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第16話 男同士裸の付き合いをしようじゃないか。

 ベルからの突然の申し出。今夜の宿に困っていたオレたちはベルの城に泊めてもらえることになった。一般人が貴族の、しかも城に寝泊まりできるなんてこの上ないチャンスだ。断る理由などなかった。

「いやーまさかお城に泊まれるなんて。良いことはするもんですね~」

 こころなしか、シャルもハイテンションだ。

「しかもメシまで食わせてくれるなんてな。ほんと至れり尽くせりだよ」

「お城での豪華なディナー……一度憧れていたんですよね。まるで王女様になった気分です。そうですねぇ、もしわたしが王女様になったらぁ」

「国民から税をむしれるだけむしるだろうな。こんな金に汚い女王様なんだ。いくら税を払っても払い足りねぇだろうな。国民は参っちまうよ」

「……まずは不逞な輩を斬首することからでしょうか」

「なぜこっちを見る」

 シャルから殺意を感じて思わず身震いをする。どうしてこいつは人に簡単に殺意を向けることができるのか。

「でもそうだな。貴族気分が味わえてとてもいい気分だ。もしオレが王様になったらぁ」

「歴代一ブサイクな王様として名を遺すでしょうね。生まれる跡継ぎがかわいそうです。ブサイクの遺伝子を受け継いじゃいますので」

「……生意気な銭ゲバ商人を縛り首にするだろうな」

「なぜこっちを見るんです」

 互いに火花を散らしながら部屋へと続く廊下を渡る。高そうな肖像画やアンティークの中を歩くのは中々緊張するものだ。これら一つでオレの目標額に届く物もあるんだろうな。やがて目的の部屋の前まで来る。

「と、ここはタケルさんの部屋ですね。ではわたしはもうちょっと先なのでこれで失礼します」

「大丈夫か? 一人で怖くないか?」

「あはは。子どもじゃないので大丈夫ですよ。そっちこそ一人では怖くて眠れないんじゃないですか? 子守歌でも歌ってあげましょうか?」

「冗談。眠りが覚めちまうよ」

「失礼な人ですねぇ。じゃ、また明日です無一文」

「いい夢みろよ銭ゲバ」

 悪口を言い合いながら別れる。案内された部屋にはまだ入ったことがない。果たしてこの扉の向こうはどんな世界が待っているのだろうか? わくわくが止まらない。そしてオレは勢いよく扉を開け放った。

「ナイスバディ……」

 オレはそっと扉を閉じた。

 待て待て待て。今ありえない光景が目に映ったぞ。尻が。尻が見えたのだ。全裸男性の尻が。奴は鏡に向かって全裸でポーズを決めていた。これは悪夢か? ルームサービスだとするとちょっと過激すぎるぞ。なぜ全裸の男性がオレの部屋で、鏡に向かってナイスバディ……などとつぶやいていたのか? 疑問は絶えない。ダメだ。忘れよう。そうしなければ今夜は眠れない気がする。そうだ、部屋を間違えたんだ。そうに違いない。改めて部屋の標札を見る。

『薔薇の部屋』

「意味深すぎるだろぅ……!」

 いつもだとなんにも思わない名前だが、状況が状況なだけに気持ちの整理がつかない。しかしメイドのアルディラさんは言っていた。タケル様は薔薇の部屋だと。その記憶が正しければオレの部屋はここで間違いない。いや、間違いであってほしい。そうだ、見間違いだ。今日は色々あって疲れてるんだ。幻覚を見てもおかしくはない。ははは、オレも大変だな。そう思って改めて勢いよく扉を開ける。

「どう思うかね?」

 オレは勢いよく扉を閉じた。

 質問された。こっちを向いて質問された。どう思うかね? はぁ? なにが? 言われなくてもわかる。奴は私の体はどう思うかね? と聞いているのだ。知らんがな。確かに筋肉質ではあるけど。

 ……あれ?

