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60話 理不尽な決闘

 ラグナとブレイディアが縛り上げられたテトアとミリィに気を取られていると、再びジョセフの声が響く。


「いやぁ~、貴方たちを探すために廃墟を探索していたら、ベティさんの情報通り隠し通路のようなものを見つけましてね。その奥でこの子たちを見つけたんですよ。しかしこの子たちに話を聞いたら先ほどまで貴方たちと一緒にいたらしいじゃないですか。まさか入れ違いになってしまうとはね。これは不幸な偶然だ。まあ、そんなことはさておき……この子たちから真相を聞いたそうですねぇ」


 涙目のミリィとなぜかウェルを睨んでいるテトアに目を向けたジョセフは笑う。


「まあ真相を知ったところで今更どうしようもないですよねぇ。これでわかったと思いますが、副団長殿――貴方たちと彼ら『ラクロアの月』は対等ではありませんよ。さあ、お二人とも武器を捨てて『月光』を解除してください。でないと――」


 ジョセフが顎で指示を出すと部下と思われる騎士二人が心苦しそうな顔でテトアとミリィの喉元にナイフを突きつける。それを見たラグナは反射的に叫んだ。


「やめろッ……! 言う通りにするからその子たちには手を出すなッ……!」


「ではさっさと武器を捨てて『月光』を解除してください。そうすればこの子たちには何もしませんよ」


「…………」


 ラグナは悔しそうな顔をしながら剣を床に捨て『月光』を解除した。それを見たジョセフは満足げに頷くとブレイディアに視線を移す。


「さあ、次は貴方の番ですよ副団長殿」


「……わかったよ」


 ブレイディアも光を消すと、足元に剣を置いた。大人しく従った二人の騎士に対してジョセフは拍手する。


「素晴らしい。流石、騎士団本部の英雄様は違いますねぇ。か弱い子供は決して見捨てない。まさに騎士の鑑だ。ですが……そのせいで命を落とすことになるんですけどねぇ。さあ、それじゃあ仕上げといきますか」


 ジョセフが部下の騎士に目をやると、騎士たちは唇を噛みながら武器を構えこちらに向かって歩き出した。しかし思わぬ人物から制止の言葉が入る。それはロンツェだった。


「おいちょっと待ちやがれッ……! ジョセフッ……! てめえいきなり現れて何仕切ってやがるんだこのボケッ……! こいつらを始末すんのは俺の仕事なんだよッ……! だいたいてめえがドヤ顔で人質にしてるガキどもはベティの情報があったから手に入れられたもんだろうがッ……! 調子に乗ってるんじゃねえぞッ……!」


「おやおや。まさか怒られるとは思いませんでしたよ。しかし私たちが現れなければ副団長たちと正々堂々戦わなければいけなかったのではないですか? そうなればいくら貴方達でも無事では済まなかったでしょう?」


「へッ……てめえらなんぞに助けられなくとも俺らには奥の手があったんだよ」


「ほお……それは大変失礼いたしました。ですがこうしてせっかくやって来た以上私共にもお手伝いさせていただけませんか?」


「くどいんだよッ……! てめえらの仕事はもう終わった、部下の犬っころどもを連れてとっとと消えなッ……! ガキどもはこっちで預かるからよッ……!」


「そうおっしゃらないでください。我々は仲間だ。共に助け合いましょう」


「何が仲間だッ……! てめえは『ラクロアの月』の力を利用するためにフェイク様に取り入りたいだけだろうがッ……! その口実を得るためにこいつらを自分の手で始末するつもりなんだろボケッ……!」


「……どうしても協力させていただけないのですか?」


「さっきからそう言ってんだろうがッ……! てめえには耳がついてねえのかッ……!?」


「そうですか……ですがそうなると私もフェイクさんに貴方が一時とはいえ副団長たちを見失った件を報告せざるを得ないですねぇ」


「ッ……! て、てめえ……脅す気かッ……!?」


「いえいえ、そんな脅すなんて。ただ私としても部下達を動かした理由が必要なんですよ。なにせ我々騎士団支部の騎士はあなた方に統括されてしまっているわけですから。勝手に動いた、などと言われて罰を受けるのは避けたいですしねぇ。まあ……最初から貴方たちと我々が共同して副団長達を倒す予定だった、ということにしていただけるのならこんなを報告しなくて済むのですが。あ、でもそうなりますとやはり我々はこの場に残らなくてはいけなくなりますよねぇ。なにせ仲間なのですから」


