表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/124

77話 作戦

 ラグナが雷撃によって出来た穴から頂上に戻った直後、レスヴァルは少年が落ちた区画に突如現れる。黒い球体を囲んでいた研究者たちは見知らぬ女の登場に当然騒ぎ始めた。


「おい、なんだお前はッ……!」


「警備の連中は何してるんだッ……! おい連絡しろッ……!」


「……駄目だ、応答しないぞッ!?」


 無線で仲間に連絡が出来なかったらしい研究者たちが動揺し始めると、レスヴァルは白衣の男達に向かって静かに話し始める。


「――無駄だ。この鉱山内部にいる君たちの仲間はほぼ全員死んでる。フェイクを除けばおそらく生きているのは君達だけだろう」


「ば、バカなッ……! 死んでいるだとッ……!? あ、あり得ないッ……! 鉱山内部には二百人以上の『月詠』がいたんだぞッ……!」


「その二百人以上の敵は私が全て片付けたと言っているんだ。安心しろ。君たちは見たところ非戦闘員のようだし命を奪うような真似はしない。だが――」


 紫色の光を纏ったレスヴァルを見た研究者たちは息を呑む。


「――少々聞きたいことがあるのでね。協力してもらおうか」


 レスヴァルはゆっくりと恐怖に顔を歪める研究者たちのもとに歩いて行った。


 それから数分後、研究者たちが全員倒れる中でレスヴァルは頂上まで続く穴を見上げた。そして頂上から聞こえる轟音に耳を傾ける。


(……やはり一筋縄ではいかないか。今の彼ではなおさらそうだろう。……出来れば奴に私の存在を気取られるのは避けたいが……姿を見られずに加勢する方法となると……やはりこれしかないな)


 黒い台座に置かれた球体を見つめたレスヴァルは黄色い光を纏うとその場から消えた。



 ディーンはダリウスの町の住民たちを警護していたが、不意に崩落によって埋もれた地元の住民だけが知っているという洞窟から不審な音が聞こえてきたため住民たちを少し離れた場所に退避させた。


(……なんの音だこりゃ……なんか……中の岩が破裂しているような――)


 そして埋もれた入口付近に近づいたのだが――突然入口を塞いでいた岩や石が吹き飛ぶ。


「な――どわああああああああああああああああああああッ……!?」


 吹き飛び粉々になった岩の破片や凄まじい暴風に襲われディーンの体は弾き飛ばされ転がる。それを見ていた住民たちが急いで傭兵に駆け寄った。最初に近づいて行ったのは小さな少年テトア。


「ディーンさん大丈夫ッ……!?」


「あ、ああ……なんとかな……」


体を起こしたディーンは土煙の上がる洞窟の中からやって来る何者かの影を捉える。


「……みんな俺から離れろ。そして出来るだけ遠くに隠れるんだ。もしかしたらロンツェがまた仲間を引きつれて戻って来たのかもしれねえ。……あと出来れば騎士連中にこのことを知らせてくれると助かる」


 テトアを含む町の住人達はディーンの真剣な顔を見て頷くと、急いで離れて行った。傭兵が『月光』を纏いながら入口から現れるであろう人物を注意深く観察していると、ついに件の人物が現れる。だが現れたのは予想外の人間だった。


「――あれ……レスヴァルって姉ちゃんじゃねーかッ……!?」


 現れたのは白髪の美女――レスヴァルだった。


「――洞窟全体が崩落していたので無理矢理吹き飛ばさせてもらったのですが、何かあったのですか?」


「え、あ、ああ。実はな……」


 ディーンはロンツェの襲撃について話すと同時に脱力する。


「いやー、てっきりロンツェたちがまた仲間でも引き連れて戻って来たんじゃねーかと警戒してたんだが……アンタでよかったぜ。しっかし住民たちに騎士連中を呼びに行かせちまったのは失敗だったな」


「いえ、私にとっては都合がよかったです」


「へ? 都合がいい?」


「実は折り入って相談したいことがあります」


 ディーンはレスヴァルの相談に耳を傾けた。



 ジュリアの肩を借りたラグナは弱弱しい黒い光を纏いながらブレイディアたちのいる場所まで行き腰を下ろす。


 リリスによって運ばれたブレイディアとジョイは頂上にあった重機の後ろに隠れていたため同じように身を隠すと。力なく座り込んだ少年に対して女騎士は寄り添うように近づいた。