 ここで強烈な違和感を覚える。あの男の顔……どこかで見たことあるぞ? 記憶をたどるが、なんせ一瞬だったもので思い出すことができない。ここはもう一度確かめる必要がある。すごく嫌だけど、確かめる必要がある。意を決してオレは扉を開けることに。

「ばぁっ」

「うわぁああああ!?」

 扉の隙間から出た顔に思わず腰を抜かしてしまう。そんなことお構いなしに男はゆっくりと扉を開いて出てきた。やばい。やられる。

「うわぁああ……あ?」

 思わず情けない声が出てしまう。目の前の光景に驚いたからだ。そこにいたのは間違いなく、オレの記憶が正しければだけど……

「……王様?」

 そう、ベルの父親であるこの国の王だった。

「やぁ。クガ・タケルくんだったね? ようこそ我が城へ。私のことは覚えているかね?」

「え、ええ。王様ですよね? ベルのお父さんの……」

「そう。我こそはレヴンレイギス王国第15代当主、ラムジン・レヴンレイギスだ」

「あのー、そのラムジン様がどうしてここにいらっしゃるのですか? ここはオレの部屋のはずですが」

「うむ。キミを待っていたのだタケルくん」

「オレを? どうしてです?」

「うむ。タケルくん。一緒にお風呂に行こう」

「は?」

「一緒に、お風呂に、行こう」

 王様はとてもいい笑顔で繰り返した。

「あの、嫌です」

「むう? どうしてかね?」

「そっちの趣味はありませんので。オレは普通に女の子が好きです」

「はっはっは。何を言うかと思えば。なぁに、安心したまえ。ただ背中を流してもらいたいだけだよ。洗いっこしよう洗いっこ」

「あの、やっぱり」

「え? いいだって? さすがタケルくん! 話がわかる! よし、そうと決まれば直ぐに浴場に向かおうではないか。風呂が冷めてしまうからな。はっはっは」

「ちょ、え、王様! オレは断ろうと――」

「はっはっは。男同士裸の付き合いをしようじゃないか。はっはっはっは!」

「せめて服を着てくれぇえええええ!!」

 こうしてオレは裸の王様に引きずられながら浴場へと向かった。


 これまで見たこともない、とてつもなく広い浴場だった。そんな広い浴場に男二人。大変贅沢である。

「ふぅ……とてもいい湯だ。どうだね、タケルくん。気持ちいいか?」

「ええ、とっても。生き返る気分です」

「なに!? キミは死んでいるのか!? 大変だ! 早く蘇生しなければ!」

「言葉のあやですよ! 冗談の通じない人ですかあんたは!」

「なんだそうか。びっくりしたぞ。王様びっくり」

「……」

 言葉が出ない。めんどくさい人だこの人。

「ん? どうかしたかね?」

「いや、昼間に会った時とはまるで別人だなーって。本当に同一人物なのかと」

「これでも一応王なのでな。今のはギャグじゃないぞ? 皆の前では立派な王を演じなければいけないのだ。しかしプライベートではただの一人の男だ。だから家の中を裸で歩き回ってもいいのだよ。はっはっは」

「じゃあ、ベルを殴ったのも演技ですか」

 途端に王の顔が曇る。こっちの方が昼間に近い。

「いや。あれは感情に任せて手が出てしまった。一人の親として心配なのだ。娘の無事が。本当は抱きしめてやりたい、だが叶わぬ。だから、ああいうことしかできなかったのだ」

「親心ってやつですか。でもそれだけじゃないような」

「ほほう、わかるかね。さすがはタケルくんだ。それには事情があってな。つまらない話ではあるが」

「聞きましょう」

「ベルベットには昔姉がいた。年の近い姉だ。だが幼い頃にあることがきっかけで帰らぬ人になってしまってな。まだベルベットが物心がついていない時だ。あいつは覚えてないかもしれないが、私は一度たりとも忘れたことは無い。それ以来か、私はベルベットにとって良い父であろうと演じ始めた。厳しく当たることも多くなった。だから彼女の中では私は昔から怖い父親なのだよ」

