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白蒼月紅譚~二つ月のある世界(種シリーズ①)  作者: 汐井サラサ
リク番外編:月見をしよう!
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(3)

 ***



 ぬっくぬく、ふわふわ……


「―― ……なんで?」


 ふっと目を覚ますと目の前に黒猫が居た。いや、普通に黒猫で、理解できるのだけど……いつ来たんだろう? ていうか、私部屋に戻ってる。あれ? 月見はどうなったんだっけ?


「ブラック?」


 丸くなっている身体を撫で付けて問い掛ければ、頭を持ち上げて硝子玉のような瞳が見上げてくる。


 ―― ……可愛い。


 即座にハグしたくなるくらい可愛い。でも抑えろ私! 頑張ってっ! ……っというか


「あ、たまいたーい……」

「それはまぁ、アルファと飲み比べすれば頭の一つも痛くなるでしょうね?」


 苦々しくそう答えつつブラックは身体を起こして、人の形に戻りベッドの隅に腰掛ける。あー、なんとなく思い出した。アリシアに貰った薬があるから酔わないと思って、がんがん飲んだら薬が切れて……わけが分からなくなった。


 はぁと嘆息した私の顔をブラックが覗き込む。


「私、変なことしてた?」

「可愛らしいことはいってましたけど……と、まぁ、それは良いとして、女性が記憶をなくすまで飲むのはどうかと思いますよ?」

「……ごめんなさい」

「飲むなとまではいいませんけど、せめて飲みすぎるなら私の居るときにして下さい」


 ぴんっとおでこを弾かれて、私は肩を落とす。間違ってないし、ブラックのいうとおりなんだけど……。ぬー……。


「頭痛とか残っていませんか? 気持ちが悪いとか」

「気持ちは悪くない……ちょっと、頭が痛い……自業自得?」


 しょぼんとそう口にした私にブラックは、ふっと笑いを零して「そんなことありませんよ」といってくれた。そんなことあると思うけどやっぱりブラックは甘い。


「顔上げてください」


 いいながらブラックはそっと私の顎に手を添えて上を向かせる。そして、少し苦いですよ、と前置いてから何かを呷ると唇を重ねた。


「―― ……っん」


 しっかりと口を塞がれて、ゆっくりと液体が流し込まれる。思わず逃げそうになった私を掴まえて、拒むことは出来なくなる。流れてくるものは本当に苦い。両目をきゅっと閉じて眉間には深い皺を刻んでしまう。


 ―― ……ごくん……


 息苦しさに耐えかねて飲み下すと、僅かに唇が離れて「直ぐに楽になりますよ」と紡がれる。そのまま解放してもらえるのかと思ったら、再びキスを重ねられた。

 深く浅く何度も重ねられる口付けに浮かされて、アルコールが残っていて朦朧としてしまうのか、それともキスに当てられているのか分からなくなった。


「ふ……っ、ぅ……」


 ブラックの首に腕を絡ませてキスに応えれば、そのままベッドに押し倒される。熱い息を吐き、声を詰めたあと緩められた首元が冷たい外気に晒されて、ふと我に返る。


「っ! ちょ、駄目っ」

です」

って、ちょっと、駄目だよ。ここ、寮っ!」


 普段なら割とあっさり引いてくれるのに、嫌だと繰り返し私から自由を奪って、首筋に強く口付ける。


「……んぅ」


 ちりっとした痛みが走る。きっと所有物のように赤い華が刻まれただろう。ブラックは滅多に見えそうなところにはそんなことしないのに……。


「ブラ……ック……」


 なんとか頑張って呼びかければ、ぎゅぎゅーっと私を抱き締めたまま「なんですか?」とくぐもった声を出す。


「どうした、の? 私、やっぱり何か……」

「別に大したことないです。大したことはないですけど……分かりません」


 うん? 私はもっと分からない。もっと分からないけど、とりあえず、離してもらいたい。多分不躾に入ってくる人は居ないと思うけど、いや、寧ろワザと入ってきそうな気がしないでもない。

 恋人同士とはいえ、いや、だからこそ、組み敷かれて居る図は宜しくないだろう。


「えっと、その、そろそろ退いてもらえると、その、ほら、屋上片付けないと」

「カナイが罰ゲームで片付けました」


 罰ゲームっ?! 私の記憶がない間に何があったんだっ?!


