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76話 助っ人

 すぐに戦いが始まるかと思いきや、銀色の光を纏ったフェイクが突然懐からリモコンを取り出し操作すると『αタイプ』とそれにつながるコンソールや周辺機器が電磁バリアのようなもので覆われ始める。それを見たラグナは怪訝そうな表情をするも、仮面の男は何でもないように話し始める。


「安心しろ。ただの『αタイプ』の防衛機能だ。内部のエネルギーを全て防衛機能にまわした結果しばらくは王都への発射は出来なくなった。お前たちの目的の一つである王都を守るという任務はこれで一応は達成されたというわけだ。しかしあまり喜ばない方がいい。これはあくまで一時的な救いでしかない」


「……俺達を倒した後に防衛機能を解除してまた『αタイプ』の発射を再開するということか」


「そうなるな。いづれにしろ戦いが終わるまでは何もするつもりはない。お前も『αタイプ』を気にする必要は無い。というより気にしても意味は無いと言うべきか。これはハロルドの使っていた防衛機能よりも遥かに強力だ。あのフィールドに守られている『αタイプ』を傷つけることは何人にも出来ないだろう。お前の使っている半端な『黒い月光』でも不可能だ。本来の『黒い月光』ならば話は別だがな」


「……本来の『黒い月光』だと……お前は『黒い月光』の何を知っているっていうんだッ……! それに前にお前が言っていた『神』や『神器』とはなんだッ……!」


「今のお前に説明しても意味などないだろう。とにかくこれでもう何も気にせず戦えるようになったわけだ。さあ――お前の力を見せてみろ」


「――ッ……!」


 挑発を受け銀色の剣をボックス状態に戻し即座に黒炎のような大剣に変形させたラグナは間合いを見極めながらフェイクとの距離をじりじりと詰めて行く。その後、一定の距離に達したその瞬間に事態は一気に動き出す。


 巨大な黒い光を纏ったラグナが跳ぶと、フェイクもそれに応じるように殴りかかる。以前戦った時はその動きがまるで見えなかったがリミッターの外れた今の少年には仮面の男の動きが手に取るようにわかった。ゆえにその拳をなんなく回避すると逆に胴体に剣を入れ斬り飛ばす。直後その体は吹き飛び設置されていた機械に激突することで動きが止まる。


 ラグナは攻撃を受けたフェイクをまじまじと観察した。ダメージが通っているか気になったからである。観察の結果は少年の期待通りのものだった。だが別の意味で期待は裏切られる。斬撃は以前とは違い確かにその肉体を斬り刻むことに成功する。だが血がにじみ出してすぐにその傷から蒸気が発生し傷が瞬く間に消えてしまったのである。


 その後何事も無かったようにぶつかった機械から離れたフェイクを見たラグナの頬を汗がつたう。


(……傷が一瞬で……治った……どうなってるんだ……いや……落ち着け……心を乱すな……攻撃は当たるようになったんだ……奴がどんな力をまだ隠し持っているのかはわからないけど……このまま押し切るッ……!)


 黒い光の衣を纏いながらおびただしい銀の光を切り裂き突撃したラグナは一瞬にしてフェイクに近づくと、その全身を切り裂く。黒衣から血しぶきが上がる中、逃げるように後ろへ跳んだ仮面の男に向けて続けざまに少年は柄のトリガーを引き巨大な斬撃を連続で放った。


 それに対して仮面の男は放たれた斬撃に右手を向ける。


「〈アル・ライトニング〉」


 その瞬間、銀色の光がフェイクの右腕に収束すると、その右手から巨大な雷が放たれる。以前は『黒い月光』を用いた術でさえかき消し打ち破ったその電撃だったが、今回のエネルギー同士の衝突はラグナの方に軍配が上がる。ぶつかった当初は拮抗するも数秒後、斬撃が電撃を切り裂きそのまま前進し始めたのだ。やがて巨大な複数の黒い三日月は電撃を打ち消すと、そのまま黒衣の術者を飲み込む。


 周辺の設備が吹き飛ぶほどの斬撃の嵐に襲われた仮面の男はエネルギーの刃に斬り刻まれながら弾き飛ばされる。直後放たれた斬撃の一つに刻まれ漏電していた設備にその肉体が衝突したことを契機に設備諸共爆発する。その結果『αタイプ』や周辺機器を除く機械は誘爆していき大爆発が起こった。


 ラグナはその様子をジッと見た後、荒い息をしながら片膝をつく。


 灼熱の地獄と化した地帯を眺めながら仮面の男を倒した余韻に浸る。


(……終わった……のか……これで……タイムリミットまでには……なんとか間に合――)


