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86話 横やり

 銀の光を纏ったラグナは倒れていた死体や戦闘の痕跡を辿りながらブレイディアを追いアルロン跡地にまでやってきていた。


(……まさかこんな形でここに来ることになるとは思わなかったな。ここが俺と先生の生まれた場所……いや、今は感傷に浸ってる場合じゃないか)


 気持ちを切り替えたラグナがさらに速度を上げて走っていると、ボロボロの軍服を着た集団の姿を見つける。そしてその負傷した集団の先頭にいた男性の顔を見た瞬間、思わず声をあげてしまった。


「ジャックさんッ……!」


 ラグナが駆けよると、ジャックは驚き目を剥いた。


「ラグナ……そうか……お前が向かっているはずだから合流して村に向かえと副団長が言っていたが……彼女の言っていたことは本当だったんだな」


「合流って……ということはブレイディアさんがジャックさんたちを?」


「ああ。副団長に救助されたんだが……負傷したせいか移動速度が遅くなってしまってな……我々を逃がす代わりに彼女が囮を買って出てくれたというわけだ。おそらく副団長は今あの場を取り仕切っていたデップという男と戦っているのだろう」


「ブレイディアさんが……」


 ラグナは心配そうに顔を歪めたが、すぐに表情をあらためる。


「……行きましょう。村までは俺が護衛します」


「いいや、その必要は無い。お前はすぐに副団長のもとに向かってくれ」


「え、でも……」


「これ以上足を引っ張りたくはないんだ。一応は俺達も騎士の端くれ。民間人とは違う。何かあっても覚悟は出来ているさ。それに副団長の手によって敵の大半は倒されている。後は自分たちでなんとかできるだろう。それより……あのデップという男、なんだか他の連中とは雰囲気が違っていた。何か嫌な予感がする。だから早く救援に向かってくれ。これは我々全員の総意だ。だから頼む」


 ジャックの言葉に同意するように負傷した騎士たちは頷きラグナに訴えかけるようにその眼を向けた。


「ジャックさん……皆さん……」


 心配そうに見てくるラグナにジャックは優しく微笑む。


「心配してくれて感謝する。だが本当に大丈夫だ。それにお前の活躍は聞いているよ。立派になったものだな。そしてその力を見込んで頼んでいる。行ってくれラグナ」


「……わかりました。携帯を渡しておくのでこれで村にいる本部の騎士の方々に連絡してください」


「助かる。ここから真っ直ぐ進めば地下に行くことの出来る階段のある場所に出るはずだ。先ほども言ったが敵の大半は副団長が片付けてくれた、しかしまだ潜んでいる敵もいるかもしれない。気を付けてな」


「はい、ジャックさんたちも気を付けて」


 ラグナはそう言うとその場から走り去って行った。



一方その頃、ブレイディアは無詠唱かつ高速で繰り出される火球を避けながら必死に打開策を模索していた。


(マズイ、これはさすがに想定外すぎるッ……! まさかこいつが『神月の光』を使えるなんてッ……! フェイクの部隊と同じように、幹部クラスの人間しか使えないと思ってたけど部隊によって違うってこと!? ……くそ落ち着け私……混乱してる場合じゃない。目の前のこいつがなんらかの力を隠し持ってる可能性は想定していたんだ。とにかくなんとかするしかない。でも……もしこいつがフェイクと同等の力を持っているのだとしたら……私では絶対に勝てない……)


 ラフェール鉱山での悪夢が脳裏をよぎり冷や汗をかくブレイディアだったが――。


(けど……やるしかないんだよねッ……!)


 ――仮面の男に敗北した過去を振りきり覚悟を決めたブレイディアは放たれる全ての火球を紙一重でかわしながら敵との距離を詰めて行くと、やがて間合いに入る。直後、剣に全ての体重を乗せながらさらに回転を加えた斬撃を全力でデップの胴体目がけて放つ。


「ッ……!?」


 ――その斬撃は避けられることもなければ防がれることもなく胴体に直撃するも――。


「へッ……蚊でも止まったのかと思ったぜ」


 ――極限まで圧縮された光によって無傷という結果で終わる。


 その後、自身の渾身の一撃を無力化され歯噛みするブレイディアに向かってデップは蹴りを入れると、吹き飛ぶその肉体に容赦なく五つの火球を同時に放つ。空中で剣を分離させ火球を貫くことにはなんとか成功するもその爆風と衝撃によって小さな体は石像に叩き付けられ倒れてしまう。


