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リンドブルム☆アイズ  作者: 粟吹一夢
Episodeー02 ヴァルキュリアの嘆き
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Scene:10 イリアスの墓前にて(1)

 シャミルと副官達は、ファサド商会の会議室にいた。

 ちょっと申し訳なさそうな顔をしたシャミルの対面(たいめん)には、意気消沈(いきしょうちん)しているハシムがいた。

「残念ながら、ニズヘッグⅦの二百箇所(かしょ)を越える地点で鉱物探査をしましたが、オレイハルコン鉱脈らしきデータはまったく確認できませんでした」

「……そうか」

「しかし、ニズヘッグⅦにオレイハルコン鉱脈があるんじゃないかってガセネタは、どこから仕入れたんだい?」

 シャミルの申し訳ない表情を台無しにするカーラだった。

「いや、だから、それは明らかにすることはできない」

「変な所で律儀(りちぎ)だねえ。でも、まあ、これで分かっただろう。世の中、そんなに甘くないってな」

「ああ、今まで順調に業績を伸ばしてきて、俺もちょっと有頂天(うちょうてん)になってたようだ。自分の直感は絶対に正しいってな。カーラの言うとおりだ。もう一度、地道(じみち)に商売を進めるよ」

「ハシム殿。そうやって、すぐに自らの過ちを認めることはなかなかできるものではないと思います。さすが、ハシム殿ですね」

「はははは。シャミルにそうやって褒(ほ)めてもらうと傷も癒(い)えるというものだ。ありがとうな、シャミル」

「いえ。……あっ、それとご依頼内容にはありませんでしたが、ついでに調査した事項もあります。結果をお聞きになりますか?」

「ああ、そうだな。まあ、聞いておくか」

「ニズヘッグⅦには、残念ながらオレイハルコン鉱脈はまったく存在していませんでしたが……」

「そんなに何回もとどめを刺すように言わなくても」

「推定埋蔵量千トンの金鉱脈と思われる分析結果が出た地域がありました」

「そうか、……金か。はははは。…………オレイハルコンじゃなくちゃ、………………なにい! 金! 金鉱脈! 推定埋蔵量千トン!」

「はい。もっとも地上からの分析結果ですから、埋蔵量の誤差はプラスマイナス50%はあると考えてください」

「いや、それでも少なく見積もっても五百トンの金! マジか! 惑星探査の費用を差し引いても、何十倍のお釣りが来る勘定(かんじょう)だ!」

 ハシムの殊勝(しゅしょう)な顔つきは、あっという間に消え、一山(ひとやま)当てたギャンブラーの顔に戻っていた。

「やっぱり、シャミルは、俺の幸福の女神だ! シャミルに探査を依頼して外れることなんて考えられないぜ!」

「ハシム殿。今回はたまたま運が良かっただけだと思います。ハシム殿の商売の仕方に私が口を差し挟むべきではないと思いますが、ギャンブルに打って出るのも、八割くらいの勝率があってこそではないでしょうか?」

