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75話 再戦

  ラグナがレインとの戦いを終えた後のこと。 数機のヘリコプターがダリウス近郊を飛んでいた。そのうちの一機に搭乗していた黒いローブを着てフードを被っていた少女がパイロットに声をかける。


「――ここで大丈夫ですわ。あまりラフェール鉱山に近づきすぎると敵に見つかる危険性がありますから。そうですよね?」


 ローブの少女が声をかけたのは同じようにヘリに登場していた似たようなローブを着ていた女性――サラだった。 


 サラは被っていたローブのフードを取り去ると頷く。


「……はい。ですが……本当にご同行なさるおつもりですか? ここから先は非常に危険ですよ」


「覚悟の上ですわ。私も、その子もね」


「……助けに行く……これは絶対に譲れない……」


 もう一人のローブを着た少女も先ほどの少女と同様覚悟を示す。フードを被った二人の少女の決意を聞きサラは小さくため息をついた。


「……わかりました。では――全員降下準備に入ってください」


 サラは無線で各機体の搭乗員に連絡した。


 直後高度を下げたヘリが全機空中で止まると、扉が開き中にいたフードの人物たちが一斉に『月光』を纏い地上に飛び降りた。全員が無事着地したことを確認したサラはレイナードに連絡を入れる。


「――これよりラフェール鉱山に向かいます。……はい、では後ほど」


 通話を切ったサラが駆けだすと同時にフードの人物たちもまた同様にして走り出した。



 フードの人物たちがラフェール鉱山に向けて走り出した同時刻。踊り子のような格好の妖艶な女性――ベティがラグナとレインが戦っていた区画に突如現れた。その手には携帯電話が握られており、不意に携帯を操作するとそれを耳に当て話し始める。


「――これから実験サンプルを回収します。……はい、了解しました。引き渡しが終わり次第引き続きフェイクの監視に戻ります」


 電話を切ったベティは赤い光を纏い座り込んだ意識の無いレインの体を担ぐ。そして死亡しているロンツェに目を向けた。


「……じゃあねロンツェ。そこそこ楽しかったわ」


 そう言うと遺体に背を向けたベティは肩に担いだレインと共にその場から消えた。



 一方、時は遡りラグナとレインの戦いが佳境にさしかかった時――そんなことは露とも知らぬブレイディアはジョイと共に己の装備を取り戻しラフェール鉱山頂上にたどり着いていた。内部の最も広い区画以上の広さを誇る鉱山の頂上は岩で出来た地面以外は整備されており至る所に機械が置かれていた。女騎士が近くにあった重機に隠れながら様子を窺っていると、フェイクが白衣を着た研究者たちに指示を出している声が聞こえてくる。傍には因縁のある黒い巨大な球体型の装置が置かれていた。


「――ご苦労だった。王都への発射は私が直に行う。お前たちには鉱山内部に置かれている残りの『αタイプ』の破壊が終わっているかの確認を頼みたい。他の部下に指示してはいたが、不測の事態が起きている可能性もある。もし破壊できていなければその時はお前たちで確実に破棄しろ」


「了解しました!」


 白衣を着た男たちが鉱山内部に戻って行くことを確認したフェイクは『αタイプ』の発射を行うべくシステムと繋がっている巨大なコンソールのキーボードを操作し始める。ブレイディアはその様子を見ながらジョイに小声で話しかけた。


「……ジョイ、今から私が『αタイプ』に攻撃する。でも、もし失敗したり、フェイクの邪魔が入ったらその時はアンタが『αタイプ』をなんとか壊して。その間私がアイツを引き付けるから」


「……わかった。やってみるぜ……だが、勝算はあるのかよ嬢ちゃん。あの野郎は『黒い月光』を使ったラグナを一方的にボコボコにした本物の化け物だぜ……」


「大丈夫。たぶんこの場所ならフェイクは全力を出せないと思うからさ。とにかく私を信じて」


「……ああ、了解だ。信じるぜ嬢ちゃん」


 ジョイが頷いたのを見届けたブレイディアはすでにここに来るまでに展開していた『月錬機』を剣の状態から刃が飛行する状態に変えるとフェイクの眼を盗み攻撃を開始する。飛翔する四つの刃はそれぞれが黒い球体目がけて四方から攻撃を仕掛けるも――。