「ぐ……」


「ヒャハハハ! どうだブラッドレディス! オイラの力はすげえだろ!」


(……マズイな……これは……やっぱりあの時と同じ……攻撃が通用しない……)


 『神月の光』を纏ったフェイクに攻撃が通用しなかったことが脳裏をよぎり自らが死ぬイメージまでもが思い浮かんでしまう。


(……ここで……死ぬのかな私……ここでようやく……)


 死を連想していたブレイディアだったが、突如脳内にボロボロになりながらも死ぬ気でフェイクに立ち向かって行こうとしたラグナの姿が思い浮かび死のイメージを打ち消す。


(……ラグナ君……そっか……そうだよね……まだ諦めるには早いよね。君は最後の最後まで諦めなかった。なら私も足掻かなきゃ。それで駄目なら……諦めもつくッ……!)


 ブレイディアは心に喝を入れ手足に力を込めてもう一度動き始める。それを見たデップはバカにしたように笑った。


「無駄無駄! 無駄なんだよッ! オイラはゲルギウスあんちゃんの右腕! テメエ如きに勝てる道理はないんだ! ぎゃ、ギャハハ!」


 勝ち誇るように言い放つデップを起き上がりながら苦悶の表情を浮かべて睨み付けていたブレイディアだったが、ここであることに気づく。


(……ん? ……あれ……何コイツ……なんか……滅茶苦茶疲れてない……?)


 デップが先ほどとは比較にならないほど疲弊していることにブレイディアは気づく。荒い息を断続的に吐きながら顔から大量の汗を流す目の前の敵を見てあることを思い出した。


(……そういえばラグナ君も『神月の光』を維持するのは凄く疲れるって言ってたっけ……パニックになっててすっかり忘れてたよ。でも……ラグナ君の頑張りを思い出せたおかげでちょっとだけ冷静になれたかも。私の予想通りなら――まだ私に勝機はある)


 呼吸を整えたブレイディアは敵を冷静に見据え、その視線を受けたデップは狼狽え始める。


「な、なんだてめえその眼はッ……! もっとビビった顔をしやがれ! 状況がわかってねえのかッ……!?」


「――アンタ、もしかしてその力をまだ完全にコントロール出来てないんじゃない?」


「ッ……!?」


 恫喝を無視して放たれた言葉に対してデップは息を呑むも、すぐに首を振って大声を出す。


「ふ、ふざけんな! そ、そんなわけねえだろ! オイラが、ち、力をコントロール出来てねえだと!? 今さっきまでボコボコにやられてたくせに急に何言ってやがる!」


「確かに私は防戦一方だったし劣勢だったのは認めるよ。でもさ、その荒い呼吸や噴き出した汗を見てると、どうにもその力を持て余してる感じがするんだよね。実際、前に戦ったフェイクはアンタよりも長い時間その『神月の光』を使ってたけど今のアンタみたいな状態にはなってなかった。それってつまりアンタが未熟ってことの証明にならない?」


「な、なんだとォォォォォォ! オイラが、み、未熟だって……ふ、ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 デップは叫びながら火球を連続でこれでもかと放つが冷静さを取り戻しつつあったブレイディアは全ての火球を飛翔する剣で貫きながら爆風や衝撃波を受けない距離に身を置き防御に徹する。そしてフラフラになりながらも術を放ち続ける敵に対する自らの考察が正しかったことを理解した。


(――やっぱりね……こいつはフェイクほど強くない。確かに使う技術は同じかもしれないけど……術の威力や放ち方、間合いの取り方や身のこなし、どれを見てもフェイクとは雲泥の差。……情けないな。どうもあの仮面黒マントがトラウマになっちゃってるみたい。同じ力を使うってだけで怯えて精神的にも肉体的にも及び腰になってた。でも、もう目が覚めたよッ……!)