「ラグナ君、大丈夫だったッ……!?」


「ええ……すみません……助けに来たはずなのにこんな不甲斐ない結果になってしまって……」


「ううん、それはいいんだけど……怪我の方は大丈夫なの……? フェイクに重傷負わされてたのに……」


「……それなんですが……実はレスヴァルさんのおかげでなんとか戦えるようになっただけで怪我自体は治っていないんです」


「レスヴァルさんのおかげって、どういうこと……?」


「えっと……」


 ラグナはレスヴァルにかけてもらった術について説明した。それを聞いた三人の顔は心配そうなものへと変わる。特にブレイディアの顔は悲痛なものだった。


「……ごめんねラグナ君。ホントに無茶ばかりさせて……」


「謝らないでください。自分で決めたことですから。……それより、あの……ジョイは大丈夫なんでしょうか?」


 ピクリとも動かない赤い鳥を心配そうに見つめていたラグナだったが、すぐにブレイディアが口を開く。


「ジョイなら平気だよ。気絶してるだけみたい。さっき確認したけど火傷の痕もそれほどひどくなかったからさ」


「……そうですか。よかった……」


「……あと……もう『黒い月光』解除したら……? ……その体じゃ纏ってるだけでつらいんじゃないの……?」


「……そうですね……でも……もしかしたらまだ何かに使えるんじゃないかと思って……それに一度解除しちゃうともう呼べないような気がして……」


「……わかったよ。でも本当に危なかったら解除するんだよ……?」


「はい……了解です……」 


 風前の灯のような黒い光を纏いながら頷いたラグナだったが、三人の女性の眼が自身の顔――特に左眼あたりに集中してることに気づく。


「……ん……? ……なんでみんなして俺の顔を見てるんでしょうか……」


「……ずっと気になっていたのですが……ラグナ、その左眼はどうしたのですか……?」


「え? 左眼?」


 ジュリアの問いかけに首を傾げたラグナに対してリリスが持っていたポシェットから小さな手鏡を取り出し渡す。


「……見てみて……真っ赤……」


「真っ赤って――え、なんだこれッ……!?」


 ラグナは自身の左の瞳が真紅に染まっていることにようやく気付く。驚く少年を見たブレイディアは顎に手を当ててから口を開く。


「なるほど、ラグナ君も今気づいたってことね。……うーん、もしかしたらこれもレスヴァルさんにかけてもらった術の作用の一つみたいなものなのかもね。今のラグナ君の脳内には特殊な脳内物質が分泌されてるっていうし、それが瞳に影響してる可能性もあると思う」


「…………」


 ブレイディアの説明を聞いたラグナは再び鏡に映った自身の左目を眉をひそめながら凝視する。


(……レインが自覚がどうのと言っていたけどこのことだったのか……それにしても……これじゃまるでフェイクみたいだ……そういえば奴もレスヴァルさんが言っていた脳内物質やホルモンについて言及していた……それに俺や奴が同じ『血』を持っているとかよくわからないことも言っていたし……もしかしてそれもこの赤い瞳に関係があるんだろうか……)


 ラグナが考え込んでいるとブレイディアが横から急に話しかけてくる。


「ラグナ君、難しい顔してるけど、どうかした?」


「……あ、いえ、なんでもないです。……それよりこれからどうしましょうか……」


 ラグナはリリスにお礼を言って手鏡を返すとこれからの予定について問いかける。するとジュリアがそっれに答えた。


「その質問の答えは彼ら次第ですね。彼らがあのままフェイクを倒せればいいのですが……」


 ジュリアにつられてラグナは重機の後ろから仮面の男とローブの集団の戦いを見つめた。リリス、ブレイディアもそれに続く。三十数名の『月光』を纏ったローブの人物たちは特殊な『月錬機』を持っているようで先ほど少女たちがやったようにフェイクの雷撃をことごとく空へと逸らし物理攻撃も受け流している様子だった。少年はそれを見ながら少女たちに問いかける。


「……あの『月錬機』ってなんなの? 電撃や物理攻撃を全部受け流しているように見えるんだけど……」


「あれはハロルドの技術提供によってキングフロー家……というよりレイナードの指示によりキングフローとベルディアスお抱えの技術者たちが作った改良型『月錬機』です。急ピッチで作ったものらしいのでまだ性能的に不安な部分もありますが『月光』をエネルギーとしたシールドを張って攻撃を受け流すことが出来るそうです。本来ならばもっと早く……それこそ連絡を受ける前に救援に来る予定だったのですが、アレの完成を待っていたために遅くなってしまいました。しかし……フェイクのあの異常な強さを見るに、レイナードの指示もあながち間違ってはいなかったようですわね……ベルディアスとキングフロー家の私兵の中でも精鋭中の精鋭を厳選してきたというのに……」


