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新しい人生のはじめ方~無特典で異世界転移させられました~  作者: HAL
第5部 秘められた島/岐路

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それぞれの目的地へ


 魔猪肉のシチューの夕食で腹が膨れ、食後にレギル果実のパイを食べてひと心地ついた後のミーティングは、二対四で分かれた。


「一人で島に残るなんて無茶です」

「ミノタウロスみたいな大物に遭遇したらどうするんですか」


 シュウが一人島に残るのを反対しているのはコズエとサツキだ。それに対して男四人はシュウの希望を優先するべきだというスタンスを崩さない。


「心配してくれてるのはありがたいけど、コズエちゃん達には三ヶ月も協力してもらってるだろ。報酬だって俺に有利な割合になってるし、これ以上は肩身がせめーよ」


 島にいるのもシュウの素材獲得と資金稼ぎの為だし、パーティー収入の配分だって三割をシュウがとり、残りの半分を全員の生活費を差し引き、残ったものが五人に配分されている。いくら一時的な取り決めだとしても、既に三ヶ月も甘えっぱなしなのだ、これ以上女の子に甘えてしまうのは男のプライドが許さない。同じ男の三人はシュウの気持ちが理解できるが、女の子二人には受け入れられないようだった。


「仲間なんだから協力するのは当たり前です」

「けどこの島にいたらコズエちゃんもサツキちゃんもやりたい事できねーだろ」


 コズエが自分達の狩猟服をデザインしたり作ったりするのを楽しんでいる事も、サツキが新しいお菓子を作ろうと試行錯誤していることも知っている。島を出れば素材を手に入れるのも簡単になるし、作った作品を仲間だけでなく多くの人に見てもらえるだろう。


「サツキちゃんさ、昼間アレックスにクッキーバーの話もらって嬉しそうだったよな。あの話って大陸の冒険者がいっぱい居る街だったら実現できるんじゃねーかな?」

「それは……」


 甘味料の価格、潜在顧客数、それらが脳裏に浮かんだようで、サツキの言葉が萎んでゆく。


「コズエちゃんだって俺達の服の修繕ばっかじゃつまんねーだろ。街なら普段着だって作れるし、材料だって選り取り見取りだぜ」

「で、でも、ですね」


 島での普段着は狩猟服だ。街で着ていたような襟にレースをあしらったブラウスも、襞をつくったスカートも、ウエストを縛るリボンも、この島にいては着る事はできない。また狩猟服を作るのも楽しいが、かわいいコサージュや刺繍を凝らしたシャツも作りたい。その欲望がむくむくと膨れ上がりコズエの反対する言葉を邪魔する。


「ミノタウロスは討伐済みだからシュウを心配する必要はないぞ」

「エルズワースさんに鍛えられて、獣人の戦い方ってのを身につけたシュウは強いぜ、知ってるだろ?」

「ヘルハウンドもオーガも一刀両断にしましたからね」

「あれは凄かったです、けど」


 女子二人は男達の援護射撃を受け胸を張るシュウの表情をうかがった。シュウに指摘されて我慢していた様々な欲求が膨れ上がってしまった。シュウの言葉に甘えたいが、流石にそれは自分勝手すぎるのではないだろうか、と。


「コズエちゃん、シュウは女の子に甘えたままなのが嫌なんだよ、これでも立派な男だから」

「これでもってなんだよ」

「男の矜持は立てておかないと後が面倒だぞ」

「面倒なんですか?」

「……多分」


 サツキに兄の言葉は正しいのかと問いかけられたヒロは、微妙に言葉を濁した。妹の説得は兄が責任を持ってくれと横目で睨むが、アキラはアキラでシュウに「自力で説得しろ」と圧力をかけていた。