 ブレイディアは火球の動き全てを見切るとデップに向かって突撃する。再度敵の間合いを侵略すると、空中で剣を結合させもう一度全力で攻撃を行った。振るわれた斬撃は再びその胴体を直撃するも、今度は止められることなくその肉体を数メートルほど弾き飛ばす。無傷なことには変わらなかったものの、衝撃が通ったことに対して突破口を見出したのか女騎士の口元に微かに笑みが浮かぶ。


「――ちょっとだけその『神月の光』が歪んだように見えたからもう一回攻撃を仕掛けてみたけど、なるほどね。さっきと違って少しは攻撃が通るんだ。……もしかしてもうその状態を維持するのが限界にきてるんじゃないの? さっきよりも苦しそうに見えるけど」


「う、うるせえ!!!」


 デップはメイスを振りかぶりブレイディアに襲いかかるも、ふらついたその体から繰り出される攻撃は難なくかわされ距離を詰められる。そして――。


「――〈イル・ウィンド〉」


 小さな竜巻を帯びた剣による渾身の殴打が腹部を直撃し吹き飛ぶ。


「ぐはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」


 弾き飛ばされまだ残っていた柱に激突し倒れたデップにブレイディアは歩み寄る。


「『神月の光』の防御力がずいぶん落ちてるね。もう普通の『月光術』でもダメージを受けるレベルにまで弱くなってるみたい」


「そ、そんなことねえ……こ、こんなの屁でも……ぐ……」


 まるで脱水症状でも起こしたかのように立ち上がることのできないデップを見てブレイディアは確信する。


(……終わりだね。無詠唱の術を連続で撃たせてみたら体力がもっと減るんじゃないかと思って挑発してみたけど……思った通りだったわけか。もうアイツは『神月の光』を維持するのもギリギリのはず。結論として言えば、こいつはやっぱりこの『神月の光』を使いこなせていないってことになるね。追い詰められたうえに私に馬鹿にされたと思って衝動的に発動したに過ぎないってことだ。……数分前の私はこんな奴にフェイクを重ねてビビりまくってたわけか……ダサすぎて泣きそう……)


 ため息をついたブレイディアはデップに言い放つ。


「降伏しなさい。そうすれば命までは取らないからさ」


「こ、降伏だと……ざ、ざけんじゃ……ねえ……」


「『神月の光』についてそこまで詳しいわけじゃないけど、その様子を見てればわかる。このまま戦闘を続ければいづれアンタは自分の力に殺される。そうでしょ? ラグナ君も言ってたよ。体力の限界を超えてその力を維持しようとしたら体が破裂するような強烈な痛みと吐き気、頭痛、眩暈に襲われたって。アンタも似たような状態なんでしょ?」


「う、ぐぞォォォォ! ま、まだだ! まだ諦めねえ! オイラは幹部補佐なんだ! 幹部であるあんちゃんの顔に泥を塗ることは出来ねえんだよ! た、多少無理しようが、て、てめえ一人くらいならなんとかな――」


「――お前の敵は一人じゃない」


「……ッ!?」


 声のする方にデップが顔を向けると銀の光を纏った一人の若い男性騎士の姿があった。それを見てデップは凍り付き、ブレイディアは驚いた声をあげる。


「ラグナ君!?」


「遅くなってすみませんブレイディアさん。ジャックさんたちから事情を聴いて自分たちのことはいいからこちらに向かってほしいと言われ急いできたんですが……」


「ああ、なるほどそうだったんだ。でもこっちは大丈夫。私一人でなんとかなったから。それよりカーティス兄弟は?」


「全員倒しました。たぶん今頃村にいる騎士の方々に連行されていると思います」


 それを聞いたデップは絶望のあまり顔を歪ませた。


「そ、そんな……カーティス兄弟が負けた……嘘だろ……」


「どうもラグナ君の力を測り間違えてたみたいだね。これでわかった? もうアンタは完全に詰んでる。流石にそんな状態で私とラグナ君の二人を相手にして勝てるとは思ってないでしょ?」


「ぐ……」


 状況的に敗北が間違いないことはデップも察していたが、なかなか認められずにいた。しかしそんな精神状態とは裏腹に肉体を覆っていた光は徐々に弱まりやがて消える。



 霧散していく『神月の光』を見て悔しそうに顔を歪めるデップの脳内に突如声が響く。


『デップ、もういい。引き上げだ。仕方ねえからセカンドプランに移行する。奴らはアジトにおびき寄せてから始末することにするぜ』


(ッ……! え、あ、あんちゃんッ!? な、なんであんちゃんの声がオイラの頭に……)