 ローブの集団の兵士としての練度の高さはラグナにもすぐにわかった。個々人の無駄の無い動きに加え『月光術』を使った後のカバーや『複合月光術』を組み合わせた戦闘は実に素晴らしいものだった。試作品のシールドを手足の如く使いこなすその様は見事というほかない。しかし――それでもフェイクには傷一つ付けられてはいなかったのだ。それになんとか食らいついているものの、おそらくシールドがなければ全滅してもおかしくないほどに仮面の男の攻撃は苛烈を極めた。ジュリアはその様子を見て顔をしかめる。


「……それにしても何なのですかあの妙な『月光』は……詠唱無しで術を撃てるうえ、しかも術の副作用である『月光』の消失もないなんて……術の威力も通常の物とは比較になりませんわよ……」


「……俺もよくわからないけど……アレは『神月の光』っていうものらしい……奴はアレを『月光』を超えた『月光』とも言ってたよ」


「……『月光』を超えた『月光』ですか……」


 ジュリアは小さなため息をついた後、ブレイディアを見つめた。


「……副団長。私たち二人はここに来る前に指示を受けていました。その内容は――もし仮に精鋭部隊を加えた状態でのフェイク討伐が厳しいと思われた場合、私たちの手で貴方がたを逃がすことです。……私の認識が正しければ、このままただ待っていたところでフェイクを倒すことは不可能でしょう。というよりこちらの部隊が壊滅するのは時間の問題と思われます。今フェイクは部隊の方々に気を取られていますの。今ならば逃げることも可能でしょう。この場にいる者の中で指揮権があるのは貴方です。どうかご決断を。そして決断してくださればすぐにでも外で待機しているヘリに連絡できます」


 言うとジュリアは右耳を触り始める。髪に隠れて見えなかったがそこには小さなインカムが装着されていた。どうやらそれで連絡を取るようだ。だがそれを聞いたブレイディアは怪訝そうな表情で問う。


「……それは……彼らを見殺しにするってことだよ。いいの?」


「……彼らも覚悟してここに来ています。異論はないでしょう」


「……『αタイプ』の件は? 上層部はなんて言ってる?」


「ハロルドが現在急いで『メイガス』を修復しています。防衛機能が完全に復旧すれば『αタイプ』の砲撃もなんとか耐えられると思いますが……」


「確実じゃないよねそれ……復旧より先に奴が『αタイプ』のエネルギー弾を王都に撃ち込んだらそれで終わりだよ……」


「しかし貴方やラグナが『αタイプ』の情報を手に入れてすぐに騎士団長に電話で連絡してくれたおかげで王都の住民の避難が開始されています。全ての住民の避難も、もうすぐ終わるはずです。王都が破壊されたとしても人的被害は無いと思っていただいて構いませんわ」


 ラグナは森でワディから『αタイプ』の情報を聞いたブレイディアが情報源の死亡直後にアルフレッドに連絡していたことを思い出す。


(……そういえばワディが死んだ直後にブレイディアさんが『αタイプ』についてアルフレッド様に連絡してたっけ……よかった……それならジュリアの言う通り人的被害は出なさそうだ……でも……)


 ラグナと同じことを思ったのかブレイディアも素直に喜べないようだった。だが王都に住む人々に被害が出ないと聞いてある程度安心したのか女騎士は少しだけ表情を和らげる。


「……正直あの時点では情報が不確かだったし、そんな情報で王都の住民全員を避難させるなんて不可能だと思ってたけど……避難開始されてたんだ。でもよくこんな短期間に王都の住民全員を避難させられる寸前までいけたね」


「ギリギリでしたがね。騎士団長や他の騎士の方々、それにベルディアス家やキングフロー家が避難行動の補助を率先して行ったおかげでなんとか間に合いそうです。特に騎士団長は騎士をまとめ上げ本当によく働いていたと聞いています。民衆がパニックを起こさなかったのもあの方の人徳のなせるわざでしょう」


「そっか……救援要請したとき留守電になってたのは避難勧告してたからなんだね。団長なら留守電聞いてくれると思ってたけど、電話に出ないのは珍しいことだったから疑問に思ってたんだ。でも納得したよ。本当に良かった。団長のおかげでなんとか首の皮一枚繋がりそうだねラグナ君」