「本当に大丈夫なんですね?」

「一人だからって無茶はしねーよ。長生きしなきゃなんねーんだから」

「長生きですか?」

「そう。老後は白髪頭で饅頭食いながら縁側で茶を飲むって決めてんだ。魔物に食い殺されて老後の饅頭諦める気はねーからな。いのちだいじに、だ」

「お饅頭ならおじいちゃんになる前に作りますよ?」

「俺、豆大福好きなんだよー」

「おい、話が逸らされてる」

「饅頭と大福は違うぞ」

「と、とにかく、無茶はしねーって約束するから、な?」


 パーティーでの決断はいつも多数決で決めてきた。シュウの強さも理解しているし、ここまで言われてはコズエとサツキもそれ以上反対はしにくい。


「わかりました。その代わり、月末まで狩りのペースを上げましょう。少しでもたくさん稼いでシュウさんの居残り期間が少なくなるように頑張りますよ」


 目標の三十万ダルまで残り四万ダル強。コズエたちの気合が空回りしないように気をつけなければと、コウメイたちはこっそりと息を吐いたのだった。


   +++


「魔法使いギルドのある街って少ないんですね」

「大陸内で八箇所しかねぇんだな」

「各国に一つ、ですね」


 コウメイたちのいる大陸に国は六つある。


「ウェルシュタント国とオルステイン国には二箇所にあるんですね」

「アレ・テタルとダッタザート、オルステインはトレ・マテルとリウ・リマウトか」


 アレックスから預かったリストと地図を照らし合わせた。転移先は各国の王都かそれに順ずる大都市にあるようだった。


「シュウが合流する事考えたらアレ・テタルでいいような気がするけどな」

「でもあそこは王都に近すぎます」

「お兄ちゃんの手配のことを考えると、避けたほうがいいですよね」

「俺が合流しやすいところでもいいけど、コウメイが義眼作りに行ける場所にした方がいいんじゃねーか?」

「そういえばミシェルさんが紹介してくれた錬金魔術師さんってどこに住んでるんですか?」

「ラウって小さい村だ。場所は……ダッタザートから五日ほどの場所、北の森を抜けた先にあるようだな」


 転移先を他国にすると後のシュウの合流に時間がかかる。クレムシュタル国内でとなるとダッタザートしか選択肢はなかった。


「ダッタザートってどんな街なんでしょうね」

「街の規模は王都並みのようだ。隣国から国境を越えて最初の商業都市だからか、とにかく活気があるらしい」


 アキラが地図上のダッタザートを指でなぞった。東の隣国サンステンとの国境に近い大都市だ。南に港町があり、北は森、西には肥沃な平原が広がり穀物の一大生産地である。


「へぇ、この河が国境線なのか」

「街の東側って砂漠っぽくないですか?」

「気候も砂漠っぽい感じなのかなぁ。どんな服を着てるんだろう」


 この世界の地図の読み方を覚えた面々は、記された記号を解読しながらまだ見ぬ新天地に期待を膨らませていた。


   +++


 ギリギリまで稼ぎに稼ぐとコズエが宣言したとおり、六人はひたすら森で魔物を狩り続けた。


「片耳のないあのゴブリンだ。アレが虹魔石持ちだ」

「逃げるぞ、シュウ」

「まかせろ、俺の脚の方が早い」


 シュウは援軍の仲間を呼び寄せようと吼えるゴブリンの首をはね、逃げようとする片耳のゴブリンの前に回りこんで心臓を一突きでしとめた。コズエとサツキは魔石の回収に専念し、ヒロはゴブリンの死骸を穴へと運んでいる。


「お兄ちゃん、あの木に生っている実は採れないかな?」


 季節柄か森には野生の果実が見かけられるようになっており、狩りの合間にサツキはいくつもの果実を見つけ出す。サツキの指差す木を見あげれば、かなり上の方に拳ほどの丸い実がいくつか見えた。


「少し高いな」

「ああ、アレくらいなら俺が行くぜ」


 ひょいひょいとしなる木を器用に登ったコウメイは、片手剣で木の枝を切り落とした。下で待っていたアキラがそれを受け止め、実をもいでサツキに渡す。


「まだ少し硬くないか?」

「そうね、でもコンポートにするならこれくらいの方がいいわ」


 ナナクシャールの森の果樹は大陸の果物とは違って独特の風味があり、味や歯ごたえも力強く癖がある。生食よりも加工した方が断然美味しくなるのだ。島を離れればこの味を楽しめなくなると、サツキは保存加工に忙しい日々を送っている。