 だがすぐにその認識は間違いだという事に気づかされる。


 炎の中から悠然と現れた仮面の男を見たことによって。


「――くッ……!」


 ラグナは自身の認識の甘さを恥じると立ち上がり再び剣を構える。


(……馬鹿だな俺は。あの程度で死ぬはずがない。さっき奴の異常な回復力を見たばかりじゃないか。……でもさっきの攻防でわかった。俺はちゃんと奴の動きについていけるようになってる。それに現状、リミッターを外した俺の方が優勢。攻撃力も俺の方が上だ。どんなにすさまじい回復力を持っていたとしてもこのままいけばタイムリミットまでに奴を倒すことも可能なは――)


 するとそんな理想を思い描く少年に対してフェイクは呟く。


「以前戦った時よりは力が増しているな。これならば――もう手加減の必要は無さそうだ」


「……な……」


 その言葉を聞きラグナは思わずオウム返ししてしまう。


「……手……加減……?」


 信じられないようなことを言いだしたフェイクに対してラグナは呆然となるも、己の言葉を証明するように再び大量の『月光』を纏った仮面の男を中心に銀色の嵐が吹き始める。


「――ッ!? ……これは……」


「そう、お前が先ほど使った技だ。これは大気に満ちている『月光』の残滓に己の『月光』を反応させ支配下に置く技術。そして『血』を持つ者に与えられた特権の一つでもある」


 フェイクは言いながら右手を上に掲げる。


「――〈アル・ライトニング〉」


 術を唱えた瞬間――吹き荒れていた銀色の嵐の一部の粒子が消え去り、上空に雷で出来た槍のようなものが無数に出現する。フェイクが手を下ろした直後、それは天から降り注いだ。それを忌々しそうに見つめたラグナは襲い来る槍の雨を剣で打ち払いながら前進する。全ての雷槍を弾き仮面の男に斬りかかるも、先ほどとは違いかわされ後ろへ跳ばれる。一瞬の出来事だったが、少年は先ほどとの違いを如実に感じていた。


(……奴の動きがさっきより速くなっている……『月光』を二重に纏ったような身体能力……それにこの嵐……奴の言う通りレインと戦った時やさっきエネルギー弾を弾いた時の俺と同じ……)


 思考するラグナだったが、不意にフェイクが再び話し始める。


「――お前は『月詠』の呼び出す『月光』が不完全だと思ったことはないか?」


「……何の話だ」


「『月詠』が呼び出す通常の『月光』は『月光術』を一度使えば消え失せてしまう不完全な力だ。しかしお前や私のように『血』を持つ者はこのように大気に満ちた残滓を反応させ『月光』の代替とすることで残滓が無くならない限り『月光術』をいくら唱えようと己の身に纏った『月光』を消費せずに術を発動することが出来る。先ほどお前がやったように通常の『月光』と残滓を同時に使用すればさらに強力な術へと変化させることも可能だ。……だがこれで終わりではない。この先をお前に見せてやる。完成された本物の『月光』をな」


 フェイクは突然吹き荒れる嵐と『月光』を消した。突然静まり返ったその場の空気をラグナは不気味に感じていた。それはまるで嵐の前の静けさ。そんな中で仮面の男の声が響く。


「今のは小手調べ。ここからが本番だ――よく見ていろ」


 フェイクがそう言うとその肉体に百メートルを超える巨大な『月光』を纏った。さらにその銀の光は急速に膨れ上がりラグナ達を呑みこむと一気に頂上全体を覆いつくす。その後さらに広がっていきやがてラフェール鉱山全体を覆いつくすほどに広がった。仮面の男の近くにいた少年はあまりにも膨大な『月光』に押され吹き飛ばされそうになるも剣を地面に突き刺し堪える。


(な、なんだ……これは……これが……全て『月光』なのか……ッ!?)


 流石にそれを見たラグナは絶句するもフェイクはそんなことなど構うことなく話し始める。


「『血』を持つ者がその力に目覚めると脳のある部分に自身の意思でアクセスできるようになる。そしてその部位から分泌される特殊な脳内物質やホルモンによって肉体が活性化し頑強になると同時に回復力も向上する。これにより通常よりも多くの『月光』を纏っても肉体が崩壊せずに済むようになる」


(……特殊な脳内物質とホルモン……それに脳のある部位って……レスヴァルさんが言っていた『月詠』の脳内にあるっていうブラックボックスのことか……?)