「ッ……!」


 ――衝突の瞬間、透明な壁のようなものにぶつかり刃は弾き飛ばされてしまう。ブレイディアはかつてその光景を見たことがあった。  


(……あれは……確か『ルナシステム』の防衛機能……まさかこれにも備わっているなんて……)


 『黒い月光』を纏ったラグナの攻撃さえ退けたバリアを前にしてなすすべもなく唇を噛むことしか出来なかったブレイディアの耳に静かな声が響く。それは女騎士に背を向けたままの仮面の男の声。


「――これはハロルドの制作した『ルナシステム』プロトタイプの技術を転用し作り出した兵器だ。ゆえに『ルナシステム』の防衛機能も当然使うことが出来る。お前が何をしようとこの『αタイプ』への直接の攻撃は意味を為さない。理解したか――ブラッドレディス」


「……なんだ。隠れてるの、とっくにバレてたんだね」


 ブレイディアはジョイを重機の後ろに隠したまま姿を見せる。それに合わせるようにフェイクはキーボードを叩くのをやめた。直後、黒い球体部分が轟音をあげ全体に赤い線状の光が走り始める。同時に『セカンドムーン』周辺にそれぞれの色に対応したような稲妻が発生した。その光景を見て直感的にマズい状況であると理解した女騎士は動き出そうとしたが、それを阻害するように仮面の男はここでようやく振り返る。


「――今からニ十分後に『αタイプ』の中で融合したエネルギーが王都に向けて放たれる。お前もよく知っているエネルギーだ」


「……『黒い月光』……」


「そうだ。ハロルドはかつてプロトタイプの『ルナシステム』を用いて直接天から『黒い月光』を呼び出そうとして失敗した。プロトタイプでは『黒い月光』を作り出すことはできても呼び出したその膨大なエネルギーを制御できなかったからだ」


「……だったらその『αタイプ』も暴走するんじゃないの? しょせん失敗したプロトタイプの転用技術で完成した二流品でしょそれ」


「この『αタイプ』はお前の想像しているものとは違う。直接膨大な『月光』を空中で融合させ『黒い月光』を天から呼び出す『ルナシステム』とは似て非なるもの。六つの月から見えないほどの少量の『月光』を少しずつシステム内部に呼び安全に運用できる範囲内で六つの光を融合し『黒い月光』を内部で生成することが出来る。射出するまでに少々時間はかかるが、それゆえ暴走の危険は限りなく低い」


「……でもそれってつまり暴走しない程度の少量の『黒い月光』しか使えないってことでしょ。……ああ、なるほど。それで三機も作ってたんだね。一機だけじゃ王都全部を吹き飛ばせないから数をそろえた。そうでしょ? でも他の二機はどうやら完成しなかったみたいだね。これじゃ王都を吹き飛ばせないんじゃないの?」


「お前の言う通りだ。だが腐っても『黒い月光』、一機あれば王都から遥かに離れたこのラフェール鉱山からでも王城付近を消し飛ばすことくらいは造作もない。我々の目的は王城の地下にある。ゆえに一機あれば最低限の結果は出せるだろう。ここから撃てば着弾までに威力はかなり落ちるがそれでも十分すぎるほどの被害を与えられるはずだ。無論、王都の防衛機能が完全に復旧していない今に限られるがな」


「最低限の結果ね……悪いけど、やらせないよ。そんなこと」


 ブレイディアは鋭い眼差しをフェイクに向けるとその身に緑色の光を纏う。


「さっきぐっすり眠れたからね。今の私は鉱山内部で戦った時とは一味違うよ」


「そうか。ならば発射時間までの退屈しのぎにはなりそうだ」


「退屈しのぎ、ね。せいぜいほざいてなさい。へし折ってもだめなら……発射時間までにその首――落としてあげるからさッ……!」


 ブレイディアが跳ぶと同時にフェイクもなぜか女騎士と同等程度の『月光』を纏い戦いが始まる。騎士と仮面の男との間には圧倒的な力量差があると思われたが、勝負は拮抗したものとなる。理由はやはり先の戦いとは違うその弱々しい銀色の光にあった。