「次の獲物いきますよーっ」

「東に四足の大物、南は虫っぽいの、どっちがいいと思う?」

「このあたりの虫って、ワームですよね?」

「ワームは嫌です、四足にしましょうっ」


 魔物の死体の始末に手間取って集まってきたなら仕方ないが、自分達から巨大なミミズ的魔物には遭遇したくない。生理的にダメだと女子二人は涙目だ。


「四足の大物ってことは、ヘルハウンドか」

「いいですね、毛皮も持ち帰りましょう」

「不意打ちできりゃいいんだが」

「あ、気付かれた」

「しゃあねぇ行くぞ、俺が引きつける、アキは氷の矢で援護、シュウは回りこんでしとめろ」


 ヒロはコウメイの背後を固め、コズエとサツキは他の魔物の警戒にあたった。コウメイが挑発して気を引き、シュウが一刀にてヘルハウンドの首を落とす。大陸では町ひとつを壊滅させると恐れられている魔物も、苦戦する相手ではなくなっていた。


   +++


 島を発つ前日。

 ヒロが背負子に大荷物を載せて戻ってきた。


「リロイさんのところに預けてあった皮を引き取ってきました」

「お疲れさまです」

「ありがとうヒロくん。リストはあるかな?」

「これだ。皮はどこに置いておく?」

「引越し荷物の横にお願いしますね」


 玄関前のロビーには島で入手した素材や増えた荷物が所狭しと置かれている。これから全員で荷造り作業だ。

 コズエとアキラが采配をふるい箱に荷物がどんどんと詰められていく。


「着いたらすぐに売却するものはヒロくんとコウメイさんの背負子に乗せてくださいね」

「食材と調味料、食器類はサツキが責任を持って管理しなさい」

「衣類とかは私の背負子にお願いしますね。その他の雑多なものはアキラさんに任せます」


 皮素材のリストを目にしたアキラは難しい顔で眉間を揉んだ。


「ヘルハウンドの皮が五十三枚か。一度に卸すと価格の暴落を招くぞ。時期をあけて三回くらいに分けて売却した方がいいな」

「銀狼の方は全部卸しても大丈夫ですよね?」

「そちらはもともとの単価が低いし、汎用品だから問題はない」

「大蜘蛛の糸袋はどうしますか?」

「こちらも大陸では稀少素材だからな、二回くらいに分けるか、卸し先を冒険者ギルドではなく職人ギルドの方にするか」


 細くて丈夫で魔力を乗せることもできる蜘蛛の糸は高額で取引されている。糸袋を詰め込んだスライム布張りの箱を覗き込んだコズエは、遠慮がちにアキラに頼んだ。


「大蜘蛛の糸を使って作りたいものがあるんですけど、三つくらい貰っていいですか?」

「三つでいいのか? 必要な分だけ取り分けておけばいい」


 狩猟服や日常着など皆の衣服はコズエに全て任せてあるのだ、欲しい素材くらい遠慮せずに使えばいいとアキラは言った。

 荷造りと並行してコウメイとサツキは保存食の製造に忙しかった。


「クッキーバーの保存は十日間くらいですから注意してくださいね」

「魔猪肉の燻製は保存庫にぶら下げてあるからな。切って火を通せばすぐに食えるし、刻んでスープに入れれば出汁も出る」

「俺は料理なんかできねーよ」

「乾燥野菜と燻製肉を鍋に入れて、沸騰したらこの調味料を入れれば簡単スープだ。これくらいは出来るようになっとけ」

「お、おう……」


 コウメイ特製スパイスソルトの他にスープ用ブレンド調味料の瓶を手渡されたシュウは、曖昧な笑みで誤魔化した。この様子では食事は金華亭に頼りきりになりそうだ。


   +++


「えらい荷物やなぁ」


 移動日当日、背負子と箱台車で運び込んだ荷物を見たアレックスは目を見開いていた。糸目を大きく開けてもやっぱり糸目は変わらなかった。


「荷物は転移陣の中にちゃんと置いとかんと、一緒に運ばれへんで」

「ギリギリだなこりゃ」

「荷物でいっぱいですけど、どうしますか?」


 二十マール(2メートル)四方に描かれている魔術陣の範囲内は引越し荷物で占領されており、人の入る隙間がない。


「……とりあえず、魔力を流すアキラの場所だけは確保せなあかんで。他のは荷物の上にでも座っといたらええわ、どうにかなるやろ」


