浄霊指令(ミッション)……。
「では、ワシらからの依頼じゃが……」
会長が、早朝から俺と夢葉、黒音ちゃんを叩き起こし、だだっ広い寺の本堂に座布団を敷いて座らせる。
欠伸の止まらない黒音ちゃん。
まだ半分寝ている夢葉。
いや、アレになっても寝るのかっ!?
と、想いつつも危うく二日酔いになりかけた頭を抱えつつ、どうにも寝苦しかった昨日の夜のことを想い出す俺。
そう。
あの後、何だかんだで、布団を敷いて三人で寝た。
いや、寝たと言っても三人「川の字」になって普通に寝ただけである。
アレな夢葉と黒音ちゃんだが、結婚云々の話をしながらも、二人で俺の身体を媒介して、俺の魂との結びつきをナントカカントカって話をしていた。
要するに、夢葉も黒音ちゃんと同じように、俺の身体の中に存在したいらしい。
有り難いことだ。
ここまで、誰かに切に必要とされたことのなかった俺。
しかしながら、二人は疲れたのか、いつの間にか俺よりも先に、無防備な姿で寝始めたのである。
アレなのに。
予想どおり、アレな夢葉と黒音ちゃんの「たゆんたゆん」が、俺の目の前に晒されることになる。
眠れるワケが無い。
と言うワケで、俺は二日酔いよりも夢葉と黒音ちゃんの「たゆんたゆん」を見続けた睡眠不足のせいで、会長の話を半分も聴けていなかった。
「喝っ!!」
会長の『喝』の声が、だだっ広い寺の本堂にビリビリと震える。
さしもの黒音ちゃんも夢葉も、一瞬、目が覚めたように背筋が伸びる。
俺は、会長の『喝』のせいで、心拍数が上がり目眩を起こしそうになる。
もともと不整脈なんだ。俺は。
アレを浄化する前に、俺がアレになったら、どうしてくれるんだ?
「──ゴホンっ!! もう一度、話すがの……」
やっぱり、会長は一度、俺、夢葉、黒音ちゃんに一通りの説明をしていたようだ。
改めて聴く。
最初の『浄霊指令』について──
「ワシらの棲む山の裏手には高速道路があっての? 高速バスが走っておるのじゃが、前々からネットで「バス停でアレを見た」と言う噂が広まっておるのじゃ。んで、肝試しに行った連中の中には身体の具合を悪くする者が多くあっての。まあ、当たり前の話なのじゃが……」
会長の話では、高速道路のバス停の上り方面によくアレが現れるという。
にしても、会長がネットって。
いや。
ロープレ好きの会長なら、オンラインで毎日のようにプレイしまくっているに違いない。
とは言え、アレな存在は、どうも母親と小さな女の子らしい。
昼間は姿を見せず、日没後に姿を見せると言う。
高速道路のバス停のすぐ下には公衆トイレがあり、共用スペースでもある車椅子用の個室トイレでの目撃例があるようだ。
それと、バス停の真下にある高架下のトンネルの中では、丑三刻になると、少女の泣く声を耳にした者が多数いるという。
「と言うワケでじゃな。日本高速道路サービス株式会社から直接、ワシらに依頼があっての。真夜中の高速道路バスストップでの肝試しは危険じゃから、高速道路サービス会社からも強く警告しておるのじゃが、どうもアレな者たちが生きておる者たちを呼び寄せておるような気がするのじゃよ。そこでじゃ。有事となる前に、楓くん、夢葉、黒音ちゃんに、調査を頼みたいのじゃ」
会長の話では『浄霊指令』を、もっとも身近なところから開始させ、近隣を守りつつ『レベル』を少しずつ上げていって欲しいとのことなんだが……。
なんで、ロープレなんだ?
会長の趣味だからなのか?
趣味と言えば、会長は、夢葉のことを『戦士』と言い、仏具を武器として扱えるとも言っていた。
素手でも闘えるとか?
ともかく、俺、夢葉、黒音ちゃんは、夜になるまでの昼間の内に、初めての『浄霊指令』を遂行すべく準備を整える。
ん?
夢葉には、戦士としての力。
黒音ちゃんには、魔導師としての魔力。
俺には?
何も無い……。
夢葉と黒音ちゃんの「たゆんたゆん」を堪能しながら、『法力』でも高めよと言うのか?
俺は、お経とか、そう言った類のことを一切、知らない。
不安になり、ガクガクと震える俺の胸の内を他所に、夢葉と黒音ちゃんが「たゆたゆ」胸を震わせて目を輝かせている。
「大丈夫だよ? 楓くん。私が、いつでも楓くんの中にいるから。安心して?」
「私は、楓の勇気あるとこ見てみたいなー。ま、そんなにビビんなくても、大丈夫だよ?」
心強い二人。
夢葉と黒音ちゃんに、後押しされる俺。
さしずめ、俺たちも『肝試し』的なノリになっているような気もするが、良いのだろうか?
まずは、夢葉と黒音ちゃんの「たゆんたゆん」な胸を拝ませて欲しい。
「南無三……」
俺は、首をかしげる夢葉と黒音ちゃんの「たゆんたゆん」を前に、手を合わせる……。




