ケンタウロス
ケンタウロス、上半身が人間、下半身が馬の特徴を持つ神話上の生物、非常に獰猛で弓を主な武器とする。というイメージだったが、目の前にいるケンタウロスは上半身にコートを着ており、背中には大きな槍のような物を背負っていた。
「ケンタウロスゥゥゥ!?!?」
その声に気づいたケンタウロスが、のそのそとこちらに近づいてきた、その2メートルはあるであろう大きさと威圧感は、まさにイメージ通りのケンタウロスであった。
「どうしたんだ?急に俺たちの種族名を叫んで、客か?」
「え、客?」
「なんだ客じゃないのか、だったら何のようだ?」
絶妙に噛み合わない会話に、横で待っていたウィンディが強引に割って入った。
「ラオト、何も知らないと思ってたけどケンタウロスは知ってるんだ」
「名前と見た目は知っていたけど、生で見るのは初めてだ」
それを聞いたケンタウロスは、驚いた顔でラオトに話しかけた。
「おいおい、それって本当か?俺たちケンタウロスなんてどの町にでもいるだろ」
「そうなのか(やっぱり本当に元の世界じゃないんだな)ごめん、なんでも無い、すまなかったな」
「そうか、それじゃあ俺は戻るな」
そう言い、ケンタウロスが去ろうとした時、コートの後ろに何かのロゴのようなものが見えた。そのロゴには、頭や上半身が人間、下半身が動物の見たことのある3種の種族のような模様が見えた。それが気になったラオトは、去り行くケンタウロスに再び声をかけた。
「なぁ!ちょっと待ってくれ!」
呼び止められたケンタウロスは、足を止め、ラオトの方を振り向いた。
「なんだ、まだなんかあるのか?」
「その背中にあるマークなんだ?」
「背中?あぁこのマークの事か?」
そう言うと、ケンタウロスは羽織っていたコートを脱ぎ、マークがよく見えるようにラオトの方にコートを広げた。
「そのマークって何だ?何かのシンボルか?」
それを聞いたケンタウロスは驚いた表情をした。
「おい、このマークを知らないのか?このマークを知らない奴なんていないと思っていたぜ」
そう言うと、ケンタウロスが得意げにマークの解説を始めた。
「このマークはな、俺たちケンタウロスと人魚とハーピーで運営している運輸同盟、ガデニダリアのマークだ!」
ラオトの予想は的中した。左側に上半身が人間、下半身が馬のケンタウロスのマーク、右側に上半身が人間、下半身が魚の人魚のマーク、そして上側に上半身が人間、下半身が鷹、手ではなく背中から立派な翼が生えているハーピーのマーク、これがラオトの気になっていたマークの正体だった。
「俺たち獣人族のケンタウロスが平野間の物資や人々の運送を、魚人族の人魚達が島々や大陸間の運送、鳥人族のハーピー達が俺たちケンタウロスの苦手な地形や高所の運送を担当しているんだ、色々な職業がある中で唯一の運輸職さ」
そう言い終わると、ケンタウロスは不思議そうな表情でラオトに質問をしてきた。
「それにしても、あんたガデニダリアのことも知らずによくここまで来れたな、服装を見るにグリンティアに住んでる訳でもなさそうだし」
「ああ、それは彼女が助けてくれたんだ」
そう言うと、ラオトは少し離れたところで会話が終わるのを待っているウィンディを指差した。
「ほう、あの嬢ちゃんか、どっかで顔を見たような、、、そうだ!確か風神の騎士ウィンディとかいったな、あんた運が良かったな」
「運が良かった?(確かに何も知らない所に彼女が来たのは運が良かったが、それ以外にも運が良かったのか?)」
「あぁ、あの嬢ちゃんはな、俺たちケンタウロスが住んでいる獣人の国でも名を聞くぐらい有名な騎士なんだ、そんな騎士に拾ってもらうなんて、よかったじゃないか」
「(ウィンディ、確かに十災魔神とか言われているドロトの前でも全然怯んでいなかったし、塩で弱まっていたとはいえドロトを退かせていた、もしかしてウィンディって思ったよりもすごい奴だったのか)」
