魔物大戦争
タイトル変更するかもしれません。
アキラの虹魔石探査の精度をあげるべく、狩りはラ○ュタの木を拠点に進められた。
初日の雷蜥蜴に始まって、ホブゴブリン、前足の生えた大蛇(竜の一種か?)、白オークから虹魔石を採取したが、いずれも最小サイズ……クズ魔石サイズの物ばかりだった。
「あと何個集めりゃいーんだよ」
シュウが必要としているのは、虹魔石百個か三十万ダルの現金だ。ミシェルへ支払う製作料は現金換算だと途方もなく高額だし、虹魔石で支払うにしても、虹魔石百個と言うのはかなり曖昧だ。魔石には小指の爪先ほどのクズサイズから、人間の頭蓋骨ほどの特大サイズまで幅がありすぎる。どれを基準に百個なのか、基準が分からない。アレックス経由でミシェルに問い合わせたところ。
「ギルド長は小魔石サイズで百個やいうとったで」
「小魔石サイズ一個分は、クズ魔石だと何個になる?」
「三個で一個分やな。この前のでっかいんは三十個分ちゅうとこや」
八岐大蛇をあと九十九匹と言われなくて助かったが、小魔石サイズであと六十九個を集めなくてはならない計算になる。雷蜥蜴だと虹持ちを二百匹以上だ、うんざりするしかない。
もっと効率よく、大きな虹魔石を探して狩る方法を探ろうと、コウメイたちは日々の討伐記録を何度も見返していた。手に入れた情報を書き込んだ地図を指でなぞりながらコウメイが断言した。
「この木が丁度境界線になってるっぽいよな」
「島の中央から南側ですね」
「八岐大蛇の岩丘も位置的には大樹から南になるんですね」
冷たいコレ豆茶と甘い芋餅を手に、毎晩恒例の地図を囲んでのミーティングだ。赤い顔料で地図に書き込まれている印は、虹魔石を取得した場所とその魔物情報だ。それらの印は東西にばらけてはいても全て大樹から南側にあった。
「虹を持ってたホブゴブリンがここで、白オークがここ」
「大樹から離れるほどに魔石が大きくなってるのかな?」
「もっと南下すれば大きい魔石が手に入るかも知れねぇが、町に日帰りできねぇんだよな」
「いっそ森で一泊しますか? 根元なら比較的安全なんですよね?」
島にいる冒険者のうち、「青い疾風」と「クララスの戦友」のふたつのベテランパーティーは大樹の根元でキャンプしながら狩りをしており、町に戻ってくるのは補給時くらいだ。森で暮らすことは無理でも、島の南部探索のために一泊するくらいはコウメイたちでもできそうだ。
「虹魔石って思ってた以上に稀少だよなー。島に来てもうすぐ二ヶ月目だろ。なのにまだ六十個以上も足りねーんだぜ。集めるのがこんなに難しいとは思わなかったなー」
シュウは溜息をつくたびにひと口サイズの芋餅を口の中へと放り込んでいる。大皿に盛った芋餅の減るスピードに眉をしかめたサツキが、そっとシュウの手の届かない位置へ皿を移動させてから宥めるように言った。
「お兄ちゃんが探索できるようになってから収集ペースは上がってますから、焦らなくても大丈夫だと思いますよ」
「せめて小魔石サイズのものを狩りたいですね」
「それには強い魔物のいるところに踏み込むしかない」
自分たちも多少の強敵を相手に連戦可能な戦力を有しているとは思うが、虹持ち規格外の魔物との連戦にどこまで持ちこたえられるかは未知数だ。
「とりあえずは一泊、かな?」
「アキの探索精度を上げる訓練をかねて試してみようぜ」
野営を組み込んだ討伐計画のため準備を整えた六人は、翌日の朝、いつもより重装備で森に入った。
+++
町から大樹までは、途中に何もなければ昼前にはたどり着く。魔物に遭遇する前に小道を駆け抜けた六人は、大樹の根元で荷物を下ろした。
「他のパーティーはまだいないみたいですね」