 アレックスの指示で箱を積み上げてアキラがしゃがみこめる場所をつくり、他の面々は荷箱の上に座る場所を作った。


「島を出る五人の契約解除や、順番に印のはいっとる手ぇ出してや。最初はコズエちゃん」

「はい」


 コズエは入島時に紋章が転写された手を差し出した。アレックスが羊皮紙をコズエの手の甲に押し当てると、紋章が羊皮紙に写しとられた。


「わぁ、すごいっ」

「へぇー、そんなふうになるのか」


 羊皮紙は入島時にサインしたものだ。これに紋章を回収すればナナクシャールの森に入ることはできなくなり、いつでも島を出て行ける。

 サツキ、ヒロ、コウメイ、アキラと順番に紋章は回収されていった。


「あ、アキラ。これ転移先の職員に渡してくれるか。指示書と通達や」


 布張りの板を合わせた薄い本のような物が手渡された。開いた中にギルドの機密文書が挟み込まれているらしい。鍵はダッタザートの職員が持っているのだとか。


「それとこれは餞別や」


 アレックスが銀細工の装飾の入った杖をアキラに手渡した。細身で軽く、持ち手の部分の銀細工の中に複数の紫魔石が埋め込まれている。歩く為の補助具ではなく、装飾用のステッキと言ったほうが相応しい形状だ。


「これは魔術師の杖ですか」

「せや、魔力量で勝負するんやのうて、それ使うて技術磨いたら色々楽になるやろう」


 不信を前面に押し出してアキラはアレックスに尋ねた。


「……おいくらですか?」

「餞別やいうたやろ。師匠の好意を踏み躙らんといてっ」

「誰が師匠ですか、誰が」

「えー、ワシ色々教えたったやんか」


 無料より高い物はない。ましてや齢二百四十三歳の人界に馴染んだ狡猾なエルフだ、餞別といわれても素直に受け取れるわけがない。


「ダッタザートについた時のお楽しみのつもりやったんやけどなぁ」

「やっぱり、何か面倒事を押し付けるつもりだったんですね」

「面倒やないって。ダッタザートは職員が一人しかおらんから手伝いやってほしかったんや。冬の間はダッタザートに留まるんやろ?」


 魔法使いギルドは万年人材不足で出張所の管理が出来るレベルの魔術師が不足している。シュウと合流するまで、最低でも冬の間はダッタザートで過ごすと決めたことを聞きつけていたらしい。丁度いいからとアキラに手伝いをさせる事にしたのだという。


「その杖はひと冬の仕事料やと思うたらええわ」

「そういう事なら、ありがたく頂きます。お返しに」

「餞別くれるんか?」


 アキラは赤黒い血の染みも生々しい冒険者ギルド証を取り出してアレックスに手渡した。


「派手に血が飛び散っとって汚いなぁ」

「俺の血とミノタウロスの血ですね。それを王都の冒険者ギルドに提出して、登録を死亡抹消しておいてください」


 これで確実に「亜人族の冒険者アキラ」の存在は消えることになる。


「餞別やないんか」


 がっかりやわぁ、師匠との別れを惜しむ気はないんか、と拗ねるアレックスを無視し、杖を持ったアキラは魔術陣の上に立った。早速杖に魔力を流し、トントンと転移陣を突いて起動させる。


「あんたらのおる島は退屈せえへんかったわ。気が向いたらまた来てぇな」


 アレックスが胸の前でひらひらと手を振った。


「できるだけ早く合流するから、余計なトラブルおこさねーで待ってろよ」


 居残りを決めたシュウがニカっと笑って拳を突き出した。

 コウメイの拳とぶつかり、ゴツンと音がする。

 トン、トン、トン。

 杖の先から注ぎ込まれた魔力が広がり、転移陣の細部にまで行き渡った。


『転移先、ダッタザート』


 アキラの声と同時に、引越し荷物と共に五人の姿が消えた。

 光を帯びた転移魔術陣には、ゴミの一つも残されていなかった。



あけましておめでとうございます。


……まさかの、元旦に第5部最終話がきてしまいました。

区切りとしては、いいのかな?


いつものように1/3投稿の5部の人物まとめと閑話で第5部は終わります。

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