第14話 口からゴブリンが出てますよ?
「金を稼ぐ方法? それなら一発当てることだな」
裏冒険者ギルド『三日月の杯』。王都の裏路地の更に地下にある知る人ぞ知る冒険者ギルドだ。普通のギルドと違うのは、ここに集まる人や情報のヤバさだ。とても表立って公表できない情報の共有をここでは行っているらしい。リスクも大きいが、その分得る物も多い。普通の依頼じゃ満足できないという奴らが集まっている場なのだ。オレは現在、そこに通うイカツイおじさんに質問中。
「一発当てる?」
「ああ。クエストなんかでちまちま稼いでたっていつまで経っても貯まらねぇ。それならば一発でがっぽり儲けちまう方がいいだろ」
「同感だな。で、その方法は?」
「いくつかあるが、例えばそうだな。マニアに人気の高い幻獣を調教するという仕事がある。一匹調教を成功させることで100万は固いぜ」
「そりゃあいい。興味がある」
「だが、果てしなく難しい。ちょっとでも油断すればすぐに幻獣に食われちまうからな。今年もすでに20人が挑戦して19人が食われたって噂だぜ。自分がエサになってちゃ世話ねぇっての。がっはっは!」
「笑えないよおじさん」
この話は聞かなかったことにする。
「あら、やらないんですか?」
「シャルならやってたか?」
「まさか。あんなのやるのはただの馬鹿ですよ」
「ですよねー」
おじさんを離れ、今度はフードを被った女冒険者の元に。
「お金を稼ぐなんて簡単よ。体を差し出せばいいんだもの」
いきなり過激な発言。どうしてもあらぬ想像をしてしまう。
「知り合いに機工士がいてね。人の体をいじって機械に変えてしまうことが好きな変態だ。そいつの研究素材になることで多額の金を受け取ることができる。その代わり元の体には戻れないけどね。あたしももう、体の8割は機械化してる」
そう言ってフードを取ると、その下から全身サイボーグ化した体が出てきた。残りの2割がどこにあるのか謎だ。
「かっこいいっしょ?」
「そ、そっすね」
そそくさとその場を去る。
「やらないんですか?」
「最期に溶鉱炉に沈むところまでは想像できた」
「何の話です?」
「こっちの話」
最近観た映画のことを思い出しながら、更に色々な人に話を聞く。
「人をぶっ殺せばいい! ちょうど暗殺の依頼があったところだ。相手は……名家の貴族だな。家族全員だ!」
「ぐへへ。お前、いい体してるな。どうだ? 俺の物になれば金をやるぞ。その代わり……お前は一生俺のペットだ!」
「なんてことだ。ここには狂人しかいないのか」
「今更気づいたんですか?」
シャルに意外そうな顔をされる。
「だってここ王都だろ? なんで王都にこんな場所があるんだよ。王様は一体なにをしているんだ」
「王都にも闇はあるってことですよ。無理に弾圧して暴動を起こされるよりはいいんじゃないですか?」
「王都の闇は深いな……」
そもそもシャルはどうしてこんなところを知っているのだろうか。まぁ、情報通のシャルなら闇ギルドの存在を知っていてもおかしくはないか。
「どうしたの? 元気がないわね」
バーカウンターのマスターに話しかけられる。トカゲのしっぽが生えた獣人のおねぇだ。
「いや……お金を稼ぐのって大変だなぁって」
「そうね。みんな大変な思いをしてお金を稼いでいる。楽な道なんてない……でもだからこそ、やりがいがあるんじゃない?」
「やりがい、ね……」
「もう、そんな暗い顔しないの。さ、これでも飲んで。私からのオゴリよ」
そう言って紫色のカクテルを渡される。
「……これ」
「大丈夫。毒は入っていないから」
「……」
ひと思いにくいっと飲みほす。
「……うまい」
「でしょ? 気に入ってくれてよかったわ」
