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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episodeー02 ヴァルキュリアの嘆き
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Scene:09 アルヴァック号の新入り乗組員

 アルヴァック号に戻ったシャミル達は、ニズヘッグⅦの探査を続けるため、ヘグニ制圧司令本部に直接報告に行くキャミルと別れて、ニズヘッグⅦ上空にいた。

 アルヴァック号の艦橋かんきょうスタッフは、それぞれの席に座って、シャミルが入れてくれた紅茶とビスケットでティータイムとしゃれ込んでいた。

「船長。軍の使っている宇宙服はやっぱり使い心地が良かったな。確か軍専用の奴を一般用にグレードダウンした奴も売り出していたはずだ。うちもそれに変えないか? 今、使っている奴はもこもこしてて動きづらいしなあ」

「そうですね。予算があればですけどね」

 カーラがティーカップを持って、シャミルの席に近づきながら言ったが、シャミルの反応は相変わらずだった。

「はあ~。船長が商人達との駆け引きでほいほいと値引きしたりするから、いつまで経っても、うちらは貧乏探検家なんだよ」

「良いじゃないですか。それでお仕事が切れ目なくもらえるのですから」

「本当に船長は欲が無いねえ。……ところで」

 カーラは、自分の席に座っているサーニャのローブのお腹の部分がぽっこりと出ていることに気がついた。

「おい、サーニャ! 何かお腹が出てないか?」

「もうすぐ生まれるにゃあ。カーラの子だにゃあ」

 サーニャがいとおしそうに自分のお腹をさすりながら言った。

「馬鹿野郎! 変な誤解受けるようなこと言うな!」

 カーラがサーニャの頭を小突こづくと、サーニャのローブの中からヘグニ族の卵が転がり出て来た。

「お前! 何を持って来ているんだ!」

「サーニャ、どうして、こんな物を持ってきたのですか?」

 サーニャは困ったような顔をしながら答えた。

「何かコロコロと転がって、ウチの後をついて来て、ウチに連れて行ってくれって言っているように思えたのにゃあ」

「そんな訳ないだろう。こいつはヘグニ族なんだぞ。アタイ達とはコミュニケーションを取ることができない種族なんだ。きっと、サーニャの思い過ごしだよ。まだ、玩具おもちゃが欲しい年頃なのかい、お前は?」

「ウ、ウチは子供じゃないにゃあ!」

「でも、サーニャ。この卵の中にいる赤ん坊は、私達と一緒に暮らすことはできませんよ。意思疎通ができないこともそうですけど、そもそも私達の生活空間では呼吸すらできないのですから」

「わ、分かっているにゃあ。でも、置いてくることはできなかったんだにゃあ」

 その時、卵が小刻みに震えたかと思うと、からにひびが入った。

「う、生まれるよ。どうする、船長?」

「どうしようもありません。生まれた瞬間に死んでしまうでしょう。ニズヘッグⅦで死なずに、ここで死んでしまうだけです。みんなで冥福めいふくを祈りましょう」

 シャミル達が胸の前で手を組みながら見ているうちに、卵が割れて、小さなトカゲの赤ちゃんが出て来た。赤ちゃんは大きく口を開けて、欠伸あくびをしたかと思うと、器用に座りながら、あたりを見渡すように首を回しながら、大きな目を見開いた。そして可愛い声で鳴いた。

「ピキー!」

 シャミル達は目を点にして見つめているだけだった。

「し、死なないよ、船長」

「ちゃんと息をしてるにゃあ」

「どうして? ……それに良く見てみれば、なんとなく顔つきも違うような気がしますね」

 確かに、ニズヘッグⅦで見たヘグニ族の赤ん坊達とは体型も顔つきも違っていた。二頭身に近いほど大きな頭に、愛嬌あいきょうのある大きなくりくりとした目、まるでぬいぐるみの恐竜のような格好で、ちょこんと床に座っていた。

「ピキー!」

「お腹が減ったって言ってるにゃあ」

「えっ、……この子が言っていることが分かるのですか、サーニャ?」

「分かるにゃあ! 船長には分からないかにゃあ?」

 シャミルとカーラには、ただの鳴き声にしか聞こえなかったが、サーニャには、このトカゲの赤ん坊の意思がちゃんと伝わってきたようだ。

「でも、船長。これってどういうことなんだい?」

「分かりません。考えられることは、突然変異かもしれないってことくらいです」

「しかし、えら呼吸をしていた魚の子供が、いきなりほ乳類になるようなもんだよ。そんな突然変異ってあるのかい?」

「信じられないけど、実際に目の前にいますからね。別の種族になっているような感じですね」

「ピキー!」

「お腹が減ったって言ってるにゃあ!」

「一回言えば分かるよ! でも、ヘグニ族はヘグニ族を食べているんだろう? えさになるものが無いじゃないか」

 カーラがそう言っている間に、サーニャが食べかけのビスケットを一つあげると、トカゲの子供は、両方の前足で器用にビスケットをつかんで美味おいしそうにムシャムシャと食べてしまった。

「お菓子が好きみたいだにゃあ」

「えっ!」

 赤ん坊は、あっという間にビスケットを一枚平らげると、催促さいそくするようにサーニャの方に手を伸ばした。

「ピキー!」

「もっとくれって言っているにゃあ」

「腹が減ってて、お菓子でも何でも食べているんじゃないだろうな?」

 カーラが頼んで、厨房ちゅうぼうスタッフが冷蔵庫から生鶏肉を持って来た。サーニャがそれを赤ん坊トカゲの鼻先に持って行っても、赤ん坊トカゲは顔をそむけてしまうだけで、ビスケットを鼻先に持って行くと、喜んで食べるのだった。

「この子は、ウチが飼うにゃあ。ウチのペットにするにゃあ」

「お前なあ、突然変異とは言え、ヘグニ族の生き残りだぞ。大きくなったら、アタイ達を襲ってくるかもしれないんだぞ。そんな危険なペットが飼えるか!」

「船長~。ウチがちゃんとお世話をするにゃあ。だから飼っても良いにゃあ?」

 シャミルはちょっと困った顔をしたが、すぐに笑顔になってサーニャに言った。

「仕方ありませんね。だって、その子は独りぼっちなんですものね。サーニャがお母さん代わりになってください」

「えっ! じゃあ良いのにゃあ?」

「ええ」

「船長ぉ! ありがとうにゃあ! だから船長は大好きなんだにゃあ!」

「船長、良いのかい?」

「ええ、その代わり、将来、私達に危害を加えるような存在になったとしたら、……その時は分かっていますね、サーニャ?」

「わ、分かっているにゃあ」

「ピキーッ!」

 シャミルが許してくれたのが、赤ん坊にも分かったのか、赤ん坊はシャミルを見ながら鳴いた。シャミルも、その顔が笑っているように見えた。

「この子の名前は『ピキ』だにゃあ!」

「ピキちゃんですか。可愛い名前ですね」

「トイレのしつけもちゃんとさせとけよ! サーニャ!」


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