『んなこと今はどうでもいいだろうが。それより逃げる準備をしておけ』


(に、逃げるって言っても……ご、ごめんあんちゃん……オイラ、もう逃げる体力が……)


『わかってる。念のために遥か上空に待機させてた奴を使う。そいつがお前を迎えに行くから今から言う指示通りに動け。いいか――』


 デップは脳内に響くゲルギウスの指示を必死で覚えながら時を待った。



 ラグナはデップに剣を突きつけながら捕縛するため近づくブレイディアを見つつ周囲を警戒していたが、突然巨大な音が上空から響いて来たため驚き見上げる。


「な、なんだ……あれ……」


 驚くラグナやブレイディアの頭上に轟音を響かせ現れたのは全身を黒い鱗に覆われた四枚の翼を持つ人型の四メートルほどの生命体。地上から地下までを強引に貫きやって来たその生命体は竜に似た顔を震わせ口から咆哮をあげる。そして直後、その異形の肉体には赤い光が宿る。


(あれは……!?)


 森で見たオーガたちを思い出したラグナだったが、その思考が追いつかないうちにその異形の生物は口から黒い煙幕のようなものを吐き周囲が黒い煙に包まれる。と同時にデップは立ち上がると力いっぱい上へ跳んだ。それを見た鱗の怪物は一瞬で地上へ近づくと空中でその肉体を右手で捕まえ連れ去ろうとする。当然それを察したブレイディアと銀の光を纏ったラグナは阻止しようとするも一瞬早く怪物の左手から放たれた光弾を防御したため失敗する。




 悔しそうに空中を見上げる二人に向かってデップは笑いながら叫ぶ。


「ギャハハ! 残念だったなぁ! 悪いがいったん引いて態勢を立て直させてもらうぜ! それと、これはあんちゃん――いや『ラクロアの月』最強の幹部ゲルギウス様からの伝言だ! 耳の穴をかっぽじってよーく聞きやがれ! 『もしてめえらがこの続きがやりてえならブルーエイスまで来い。俺達のアジトはその周辺にある。待ってるぜ、ラグナ・グランウッド』――だそうだ」


 ラグナは話を聞きながら『神月の光』を発動しようとしたが、その前に鱗の怪物が天井に向けて光弾を連続で放ち天井が崩落を始める。その隙をついて怪物は開けて来た穴から逃走を図る。逃げる際中にもデップは勝ちほこるように叫ぶ。


「じゃあな~! また会おうぜぇ~! もっともおめえらが生き埋めにならずに済んだらの話だがなぁ~!

ギャハハ!」


 デップはそう言うと怪物と共に地下から脱出し地上に出る。その後すぐに上空へと舞い上がり、地上を見下ろしながら安どのため息をつく。


「一時はどうなるかと思ったが助かったぜぇ。戻ったらあんちゃんにキチンと礼を――ん? なんだありゃ」


 言いかけて気づく。自身の出て来た穴からふわふわと空気で出来た丸い何かが浮かんで来たのだ。眼を凝らすとその中に入って来た人物に気づく。


「……あれは……ブラッドレディ――」


 空気の膜で包まれたブレイディアが地下から地上に出てその場を離れる様子が目に映ったその瞬間――。


「――ッ!?」


 ――地上に巨大な黒い光の柱が落下し地下諸共遺跡があった周辺を呑み込む。その様子を驚きながら見ていたデップは直後、全てを吹き飛ばした黒い光と同じ色の粒子が嵐のように周辺を舞い始めたのを見て叫ぶ。


「い、急げェェェェェ!!! に、逃げろォォォォォォォ!!!」


 怪物は高速でその場を離れる。だが数秒と経たずに粒子の嵐は光が落下した地点に収縮していきやがて収まると、極限まで圧縮された黒い光を纏い背中から同色の翼を生やした少年が上空へと舞いがった。デップは冷や汗をかきながら米粒のように小さくなっていく少年を見つめる。だがどれだけ離れようと自身を見つめる赤い瞳の恐怖と威圧が収まることはなかった。



 

 黒い半月が空に浮かぶ中、ラグナは遠く離れたデップに向かって翼を羽ばたかせると瞬間移動でもしたかのように高速で距離を詰め始める。黒いエネルギー波を翼から何発か放つも怪物はそれをことごとく避ける。その後カラスに変化させた黒いエネルギーを向かわせるもやはり魔獣は器用にそれをかわしながら逃走を続けたため戦術を急遽切り替える。


(……当たらないか……やっぱりまだ性質変化を使いこなせてるとは言い難いな……でもそれなら……接近戦でッ……!)