「こ、この野郎ッ……!」


「さあロンツェさん、どうしますか?」


 ロンツェは怒りで体を震わせた後、ため息をついた。


「……わーったよ。てめえらにもこいつらの始末を手伝わせてやるよ。その代わりフェイク様には絶対にチクるんじゃねえぞ」


「ええ、もちろんですとも。では――先ほどの続きといきましょうか」


 ジョセフがニヤリと笑いながら身動きの取れない騎士二人の方を見る。ラグナは顔をこわばらせながら身構えるも、ブレイディアはなぜか余裕そうな顔でジョセフに向かって口を開いた。


「ずいぶん長ーいお話だったけど、もういいの?」


「ええ、大変失礼いたしました。これで貴方たちを始末することが出来そうです」


「そう、それはよかったね。でも……ちょっと油断しすぎだよ」


 ブレイディアが笑いながら見つめる先にはテトアとミリィの喉元にナイフを突きつける騎士たちがいた。ジョセフが怪訝そうな顔でそちらに目を向けると――突然騎士二人が倒れた。しかもそれだけではない。なんと周囲にいた別の騎士や『ラクロアの月』の構成員までバタバタと倒れ始めたのだ。それを見て初めて丸メガネの男はその顔を驚愕に染める。


「な……なんだ……これは……いったい……」


 ジョセフは動揺しながらも、その視界の端で素早く飛び回っているに物体にようやく気づく。


「あ、あれはなんだ……何かが動いて……」


「……支部長、下がってください」


 そう言って『月光』を纏ったウェルは『月錬機』を剣に変えるとジョセフ目がけて襲いかかって来たその二つの飛翔体を剣で弾いた。空中まで弾かれたことによってその飛翔体の正体がようやく明らかになる。一番最初に気づいたのはラグナだった。


(あ、あれは……ブレイディアさんの『月錬機』の刀身……)


 切り離された刀身こそが飛翔体の正体。ラグナはわかっていたものの、確証を得るためブレイディアの足元に転がっている大剣に目をやった。そしてそれによってようやく状況を理解する。


(……そうか……あの二人が話し込んでる隙に……)


 ブレイディアの足がトリガーを引いていることに気づいたラグナは彼女が持っている『月錬機』VER2プロトタイプ『可変型』のもう一つの機能を思い出していた。それは刀身が柄から分離し、自由自在に空中を飛びまわる機能。少年の記憶を証明するように高速で飛び回る刀剣たちは踊るように騎士や『ラクロアの月』の構成員たちを翻弄し倒していった。やがて支部長やウェル、ロンツェ、ベティ以外の全ての敵を倒すと、二つの剣たちは驚くテトアとミリィの服をその棘のような刃に引っ掛け体ごと空中に持ち去ってしまう。そのまま一階からでは決して届かない二階の観客席まで子供たちを運んだ刀剣たちは一階に戻るとジョセフたちの周りを飛び回りながらその動きを牽制し始める。


「この武器便利でしょう? 『月光』をエネルギー源にしてるんだけど、『月光』を消してもため込んだエネルギーがまだ剣の中にあるからしばらくは『月光』無しでもこうして動いてくれるんだよね。でもこれ『月光』を纏っている時に出る特殊な脳波で動かしてるらしくてさ、『月詠』は普通の人間よりも強い脳波を常時出してるらしいけど、それでも通常の状態ではこの飛び回る剣を全力で操ることは難しいんだ。ぶっちゃけ支部長たちが喧嘩してくれなきゃあの人数を騙し打ちするのは流石に厳しかったよ。だからくだらない喧嘩してくれてありがとね。隙だらけだったから助かったよ」


「ぐ……!」


 ブレイディアの挑発を受けジョセフは顔を歪めるも、それに対してロンツェは愉快そうに笑い声をあげた。


「ギャハハハハ! いや~、大したもんだぜブラッドレディス! しっかしざまあねえなぁ、ジョセフさんよぉ! ドヤ顔で出て来てこの失態は笑えるぜ!」


「あ、貴方が喧嘩を吹っかけてこなければこんな状況にはならなかったんですよッ……!?」


「おいおい人のせいにするなよ。てめえがちゃんと注意してれば奇襲には気づけたんだからよ。ま、とにかくてめえは大人しく端っこで見てな。なにせ頼みの人質と大量の部下がいなくなっちまったんだからな。ギャハハハハ!」


「ぐぅぅッ……!」


 歯噛みして悔しがるジョセフを無視したロンツェはブレイディアたちの方を見た。


「さて、邪魔者はいなくなったことだし続きをやろうぜ」


「……なんでそんなに余裕なの? 言っとくけどアンタたちに対しても容赦する必要がなくなったってことだからね」


 ブレイディアのその発言を皮切りに二人の騎士は『月光』を纏った。だがそれでもロンツェの余裕は変わらず含み笑いまでし始める。


「クク……せっかく『月光』を纏って臨戦態勢になってるところ悪いけどよ。どのみちお前らは何も出来ないんだぜ」


 ロンツェは懐から取り出したリモコンを押し、己の副官に視線を送る。その視線を受けたベティが歩きだし、舞台の奥の横にあった機械を操作すると折り畳み式スクリーンが舞台の奥に垂れ下がる。続いてスクリーンを垂らした機械の横にあった四角い一メートルほどの長方形の黒い箱のような機械を操作した。