 ブレイディアは鍛え上げた我流の格闘術を駆使しながら飛ぶ剣も巧みに操りフェイクに猛攻を仕掛ける。仮面の男はそれに対して防戦一方になり、女騎士は攻撃しながら自身の考えが正しかったことを理解した。


(……やっぱり。ここでは全力で戦えないみたいだね。あんな膨大な『月光』を纏いながら戦えば周囲に甚大な被害を与えるだろうしそれも当然か。同じ理由で『月光術』も使えないはず。別の区画で戦った時も『ルナシステム』のある場所から私を遠ざけてたし。まあとにかくフェイクが全力で戦えない今がチャンス。確かに『月光』を纏っていない通常の状態でもこいつの身体能力は異常。だけどね……あの時とは私も違うんだよッ……!)


 ブレイディアは『月光』の勢いを強めるとさらに苛烈な攻撃を仕掛ける。先ほどまで避けるのが精いっぱいだったフェイクはその動きに反応できず蹴りと殴打を受け空中に吹き飛ぶ。さらに飛翔する四つの剣が滞空中にその四肢と胴体を貫き盛大に血が噴き出すも女騎士はそれでは足りないと言わんばかりに落下するその肉体を激しく蹴り上げた。


 鮮血と共に舞うその黒衣の肉体を追うべく地面を蹴ったブレイディアのもとに飛ぶ刃が集まり手に持った柄に合体する。そして空中でフェイクに追いついた女騎士は横薙ぎに構えた剣を握りしめ叫ぶ。


「〈イル・ウィンド〉ッ……!」


 小さな竜巻が剣を覆う様に巻き付いたのを確認したブレイディアは渾身の力でそれをフェイクにぶつける。振り抜くと同時に衝撃波が発生するほどの勢いで攻撃を受けた仮面の男は数十メートル先にあった重機に激突し倒れた。それを確認した女騎士は着地すると警戒を緩めずにうつ伏せで倒れる敵に近づき声をかける。  


「……首は落とせなかったけど、勝負はついたね。骨折以上の損傷を体中に与えた。流石にこれなら効くでしょ。……でも……どうしてもっと『月光』を使わなかったの?」


 するとフェイクはその血まみれの上半身だけを起こしながら答える。


「……察しはついていると思っていたが」


「『αタイプ』やその周辺の設備を傷つけない為でしょ? でもだったら最初にラフェール鉱山で戦った時みたいに戦いながら私をうまく別の場所に移動させればよかったんじゃないの?」


「『αタイプ』のエネルギー充填中に大量の『月光』を纏えばシステムに影響するのではないかと思ったのでな。それに、お前の言う通りにしたところでそこに隠れている鳥が『αタイプ』のエネルギー充填を止めるためにコンソールに近づく隙を与えかねない。お前もそれを狙っていたのだろう?」


「…………」


 沈黙で返したブレイディアや重機に隠れていたジョイがビクつく様子を見たフェイクはそのまま立ち上がろうとしたが、その前に女騎士がその喉元に剣を突きつける。


「……狙いは読まれてたみたいだけど、それが仇になったね。どうも通常の量と同じ『月光』しか使えないアンタと本調子の私では、私の方が強かったみたいだよ。ってゆーか私のこと舐めすぎ。いくらアンタの身体能力が通常の『月詠』より高くても術やあの異常な『月光』が使えないならやりようはいくらでもあるよ。戦うのが三度目ともなればアンタの動きを予測してある程度対策出来るしね」


「……そのようだな。別の区画で戦った時は『月光』無しでも問題なくさばけていたが、あれはお前の体が本調子ではなかったことが理由のようだ。確かに休息を取った今のお前の動きは以前よりも速く力強い。半年前よりさらに腕を上げたようだ。どうやら術無しの接近戦ではお前の方が今の私よりも上らしいな。存外、楽しめたぞ」