「はい。ですが……人的被害が出なくとも奴らの計画通りに事が進めば……」


「そうなんだよね……王都の地下にあるものが取られる危険がある。それは出来れば避けたいよ」


 ラグナとブレイディアが表情を曇らせる中で、リリスがつぶやく。


「……でも……もう……勝ち目……無いと思う……」


「リリの言う通りですわ。あなた方はもう十分すぎるほど戦いました。これ以上は危険すぎます。それに上層部もあなた方を失うことを恐れているようで、救援到着後それでも敵に苦戦し敗色が濃厚ならばあなた方だけでも即撤退させるよう厳命されていますの」


 それを聞いたブレイディアは苦笑する。


「……なんとなく理由はわかるよ。ディルムンドが失脚して一か月ちょっとだもんね。まだ市民の中で混乱が渦巻いてる中、副団長とせっかく宣伝した伝説の力を持つ騎士を同時に失うわけにはいかないか」


「そのようですわね。これ以上の混乱は絶対に避けたいのでしょう」


「だったら私たちだけを行かせるなんて暴挙最初からしないでほしいよまったく……」


「同感です。心中お察ししますわ。しかし上層部も予想外だったのでしょう。今回上層部、特に『七大貴族』はラグナの『黒い月光』や副団長の戦闘経験を買って送り出し迅速な解決を期待したようですが……敵の力はどうやら彼らの予想を上回っていたようですね。……特にあのフェイクという男の強さは……正直私も驚いています。まさかラグナが『黒い月光』を使っても勝てない相手がいるとは……」


 ジュリアの言葉につられてラグナは再びフェイクを見る。すると仮面の男はやはり先ほどと変わらず余裕そうにローブの集団の攻撃をさばいていた。


(……レインはフェイクが力をまだ隠してるって言ってたけど……あれは単に俺を行かせないようにするためのハッタリだとあの時の俺は思った……俺を打ち負かした時点でフェイクの力は化け物染みていたし……あれ以上はないと思っていた……いや……違うか……そう思いたかっただけなのかもしれないな……)


 フェイクに反応するように光り輝く左手の黒獅子を凝視した後、表情を悔しそうに歪める。ラグナが己の非力さに打ちひしがれているとジュリアが再度ブレイディアに向かって口を開いた。


「副団長。説明は以上です。もう時間がありません。撤退のご決断をお願いします」


「……でも……私たちだけ逃げてダリウスの人たちを置いて行くわけにはいかないよ……まだ『ラクロアの月』の構成員だってどこかに潜んでるかもしれないし……流石に町の住人全員を連れて行けるわけじゃないでしょ……?」


「いえ、そんなことは――」


 ジュリアが言いかけると、急にブレイディアの携帯が鳴る。表示された名前を見てみるとそこにはレスヴァルの名があった。


「……ちょっとごめんね。――もしもし」


『よかった。繋がってくれて。こうして電話に出られたということはラグナ君に救出してもらえたようだね。ところで今大丈夫かな?』


「……大丈夫かと聞かれるとちょっと答えにくいけど……もしかして急ぎの用?」


『ああ。提案があるんだ。聞いてくれ――』


 レスヴァルから簡潔に話を聞いたブレイディアは驚愕しすぐに問い返す。


「……それ本当なの? しかもダリウスの住民が協力してくれてるって……」


『ああ。本当は町の住人まで巻き込みたくなかったのだが……どうしても自分たちも協力すると言って聞かなくてね。どうも君達の役に立ちたいらしい。まあ人数が増えたおかげで作業はスムーズに進んで準備ももう少しで終わるところまできたのだがね。後は君たちの協力次第だ』


「……ちょっと待ってて。今ラグナ君達と一緒にいるんだけど、今の話をしてみる」


『了解だ。ではいったん切ろう』


「わかった。話し合いが終わったらこっちからかけ直すから」


 そう言うとブレイディアは電話を切りジョイを除くその場の全員に向き直る。


「みんな聞いて。もしかしたら――フェイクを倒せるかもしれない」


 ブレイディアの言葉を聞いた全員は驚き唖然とするもそのまま女騎士は話を続けた。そして話を聞いた全員はそれぞれ異なった顔で悩み始める。最初に口を開いたのはジュリア。


「……確かに……うまくいけばフェイクを倒せるかもしれませんね。しかし……」


「……失敗したら一巻の終わり……」


 リリスの言葉に頷いたのブレイディア。


「そうだね。作戦が成功するまでに私たちはたぶん全力で動き続けなきゃいけない。私とラグナ君は既に満身創痍だし、貴方達も体力のほぼすべてをつぎ込むことになる。失敗すれば逃げるのはもう不可能になるだろうね」


