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第32話 ……それになんだかおもしろそうですし

「金貸し?」

「そう。金貸し」

「400万ぐらい貸してくれないか?」

「無理じゃ」

「なんでだ!」

 非情な宣告に膝を崩しそうになる。金貸しは人にお金を貸す仕事じゃないのか?

「お主は担保に入れるものが何もないじゃろう。保証がなけりゃ誰も貸さん」

「担保ならここにいる美少女を出そうではありませんか。どうだ?」

「あはは、人を勝手に担保代わりにするんじゃねーです」

「いたたたた」

 シャルに足をぐりぐりされる。多分、怒ってる。

「それに、お主にやってもらいたいのは借りじゃなくて貸しじゃ。わかったか?」

「いや、全然わかんない。なんでオレなんだ? 自分でやればいいだろう」

「……基本的にここに預けにくる奴らは向こうから足を運んでくる。じゃが、最近不況でな。こちらから足を延ばさんと客もつかなくなってきておる。まったく、勝手なもんじゃ。自分たちが童たちをここに追い込んだくせに、童たちをこき使うのじゃからな」

 そう言うドリアードの目は半ばあきれているようだった。意外だ。そんな境遇ならもっと怒ってもいいはずなのに。

「で、童たちはここから出られぬ。結界の外を出ると溶けてしまうからの。人間のそれとは逆パターンということじゃ」

「なるほどなるほど。事情はわかりました。それで、その仕事に見合う対価はくれるんでしょうね?」

「おいシャル。勝手に――」

「契約を取った金額の一割を出そう」

「乗った!!!!」

 即答である。ちなみにオレ。

「……早かったの」

「だって契約の一割だろ? ってことはだ。100万取ったら10万、1000万取ったら100万ってことだ!」

「10シリルだったら1シリルですね」

「…………」

「そんな、かわいいからって見つめないでください。きゃはっ」

 そのかわいい顔にグーをめり込ませたい。なんとか我慢する。

「ほう、やってくれるか。意外にも快諾じゃったな。もし断るものなら他にも手段は残していたんじゃがの」

 ドリアードが向けた視線の先に剣やら斧やらが飾られた武器庫が見えた。何をするつもりだったのかは聞くまい。

「いや、だが待てよ。オレは今や指名手配の身だ。そんなオレが町へ繰り出すと色々マズイんじゃないか?」

「それなら大丈夫じゃ。ほれ」

「……これは?」

「そのうちわかる」


「はいー失礼します奥さん。現在お金に困ったり――」

 バタン、と扉を閉められる。

 これで五件連続の門前払いだ。

 元の世界で営業として活躍していたオレだが、まさかこのスキルがこっちの世界で役立つなんて誰が思うだろうか、いや思わない。

 しかしそんなオレをもってしてもここまで連戦連敗。中々契約を取れないでいる。

「投資、ねぇ・・・」

 大精霊ドリアードから持ちかけられた資金の投資話である。要は金が必要な人に貸してやろうという提案だ。もちろんただで貸すわけではなく、そこに金利が発生する。で、その金利を徴収することでこっちの利益になるってことだ。

「あはは、全然ダメですねタケルさん」

 愉快そうに笑うシャルである。こいつは特に何もしていない。もちろんオレを手伝うことも。

「一体何が原因だろうか……」

「せっかく精霊の力を借りて擬態までしているのにですねー」

「それ。本当にこれで擬態できているのか?」

 ドリアードから渡された指輪に視線を落とす。木製の立派な指輪だ。ドリアードいわく、これをはめることで周りからはオレが違う人物に見えるらしい。それを信じてモラリスに一番近い村へやってきたのだ。

「ちなみにオレ、どんな風に見えるの?」

「わたしは同じ指輪をつけているので、いつものブサイクさんに見えますけど」

 おい。ブサイクって言ったぞ今。

「周りの方からはこの世のものとは思えない超絶ブサイクに見えますよ」

「やっぱりブサイクじゃないか!!」

 どうして契約が取れなかったかわかった気がする。てか絶対これが原因だ。

「まーまーいいじゃないですか。おかげで変装できていますし」

「納得できない……」

 捕まるよりはマシってわけか。

「まぁ、本当に擬態ができているなら――」

「あれ……タケル?」

 聞き覚えのある声だ。そこにいたのは、採掘工の娘パルだった。

「おぉ、パルじゃないか。久しぶ――あれ?」

 違和感。抱かずにいられない。

「……オレの顔、わかるの?」

「なに言ってんだ。当たり前じゃないか」

「シャルゥ……!」

「あはは、今のタケルさんすっごくブサイクな顔してますよ」

「シャルゥウウウウウ!!」

 オレとシャルの鬼ごっこが始まった。


「はっはーん、なるほどね。金貸しの仕事をねぇ」

「はい、そうなんです。パルさんはどうしてここに?」

「ししし。実はあたい今修行中なんだ。将来店を持つための修行をね。その一環としてこの村に研磨材を仕入れに来たんだ。ここの研磨材はとっても優れものなんだぜ。こうやってパシリに使われるのも修行ってわけさ」

「もっかい聞くけどさ、パル。本当にオレの顔に見えてる? 別の誰かじゃね?」

「変なこと言うな~タケルは。どう見てもいつもの」

「ブサイクな」

「タケルだよ!」

「おい。今間に入れたやつ出てこい」

 シャルが目を反らす。こいつ……!

「なんだ? あたいが見えちゃマズかったか?」

「それは……」

「多分、パルさんはわたしたちと同じ性質なんですよ。精霊にも受け入れられる性質」

「あ、なるほど。それで精霊の効果も効かなかったってか」

「ふーん。よくわからないや」

 パルはししし、と笑った。本当にどうでもいいようだ。

「ところでパル、ドラゴンのことはもういいのか?」

「あーあれね。大丈夫、オヤジたちがしっかりやってくれてるよ。これまでの自分の行いを悔いてな。んで、あたいもそろそろ将来のために考えなきゃなーってことで、こうして修行に出されたわけ」

「ほほう。それならちょうどいいじゃないですか。どうです? 将来のために投資を考えるというのは」

「ははは、まだそこまで考えらんないよ。でも、あんたらが困ってるっていうなら助けてやれるかもしれない」

「ほんとに?」

「ああ。村中のやつらに一気に知られる方法だ。あたいに着いてきな!」

 そう言ってパルは歩き出した。

「……どう思うシャル」

「知られるってことは、お金を借りたいって人も簡単に見つけることができるかもしれないってことですからね。行ってみる価値はあるんじゃないでしょうか」

「ああ。そうだな。このままじゃ埒があかないしな」

「……それになんだかおもしろそうですし」

「ん? なんか言ったか?」

「いいえ。何にも。ほら、パルさんが行っちゃいますよ。早くいきましょブサイクさん」

「よーし。まずはお前を殴ってからだ」

「きゃータケルさんのへんがお~」

「そこはせめてへんたいって言うとこだろ!!」

 こうしてオレたちはパルの後を追うことにした。

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