「そういえば、あの嬢ちゃん相方が居たらしいが、最近行方不明になっているそうじゃないか」
「えっそうなのか?!」
初めて知った意外な情報に、ラオトは非常に驚いた。ウィンディの立ち振る舞いは、とても相方を無くしたばかりとは思えなかったからだった。
「何だ、知らなかったのか、まぁ俺はあんまり詳しくないし、詳しくはあの嬢ちゃん本人に聞くといい」
「そうか、、、」
「ま、そう言うことだ、聞きたいことは聞き終わったか?」
「あぁ、気になっていたそのマークについては分かった、説明してくれてありがとうな!」
「おう、お安いご用だぜ」
「それじゃ俺はもう行こうと思う、また会えたらな」
「ああ、またどこかで会おう」
そうしてウィンディの所へ行こうとした時、ラオトはこのケンタウロスの名前を聞いていない事を思い出した。こんなにも質問に答えてくれた優しいケンタウロスの名前は、是非とも知っておきたいと思い、ラオトは別れる前にケンタウロスに名前を尋ねた。
「そうだ、別れる前にもう一つ、名前はなんて言うんだ?」
「俺か?俺はホルス、そう言うアンタこそ、なんて名前だ?」
「俺の名前はラオトだ」
「ラオトか、良い名じゃないか、また会おうラオト」
「ああ、またなホルス」
互いの名前を覚え合い、気になっていた事が全て聞けたラオトは、上機嫌な様子でウィンディの元へと向かった。
「おかえり、随分と話していたね」
「まぁな、それとウィンディに一つ聞きたい事があるんだ」」
「聞きたいこと?何?」
ラオトはウィンディと魔法店へ向かい歩きながら、ホルスから聞いた情報について質問した。
「ウィンディって本当に有名人だっんだな、自称有名人かと思っていたよ」
「もー失礼だなぁ、色んなとこを旅していただけだよ、それより、それを聞いたって事は、、、」
「あぁ、ウィンディって最近行方不明の相方が居たんだな」
「メレアの事だね」
「色んな旅をしたって事は、相当仲が良かったんだろ、なのに俺なんかについて来て大丈夫なのか?」 「あー、そういえばラオトには言ってなかったね」
「何を?」
「メレアの行方を知っているのが魔王かもしれないの」
「えっ」
「メレアがいなくなった後、彼女の痕跡を追ってあの森に入ったの、そしたらちょうど途切れている所にラオトが居たんだ」
ウィンディは堂々と自分の考えをラオトに述べた。
「私は、ラオトがあの森にいた事、そしてメレアが居なくなったのは、ラオトの見立て通り魔王の仕業だと思うの、ドロトって滅多に湿地帯エリアから動かないのにグリーフ大森林にいた事、しかもちょうどラオトの目の前、ドロトにそんな遠出を命じられるのって魔王ぐらい、だからメレアの失踪、ラオトがあそこにいた理由、ドロトがいた理由、全て魔王が関係していると思う」
考えを述べ終わったウィンディは、改めてラオトの目を真剣な眼差しで見つめた。
「だから私もラオトと一緒には魔王の元へ行こうと思うの!」
「え?」
「何?不満?」
「いや、そんな事は無いけど、良いのか」
「もちろん、こう見えて私、結構強いんだよ!それに、ラオトが一人で魔王の所へ行くのは心配だからね!」
「なんだそれ、まぁでもありがとうな!」
ガデニダリア
最初はケンタウロスの町、人魚の町、ハーピーの町が互いの得意不得意を活かして運輸を助け合うだけの小規模な取り組みだったが、その便利さゆえに利用者がどんどん増え、いつしか違う種族も利用を始め、違う大陸間をも結ぶ巨大な組織になった、以前はガデニダリア以外にも運輸組織はあったがガデニダリアとの競争に負け、一つ残らず無くなった。ガデニダリアの影響力は非常に大きく、そのサービスが利用出来なくなるのはどの国も避けており、あの魔王ですら慎重に行動している、その為、ガデニダリアが誕生して以降、その3カ国はどこの国と戦争もしておらず、あの魔王軍からも宣戦布告はされていない、なので、西側で獣人同盟と魔王が戦争をしていても、この3カ国は永久に中立の立場を貫き続けるだろう。