「……楽しめた? ……何言ってるの……今の状況わかってる?」


「ああ。力をここまで抑えて普通の戦いをしたのは初めての経験だったものでな。戯れとはいえ少しの間の退屈しのぎにはなった」


「……わかってないでしょ状況。アンタの四肢の骨は砕けて肉は千切れてる。内臓にもかなりの損傷を与えたんだよ。アンタの肉体はもう終わってる。アンタだってこれ以上苦しみたくないはず。だから――」


「――ひと思いに殺して欲しければ『αタイプ』を止める方法や私の知る『ラクロアの月』に関する情報を話せ、か? どうやら状況をわかっていないのはお前の方らしいなブラッドレディス」


「何言って――」  

   

 ブレイディアが言いかけたその時――フェイクを中心に風が渦を巻いて吹き始める。吹き荒れる銀色の風によってその肉体を吹き飛ばされそうになった女騎士は咄嗟に剣を突き刺し身を屈めた。


「くッ……! な、なんなのこの風ッ……!?」


 ブレイディアが必死にこらえているとその隙に仮面の男は立ち上がろうとした。しかし四肢の骨は砕けているため立ち上がることなど出来ないだろうとそう女騎士は思っていたのだが――。


「――ッ……!」


 ――突如フェイクの体の傷から銀色に光る蒸気のようなものが発生し瞬く間に肉体の損傷は消えて行った。その後何事も無く立ち上がった仮面の男を信じられないものでも見るように凝視したブレイディアは呟く。


「……どうなってるの……術を使って治癒したわけでもないのに……こんなこと……ありえない……」


「――ありえないか。だがお前はそのあり得ない光景を前にも見たことがあるのではないか? 奴が近くにいたのならな」


「……奴……? 誰の事を言って――」


 言っている途中でブレイディアの脳裏をよぎったのはラグナの姿。ここに来るまでの道中や今に至るまでの戦いの中で垣間見た異常な回復力と頑強さが目の前の仮面の男と重なる。なぜ少年と目の前の男に共通点があるのか理解できずに女騎士は黙り込んでしまうと、それを見たフェイクは先に口を開いた。


「……どうやら多少なりとも心当たりがあるようだな。お前の想像どおり私とラグナ・グランウッドには共通点がある」


「……いったいどんな共通点があるっていうの……?」


「体内に流れる『血』だ」


「……『血』……?」


「そうだ。厳密に言えばそれだけではないが、今はいい。そして『血』を持つ者と持たざる者との間には絶対的な隔たりが存在する。つまりお前ではどうあがいても私には勝てないという事だ」


「勝てないって……まだ勝負はついてないでしょッ……!」


「いいやもう終わりだ。……そろそろチャージが完了するな。ではこれで幕を引くとしよう」


「くッ……! ……ッ!? ――きゃあぁぁぁッ!?」


 勝利を確信したようなフェイクの言葉を聞きブレイディアが歯噛みした瞬間、その体は隠れていたジョイと共に粒子の風に巻き上げられる。持っていた『月錬機』は遠方に飛ばされ、肉体だけ上空まで吹き飛ばされたその時、仮面の男の言葉が響いた。


「――〈アル・サンダーボルト〉」


 その瞬間――空中にいたブレイディアたちの周囲の粒子が銀色の電気に変換されると同時に稲光が走り――二つの肉体は高圧電流に晒される。女騎士と赤い鳥は絶叫するもその声は電撃の音に阻まれかき消された。数十秒ほど電流を流されたその体が落下したのは銀色の粒子の風が消えた後。焼けこげた二つの体は落下すると地面に激突し倒れる。仮面の男はそれを静かに見下ろしていた。


 意識が完全に消えたジョイとは違いわずかに残っていたブレイディアは、その身に纏っていた光が消えるほど弱っていたが気丈にもフェイクを睨み付ける。


「……ま、まだ……終わって……ない……」


「……システムに影響が出ると思い少量の残滓だけを変換したのだが、それが原因か。まさかまだ生きているとはな。……まあいい。ならばそのまま見ていろ。生き残った褒美だ」


