第33話 測定器はないけど、測定ジジイはいるよ
『さぁーやってまいりました絶叫大会!』
司会のおねぇさんは高らかにそう宣言した。
「……ナニコレ?」
パルに連れられてやってきたのは村の広場。そこで催されているナニカの大会にオレは参加することいなった。というか、パルが勝手に登録しやがった。
「なにって、絶叫大会だよ。一番大きな声を出した人の勝ち。ね、簡単でしょ?」
「なんでそんなもんに参加することになってんだ! わけわからんぞ!」
「だーかーら、村の人たちにあんたたちを知ってもらうためだってば。優勝すればいい宣伝にもなるでしょ?」
「商売を始めるにはまず知ってもらうこと……なるほど、パルさん。あなたわかっていますね」
「えへへ~でしょでしょ?」
「おいそこ女子二人。勝手に盛り上がってんじゃないよ」
ということでその絶叫大会とやらに強制参加することになったオレ。もちろん、こんな馬鹿らしい大会辞退しようとも思ったけど……
「一度参加登録したら取り消せないよ。どうしてもって言うなら取消料として指一本おいていかないと」
「なんつー物騒な大会だよ」
「それだけこの村では重要視されてるお祭りなんだよ。諦めて参加しな、タケル!」
「くっ……!」
まんまとはめられたワケだ。心なしか、オレが困るのを楽しんでいるようにも見える。とんだ畜生だ。
だが、周りを見てみると……ふむ、年寄りばかりのせいか、オレの相手になりそうなやつはいない。これでもオレはかなり若い方だ。そんなオレがジジババどもに負ける要員なんてない。このお祭りもたかが賑やかしのためにやっているだけだろう。老人ホームのレクリエーションと同じようなものだ。さくっと優勝して契約を取るようにしますかね。
「オレの参加者番号は……5か。全部で参加者10名ほどだから、ちょうど真ん中あたりか」
「まぁまぁいい順番なんじゃないですか? 最初と最後はプレッシャーがかかるでしょうからね」
「で、当然のようにシャル。お前は参加しないってわけだ」
「えー? 参加してほしかったんですかー? あ、タケルさんってもしかして女の子の大きい声を聞くのが趣味だったりします? あはは、変態だー」
「……今すぐここで悲鳴を上げさせてやろうか?」
シャルはこつん、と自らの頭を小突いた。すんげー腹立つ。
「えっと、詳しいルールの説明だけどね」
そうパルが切り出した。
「この大会のルールとしては、非常に単純なものだ。さっきも言ったけど一番大きな声を上げた人の勝ち。誰よりも大きな声でね」
「その声の大きさって何で測るんだ? 測定器のようなものがあるのか?」
「測定器はないけど、測定ジジイはいるよ」
「……測定ジジイ?」
「ほらあそこ」
パルが指さす方に視線を向ける。そこにいたのは、杖をついて立つのがやっとのよぼよぼのじいさんだ。目が3になっている。
「この村の村長さん。耳が超遠くて有名な人だよ。そんな彼の耳に一番大きく届いた人の勝ちってわけさ」
「……人が測るのか」
色々とガバガバなレギュレーションである。
「あれだけヨボヨボだと、大きな声だけでぶっ倒れそうだな……そのまま仏になっても知らんぞ……」
「あはは、大丈夫。今まで入院ぐらいで済んでるから」
「十分大事じゃねぇか!」
「それに、なによりこの大会に熱い情熱を持ってるのは村長だよ。自ら進んでやってるってわけさ。だから、そこんとこ気にしなくても大丈夫」
「気になるんだよなぁ……」
この大会が彼の最期かもしれない。
「それと、大会で何を叫ぶかは直前の抽選で決まるよ。観客が紙に単語を書き、それを混ぜたものを引くのさ。だから、直前まで何を叫ぶかはわかんないよ」
「中にはとんでもない単語が入ってたりもするわけか……すんげー不安になってきた」
「大丈夫。タケルさんならやれますよ」
「シャル……」
「今更どんな恥ずかしい単語を叫んだってその顔には勝てませんから」
「……それは励ましなのか?」
多分、そうじゃない。
「さてと、そろそろ大会が始まるよ。他の参加者の様子も見ないとねー」
「ああ、そうだな」
広場に設置された舞台に目を移す。今まさに司会のおねぇさんの口から開会の宣言がなされるところだった。
『さー張り切ってまいりましょう! まずはエントリーナンバー1番! 雑貨屋パンチのミッキー・パンチさんだー!』
現れたのは中年のヒゲを生やした人の好さそうなおじさんだ。絶叫とはまるで縁が無いように見える。
「いきなり現れたか」
「!?」
いつの間にか隣に立っていたハゲのおっさんに声をかけられる。
「は、はい?」
「雑貨屋ミッキー……またの名を熱血のミッキー」
「熱……なんだって?」
「やつはこの大会の常連だ。無冠の帝王などと揶揄されているが、その実力は本物だ。フフ、まさか一番初めにやつを見られるとはな……今年の大会は波乱が起きそうだぜ……!」
「すみません、おっさん誰ですか?」
「し! 静かに! 今にわかる……なぜやつが熱血のミッキーと呼ばれているかがな!」
「いや、気になるところはそこではなく――」
「始まるぞ!!」
ヒゲのミッキーが箱から一枚紙を取り出す。それを眺め、目を閉じる。そして、すぅっと息を吸って大声を放った。
「ハイソック……ぐばぁっ!!」
血を吐いて倒れた。
「!?!?!?」
「く……! ハイソックスと来たか! だがやつはニーソックス派! ニーソッカーの血が許さなかったのだろう!」
「ニーソッカー!?」
「だが、それがわかっていながらあえて挑戦するなんて……やはり漢だ……! 涙が止まらねぇよぉ……!」
「なに言ってんの!?」
『さぁーただいまの点数は……』
皆の視線が村長に集まる。
「……ふぁっ?」
『聞ーこーえーてーいーなーい! 残念ながら村長の耳には届かなかったようです! ニーソッカーのミッキーさんには残念賞として丸太一年分が送られます! 丸太にニーソックス履かせて楽しめばいいんじゃないかな! またの挑戦をお待ちしていまーす!』
「ミッキーが……」
「ミッキーが逝ったか……」
「高血圧のミッキーが……」
「どうだ小僧? やつが熱血と言われている理由が――」
「ただのニーソックスフェチじゃねぇか!!!!」
情熱をかける部分が違うと思う。そして担架に運ばれるミッキー。ちらりと見えた足にニーソックスが見えた。変態だ。
しかし色々とひどい幕開けである。
「このようにクジ運も勝負を分けるってことだね……!」
「パル!?」
「勝負は神のみぞ知るってことですか……ふふ、神さまもイジワルですね……!」
「シャルまで!? お前ら感化されすぎじゃね!?」
どうしよう。まるでオレが異常者みたいじゃないか。
「さぁ、気落ちしている場合じゃねぇぞ小僧。死闘はまだ始まったばかりなんだからな……!」
「もうどこから突っ込めばいいかわかんねぇよ!!!」