 ブレイディアの言葉に真っ先に反応したのはラグナだった。


「……でも……やる価値はあると思います。確かにリスクはありますが、成功すればきっとフェイクを倒せるはず。……それに逃げても根本的な解決にはならないと思うんです。今ここでフェイクを倒さなければ王都はずっと脅威にさらされたままだ。それなら今ここで決着をつけた方がいいと思います。何よりダリウスの人たちや騎士団支部の騎士の方々、ディーンさんやレスヴァルさんの厚意を無駄にしたくない。俺はその作戦、やりたいです」


 ラグナの言葉にブレイディアは笑顔で頷く。


「私も同じ気持ちだよ。これはきっとフェイクを倒せる千載一遇のチャンス。奴も私たちがそんなことしようとしてるとは思いもよらないだろうしね。これでアイツに一泡吹かせられるかも」


 互いに顔を見合わせて頷いたブレイディアとラグナはジュリアとリリスを見つめた。それに対しツインテールの少女はたじろぐも無表情の少女が横から声をかける。


「……ジュリ……無駄……もう二人とも決めちゃってるみたい……」


「……そのようですわね。……仕方ないですわ、では個々の役割やどうやってフェイクを『その場所』までおびき寄せるかについて話し合いましょうか」


 四人は段取りを決めるため話し合いを始めた。



 一方フェイクと戦っていたサラを含むローブの集団は荒い息をし滝のような汗を流しながら戦っていたが、敵である仮面の男には未だ傷一つ付けられず苦戦を強いられていた。


 サラはここへ来る前にかぶり直したフードの下で呼吸を整えながら制止し、次にどう動くか考えていた。眼に映るのは交代でフェイクに挑む精鋭部隊の姿。


(……このままではマズイ……奴の電撃対策のために身に着けて来たこの特殊なローブや『改良型』の『月錬機』を以ってしてもほとんど相手になっていない……まさかここまで実力に差があるとは……私たちに出来るのはせいぜい時間稼ぎ程度……ジュリア様……リリス様……出来るだけ早くラグナ様達を――)


 シールドを使っても全てを受け流すことはできないのか蓄積されたダメージによって痺れる手に力を入れ直す。さらに右手に持っていた緑色のレイピアを硬く握りしめていると不意に耳に付けていたインカムにノイズが走りジュリアの声が聞こえてくる。この声はインカムを付けている全員が聞こえるものだった。


『――サラさん、皆さん。聞こえますか?』


「……ジュリア様。聞こえております。ラグナ様達の同意は得られたのでしょうか?」


『いいえ、違いますわ。これから言う事をよく聞いてください』


 ジュリアはこれから行おうとする作戦の概要について説明した。だが説明を聞いたサラは顔を引きつらせ小声で即座に言う。


「――お待ちください。確かにそのお話が本当なら、作戦が成功すればフェイクを倒せるかもしれません。しかし不確定要素が多すぎます。失敗すればあなた方を含む全員がやられる可能性だって十分に考えられるのですよ。そんな危険な作戦を貴方がたにやらせるわけには……」


『わかっています。しかし当の二人がやると言って聞かないのです。あなた方の任務がラグナと副団長を逃がすことだということも重々承知しています。ですが彼らにも譲れない任務があるのですよ。王都を救いラフェール鉱山やダリウスを解放するという使命がね。そして私もリリも出来うる限りラグナの望みを叶えてさしあげたいと思っているのです。……理由はわかるでしょう?』


「…………」


 王都でディルムンドに操られた時の事やアルシェで色々と助けられ救われたことを言っているのだろうと即座に理解したが、それでも軽々しく頷くわけにはいかなかった。そんなサラにツインテールの少女はトドメの言葉を放つ。


『それに私の秘密を知っているフェイクをこのまま生かしておけば後々響くかもしれませんわよ? それではせっかく握ったベルディアスの弱みも意味を成さなくなるかもしれません。それはレイナードにとってもマイナスになるのではありませんか?』


「…………」


 サラはため息をつきながらレイナードに言われた言葉を思い出した。それはジュリアがいい政治家になるという言葉。


(……いい政治家になるかは知りませんが……したたかな女性にはなりそうですね……自分の弱みさえ利用し交渉するなんて……まったく……)


 辟易するサラの耳に再びノイズが走る。


『それで――協力していただけるのですか?』


「……了解しました。では段取りを教えてください」


 こうして仮面の男を倒すための作戦が始まった。  

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