「娘さんを失ったショックからというやつか。それにしてももっとベルに優しくしてもいいんじゃないんですか?」

「今更どうしろというのだ。一度形づくられた関係は中々崩せないのだよ」

「不器用なんですね、王様って」

「ああ、まったくだ」

 王様の気持ちを知り、距離が近くなったような気がする。

「でも城の中を全裸で歩いているとベルに見つかったりしないんですか?」

 そうなると威厳もクソもない。

「大丈夫。気配でわかる。それに私は早着替えの達人だ」

「脱がない努力はしないんですかそうですか」

 変態なのかもしれない。いやきっとそうだ。

「ふふふ。初対面の相手にこんなに話をしたのは初めてだ。キミはベルが連れてきた久しぶりの客人だからな。それにどことなく雰囲気が私に似ている。だからだろうな」

「全裸王の雰囲気に似てるなんてなんて光栄なことなんでしょう。あれ、もしかしてこの発言不敬罪ですか?」

「今は一人の男と男だ。だから問題ない。もし臣下たちの前だったら打ち首だっただろうがな。はっはっは」

「笑えねぇ……」

 時間と場所はわきまえた方がよさそうだ。

「ところでタケルくん。キミは行商人と聞いたが、何を目的に旅をしているのだ?」

「あー……」

 一瞬、話していいものかどうか考えたが、王様がこれだけ教えてくれたのだから、こちらも誠意を見せなければと思い、話すことに。オレは異世界から来たということ、元の世界に還るためにお金がいることなど、だ。

「異世界か……にわかには信じがたいが」

「ですよね。突拍子もない話ですし」

「だが信じよう。キミに免じてね。ふむ、お金が必要か。ならば、一つ良い手があるぞ」

「なんですか?」

「ベルベットを嫁にもらうのだ」

「ぶふぅっ」

 盛大に吹き出してしまった。何を言っているんだこの全裸マンは。

「よ、え?」

「いわゆる逆玉というやつだな。そうすればお金に困ることもないし、キミの目的は達成されるだろう」

「そ、そんな簡単に言われても! ベルの気持ちだってあるし、そもそもオレは金が貯まったら元の世界に還るんですよ!?」

「ああそうか。それは困るな。ベルベットを嫁にもらった以上、この国の次期国王となるのだからこの世界にいてもらわないといけないからな。むぅ。なんとか良い方法はないものか」

「結婚は無しです! 絶対に!」

「なに!? ウチのベルベットに女としての魅力はないというのか!?」

「そうは言ってません! ベルはとてもかわいくて魅力的な女性ですよ。だけど、結婚となると話は別です!」

「ふむぅ……ならばカルアはどうだ?」

「カルアたん……?」

「うむ。一瞬考えたな?」

「か、考えてないです。やっぱりダメです。還らないといけないし……惜しいけど」

 心の声ダダ漏れである。

「もう、勘弁してくださいよ……」

「はっはっは。冗談だよ冗談。娘には縁談の話も来ているからな」

「縁談……」

 そういや、ベルがそんなこと言ってたな。逃げ出した原因でもあるけど。王様はそのことを知っているのだろうか? しかしこれ以上踏み込むのはやめた方がいいかもしれない。そっちにはそっちの事情もあるだろうし。オレは閉口することにした。

「ふふ、こんなに笑ったのは久しぶりだよ。改めて礼を言う。娘を助けてくれて本当にありがとう。タケルくん」

「いえいえ。またおてんば娘が家出した時は連れ戻しますので安心してください」

「そりゃ頼もしい。はっはっは」

 王様につられてオレも笑う。王様の本当の姿、ベルに見せられないのは本当に残念だ。そんなことを思っている時だった。壁を隔てた向こう側から声が聞こえてきた。女の子たちの声だ。

「……タケルくん。知っているかね」

 急に王様がシリアスな顔で語りかけてきた。

「この向こうは、女湯になっているのだよ」

「そうなんですか」

「と、なるとやることは一つだろう?」

「なんですかそれは?」

 激しく嫌な予感がする。そう思いながらもその真意を問う。

「NO☆ZO☆KI☆だ!」

「ダメだこの馬鹿王!」

「その話、僕も乗ったブゥ」

「ブターーー!?!?」

 ブタールが現れたのはその直後だった。

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