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第二十二話 絆と対話


 深夜にエーティアのもとに帰ると、凄く心配されてしまった。

「ミミ、どこに居たの!」

 私を見つけて息を切らして走ってくるエーティア。

 どうやらエーティアは、神殿中を探し回ってくれたみたい。

「エーティア、ごめんなさいなのー!」

 私はエーティアの胸に飛び込む。

 すりすり。エーティアの匂いだー!

 ああ、なんだか安心してきた。やっぱり、エーティアのそばが一番だ。

 でも、脳裏にはちらちらとレントの笑顔が過ぎる。

「うわーん!」

 混乱する私の頭を、エーティアが優しく撫でてくれた。

「大丈夫、大丈夫よ。ミミ、私が居るから」

「うん、うん! エーティアー!」

「……とても怖い思いをしたのね」

 労りに満ちたエーティアの言葉に、私は動きを止める。

 怖い?

 ううん、怖くなかった。レント、優しかったよ。

 凄く優しくて……でも、寂しそうだった。とても苦しげで。

「ミミ?」

 エーティアが私の顔を覗き込む。

 私はエーティアの顔に、ぴっとりとくっつく。

「……エーティア、苦しくて寂しいのは辛いことなんだね」

「ミミ……」

 ぽんぽんと、また頭を撫でられる。

「そうね。寂しいのは辛いわ」

 エーティアの言葉には重みがあった。

 そうだ。エーティアは、家族から引き離され独りでこの神殿に連れてこられたのだ。

 初めて会った時のことを思い出す。暗い部屋で、俯いていたエーティア。

 だけど、今の彼女は……。

 エーティアの顔から離れ、腕の中で私は彼女を見た。

 エーティアは優しく笑いかけてくれた。その表情にあの時の陰はない。彼女は強くなった。

 エーティアは私を優しく撫でながら、語りかけてくる。

「私、ミミが居てくれて、良かったってずっと思っているの」

「え……?」

「ここに来たばかりの頃の私は弱虫だった。父さんや母さんが恋しくて、毎日泣いていたの。ミミも知っているでしょう?」

「うん」

 私は頷き返す。

 ずっとそばに居たエーティアのミミは、全てを知っていなくてはいけないのだ。……それが、私の決意だから。

 エーティアは話を続ける。

「寂しくて仕方がなかった。辛かった。でも……」

 エーティアは言葉を切り、私に額をくっつけた。

「ミミが動いてくれたの。私の為にあるんだって。嬉しかった。あの瞬間、世界が明るくなったの」

「エーティア……」

 エーティアの言葉に、全身が感動で打ち震える。

 私、エーティアの支えになれていたんだ!

「大好きよ、ミミ」

「ミミも、エーティア大好きだよー!」

 ああ、自分は何を悩んでいたのだろう。

 エーティアは私を信じてくれている。

 私は、迷うことなんてなかったんだ。

 エーティアは強い。そんな強いエーティアのミミも、また強くならなくては。

「エーティア、ミミ頑張るよ!」

「ふふ、ミミ元気が出てきたのね」

「うん!」

 フルパワーなんだよ!

 ミミの一番はやっぱりエーティアなんだ。

 でも、レントが孤独なのはやだ。

 だから、頑張るのだ!

 うじうじミミ、さよならなんだから。

「さっ、夜も冷えるし、部屋に戻りましょう?」

「分かったよー」

 私はエーティアに抱っこされて、部屋へと向かった。

 レント、覚悟しろよー!


「……お前、何のつもりだ」

 翌日。

 私はぱったり廊下で会ったレントを、通せんぼうしていた。いや、張っていたんだけどね。レント、よくここの廊下通るし。

 両手を広げた私を、レントが鋭く睨みつけてきた。

 ……くっ、こ、怖くなんかないぞ!

 レントが本当は優しいって、こっちは知っているんだからな!

「もう一度言う。何のつもりだ、ぬいぐるみ」

「ぬいぐるみじゃないよ、ミミだよ!」

 レントを見上げ、私は胸を反る。

 レントは苛々としているのか、腕を組んでこちらを見下ろしている。

 ま、負けないぞ!

「あの女はどうした。お前たちは気持ち悪いぐらい引っ付いているだろう」

 気持ち悪いって言われた!

 でも、引き下がらないんだから!

「あの女じゃない。エーティアだよ、レント。エーティアはお勉強中なの」

「勝手に人の名を呼ぶな、ぬいぐるみ」

「ミミ!」

「……」

 私は断固として、ここを通らせないのだ。名前だって、訂正する!

