1.
また連載始めます。
珍しくポンポンとアイデアが浮かんだので覚えているうちに!
「僕はむかし…本当に小さい頃の事なんだが、妖精を見たことがあるんだ。」
出た。
ズワルト侯爵家の嫡男、エンリケ様の妖精話。
エンリケ様はもう間も無く成人を迎える。適齢期の由緒正しい侯爵家の嫡男であるにも関わらず、未だに婚姻どころか婚約者も定めていらっしゃらない。
それはひとえに…
「ふわふわの、お日様みたいな色の髪の毛はくるくるとしていてね、透き通るような真っ白い肌に海の底を覗き込んだような深い深い青色の眼をしていたんだ。」
まるで目の前にその妖精がいるかのように話す姿は。
(本当。評判通り何かに取り憑かれているようね。)
いまだその妖精を探し求めていているという。
(フフッ、嗤っちゃうわ。侯爵家の嫡男がこんな世迷言で周囲を惑わせているなんて。)
父親である侯爵もまたそれを認めている。気が済むまで探せば良い、と。
母親は確かその妖精を見たのと同じくらいの時期に亡くしているはずだ。
母親を亡くしたという現実から逃げるために妖精に入れ込んでしまったというなら、それはそれで哀れな話だけれど。
そんな経緯で侯爵家の嫡男は夢見がちなウツケモノだと、社交界ではもっぱらの評判で。ならば…と自分の娘を妖精らしく振る舞わせて夫人の座に滑り込ませようという輩は昔から掃いて捨てるほどいたらしい。
だって、妖精なんて!たまたま幼少期に見かけた美しい子供の見間違いでしょう?
だから、それらしき年齢のご令嬢で癖のある金髪、深い青の眼の令嬢…わたくしだって、見た目の条件なら当てはまっているわ。とにかく似た容姿のご令嬢は見初められるべく一度はエンリケ様との茶会にチャレンジしていた。
ところで妖精って本当にいると思う?
え?おとぎ話に決まっている?
いいえ、それがそうでもないの。
「お父さま?お呼びになりましたか?」
「ああ。お前の作戦勝ちだ。全く大したものだよ、あの男を手玉に取るとは。」
※※※
そういえばわたくしの自己紹介がまだでしたわね。
わたくしはエーティリア・エカルラットというの。伯爵家の令嬢よ。
この歳まで何不自由なく、一度も否定される事もなく生きてきたわ。
欲しいものだって!一度も諦めたことがないわ!
「おとうさま!あのようせいがほしいわ!」
そう。わたくしもまた妖精を見たことがある。
ただしわたくしの妖精はすでに大人の姿をしていた。
だからエンリケ様の言う妖精とは別物ね。
そしてエンリケ様と違い、わたくしはその頃から自分の欲しいものは何をしてでも手に入れてきた。
…そう。我が家には妖精がいる。
わたくしが欲しいと言ったから、父はたくさんの兵を使って捕らえたわ。
そしてその後は。
「お嬢様!」
礼をする見張りに軽く頷く。
四方をガラスで作られた部屋。ううん、あまりにも綺麗だから普段は意識しないけど、あれは檻よ。
妖精を逃さないように。でも、わたくしの気が向いた時に快適に覗けるように。
堅牢で逃げ出す心配のない、見た目も美しい檻の中に捕らえている。
見張りの兵は5人。彼らが昼夜なく交代で番をしている。
5人では少なくないか?そうね、彼らにとっては負担が大きいかもね。
でもその分見返りは大きいわ。
ここで見たものを外に絶対に洩らさない、そう誓約させてはいるけれど、人数が増えれば増えるだけ洩れる確率は上がるから。少ない人数に高給を払っているの。
家族が不治の病だったり大怪我をして働けなかったり。他には犯罪を犯した過去のせいでどこも雇ってくれない者にだって、破格の給料が支払われる貴重な仕事だわ。
この仕事を逃せない理由のある者は、いなくはないけれどとても少ないの。
だからwin-winね。彼らにとっては得難い仕事、わたくし達にとっては口の固い信頼できる使用人。
とにかくそのくらい慎重に慎重に。我が家が妖精を捕らえている事が洩れないように隠してきた。
妖精はいつも、わたくしがやって来ても我関せずとばかりに歌を歌っていた。
聞いたこともない言葉で、独特の節回しで。
我が家に捕らえられてからもう10年以上経つと言うのに未だにわたくしの言うことを聞く気配がなかった。
昨年は何度話しかけても無視をして歌っているから4枚ある羽を1枚毟り取ってやったわ!
何故1枚で許してやったのか、ですって?
だって全部毟ってしまったら。
また毟られるかもしれない
という恐怖を味合わせられないでしょう?
言うことを聞かない者を従わせるにはね、また何かを失くすかもしれない、っていう恐怖がいちばん効き目があるの。
1枚羽を毟り取った事で妖精は飛べなくなった。自由に飛べないんだもの、歌を歌うくらいは許してやっているの。
その日もわたくしが近づいて来るまでは歌っていたわ。けれどわたくしを見た途端、歌うのをやめて逃げ出そうとした。
「今日は貴方に聞きたいことがあってきたの。何もしないから安心しなさい。」
わたくしはにっこり笑って、いつもの歌を歌うように命令した。
「そこ!今のところからもう一度歌いなさい。」
同じフレーズを繰り返し繰り返し歌わせる。
この妖精は人の言葉を理解しているのか。話しかけても首を傾げるばかりで答えることはない。だが今みたいにこちらが命令すると従う。
まあ、わたくしの命令通りに動くならそれでいいわ。
その日、わたくしは飽きもせず同じフレーズを何回も繰り返させた。
ある目的のために。
全5話です。
もうちょっと推敲してから次々と投稿しちゃいます!