「へぇ、この世界でもこんなうまい酒があるんだな。これはなんて酒だ?」
「ゴブリン・スクリュードライバーですね」
「ゑ?」
発言したシャルの方を見る。
「ゴブリン・スクリュードライバーです。ゴブリンをスクリューで砕いた後、その液体をエールで混ぜたお酒ですね。甘酸っぱい味わいが特徴です」
「ぶっふぉう」
「大丈夫ですかタケルさん? 口からゴブリンが出てますよ?」
「やめろぉ……」
聞かなければよかった。まさか二日連続でゲテモノを口にするとは。
「あらあら大変ね。他のお酒にする? カシス・スパイダー、カンパリ・ワーム、ソルティ・ラットもあるわよ?」
「普通のお酒をくださぁい!」
気分が悪くなり、カウンターに突っ伏す。するとどこからか男たちの歓声が聞こえてきた。顔を上げて声のする方を向いてみる。
「ふんっ!」
「うがぁ!?」
そこにいたのは男女のペア。細身だがガッチリしている男の方が大男たちに混じって腕相撲を行っていた。なんか面白そう。そう思って近づくことに。
「っしゃあ! これで19連勝ぅ!」
「すごいすごーい! さすがギムレット! まだまだいけるよー!」
「おう! さぁ次はどいつだ!? 誰でもいい、かかってこい!」
連れの幼女にギムレットと呼ばれた半裸の男がぐるっと周りを見渡す。しかし、男の勢いに圧倒されてか、誰も前に出ようとはしなかった。
「なんだぁ? 誰もいねぇのか……ん? そこのあんた!」
「はっはっは。誰のことだろうね」
「指、差されてますよ。タケルさん」
「……オレぇ?」
明らかに男の指はオレに向いていた。気のせいであったほしかった。
「あんた、中々いい目をしているな。どうだ? 俺と勝負してみねぇか?」
「いえいえ。私の目は腐っていますよ。死んだ魚の目です。とてもあなたの要望に応えることはできませんよ」
「そうか? 残念だな……勝てば今までの賭け金全部手に入るのに。チータ、今いくらぐらい集まった?」
「えっとねぇ、50万シリルだよ!」
「やりまっしょう」
「マジっすかタケルさん」
シャルも思わずびっくり。タケルくんはお金に目がくらんで挑戦することにしたのです。何か問題でも?
「へへへ、そうこなくっちゃ。あんた、名前は?」
「お金大好きマンだ」
「俺は筋肉大好きマンだ。よろしくな、金マン」
「おう。肉マン」
お互いにがっちりと手を組む。
「ちょっと待った待ーった!」
「どうしたチータ?」
「どうした、じゃないよ。まだその人から賭け金もらってない!」
「おっと、そうだった。あんた、金は?」
「金はオレのやる気でどうだ?」
「気に入った。やろう」
「いいんですか? 本当にいいんですか?」
こっちサイドであるシャルでさえ思わず困惑。ツッコミが追い付かない状況だ。
「ここまで潔いやつは初めてだ。金マン、あんたに敬意を払って俺も本気を出そう」
そう言ってただでさえ半裸なのにズボンを脱ぎだした。やがてパンツ一丁に。
「いい気合だ」
触発されてオレも脱ぐことに。
「いや、タケルさんは脱がなくていいですから」
シャルの言葉を無視しパンツ一丁に。ここにパン一の戦士が二名誕生した。
「なんか面白そうだな。いいぞ、やれやれー!」
「よし、おれは肉マンの方に1000シリル賭けるぞ!」
「じゃあおれは1100シリルだ!」
あちこちで賭けが始まる。しかしその大半が肉マンに対してだ。まぁいい。オレは賭け事なんかに興味は無――
「それじゃああたしは金マン坊やが勝ったらおっぱいを触らせてあげるわ」
「!?!?!?」
バッと振り返る。そこにはさっき話したばかりの女サイボーグさんが手をひらひらしていた。
「……ふっ」
再び向き直る。女性に応援されてちゃ仕方がない。この戦い、絶対に負けられない!