「荷物を奪われることは無いだろうけど、念のためアレ頼むぜ」
背もたれにできるほどの太い根の影に荷物を置いたコウメイは、アキラに結界魔石を使うように促した。狭い島の中で装備品の盗みを働く冒険者はいないと思いたいが、青い疾風には腕輪持ちがいる。隠した荷物の側の地面に目印の石を置いて、六人は森へと入っていった。
いつものようにアキラが先頭で虹魔石の気配を探索し、より強く大きな気配を感じる方へと進んでいく。これまでより少し深く入ったあたりでアキラが足を止めると、シュウが一人先行して魔物を探って戻ってきた。
「ゴブリンだったぜ」
「数は?」
「ホブゴブリンが一体、ゴブリンが十二体ってとこかー」
「多いな」
「けど今ならいけるぜ」
シュウの先導で慎重に足を進め、ゴブリン集団の様子をうかがえる場所に移動した。ホブゴブリンを囲むようにしてゴブリンが座り込んでおり、彼らは双頭大蛇の死骸を手づかみで裂き千切って食っていた。
「食事中か」
「油断しているな」
数体のゴブリンが警戒のため立っているが、意識は食い物の方に向いてるようで、コウメイたちが近くにひそんでいる事にも気づいていない。
「アキ、虹魔石はやっぱりホブか?」
「……いや、違う。あの背中が赤いゴブリンだ」
アキラが指し示したゴブリンは、ホブゴブリンの後ろに隠れるようにして座っている異質な一体だ。通常のゴブリンは土と草の混じったような汚い色合いだが、そのゴブリンの肩や背中は赤く、腰や足は青みがかっている。集団では異質で浮いていた。
「赤いのだけおびき寄せるとか無理だよなー」
「数が多い、まずはアキの風刃で削げるだけそいで、無傷のやつを片っ端から屠るぞ」
「サツキとコズエちゃんはバックアップを頼む」
一歩前に出たアキラが両手に複数の風刃を作り出し構えた。
「アキ、できるならホブゴブリンを一撃でやってくれ」
「注文が多いぞ」
ぐっと力を込め、風刃の数を増やし、一回り大きく成長させた。コントロールできるギリギリの数と大きさの風刃をゴブリンの集団に向けて投げつける。
大蛇肉を頬張る事に夢中のゴブリンたちは、次々と風刃に腹を裂かれ、腕を斬られ、喉を折られてゆく。
アキラは放った風刃の一つに最後まで意識を載せていた。
狙うはホブゴブリンの喉元。
「ガギャォゥウォォォー」
寸前で自身の腕を盾に風刃から首を守ったホブゴブリンは、右腕を失いながらも即座に戦闘体勢をとり、地を蹴った。
「シュウは赤いのを! ホブは俺がやる」
片腕を失ってもホブゴブリンの戦闘力は落ちていない。むしろ爆発させるような怒りを乗せた力でコウメイに襲いかかる。ホブゴブリンの素手の一撃を剣で受け流し、返しで脇腹を斬りつける。硬い表皮と筋肉は簡単には傷を負ってはくれない。
「切れ味増してるはずなんだけどなぁ」
ロビンに鍛えなおされた長剣はナナクシャールの頑強な魔物に対してもそれなりの切れ味を示してきた。それで斬れないと言うのならばコウメイの腕の問題なのだろう。
武器を持たないホブゴブリンの攻撃は、拳一つ。飛び散る血をものともせず動き回り、重い拳を連続で打ち下ろす。
コウメイは小盾と長剣で攻撃をかわしながら隙ができるのを待った。
暴れ、大量に血を振り撒いたためか、ホブゴブリンは踏み込みで膝が力負けした。
ぐらりと揺れたホブゴブリンの真正面へと踏み込み、その喉元に剣先を突き込んだ。
「終わり、と」
地面に倒れたホブゴブリンに、念のためにと心臓にもう一撃を与えてから皆を振り返った。サツキはコウメイの援護に集中することでホブゴブリンに専念させてくれていたし、アキラとヒロは二人がかりで順調にゴブリンの数を減らしていた。
「そっち終わったんなら手伝えよっ」
