『世界』へ……。
──夢葉視点──
「そうじゃ……。ひとつ、言い忘れておった。その世界にはな、『封印』術を得意とした浄霊師たちが封印した『霊』たちが、わんさかおるでの……。心して掛かるように……」
お爺ちゃんの声が、聴こえる──
白い世界……『巨大画面』の中のメインメニュー画面。
『始まりの世界』──
黒音は、楓となら何処でも良いみたいだけど……。
楓は、やっぱりちょっとビビッてるようだ。
私が、闘気を少し視せただけで、楓は尻込みしてる。
こんなで、大丈夫かな?
(10日しか無いのに……)
私には、焦りに似たような気持ちが、ある。
時間を無駄にしたくない。
何処でも良いから、早く闘いたかった。
「戦略」よりも、戦闘回数じゃないのかなって、想う。
戦闘回数をこなして闘って行けば、分かるコトだってある。
たぶん、この世界に放たれた『霊』は、成仏浄霊させ切れなかったクセのある『霊』たち。
加えて、現実世界に、そのまま野放しに出来ないタチの悪い悪質な『霊』。
そう言ってしまうのも、可哀想な気もするけど……。
私は──
とにかく場数を踏んで慣れていくコトが大事だと想う。
私たちに足りないモノ──それは、圧倒的に『経験値』だ。
吸血鬼なピピ郎が、何か言おうとしてるみたいだけど……。
気にしてる場合じゃない。
「強いヤツの居るところへ……!!」
私は、その場の空気を壊すようにして叫んだ。
これには、楓も黒音もピピ郎も、みんな一斉に私の方へと振り向き、目を丸くして驚いていた。
(承知しました──それでは最も『霊気』の強い場所にご案内致します……)
『巨大画面』の中の機械みたいな声が、メインメニュー画面である『始まりの世界』──この白い世界に響いた。
(ギュオオォォン……)
ある一つの切り取られた写真みたいな四角い世界が、私たちの目の前に近づいて来た。
「ぐぉっ!?」
「ひゃっ!?」
「ムフフフ……」
楓と黒音が、突然目の前に迫り来る『世界』に吸い込まれるようにして、驚きの声を上げた。
ピピ郎には、余裕があるようだ。
私たちより、レベルが高いのかな……。
「うっ……!!」
私だって、流石に一瞬目を閉じてしまい、声が出た。
『世界』に吸い込まれて突然、──空の上のような場所へと放り出された。
「ウオオォォッ……!!」
私たちは空から落下しながら、楓だけが大絶叫している。
それは、そうだ。
楓は、死んだコトが無い。
『霊』になった私と黒音とピピ郎には『死の体験』が、ある。
よくは、覚えていないけど、魂が身体から抜け出る感覚は──この『世界』と切り離されてしまったような寂しさがある……。
目の前に見える『世界』には触れるコトさえ出来ずに、浮遊し彷徨う私たち。
『霊』な存在。
私は、特異な能力で、少しだけ触れるコトが、出来るけれども……。
「楓!! 落ち着いて!! 楓も今は『魂』だけの状態だから、大丈夫だよ!! 落ちても死なない!!」
「ウオオォォッ……!!」
ダメだ……。聴こえて無い。
楓の耳には届かない。
『死』の恐怖で、楓は失神しそうになってる……。
『魂』は、個人の想いを反映する。
つまり、楓が「空から落ちている」と認識すれば、魂の状態が反映され、落ち続ける。
私と黒音とピピ郎は、楓とは違って、楓に合わせて飛んでいる──落下している感じ。
私たちは、既に『魂』だけの状態になってて、『死なない』コトを知ってるから。
「────」
既に、楓は、失神して……コト切れているようだ。
けど、楓は、死んではいないんだけれども……。
(ダン……!!)
(フワ……)
地面ような場所に打ちつけられたように、楓の身体? 魂となった楓の『幽体』が、のびている。
けど、楓の見た目は、傷ひとつ付いて無いんだけれども……。
私と黒音とピピ郎は、楓とは違って、「フワッ……」と、華麗に着地した。
着地と同時に、私たちの足もとから、空白の『世界』が『色づき』始める……。
「んー……。のびてるねー。楓くん。大丈夫かな……? いつ、目覚めるんだろ?」
「フフフ……。我が主、楓くんのコト。その内、必ずや目覚めますとも」
楓が目覚めるまでの時間を、少しだけ待つ私と黒音とピピ郎……。
ちなみに楓は、お爺ちゃんの留守中の代理で、お寺の仕事をスーツ姿でこなしてたから、そのまんまスーツ姿。
私と黒音も、秘書課主任秘書として仕事してたから、そのまんまスーツ姿。いつものタイトなスタイル。
ピチピチしてて、動きづらいから、別の格好イメージして服装変化しても良いんだけど。
ま、それも、イメージか……。
動きづらさも、ただのイメージってだけで。
吸血鬼なピピ郎は、黒ズボンに大きく胸の開いた白カッターシャツ。
いかにもって感じで、赤い薔薇が似合いそうだ。
風に靡く金色の長い髪をピピ郎が、掻き上げている。
黒音は、何処から出したのか、右手にコスメなメイク道具を持ち、コンパクトの鏡を見ている。
「黒音? それ、何処から出したの?」
「あ、コレ? んー……? なんか、勝手に出た」
どう言うコトだろう?
現実世界じゃ、そんなの勝手に出て来なかったのに?
どうゆうコト?
「フフフ……。ここ、『巨大画面』の中では、現実世界とは違って、イメージ化したモノが出せるようですねー……。フフフ。ただし、具現化出来るのは、あくまでも愛着のあるモノに限られているようですが」
ピピ郎が、私にそう言うと……。
ピピ郎の左手から絵筆が出た。
「ま、画材道具は、戦闘には役に立たないですがね? ムフフ……」
とか言いながら、「サラサラ」とピピ郎が、絵筆で魔方陣のようなモノを楓に向けて描く。
「少々、お時間が押してますので、そろそろ楓くんには目覚めてもらいましょう……」
ピピ郎が、絵筆で魔方陣のようなモノを描き終える。
「あ、それ。私も、やりたかったヤツ? ピピ郎と私って、職業? かぶってるよねー。おんなじ、魔導師なのかな?」
そうだ……。
この世界は、『巨大画面』の中で。
『職業』ってのが、存在してる。
私は、『戦士』? だったっけ?
「黒音さんは、魔導師の中でも、詠唱士ですよ。言の葉に想いをのせて術を発動させますから。レベルやランクが上がれば、さまざまなコトが出来ますよ? 召喚とか? ムフフ……。お好きでしょ?」
ピピ郎が「ニヤリ」と笑うと、黒音も満更でも無い様子で、妖しい瞳を「キラリ」と光らせて微笑む……。
「じゃあ、ピピ郎? アンタは、何なの?」
黒音が、ピピ郎に聴き返す。
「フフフ……。私は、芸術家ですよ? あくまでも。光と闇の幻術師とでも今は言っておきましょうかね?」