「なんだか変なんです。胸の奥の辺りがきりきりするし、なんだか落ち着かなくて」

「―― ……ええと、風邪、かなぁ?」

「分からないです。でも、マシロを抱き締めてると落ち着きます。だから、離れるのは嫌です」

「あー、じゃあ、猫の姿で」

「嫌です」


 ああ、もう、そうだよね。そういい出したら聞かないよね。梃子でも動かないよね。


「仕方ないな……今日だけだよ。でも、寝るだけだよ?」


 子どもにいうようにそう口にすれば返事の代わりに腕に力を込められた。そっと抱き返せば頬を摺り寄せられる。ブラックって本当に猫みたいだ。


「私はマシロの一番ですか?」

「え?」

「マシロはみんな大好きだというので……」


 ええと、それは詰まり、いった記憶はないけれども、


「もしかして、ブラック、寂しかったの?」


 私の問い掛けにブラックはようやく顔を上げて、きょとんとした視線を投げてくる。寂しいとは何ぞや? とでもいいたげだ。そ、そんな顔されたら、もう、


「ぷっ」


 私は我慢出来なくなって噴出した。

 自由になる両手でブラックの頭の耳をくにくにと触りながら、そっかそっかと一人で納得。益々頬が緩む。それに不満そうなブラックがたまらなく愛しい。


「みんな好きだけど、ブラックは同じ土俵じゃないでしょう」

「どひょう?」

「そう、好きの基準が違いすぎるよ。比べるほうがどうかしてる」


 本当、どうかしてるよ。と重ねて笑う。ん? あ、頭痛のほうも取れた気がする。頭を動かしても笑っても追いかけてくる痛みがなくなった。


「ブラックに対する好きはブラックに対してだけだよ。一番も二番もないよ。だって、ブラックしか居ないんだもん」


 耳を触って遊んでいた手を解いて、そっとブラックの頬を包み込む。綺麗な肌。綺麗な目、綺麗な鼻……綺麗な唇、一つ一つ丁寧になぞり、こうしてその全てに触れることが出来るのはきっと私だけだと優越感に浸る。

 ブラックだって同じような優越感を持ってくれても構わないのに、いや、寧ろ持ってると思ってた。


 再び首に腕を絡めて引き寄せれば、素直に降りてきてキスをくれる。こんなに近い距離に他は入れない。いくら、私でも、きっと多分……?


「マシロ?」


 私の頭に浮かんだ疑問符に気がついたのか、ブラックの瞳が不安そうに揺れる。可愛い。こんな巨大な猫見て可愛いとか思う時点でアウトだと、どうして気がつかないのだろう? 私はとっくに終わってる。

 脳内麻薬に犯されてる。


「自分ではない別の人を一体どこまで好きになれるんだろうなーと思って……」

「なんだか、難しい話ですね?」

「そうでもないよ。今実験中だから」


 え? と問い返しそうになったブラックをもう一度引き寄せて、にこりと微笑む。


「答えはブラックが持ってるから」


 今度は深く口付ける。


 そして私は、繰り返される口付けと身体を撫でる心地良い大きな手に


           とりあえず、お酒は自粛することを誓った…… ――



※ 拍手コメントよりリクエストいただいたものになります。

 今度は是非酔っ払ったマシロをとのことだったので、こんな感じになりました。本当は脱ぐ癖・キス魔とかでも良いかと思ったのですが、命がけの話になりそうだったのでこっちに。笑。無機物にでもなんにでも手当たり次第話しかける人になってもらいました。(カナイ←マシロビジョンで無機物判定w)

 メルマガ先行配信させていただいていましたが、拍手コメントでいただきましたので、早めにこちらにもアップさせてもらいました。

 年内更新はこれで最後となります。また来年も種シリーズ続きますので是非よろしくお願いいたします。


 それでは皆さまよいお年を…… ――

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