コズエに援護されているシュウは、赤ゴブリンとの一対一に苦戦していた。
「虹持ちはやっぱり強いみたいだな」
「強えーつうか、硬てーよ」
コズエに代わってシュウのサポートにまわったコウメイは、まるで魔猪のような突進と銀狼並みの敏捷さ、そして蜥蜴類のように硬い表皮の赤ゴブリンに驚いた。コズエのサポートがあったとはいえ、一人でよく持ちこたえたものだ。
「表皮が硬くても、弱点はかわらねぇ。喉と脇は他よりも薄い」
「わかってるけどよっ」
表皮の赤いゴブリンは剣を持っていた。まだ錆びていないブロードソードで剣士ばりに切り込んでくる。赤ゴブリンの戦い方は魔物とは思えない人間らしさがあった。シュウが手こずるのも納得できる相手だとコウメイは気合を入れた。
足払いの長剣は飛び越えられ、浮いた身体に突きつけた切っ先は弾き返される。背後から背を狙った一撃は背骨を強打せしめたが、長剣の触れた赤い表皮が一瞬だけ燃えたように見えた。
「おらぁっ」
下から斬りあげた剣が顎を切り落とした。
もんどりうって転がった赤ゴブリンの膝を、コウメイの一撃が折る。
仰向けになった心臓めがけ、シュウの剣が突きこまれた。
赤ゴブリンの絶命を確かめ、友人達を振り返った。
「アキ?」
「こっちはもう終わっている」
ヒロと共に残るゴブリンは全て屠り終えていたようで、手分けして魔石を取り出しているところだった。
「怪我ねぇか?」
「大丈夫です」
「ちょこっとした掠り傷程度ですよ」
多少衣服が血に汚れているが、そのほとんどが返り血だった。シュウは早速赤ゴブリンから魔石をほじりだしていた。
「おし、虹魔石だぜ!」
クズ魔石よりも一回り大きな石だった。
「これ小魔石サイズだよな?」
「クズよりは大きいのは間違いねぇと思うぜ」
ホブゴブリンから取り出せたのは中魔石だった。ナナクシャール島でなら三百から四百ダル程度で買い取ってもらえるだろう。転がる死体から魔石を回収して戻ったコウメイとシュウは全員の無事を確かめると、ゴブリンの死体をそのままに移動を始めた。
「大蛇がいないかよく確認しておけよ」
そう言ってアキラは立派な枝振りの木に登った。太い枝を選んで上へ上へと進むアキラをコウメイが追って続く。シュウやヒロもそれぞれサツキとコズエに手を貸しながら程よい木に待機場所を構えると、転がるゴブリンらの死体を見下ろした。
「どうだ、虹の気配はあるか?」
「まだ遠いが、ある」
「高い所にいると魔物が集まってきてるのが分かりやすいぜ」
ゴブリンの死体を撒き餌に魔物たちを呼び寄せ、集まってきた魔物の中に虹魔石を持つものがいれば、それを狙って狩るのだ。
「どれくらい来てますか?」
「あっちから獣系が複数と、こっちの方からは二組かな」
シュウが指差したのは真南と南西の二方向だ。風は北から南へと吹いているが、血の臭いをかぎつけるにしてはかなり早い反応だ。
「虹魔石は?」
「……南からやってくる中に、たぶん二つ」
「思ったより少ないな」
「まだ距離があるからな。近づいてくればもっと詳細に分かるはずだ」
アキラの言葉通りに、魔物の集団がゴブリンの死体に群がる頃には、それらの中から虹魔石を持つ個体が複数確認できるようになっていた。
「一番太いワームとヘルハウンドの小さい方、白い双頭大蛇の頭のどちらか、ホブゴブリンと白オークの耳が片方欠けている奴」
撒き餌の死体に最初にたどり着いたのはヘルハウンドの番だった。続いてワーム四匹が地中から現れてゴブリンに吸い付き、青大蛇二匹と双頭の白大蛇がぬらりと滑り入って死体に噛みつき、銀狼の小さな群れがヘルハウンドの下から顔を出して死肉を咥えては逃げるを繰り返し、白オークの群れとホブゴブリン率いるゴブリン集団が現れたのはほぼ同時だった。そうして集った魔物たちにより、地上ではグチャ、ガリ、ブチュ、バキボキ、ネチャネチャ、ゴックンと直視に耐え難い食事が始まったのだ。