 フェイクが眼を向けた先には黒いその球体部分を赤く光らせた『αタイプ』があった。見る限りどうやらチャージが完了したらしい。ブレイディアは止めるために動こうとしたが、ダメージの影響か立ち上がることさえ出来なかった。そうこうしているうちに装置のパラポラアンテナに黒い光が収束し始める。そして光が徐々に膨れ上がると、それは放たれた。


 ブレイディアはそれを見て絶望から表情を曇らせるも、その背後の地面が爆発したことに驚き振り返る。十メートルほど後ろから現れた銀色の光はそのまま跳びあがり二十メートルを超える巨大な黒いエネルギーの玉の進行方向の前に現れると激突する。女騎士はその銀色の光の中心にいた少年を見て声を震わせた。


「……ら、ラグナ……く……ん……」


 銀色の光を纏った救世主の登場にブレイディアは安堵と不安の両方の感情を抱く。



 地面を突き破って現れたラグナはここに来るまでの道中になぜか時折脳内に響いて来たフェイクの声やその視点から状況を全て察していた。ゆえにその黒いエネルギー体を両手で持った剣で押し返すことに全力を注ぐ。失敗すれば王城付近が消し飛ぶことを知っていたがゆえに少年は全身全霊の力を込めるも踏ん張る足場がないこともありその肉体ごと王都に飛ばされそうになってしまう。


(……くそ……まだ力が足りない……足場が無い以上腕の力だけでなんとかしないと……そのためには……)


 ラグナはさらに強力な『月光』を纏う。それは十、五十、百メートルと膨れ上がっていくも、それでもやはり軌道を変えるには力が足りない。


(……もっとだ……もっと力を……あの時のように……)


 ラグナの左目が赤く輝いたその時――レインと戦った時のようにその『月光』を中心とした銀色の粒子の嵐が巻き起こる。それが発生した瞬間――押し負けていたエネルギーを押し戻せるようになった。


(――今だッ……!)


 ラグナは歯を食いしばり黒いエネルギー弾の軌道を上に反らせると同時に叫ぶ。


「――〈アル・グロウ〉ッ……!」


 叫ぶと同時に嵐の粒子と『月光』の両方を全て消費し剣から放たれた銀色の巨大な光弾が黒いエネルギー弾に激突しそのまま真上へと押し上げていった。その様子を見たラグナは安堵すると地面に着地し、倒れているブレイディアとジョイのもとへ駆け寄る。


「ブレイディアさん、ジョイッ……! 大丈夫ですかッ……!?」


「……あ、はは……見ての通り……ジョイ諸共やられちゃったよ……君が来てくれて……本当に……助かった……でも……ラグナ君……怪我は……? あんなに重傷だったのに……それにその左眼……いったいどうし――げほッ……」


 ラグナの真紅に輝く左眼の瞳を見たブレイディアは動揺し指摘しようとするも、その前にダメージの影響から咳き込んでしまう。


「喋らないで休んでいてください。……俺なら平気です。それよりも……」


 ブレイディアとジョイの前に出たラグナはフェイクに近づいて行き、二十メートルほどの距離まで間合いを詰めた後鋭い目でその姿を見据える。


「……フェイクッ……! よくもブレイディアさんとジョイをッ……!」


 怒り心頭のラグナの左眼を静かに見据えたフェイクは呟く。


「……なるほど。以前より少しはマシな面構えになったようだ」


「……面構えだけじゃない。今度こそお前を――倒す」


 天から『黒い月光』を呼び出しその身に纏ったラグナを見た後、フェイクは出現した『黒い三日月』を見上げた。


「……『血』は目覚めども、月の形は未だ変わらずか。……いいだろう。王城の破壊は後回しだ。まずはお前を完全に目覚めさせる」


 そう言った仮面の男は以前と変わらないほどのおびただしい銀色の光をその身に纏う。


 互いに臨戦態勢に入った二人は互いの真紅の瞳を輝かせながら戦いを始めた。   

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