 『黒い月光』の力にものを言わせ衝撃波が起こるほどのスピードで近づいてくる少年に怯えたデップはさらに叫ぶ。


「何やってやがる! も、もっとスピードを上げ、ひぃぃぃぃぃぃッ!?」


 叫んでいる最中に追いついたラグナに怪物は逃げながら連続で光弾を放つも全て『月錬機』に切り伏せられその鱗に覆われた左腕や四枚の翼のうち一枚が続けざまに切断される。


「うぎゃあああああああああああああああ!!?? お、おああ……」


 悲鳴をあげていたデップだったが、刃が頬をかすめた瞬間に恐怖が限界に達したのか白目を剥いて失神し失禁してしまう。それを見たラグナはスピードを上げさらに攻撃を苛烈なものにする。


(――こいつは幹部補佐。重要な情報源だ。出来ればこのまま生け捕りにしたい。そのためにもこの怪物だけをうまく倒さないと)


 そう目標を定めたその時だった、遥か彼方から青白い閃光のようなものが見えた瞬間。ラグナの体を青い炎のようなエネルギーが呑み込みその肉体を彼方まで連れ去った。それを見た瀕死の怪物はチャンスと見たのかそのままどこかへ消え去る。


 一方青い炎のようなエネルギーに身を焦がしていたラグナは叫びながら全力でそれを振り払い打ち消すと空中で静止する。だがもうそこには誰もおらず悔しさのあまり歯噛みする。


「――クソッ……!!! ……逃げられた……なんだったんだ今のは……」


 空中で呆然とたたずむラグナは言い様の無い悔しさと虚しさに包まれながらため息をつくしかなかった。



 

 その頃、ラグナのいる空域から離れた森の中にいたブリックは電話をかけていた。


「あ、もしもし。ジェダか?」


『……どうした。早く戻って来いと言ったはずだが』  


「いや、ちょっちデップたちの動向が気になってよ。見張ってたんだが、さっきラグナ・グランウッドに攻撃したのってもしかしてお前? 術の形が似てたからよ」


『そうだ。今デップに捕まられては我々の計画に支障が出る可能性があった。まあ可能性としては低いが……手駒を四つ失った奴が逃げ腰になるということもありえなくはないのでな』 


「あのプライドだけは無駄に高いゲルギウスなら大丈夫だと思うけどな。つーかお前今どこにいるんだよ」


『アジトだ。お前も知っているだろう』


「……いや、知ってるけどよ……マジであんな離れた場所から撃ったのかよ……てっきりゲルギウスに無断でこっちまで来てんのかと思ったぜ」


『そこにいるのならお前にラグナ・グランウッドの戦闘データの蒐集など頼まない』


「そりゃ……そうか」


『くだらない質問などせずに早く戻ってこい。お前が捕まっては元も子もないんだ』


「了解。だがカーティス兄弟はどうする? アイツら騎士にとっ捕まってるけど。奴らから情報漏れたらやべーんじゃねーの?」


『問題ない。その前にゲルギウスに植え付けられている『魔王種』の肉片が作動するだろう』


「あー、そういえばそうだったな。……なら問題ねーか。そんじゃ今度こそ戻るよ。あ、あと戻った後に小言は勘弁な」


 携帯を切ったブリックは先ほどラグナを襲った青い炎を思い出しその額から汗がつたう。


(デップを連れ出した『魔王種』はジェダのものだったからアレの眼を介して情報を得てたんだろうけど……アジトから撃ったって……ここから何百キロ離れてると思ってるんだよ……そんな場所から撃った術なんざ普通到達する前に消えるだろ……おそらく術の威力は相当弱くなってたはず……なのにあの威力……アイツの実力全部知ってたわけじゃねえけどここまでとはな……味方とはいえおっかないねぇ……)


 ブリックは体を震わせるとその場を後にしたのだった。    

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