 レスヴァルによってかけられた術によりそのブラックボックスの一部を強制的に解放させられたラグナはフェイクの説明を聞き唖然とするも、仮面の男は言葉を続ける。


「これが第一段階。そして第二段階――分泌された脳内物質により徐々に脳にも変化が起きる。脳から特殊な脳波が出せるようになり、呼び出した『月光』の量に応じて大気に満ちた残滓を反応させることが出来るようになるのだ。これにより大気にある残滓を『月光』に限りなく近いものに変化させることが出来る。その後反応した残滓は嵐のように術者の呼び出した『月光』の周りを高速で動き始める」


 フェイクの言う通りラフェール鉱山を包んでいた『月光』の周り――ダリウスを含む町や廃墟群に銀色の粒子が大量に混ざった嵐が吹き荒れ始める。その様子を驚愕するラグナに見せつけた後、仮面の男は静かに言う。


「ここまでの過程を終えると第三段階に入る。高速で動く粒子の嵐を脳波でコントロールし外側から『月光』を閉じ込めるように圧縮していく」


 フェイクの言葉に合わせるように嵐は『月光』を閉じ込めるように徐々に狭まっていった。鉱山全体を覆っていた銀色の光が粒子の嵐により五十メートルほどに圧縮されていく。変化したフェイクのその『月光』を見たラグナの背筋が唐突に凍った。粒子に覆われ球状に圧縮されていく『月光』――それを見せつけられた少年の本能が告げる。


(――駄目だ……アレを完成させてはいけないッ……! 『月光』の範囲が狭まった今なら動けるッ……! 今のうちにアレを――)


 直感的に危険を理解したラグナは『月光』によって発生した凄まじい風圧に逆らいながら飛びかかるも――直後フェイクの言葉が響く。


「――これが最後だ。圧縮した『月光』と粒子を同調させ融合させる」  


 ラグナが飛びかかったその時に限界まで圧縮された二つのエネルギーが融合しその衝撃によって少年は後方に弾き飛ばされてしまう。眩い銀色の閃光に包まれながらも剣でブレーキをかけて動きを止め再び飛びかかろうとしたが――無意味であることを知る。眩い光が消え仮面の男が姿を現した瞬間に悟ったのだ。


(……遅かった……)


 フェイクの全身を覆うようにその肌に貼り付いた薄皮一枚程度の静かな銀色の光を見た瞬間に。


(……一見すると弱弱しく見える……けど……違う……アレは……危険だ……)


 それは轟々と燃え盛る『月光』とは違った。その銀の光はまるで服を着ているかのようにピッタリとその肉体に張り付いていたのだ。波一つ立てない洗練された光を纏いながらフェイクは言う。


「――これこそ『月光』を超えた『月光』にして『月詠』が至る次の段階。その名は……お前ならわかるな?」


 フェイクのその赤い眼を見た瞬間、とっさにラグナの口から言葉が出て来る。


「……『神月しんげつの光』……」


 呟いた直後、我に返ったラグナは驚く。


(……なんだ今の……どうして……知らないはずなのに……勝手に言葉が……)


 動揺するラグナに向かってフェイクは満足そうに頷く。


「その通りだ。記憶は無くとも魂に刻まれたデータは残っているようだな。少し安心したぞ。では講釈はこの辺りにして――始めようか」


「ッ……!」


 フェイクが一歩踏み出した瞬間にラグナは攻撃がくることを理解する。


(――来る……どんな力かわからないけど……アレがとんでもない力だっていうのだけはわかる。だったら――力を出される前にケリをつけるだけだッ……!)


 ラグナが衝撃を伴うような速度で地面を蹴ると、トリガーを引き刀身に『月光』を纏わせ強化させる。同時にフェイクに向けて剣を構えたまま突進した。音速を超え光速に近い速度で突進した少年の突きはフェイクの胴体に突き刺さる。衝突によって再び生じた衝撃波は設備の残骸を吹き飛ばすほど強力で、突きの威力の高さを物語っていた。先ほどまでの仮面の男ならば容易にその胴体を串刺しに出来たであろうその攻撃は――。


「……そん……な……」


 ――ぶつかると同時に剣の刀身のエネルギーが霧散することで終わりを告げる。レスヴァルのおかげでさらに強力な『黒い月光』を纏うことが出来、それによって作り出された『月錬機』は最初にフェイクに敗れた時よりも遥かに強大なエネルギーを内包しているはずだった。にもかかわらずあっさりとエネルギーが消失してしまったことで少年は絶望のあまり思わず動きを止めてしまう。


