結成……。
「と言う訳でじゃな。早速、動いてもらえんかの? 楓くん。そうそう。今日から楓くんに夢葉、黒音ちゃんもこの寺に住むが良い。幸い、空き部屋がたくさんある」
さっきから、俺と夢葉、黒音ちゃんの三人は、寺の奥にある本堂の床に座布団を敷き、正座して話を聴いている。
ストーブが焚かれているが、寺の本堂は広く、寒い……。
俺の足が、そろそろ痺れてきた……。
会長にして住職である夢葉の祖父さんと、夢葉が「お爺ちゃん」と呼んでいたアレな夢葉の曾祖父さん。
二人が、寺の本尊である毘盧遮那仏を背にして話を続ける。
小さなアレな夢葉の曾祖父さんが、薄ボンヤリふわふわと後光を放ちながら宙に浮いている。
俺と夢葉、黒音ちゃんの目の前で。
話を遡ると、会長とアレな曾祖父さんの話は、以下になる。
「かねてからのワシらの悲願。未浄化の呪霊を浄化させる。これらは、世界各国至るところにおっての? 世に人災天災を装いて厄災を招く。つまり、それらアレな負のエネルギーが何時までもこの世に留まり、不吉な事象を数多もたらしておる。ワシらも私財を投げ打つ覚悟じゃが、なかなか祓える者が、おらんくての? 呼びかけても我が身の命惜しさに誰も成り手がおらん。ワシらのように有志やボランティアで行う少数派もおるが、てんでバラバラ。横の繋がり、連携が取れておらん。そこでじゃ……」
嫌な予感が、した。
この話の流れで行くと、絶対に俺は断れない。
『叶グループ』の社員でもある俺は、会長直々の会社指示をまるっとそのまま、まるまる飲み込むよりほか仕方がないのだろう。
戸惑う俺の思考の中に、線香の香りが漂う……。
お香の良い香りが俺の鼻をくすぐる…。
「お茶とお菓子をどうぞー……」
夢葉のお母さんが、俺、夢葉、黒音ちゃん三人の分をそれぞれの前に置いてくれた。
「ど、どうも。ありがとうございます……。いただきます」
俺は、手を合わせ、お茶と和菓子をいただく。
夢葉は、例によって湯呑みを持ち、舌先を「チロチロ」させている。
熱かったのか「熱っ!」と、そのまま舌先を出している夢葉。
黒音ちゃんは、先程の一連の出来事で疲れたのか、会長と曾祖父さんの二人を目の前にして、コックリコックリ船を漕ぎながら正座したまま眠っている。
「あ、ちなみにじゃな。今のお主らは、レベル『1』じゃな。ワシ、こう見えても所謂ロールプレイングゲームが、好きなんじゃ!」
ん……?
何の話かと想う。
寺の住職にして会長が、ロープレ好き?
レベル『1』とは、何のことだ?
「夢葉は戦士。素手でも仏具持ちでも闘える。黒音ちゃんは魔導師。さきほどの霊力はまさに魔力!しかし自在には使えんはずじゃ。そして、楓くん。君は言わずもがな勇者じゃ!」
え?
俺が?
この歳で?
悪くない……。
俺の厨二心が疼く……。
何の話かと想うが、会長が言うには、こうだ。
「これで、楓くん、夢葉、黒音ちゃん三人パーティーじゃ! 結成を祝して今宵は飲もうぞ!! 乾杯じゃ!! と言う訳でじゃな。明日からは、楓くんのこの寺への引っ越しを進めつつ、ワシらの『浄霊指令』をこなしつつ少しずつ『レベル上げ』をして欲しいっ!! 頼んだぞっ!!」
つまりは、異世界でいうところの王様が、会長と曾祖父さん。
俺、夢葉、黒音ちゃんが、冒険の主人公。つまりは、冒険者だ。
しかしながら、この日本や世界各国にも会長が言ってた有志やボランティアを名乗る浄霊師たちが、他にも存在するわけだ。
何やら、話が、大きくなって来た。
とは言え、ここは現実世界。
さっきの黒音ちゃんの霊力には驚いたが、この先、この世のモノとは思えないアレな者たちと対峙しないとイケないわけだ。
俺は不安になる。
けれども、何も無かった俺の人生に、ようやく花を添えることが出来る。
いや、まだ生きてるんだし、とにかく引き受けよう。
会長からの依頼を。
少しばかり、胸が躍る。
「さ、そうと決まれば、準備しなきゃねー。お昼、食べてってね?」
時折、こちらにやって来ては、俺たちの話を聴いていた夢葉のお母さん。
「はい。よろしくお願い致します……」
俺は、痺れた足を庇いながらも、正座したまま頭を下げる。
夢葉のお母さん、会長、アレな小さな曾祖父さんに。
俺たちのアレなモノたちと対峙する冒険が、明日から始まる。
俺は、両隣に座る夢葉と黒音ちゃんの「たゆんたゆん」を、この目にしかと焼き付けた。