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「術師系の素養を持っている奴は、基本的に下戸か上戸だ」


 カナイも持っていたグラスを傾けつつ、話を続けてくれた。


「他の素養と比べて、目に見えないものの影響を受けやすいからな。自己防衛みたいなもんでそうなってるっていわれてるけど。どう見てもブラックは上戸の方だろう?」


 いって肩を竦めたカナイに乗っかる形で頷いたのに……ブラックは、下戸だった。


「マシロー。マシロー、まーしーろー」


 しかも絡み酒。鬱陶しい。


 グラス二杯目を飲み干すことなくブラックは体調を崩した。

 本人曰く「酔ってない」らしいが「酔っているという酔っ払いはいない」とアルファに見下された。アルファは復活が早い。


 流石、酒豪。


「そうかぁ……ブラックの弱点はアルコールなんだな。正直物凄く意外だ」

「だから酔ってなんていません!」

「動くな、その結界から出るな」

「酷いです。か弱い猫をこんなところに閉じ込めるなんて、でも、マシロが一緒だから良いです。もう少しなら我慢します」


 暴走特急のブラックは、ところ構わず破壊しようとするので、カナイが作った結界に閉じ込められた。


 人身御供のごとく私まで一緒だ。

 私の膝に擦り寄って、うとうとする姿は猫だし可愛らしいと思わなくもない。


 いや、可愛いとしかいえないだろう。だけど、頭上で時折ばちんっ! とか、ぼんっ! とか破壊音がする。カナイ曰く、ブラックの抑えきれない力が暴走して弾けているらしい。

 ほんっとーに迷惑な話だ。


 そして今、エミルが気付薬の材料を取りに戻っている。

 多分、私が作らないと飲まないだろうから……ほんっとーに手間の掛かる奴だ。


「もう二度と飲んじゃ駄目だよ! てか、今までそんな機会なかったの?」

「んー? ありますよぉ。でも、飲めるかどうか分からないので、グラスに入った時点でアルコールが抜けるようにしてました。今日は、飲み比べですからぁ、そうするのはフェアじゃないでしょう? 飲めると思ったんですけどねぇ。あんまりお酒って美味しくないですねぇ……」


 うつらうつらしながら繋ぐ言葉に私もカナイもアルファも呆れる。


「でもま、一応。不正をしなかったことは褒めてあげよう」


 よしよし、とブラックの頭を撫でた私にカナイが「お前、甘くないか?」と冷たく口にする。でも、好きな相手に甘くなるのは仕方ないことだと思う。


「あ。そういえば、ブラックっていくつ?」

「んー? どうしたんですかぁ。いくつって年齢のことですか? 私は二十八ですけど」


 二十八っ!? と三人が三人驚いたことにブラックは、ぴんっと耳と尻尾を立てて驚いたように起き上がると目をぱちりとしている。


「年上だとは思ってたけど」

「いや、そうだよな。良く考えたら俺がガキのときに会ってんだから……それなりに年は食ってるよな」

「何ですか? 皆さんで……はっ! もしかして恋に年齢が関係あるんですかっ!? マシロは年上は嫌ですか? 嫌いますか? 分かりました! 何とかします。何とかしますから嫌わないで下さい!」


 すっくと立ち上がり、その反動でよろよろとしながらもそういったブラックの両腕を私はがっちりと抑える。


「なんとかならないからっ! 何ともしなくて良いからっ!! 好きだから! 大丈夫、二十代後半だろうと三十代だろうとそれ以上でも下でも、年齢なんていくつでも良いから!」


 暴走特急は放っておいたら何をしでかすか分からない。


「……生告白」

「そこ黙ってろ!」


 カナイの茶々に目くじらを立てる。

 てか誰だよ! ブラックに飲ませたの? って自分だよっ! ブラック自身が自分で撒いた種だよ。だとしたらやっぱり私が回収しないと……駄目、だよねぇ。はぁ。


「と、兎に角。大丈夫だから落ち着いて? 年齢くらいのことで私がブラックを嫌いになったりはしないよ」


 自分でも何いってんだかと呆れるような恥ずかしい台詞に、私はブラックの顔を見ることもはっきりと呆れているカナイたちを見ることも出来ず空を仰いだ。


 私もきっと少し酔ってるんだと思う。


「そうですよね。私もマシロを愛してます」


 掛かった声に、え? と、私が現実に引き戻されるより早く、ふわりといつもの腕に抱き込まれた。


「カナイ、これ破壊しますよ」


 突然素のテンションでそういったブラックにカナイが答える隙もなく、パリンっと何かが壊れ落ちる音がした。

 えっ? とブラックを見ると機嫌良く口笛とか吹いている。

 お前……と頬を引きつらせているカナイを他所に、ブラックはいつも通りの飄々とした様子でくるりと片手にした杖を回した。


「マシロ、屋敷に戻りましょう?」

「え? でも」

「もう酔いは覚めました。もともとそんなに飲んでいませんし、カナイの結界に魔力吸われ続けたら、アルコールも飛んじゃったみたいです」

「その結界を片手間みたいに壊しやがって……お前ほんっとーーっに嫌な奴だな。つか、お前それ分かっててエミルを図書館まで走らせたな?」

「嫌ですね。カナイのその疑り深い性格、治したほうが良くないですか? ね? マシロ」


 私にフルな。

 疑り深いというか、もうこうなったらそうとしか取れないだろう。

 

 ブラックは意図的にエミルを使いっ走りにしたわけだ。

 そしてそれが露見するまでに帰ろうと? 休み明けにすぐ顔を合わせる私の身にもなって欲しい。はあ、と嘆息した私に


「マシロちゃん! 伏せてっ!」


 アルファの怒声が響く。

 反射的に腰を折ると頭上を閃光が走った。


 だだだだだからっ! 私が近くに居るときに抜刀するのはやめてってあれほどいってるのにっ!


 殺気の篭った一閃だがブラックに届くはずもなく、ブラックは私のお腹に腕を回すとそのまま、とんっと地面を蹴った。

 私の両足が所在無さげに空を掻くと、すとっと身軽に夢見草の木の枝に着地する。ちょっと! と私が怒り出す前にブラックは眼下に映る二人に


「マシロは貰っていきますね」


 と爽やかにいい残してもう一度足を弾いたら次の瞬間には辺境の町近辺まで移動していた。


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