「タケルさん、最低です」
シャルの声は聞こえなかった。
「さぁこい金マン!」
「いくぞ肉マン!」
再びがっちり組み合う。組んでみてわかる。こいつ、強い……!
「じゃあいくよ。れでぃー……」
「「ゴー!!!!!!」」
「あなたたちが言うんですか!」
二人同時の掛け声とともに試合が始まる。
「うぐっ!?」
とてつもない力がオレの上腕二頭筋を責める。だが、ここで負けていられない。
「うおおおおお!!」
「なに!?」
力で押し返す。オレには待っている女性がいる。それだけでがんばれる。
「へへ……いいぜ金マン! あんたのような男を待っていた! だが、俺も負けられないんだよぉ! うらぁあああああ!!」
「っ!?」
逆に押し返される。なんとか耐えてはいるものの、少しでも気が抜ければ負けてしまいそうだ。
「ぐぐぐ……頑張れ、頑張るんだマイケル! あんたの力はこんなもんじゃないはずだマイケール!!」
肉マンが自分の上腕二頭筋に対してエールを送る。
「マイケル! そうだマイケル! お前はマイケル! 不撓不屈のマイケル! 頑張るマイケル! まーイケル! いけいけマイケル! どんマイケル!!」
「……」
ダメだ。卑怯だよこんなの。微妙に韻を踏んでいるのがまた腹立たしい。しかも本人は超真面目にやってるし。なんで最後は励ましが入ってるんだよ。色々なツッコミを頭に浮かべながらも、笑いそうになる自分をどうにか抑える。
「うお……おおお……!」
徐々に押され始めた。元々の力強さとマイケルコンボ。こいつはまさに強敵である。
「タケルさん……!」
「おおお……」
「いける……いけるぞマイケール!」
だが、オレはここで負けるような男じゃない!
「おお……おっぱぁああああああい!!!」
「っ!?」
執念で盛り返す。これで再び戦況は五分と五分だ。
「ぱぁあああああい! ぱぁああああああい!!」
「な、なんだこの執念は……! こいつのどこにそんな力が!?」
「ぱぁあああい……ぱいぱぁあああああい!!」
「……くっ! 負けられない!!」
激しく火花が飛び散る。手に汗握る攻防。男と男のプライドがぶつかり合う。
「タケルさん、最低です」
シャルの声は聞こえなかった。
「おっぱぁああああああああい!!!!!」
「マイケェェェェェェェェル!!!!」
おっぱいVSマイケル。歴史に名を遺すであろう、この戦い……もうすぐで、勝負が決まる……!
「「うぉおおおおおおおおおお!!」」
「ふん!!」
机が真っ二つに割れる。いや、割られたのだ。
「うお!?」
勢い余って仲良く床に激突するオレたち。
「痛ててて……一体なにが……っ!?」
見上げると、そこに立っていたのは黒い鎧を纏った大女。その鋭い眼光睨まれたギムレットがぎょっとする。
「あ、姉御!?」
「ギム。キサマ……こんなところでなにをしている?」
「い、いや違うんだ姉御。俺はただ力試しを――」
「言い訳無用!」
「ぎゃひぃ!!」
げんこつ一撃でギムレットが床に体をめり込ませる。なんとシュールな光景なんだろう。
「なんなんだこいつ」
「あはは~……トんでもない奴に会っちゃいましたね」
シャルがこれ以上ないくらいに苦笑いをする。対照的に大女の方はシャルの顔を見てぱぁっと顔が華やいだ。
「シャルドネ? シャルドネじゃないか! まさかこんなところで会うなんてな! これも運命か! やはり我らは結ばれているのだな! ふははは!」
「あはは~寝言は寝て言ってください」
どうやら顔見知りらしい。オレはシャルに尋ねる。
「シャル? こいつは? 知り合いか?」
「……ええ残念ながら。彼女の名前はコアントロ」
「そこにいるシャルドネの、婚約者だ」
「……は?」