「今、このリモコンで通信を妨害していた装置を止めた。んで、その結果ある場所からここまで電波が繋がるようになったわけだ」


「……ある場所……?」


 ブレイディアの問いに対してロンツェの視線はスクリーンの方へ向く。


「スクリーンを見てみな。面白い映像が見れるぜ」


 警戒しながらも言われた通りそちらに目を向けると、スクリーンにある映像が映る。それを見た瞬間、騎士二人の表情は凍り付いた。その顔を見たロンツェは一際醜悪な笑みを浮かべる。


「言ったろ? 奥の手があるってよぉ」


 ――映像に映っていたのは薄暗い岩場のような場所に座らされ縄に縛られた大量の人々。その服装や怯えた表情から容易に一般人であることが理解できた。さらにそのそばには凶悪な笑みを浮かべ武装した粗野な服装の荒くれ者たちも映っており、こちらも『ラクロアの月』の構成員であることは疑う余地も無い。


「こいつらはラフェール鉱山である兵器を作るために働いてた連中――本当のダリウスの町の住人たちだ。だがもうその兵器を作るうえでの奴らの仕事はほとんど全部終わっちまってな。もう使えねーからこうして人質として再利用することにしたんだよ。どうだ、俺って頭いいだろ?」

 

 ロンツェの勝ち誇った笑みにラグナとブレイディアは歯を食いしばることしかできなかった。それを見て満足したのか、続いてジョセフの方にもその醜悪な笑みを向ける。


「いいか、ジョセフ。人質ってのはこうやって取るんだよ、わかるか? 絶対に手の届かない位置に置いておくことが重要なんだ。そうすりゃ取り戻されるなんて馬鹿みてえな醜態をさらさずに済むからなぁ。勉強になっただろとっつぁん坊や」


「……ええ、勉強になりましたよロンツェさん。貴方の方が私よりも性格が悪いってこともよーくわかりました」


「おいおい、拗ねるなよ。大事な、な・か・ま、としてこれから行うショーの見物くらいはさせてやるからよぉ」


 ロンツェはさんざんジョセフを嘲り笑って満足したのかラグナ達に視線を移した。


「さて、これからがお楽しみだ。わかってると思うが俺の言う事はちゃんと聞けよ。じゃねえと――」


 ロンツェの声に合わせて銃を構えた構成員たちが人質に銃口を向けた。


「――こうなる。わかったな? ――よし、そんじゃあさっそく最初の命令だ。ラグナ・グランウッド――俺と一対一で戦え」


「……一対一……決闘でもするっていうのか……?」


「そうだ。レギン王国を救った英雄様を一対一で倒したとなりゃ、俺の名もそこそこ売れるだろうしな。……ああ、だが一つ条件がある」


「……条件……?」


「なに簡単さ――お前は『月光』を使うことが出来ないっつー条件だ。あ、もちろん俺は使うぜ。なにせ英雄様と俺みたいなチンケなチンピラの実力が対等なわけがねーもんなぁ。ハンデをもらわねえと」


「…………」


 黙り込むラグナに代わり、ここでブレイディアが怒りの声をあげる。


「ふざけないでよッ! そんなの決闘じゃないでしょッ!」


「いいや、これが『ラクロアの月』がよくやる決闘さ。一般的なのとはちと違うが、悪党がやる決闘なんてこんなもんだろ? さあ、てめえも『月光』を消しなブラッドレディス。さもねえと人質の体が穴だらけになっちまうぜ、ギャハハハハ!」


 ロンツェの馬鹿笑いを聞きながらブレイディアは血が出るほど唇を強く噛んだ。そして小さな騎士は身に纏った緑色の光を再び消す。その後ひとしきり笑った悪党はラグナの方に視線を変えた。


「――一応聞いとくが、どうする? 決闘、やるかい? それともアイツら見捨てるか?」


「……わかった。その決闘、受ける」


「よしよし、それでこそ英雄様だ。もし俺に勝てたら人質は解放してやるよ。それと俺様は優しいから特別に『月錬機』だけは使わせてやる。拾いな」


 ラグナは言われたとおり『月光』を消し、足元にあった『月錬機』を拾い上げるとロンツェの前に移動し構えた。


 ロンツェは身に纏った『月光』を強めラグナに敵意をぶつけるように言い放つ。


「さあ、決闘の始まりだ!」


 悪漢の叫びと共に理不尽な決闘が始まった。

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