プロローグ 生まれ変わり
幼い頃から人一倍、動物が好きだった。
何度も何度も図鑑を読み返し、毎日夢に見るほどだった。
誰かにそう告げることは決してなかったけれど、心の底ではずっと彼らのように生きてみたいと、そう思っていた。
猫のように、しなやかで伸び伸びと暮らしてみたい。
犬のように、元気に野原を走り回って遊んでみたい。
鳥のように、自由に空を飛んでみたい。
魚のように、広大な海を旅してみたい。
虫のように、個性あふれる仲間と共に暮らしてみたい。
恐竜のように、豪快な生き方をしてみたい。
病気がちで、重苦しくて、起き上がるだけで息のあがるこの体を捨てて、彼らのように生きることができたら、その時自分は一体何を思うのだろうか。
世界は、輝いて見えるだろうか。
答えがあるはずもないそんな問いをもう随分長いこと抱えて生きてきたけれど、人生とは斯くも奇妙なもので、まさにその答えが眼前に広がっていた。
首が痛むくらいに見上げても終わりが見えない巨大な柱。
僅かに差し込む光が反射して、きらきらと輝く砂埃。
周囲の状況をこれでもかと訴えてくる音、振動、匂い。
倦怠感も鈍痛も動悸もない、嘘みたいに機敏に動く体。
がさごそと一心不乱に何かを食す、兄弟と思しき生き物。
想像していた景色とは異なるけれど、それは確かに夢想した世界だと分かった。
どうしてこうなったのか、何が起こったのか、自分は一体どういう状況なのか、何一つ分かりはしなかったが、ただ一つ言えることがあった。
「チュー(え、臭っ)」
薄暗い室内、いや、薄汚れた巣穴の中、『鼠』に生まれ変わった数奇な男の産声が小さく反響した。
*****
か弱くもどこか逞しい、一際強靭なその魂は異世界より舞い込み、小さき、余りに小さき生命に宿った。
体は矮小で、薄汚い灰色の体毛が生えるばかり。膂力と呼べるだけの力はなく、精々小さい体で逃げ回るのが関の山。
数々の疫病を媒介し、その体からは常に異臭が放たれる。
人呼んで『プレイグラット』。
この世界で最も弱き魔物であった。




