Scene:03 狙われる姫君(4)
次の日の朝。
キャミルは再び、コンラッド中将から呼び出された。
昨日と同じく、戦艦エアリーズの会議室に入ったキャミルは、コンラッド中将と二人きりで応接セットに向かい合いながら座っていた。
「キャミル少佐。昨日はご苦労だったな」
「いえ、当然のことをしたまでです」
「それでだな、……宮殿の方から、君を和平交渉の期間中、ずっと宮殿に詰めさせて欲しいという要望があってだな」
「はあ?」
「つ、つまりだな、セルマ皇女は、命の恩人でもある君を更にお気に召したようで、君がアルダウにいる期間はずっと、自分の警護のために、近くにいてほしいとのことのようだ」
「し、しかし、アルスヴィッドの指揮も……」
「実際の話、戦闘艦を押し寄せてくるような大規模な戦闘行為は、両陣営とも採ることはないと考えておる。仮にそんなことをすると、束の間の平和を謳歌しており、和平交渉の成立を祈っている帝国市民の支持を一挙に失う事となり兼ねないからな」
「は、はあ」
「それよりも昨日のように、皇族を直に襲撃してくる危険性が具現化した今、治安維持のためには、皇族警護がより重要かつ現実的な対応だということだ」
「確かに」
「昨日、セルマ殿下を襲った連中は、反体制派の依頼を受けた殺し屋集団のようだが、反体制派の連中は知らぬ存ぜぬの一点張りだ」
「侍女の方はいかがでした?」
「あの侍女はどうやらシロのようだ。知らない間にGPS発信装置を取り付けられていたようだ」
「あの侍女がシロだとしても、宮殿の中に、あの侍女の服にGPS発信装置を取り付けた者がいるはずです。それと」
「それと?」
「暗殺者の連中は、次期皇帝でもあるセルマ殿下を狙うには、あまりにお粗末です。まるで、わざわざ捕まりに出て来たようなものです」
「それは君がいたからだろう。まさか、君ほどの剣の達人がセルマ殿下のお側にいるとは思ってもいなかったのであろう」
「いや、わ、私などは、まだまだ修行中の身でありますが」
キャミルも面と向かって褒められると照れてしまう女の子であった。
「しかし、キャミル少佐の言うことも、もっともだと思われるところもある。あの五人の暗殺者達はすんなりと『自分達は反体制派から雇われた』と白状したらしい。裏を返せば、皇位継承権者ではあるが、非戦闘員であるセルマ皇女を暗殺しようとする汚い手段を、反体制派は使っているという情報工作のようにも思える」
「はい。私もそう思いました。いくら警備が手薄になっているとはいえ、五人もの暗殺者にやすやすと離宮の庭園に侵入されてしまうのは変だと思います。近衛兵の中に手引きをした者がいたと考えるのが自然です。そして、暗殺者達が実は皇帝派の依頼を受けていたと考えると、すべての収まりが良いのです」
「確かにそうだな。……なかなか、両陣営とも予想以上に権謀術数をめぐらせているようだな」
「はい」
「ところで、話を元に戻すが、君はこれから宮殿に詰めて、セルマ殿下の護衛を引き受けてくれ」
「はい」
「実は、宮殿には既にもう一人詰めている者がいる」
「はい?」
「情報部のレンドル大佐だ」
キャミルは、事前のブリーフィングの際に見たレンドル大佐の人なつっこい笑顔を思い出した。
「レンドル大佐は、密かに皇帝派内部の情報収集をしておる。君がセルマ殿下のお側に仕えるということであれば、レンドル大佐が活動しやすいように、協力をしてもらったり、セルマ皇女に色々と口添えを頼むこともあるかも知れん。その時はよろしく頼む」
諜報活動はキャミルの得意とするところではなかったが、命令であれば仕方がなかった。
「分かりました」