「シャミルが、そんなしっかりとした考え方を持っているとは、ちょっと意外だったな。ぜひ俺の側(そば)にいて、いつでもアドバイスをして欲しいものだ」

「お呼びが掛かれば、いつでも参ります」

「そんな寂(さび)しいことを言うなよ。この建物の中にシャミルの部屋を早速(さっそく)作ってやるぜ」

「きっと私は、椅子に座る仕事をしてたら、すぐ居眠りしちゃいそうです」

「それなら、ベッド付きの部屋にすれば大丈夫だろう」

「うふふふふ」

 シャミルが他人事のように笑い転げていると、シャミルが腕に付けている多機能端末から着信音が響いてきた。

「あっ、申し訳ありません」

「いやいや。ビジネスチャンスを逃すなよ、シャミル」

「いえ、キャミルからです」

「キャミルから? ああ、どうぞ。秘密の話じゃなかったら、そのまま話してもらって良いぜ」

「すみません」

 シャミルはハシムに断ると、端末を通話状態にした。

「シャミル? キャミルだ。イリアスの宇宙港にアルヴァック号が係留(けいりゅう)されているのを見つけたから、ひょっとしたらイリアスにいるのではないか?」

「ええ、今、ハシム殿の商会にいます」

「ああ、すまない。ビジネス中か?」

 横からハシムが話し掛けた。

「ビジネスの話はもう終わったから、気にせずにシャミルと話してくれ、キャミル」

「ハシムか? すまない」

「ということは、キャミルもイリアスに来ているのですね?」

「ああ、今、着いたところだ」

「お仕事ですか?」

「いや、今日は休暇だ。母親の墓参りをしようと思ってな」

「お母上の……。キャミル、私も一緒にお参(まい)りさせていただいて良いですか?」

「それは構わんが……」

「それなら俺がシャミルを案内してやるぜ。俺も久しぶりにキャミルのお袋さんの墓参(はかまい)りをさせてもらうよ」

「ハシム。……ありがとう。では、お願いしても良いか?」

「まかしときな。三十分もあれば行ける」

「分かった。では墓地で待っている」

 シャミルと二人の副官は、ハシムが運転するエアカーに乗って、ムスペルの郊外にある霊園に行った。

 芝生に覆(おお)われた広大な土地に、見渡す限り様々(さまざま)な形の墓石が並んでおり、広い通路をエアカーでそのまま目的の墓地の近くまで行けるようになっていた。

 ハシムは、園内にいくつかある駐車場にエアカーを停めた。駐車場には、おそらくキャミルが乗ってきたと思われる小型のレンタル・エアカーが駐車していた。

 シャミルと二人の副官がエアカーから降りると、夕焼け時であったが、厚い雲がそれを隠しており、やや薄暗い空が広がっていた。

 駐車場から一分ほど歩くと、上が丸くなった四角柱の墓石の前で一人、佇(たたず)んでいるキャミルが見えてきた。シャミル達が近づいて行くと、ノーネクタイの白いシャツの上に、黒のスーツというシックな装(よそお)いのキャミルも気がついて、シャミル達に笑顔を向けた。

 墓石の前には、赤いバラの花束が置かれていた。

「みんな、ありがとう。母親も喜んでくれているだろう」

「俺の方こそ、こんなに近くにいて、滅多(めった)に来られなくて、すまない」

 ハシムはキャミルに少し頭を下げたが、キャミルは微笑みながら、無言で首を振っただけだった。

「それじゃ、キャミル。お参(まい)りをさせてください」

「どうぞ」

 少し横に寄ったキャミルの代わりに墓前に進み出たシャミル達は、墓の前で揃(そろ)って頭を下げた。

 キャミルは、サーニャの後ろに犬のように座って、シャミル達と同じように頭を下げているピキに気がついた。

「シャミル! その生き物は? まさかヘグニの子供では?」

「ヘグニ族の子供に見えますか?」

「……いや、全然違うな。こんな愛嬌(あいきょう)のある顔はしていなかった。こいつは?」

「ヘグニ族の子供ですよ」

「えっ?」

「でも、もうヘグニ族じゃないみたいなんです。だって、私達と同じ空気を吸って生きていて、サーニャとは意思伝達ができるんですから」

「それでは、こいつは一体?」

「分かりません。でも、今は、アルヴァック号の乗組員の一人です」

「ピキー!」

 自己紹介よろしくピキがキャミルに向かって鳴くと、思わずキャミルも笑ってしまった。

「アルヴァック号の艦橋(かんきょう)は、ますます賑(にぎ)やかになっているみたいだな」

「はい」

 微笑みながら答えたシャミルは、しばらく、誰もいない霊園を見渡してから、キャミルに訊いた。

「……ところでキャミルは、どうして今日、お墓参(はかまい)りを?」

 シャミルは、墓に刻まれたキャミルの母親の命日が今日ではないことを確認していた。

「この場所は、私が自分を見つめ直すことができる場所なんだ。母親と話しているような気がしてきてな」

 キャミルは少しうつむき気味に墓石の周(まわ)りを一回りしながら呟(つぶ)いた。そして、シャミルの顔を見つめながら話を続けた。

「私も今回のことで色々と考えさせられた。シャミルに偉(えら)そうなことを言っていたが、私自身だって、戦争とは何かということを全然分かっていなかったのではないかってね。……私は、これまで自分が信じる道を突き進んできた。でも、それが巧(うま)く回ってきたのは、たまたま運が良かっただけだったんだと分かった。私には沢山(たくさん)の部下がいて、その命を預かっている。自分の命だけであれば、まったく惜(お)しくはないが、私は知らず知らず、部下の命も粗末に扱ってきたのではないかと、呵責(かしゃく)の念に苛(さい)まれていたところだ」

「そうですか。……でも、キャミル。もう、あなた一人の命ではありません。私がいます。あなたも命を粗末にしないでください」

「……シャミル」

「キャミル。俺だってそうだぜ。俺より年下なんだから、俺より先に行くなよ」

「ふふふ。何だか、自分の奥様に言っているみたいですね」

「お、おいおい。俺の嫁はシャミルだけだぜ」

「結婚をした覚えはないのですが」

「俺の心の中では、既に甘い新婚生活を送っているぜ」

「ハシム! 自分の妄想の中に勝手にシャミルを登場させるな!」

 何故だかシャミルではなく、キャミルがハシムに怒った。

「良いじゃないかよ。俺がどんな妄想しようと」

「いや、アタイも許さないよ」

「ウチもにゃあ」

「お前ら、どんだけシャミルのことが好きなんだよ」

「少なくともお前以上だ!」

 そう言ったキャミルに、カーラとサーニャもうなづいた。

「それはそうと、ヘグニ戦線はあの後、どうなったのですか?」

 ニズヘッグⅦで別れてから、その後の顛末(てんまつ)を訊いていなかったシャミルが尋ねた。

「話せることと話せないことがあるが、簡単に説明しよう」


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