「ゴブリンって、仲間の死体も食うんですね」
生臭いホラーな光景を顔をしかめながら見ているヒロがぽそりと零した。
「死肉はただの死肉だしな。食えるものは何でも食わなきゃこの森では生き残れねぇんだろうぜ」
コズエもサツキも目を逸らさず何とか現場を見ていたが、その顔色は良くはない。
「……すぷらったには慣れたつもりだったけど、きますよコレ」
「あの、こんなにたくさんの魔物を相手に戦うんですか?」
種類の異なる魔物が三十体近くも集って食事中なのだ。先ほどのゴブリン集団は食事中の隙を強襲したが、今回も強襲が成功するかは分からない。
「いや流石にこの数の魔物は無理だって」
「チョロチョロしている銀狼も入れれば四十近くなるんじゃねぇか?」
「無理です、無理っ」
これは作戦ミスだったなとため息をつき、どうやってここから安全に退去できるだろうかと考え始めたとき、魔物たちの食事風景に変化が起きた。
大小合わせ約四十匹の魔物に十二体分の死肉では到底満腹には足りなかったのだ。
「うわぁ……喰い合い始めたぜ」
「ゴブリンとオークは集団戦ですね」
「ワームが最初にやられたか」
オークがワームを囲んで滅多打ちに殴り殺した。硬い表皮は溶解液がかかってもたいしたダメージにはならず、撲殺されたワームは地中から引き抜かれ食われていった。
「あ、あ、俺の虹魔石が食われたっ」
「落ち着いてくださいシュウさん、降りちゃ駄目です、死にますよ」
木から飛び降りていこうとしたシュウはサツキにしがみついて止められ、虹魔石が白オークの腹に入っていくのを見ているしかなかった。
「ゴブ集団は大蛇か」
「でもヘルハウンドがゴブリンを丸呑みしてますよ」
「銀狼達はヘルハウンドに使われてるっぽいな」
青大蛇を囲んでタコ殴りにしているゴブリンを間引くようにヘルハウンドがガブリと噛み飲み込んでいる。子分のゴブリンを守ろうというのか、ホブゴブリンは襲いかかる銀狼を蹴散らしヘルハウンドの顎を殴りつけた。
「怒ってるぞありゃ」
「火が来る」
雌のヘルハウンドが咆哮と共に火炎を吐き出し、ホブゴブリンの左半身と大蛇に群がるゴブリンの半数を焼いた。これに銀狼が跳びかかり、焼けた暴れるゴブリンに噛みついては肉を喰いちぎりはじめ、双頭大蛇はワームに群がる白オークに狙いを定めて音も無くにじり寄っている。
「すげーな」
「これ、虹魔石がどうなってるのか分かるか?」
「ワームの虹魔石は双頭大蛇に絡みつかれてるしオークの腹の中だな」
魔物食いが進めば強力な魔物は残るが、数は減る。
「休憩にしねーか?」
「もうお昼過ぎてます、けど」
「リアル魔物大戦争を見ながらの食事はちょっと……」
そろそろ補給は必要だが、RG指定が必要なほどのリアルなものを見ながらの飲食は精神的に辛いものがある。
「まあ、クッキーくらいは腹に入れといてもいいかも」
「アキは魔力回復が必要なら薬飲んどけよ」
「とっくに飲んだ」
周囲への警戒を続けながらも魔物大戦争の行方を見守り、腹を満たした生き残りの魔物たちがのそりと退散を始める前に、コウメイたちは全力での奇襲攻撃で魔物たちを屠った。アキラだけでなく、コズエやサツキ、ヒロの魔法も使ってヘルハウンドの番と双頭の白大蛇に虹魔石を食った白オークと銀狼をしとめ、無事に全ての魔石を回収した六人は、セーフゾーンの大樹を目指して大急ぎで戻ったのだった。
+++
「なんや、もう戻ったんか」
糸のような目をさらに細くして笑うアレックスが、コウメイらが荷物を隠匿した木の根にもたれていた。




