ暇そうな犬人さんでも捕まえて、付き合ってもらうとしよう。


『治療院に行けば誰かいるかねぇ』


 大した当てもないしなぁ、と俺は呟いてから、木製の引き扉をガラガラとスライドさせ、冷たい廊下の空気を浴びる。

 ぶるるっと身震いをしてから部屋を出ると、扉のすぐ傍にタヌキのような姿をした可愛らしい犬人、ポーラさんが立っていた。

 俺が中々起きなかったせいで、こんな寒い廊下でずっと待たせてしまったようだ。


「ぷ、ぷぃ(ご、ごめんねポーラさん、ベッドがふかふかでさ、ちょっと寝すぎちまった)」

「おはようございますデント様。お加減はいかがですか?」

「ぷぃ? ぷぷぃ!(俺? 俺は元気だぞ、心配してくれてありがとなっ!)」

「お元気そうですね、良かったです」

「ぷぃぷぃ(ってかポーラさんの方が体調悪そうだぞ? 徹夜で頑張ってたらしいし寝ててもいいと思うけどなぁ)」


 俺とポーラさんの噛み合わない会話はしばらく続き、そうだこんな和やかに交流してる暇ないんだった、と本来の目的を思い出す。

 お目付け役のポーラさんを放っておくのも不味いか、と俺は彼女の頭によじ登り(誓って、彼女をもふもふするためなどではないぞ)、とりあえず外に出る様に促す。


「きゅ、急に何を……外、ですか? 別に構いませんが」


 その後、俺は身振り手振りを全力で駆使して、ポーラさんと街の門で暇そうに立っていたドンドンを引き連れて『星見の雪原』へと向かった。


 ちなみに、俺のジェスチャーがあまりに滑稽だったのか、ポーラさんは涙が出るくらい笑っていた。

 遺憾の意である。


 *****


 昼間にも関わらず、綺羅星が輝く雪原で俺は一匹の魔物と対峙していた。

 その魔物と戦うのは今回で八度目、『不死の炎漠』で俺が七度も敗北を喫した憎き大猪、ジャイアントボアであった。

 その威圧的な巨躯はリルさえ越え、二メートルに迫らんほどの大きさだった。


『ここであったが百年目、今こそ雪辱を果たす時っ!』


 気合いも十分に俺は駆け出し、ポーラさんとドンドンを置いてジャイアントボアに近寄り、《鑑定》を発動させた。


-------------------------------------------------

個体名:(なし)

種族名:ジャイアントボア Lv 13/50

状態 :健康


生命力:1160/1160

精神力:710/710

攻撃力:133

知力 :95

敏捷 :147

技量 :102

運  :98


技能:

練気(れんき)》《猛突進》

特性:

《打撃耐性 Lv1》《斬撃耐性 Lv1》《水氷耐性 Lv1》《無尽蔵》

称号:

(なし)

-------------------------------------------------


 あの途轍もない不快感を味わっているのか、彼奴は大いに怒った。そして、今にも《猛突進》を発動させんと、後ろ足でガシッ、ガシッと雪を弾き飛ばし始めた。


 奴の技能はたったの二つで、《練気(れんき)》と《猛突進》のみ。

 馬鹿の一つ覚えのように、突進、突進また突進と単調な攻撃をしてくる完全におバカなタイプの魔物だ。

 こいつは魔物が湧く場所なら基本的にどこでも湧いてくるらしく、獣人種にとっては貴重なタンパク源なんだとか。


 しかし、そんな風に考えられるのも獣人種並みのステータスがあってこそ。繰り返すが、俺はこの突進バカに既に七度も辛酸を舐めさせられていた。

 ここが炎漠であれば、八度目の敗北を刻んでいただろうが、今の俺には絶対的な自信が満ち溢れていた。


『今回の俺は一味違うぜぇ、ボアちゃんよぉ!』


 俺は強気にぷぃーと鳴いて、しばらくの間封じられていた我が最強の特性《掘削》で地面を穿った。


 何を隠そう、砂漠ではこの《掘削》が使えなかったのだ(掘っても掘っても砂だからね!)。


 そのせいで、フレイムトードに食べられかけるわ、ブラッドサラマンダーにちゅうちゅうされるわ、レッサーフェニックスに連れ去れそうになるわ、この突進バカに無様に吹っ飛ばされるわ、もう散々だった。

 極めつけには、ベルに砂遊びしていると思われて怒られたくらいだ(俺だって必死だったのに……)。


 けれど、ここは『月下の凍て地』。

 雪をどければ、愛しの大地が待ち受けてくれるのだ。


 プレイグラットの頃とは比べ物にならない速度で地面を掘り進んだ俺は、頭上を通り過ぎる突進バカの足音を感じ取って、ニヤリと笑う。


『今頃奴は、居なくった俺を探してアホ面晒してるに…』

「プギィィ!!!!」

『っぶねぇ!! なんで一人で走り続けてんだよお前っ!』


 アホ面を拝んでやろうと穴から顔を出すと、旋回してきたジャイアントボアが俺の姿すら見らずに走り抜けていった。

 顔を出さずに何回か走り抜けるのを待ってみても、奴はハイになったように走り続け、もはや俺の存在すら忘れ、走ること自体を楽しんでいるようだった。


 もしかしなくても、バカなのかもしれない。


 俺はガックシと肩を落とし、走り回るバカタレを無視して呆れた気持ちでせっせと落とし穴を掘る。その間もまだ気が収まらないのか、奴は絶えず突進を続けていた。

 俺は何とも言えない微妙な面持ちで、直径一メートルはあろうかという大落とし穴を作り終え、最初の穴とは少し離れた所から顔を出した。


「プゴッ?! プギィィ!!!!」


 すると、そこでようやく俺が居ないことに気が付いた奴は、罠のことなど微塵も考慮せず我武者羅に突っ込んできた。

 当然、まるでお手本のような動作で、奴は落とし穴へと嵌っていった。


「プギィ! プギィ!」

『……俺はこんな奴に七回も負けたのかよ』


 お尻をぷりぷりして暴れるジャイアントボアを見て、勝利の喜びより、己の不甲斐なさがどしどしと押し寄せてくる。

 八つ当たりをするようにありったけの力で彼奴の尻をガジガジしていると、プギャアと短く鳴いて動かなくなった。


『折角勝ったってのに、微塵も嬉しくねえ……』


 何はともあれ、こんな奴でも格上は格上。

 ステータスを確認してみるときちんとレベルは上昇しており、『進化可能』という文字が頭の中で輝いていた。

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