 レントがため息をついた。凄く盛大に。

「……あの女に言われて、媚びでも売りに来たのか」

 レントは蔑んだ目で私を見る。

 ちょっと、いや。だいぶ胸が痛んだ。

 今のレントは氷のように、冷たい。

 だからといって、私も引くつもりはないけど。

「媚びるつもりはないよ。ミミはレントと話したいだけだもの。あと、エーティアだよ!」

 用件を伝える。あと、名前の訂正も忘れない。

 レントを見れば、驚いた顔をしていた。あ、今素になってる。凄く無防備な顔だ。

「俺と話したいだと? お前、何を考えているんだ」

「お前じゃなくて、ミミ! ミミは、レントのことを知りたいと思っているんだよ」

「なんだと?」

 レントの探るような眼差しが、痛いほど突き刺さる。

「俺の弱味でも握るつもりか」

「違うよー! レントは、なんでそうひねくれているのさー」

 手をぴこぴこと動かし、そう言い放てば。レントの眉間にシワが寄る。

 そして、ふいっと顔を逸らした。

「……これは生まれつきだ」

 凄く機嫌が悪そう。

 私、地雷踏んじゃった?

「俺は忙しい。そこをどけ」

 低い声で言われたが、私はどかない。

「レントがミミと話してくれないなら、どかないよ」

「今、話しているだろう」

「違いますー。ミミが望む会話は、もっと楽しいものなんですよー」

「その言い方、苛つくな」

 そう不機嫌に言う割には、レントは顔を逸らすのを止めた。

「お! ミミと話す気になった?」

「……そうでもしないと、お前は俺を足止めするのだろう」

「よく分かってるね! あと、お前じゃなくてミミだってば」

「……」

 レントは無言で、頭痛を堪えるような顔をした。

 今日のレントは、いつもより表情に出やすいようだ。何かあったのかな。

「……手短にしろ」

 どうやら、本当に会話に応じてくれる気になったみたいだ。

 最悪蹴られたりすることを想定していたので、ちょっと安心した。

 それと、レントが私と話してくれる気になったのが嬉しい。気分が上がる。

「じゃ、じゃあ。レントは何が好きなの?」

「は……?」

 呆気に取られた様子で、レントは聞き返してきた。

「だーかーらー、好きなもの!」

「何故、そんなことをお前に言わねばならない」

「ミミ! だって、相手のことを知るには、好きなもの嫌いなものを聞かなくちゃ!」

 ビシッと、右腕をレントに向ける。

「…………お前は、阿呆なのか?」

「奇跡の命に対して、酷いな!?」

 レントは再び盛大にため息をつく。相当呆れかえっているようだ。ま、負けない。

「奇跡とは、もっと尊いものの筈なのだがな」

「ミミは、尊いよ」

「……お前は、もう喋るな」

 何故だろう。レントが凄く疲れているように見える。大丈夫?

 しかし、喋るなと言われても。それでは会話が成り立たない。

 文句を言うべく口を開こうとすれば、鋭い眼光が炸裂した。

「お前と違って、俺は本当に忙しいのだ。もう邪魔をするな」

 そう冷たく言うと、レントは私の横を簡単に過ぎっていく。

「あ……っ」

 焦った私は、レントのズボンを掴んだ。レントの足が止まる。

 そして、またため息が聞こえた。

「離せ」

 明確な拒絶の言葉に、胸が鋭く痛む。

 私は力なく、ズボンから手を離した。

 やはり、ぬいぐるみの私ではレントとまともに会話することもできないのだ。

 レントのことをもっと、ちゃんと知る。

 それが今回の目的だったのに……。

 レントの足が動く。

 行ってしまう。

 そう思うと、焦燥感にかられる。

 もっと話したいのに……!

 だけど、私から離れるレントから声が降ってきた。

「……俺の好きなものは、歌だ。分かったか、ぬいぐるみ」

 ハッと、レントの方を見れば、足早に去って行く後ろ姿が見えた。

 私は、レントが見えなくなるまで呆然と見送った。

「……ぬいぐるみじゃなくて、ミミだよ」

 聞こえる筈のない訂正を口にしてみる。

 レントは、素直じゃない。

 酷いこともいっぱい言われた。

 でも、本当に優しい人なんだ。

 だってレントにとっては、私の通せんぼうも意味がなかったのに。無理やり通ろうとはしなかった。

 それに、私の言葉をちゃんと聞いてくれたし。

 名前は呼んでくれなかったけど、質問には答えてくれた。

「レントの好きなものは、歌かぁ。意外だなぁ」

 そうだ。

 エーティアに、この世界の歌を教えてもらおう。

 それで、邪険にされるかもしれないけれど、レントに披露するんだ。

 そうしたら、レントも心を開いてくれるかもしれない。

 レントは素直じゃないから、一筋縄にはいかないかもだけど。

 頑張ろう。

 頑張って、頑張って、いつか普通に話せるようになりたい。

 そして、できたらエーティアのことも認めてもらうんだ!

「よーし、頑張るぞー!」

 足取り軽く、私は勉強が終わったであろうエーティアのもとへと向かった。


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