 そんなラグナの額にフェイクは親指を使って折り曲げた人差し指を近づけると、折り曲げた指で額を弾く。軽く行われたそのデコピンによって意識が一時的消失するも、数十メートル離れた機材に激突したことで意識を取り戻す。額から流れ落ちる血を拭った少年は頭痛のする頭を抱えながら立ち上がる。頭に強い衝撃を受けた影響か、ぼやけた視界には仮面の男が離れた場所から悠然とこちらに歩きながら向かって来る様子が映る。


(……視界が……クソ……あんな……攻撃で……ここまでダメージを受けるなんて……それに……身体能力だけじゃなく防御力もけた違いに上がってる……)


 刀身が消失した右手の『月錬機』を見ながら表情を曇らせていると――。


「――敵から目を離すなど、ずいぶんと余裕があるようだな」


「――ッ!?」


 ――フェイクの声が突然至近距離から響いたことで驚き顔を上げると眼前にフェイクの姿があった。眼を離した一瞬の隙をつき距離を詰めた仮面の男は右手を少年の顔に突きつける。すると突然その手から巨大な雷撃が放たれた。驚き無意識に後ろへ下がったことで小石に躓き倒れ、間一髪それをかわすことが出来たラグナは見下ろす赤い瞳を見て恐怖し体勢を立て直すと急いで横へ跳ぶ。


(……今の電撃……詠唱せずに発動していた……そんなことまで出来るようになったっていうのか……『神月の光』っていうのはいったい……)


 捕捉されないように動き回りながら混乱する思考をまとめていると、またしても突如声が響く。


「――遅い。後ろだ」


「――ぐ、がはぁッ……!?」


 後ろから上空へ蹴り上げられたラグナの頭上にはすでに右手を突き出したフェイクが待ち構えており、少年が到着する前にその手から無数の雷撃が放たれる。当然のようにそれも無詠唱だった。両腕で咄嗟にそれを防ぐも、雷撃が肉体に直撃しそのエネルギーに呑まれると真下――鉱山頂上の地面に激突する。さらに勢いのまま地面を雷撃と共に突き破り内部の中層部分まで吹き飛ばされる。鉱山内部――下層に近い中層のとある区画にてようやくエネルギーが消え動きを止めた体を起こし自身の推測が正しかったことを理解する。


(……やっぱり……そうか……アイツは……詠唱無しで術を撃てるようになってる……それに……連続して術を撃てるようにもなったのか……しかも……威力も上がってる……ぐ……)


 焼けこげた肉体とボロボロの服を確認した後立ち上がろうとするも体に力が入らず四つん這いになってしまう。そこでようやく周囲に白衣の男たちがいることに気づく。そして台座に置かれた黒い球体の存在にも同時に気づいた。男たちは動揺していたようだが、今の少年に彼らの相手をする余裕などなかった。どのみち失敗し王都に届かない兵器のことよりも今は遥か頭上から見下ろす仮面の男をどうにかするのが先決だったのだ。ゆえにふらつく体をなんとか立ち上がらせ落ちて来た穴を通るようにして勢いよく跳ぶ。


 電撃によって出来た巨大な穴を戻り頂上まで戻って来たラグナは穴を挟んでフェイクと対峙する。戻って来た満身創痍の少年に仮面の男は告げた。


「これで身をもって理解できたはずだ。今のお前では『神月の光』を纏った私には勝てない。それどころか勝負にさえならないだろう。ではどうすればいいか。それは……言うまでもないだろう?」


「…………」


 その問いを黙殺したラグナはじっと見つめてくるフェイクの意図を理解していた。


(……同じ力を……使えって言っているのか……『神月の光』を……俺にも……)


 ラグナはレインと戦った時や『αタイプ』の砲撃を弾いた時の感覚を思い出す。


(……感覚は覚えてる……でもあの時は『銀月の月光』だった……『黒い月光』でやるのは初めてだ……それに俺がやったのは奴の言うところの第二段階まで……うまくいくかどうか……それにフェイクはどうして俺にその力を使わせたいんだ……? ……さっきもわざわざやり方まで説明して……奴の目的がわからない以上、狙い通りに力を使うのは危険な気がする……第一俺自身この力がなんなのかまったくわかってないのに……)


 ラグナが躊躇していると、不意にフェイクの手がブレイディアたちのいる方に向いた。


「――躊躇うのなら。使わざるを得ない理由を作るまでだが。どうする?」


「ッ……!」


 フェイクの手に巨大な電気の塊ができ始めた瞬間――。


(――こいつッ……そうまでして使わせたいのかッ……!)


 怒りと共にラグナの中で躊躇いの感情が吹き飛ぶ。少年の感情に反応するように左眼の赤い瞳が輝きそれと同時に周囲に黒い粒子の嵐が吹き始めた。


(……もう……やるしかない……フェイクを倒すにはこれしかないんだ……アイツの狙いがなんであれ関係ない……この力の正体も、もうどうでもいい……今は……使える力はなんだって使ってやるッ……!)


 その後フェイクと同じように周囲の粒子をコントロールしようとした矢先だった――。


「――あ……れ……」


 突如ラグナの視界がぐらりと傾き、崩れ落ちるように体が倒れてしまう。少年は体にまったく力が入らないその状態から、恐れていた事態が訪れたことを理解する。


(……まさか……タイムリミット……こんな時に……嘘だろ……)


 肉体の活動限界を迎えたラグナが倒れると同時に嵐が収まり身に纏った黒い光が急速にしぼんでいく。その様子を見たフェイクは苛立ったように喋り始める。


「……何をしている。立て」


「……く……う……」


「このままではブラッドレディスたちが死ぬぞ。いいのか?」


「……や……めろ……」


 喉の奥から絞り出すように発することが今のラグナに出来る限界だった。指一本動かせない少年を見たフェイクはため息をつくと手の平の電撃をさらに増幅する。


「……この程度でお前の肉体が限界を迎えるはずがない。お前の体は特別なのだから。問題があるとすればそれは精神や魂の方だろう。……仕方がない。少し発破をかけてやる。大切な者を殺された時、人は憎悪や怒りを糧に強くなると言うが。お前はどうかな」


「……や……やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ……!!!!!」


 ラグナは力の限り叫ぶが無慈悲にも雷撃は放たれる。放たれた巨大なエネルギーはブレイディアとジョイの身を焼き消し炭にすると思われたが、事態は思わぬ方向に進む。銀色の雷の前にフードを被りローブを着た二人の人物が突然現れたのだ。どうやら少年が戻って来た穴から現れたようだが、現れると同時にその手に持った黄色のバルディッシュと青い双剣を電撃の前にかざす。するとバルディッシュと双剣の前に赤い障壁のようなものが発生し電撃を空へと受け流した。


 その際の衝撃により吹き飛んだローブの人物の一人は空中で態勢を立て直しラグナの前に着地する。同様にもう一人も離れたブレイディアたちの前に着地した。少年の前に着地した一人はバルディッシュを持った手を震わせて愚痴る。


「……まったく……とんでもない威力ですわね。この『改良型』がなければ今ので私たちの方が消し炭になっていましたわ」


「……その声……もしかして……」


 ラグナの声に反応したローブの人物はフードを取るとその顔を見せる。見覚えのあるツインテールのその少女の顔を見た少年は思わずその名を言う。


「ジュリアッ……!?」


「ええ。かなり遅れてしまいましたが、ギリギリ間に合ったようで何よりです」


「どうして君がここに……」


「話は後ですわ。それに……来たのは私だけではありませんよ」


 ジュリアの声に合わせるようにブレイディアたちの前に現れた人物もフードを取る。フードの下――そこには青髪の無表情な少女――リリスの顔があった。


「……リリまで……」


「……助けに来た……」


 そう言ったリリスの言葉の後に、雷撃によって開いた穴の中から次々とローブを着た人物たちが現れ始める。その後ローブの人物たちは即座にフェイクの周りを取り囲んだ。その様子を見届けた後、ジュリアはラグナに肩を貸し立ち上がらせる。


「副団長から連絡を受けて救援に参りました。私たちも共に戦います。アルシェでの恩、ここで返させていただきますわ」


 ジュリアの優しい笑顔と頷くリリスの顔を見たラグナは一瞬呆気に取られた後、ブレイディアたちが助かった事実をあらためて理解し泣きそうな顔で笑う。


「……ありがとう。助かったよ二人とも」


 思わぬ助っ人の登場に安堵したラグナだったが、取り囲まれた仮面の男の赤い瞳から殺気が漏れていることに気づき表情を一変させる。


「ジュリア、リリ、アイツは普通の『月詠』じゃないんだッ……! だから――」


「皆まで言わずともわかっていますわ。大丈夫です。私たちもそれ相応の準備はしてきましたから。そう易々とやられはしません」


 ジュリアの自信に満ちた言葉を聞き再び呆気に取られていると、仮面の男とローブの集団の戦いが始まる。  

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