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新しい人生のはじめ方~無特典で異世界転移させられました~  作者: HAL
第5部 秘められた島/岐路

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大樹の守り


 ロビンに手入れと補修を頼んでいた武器が仕上がってきた。


「切れが良くなるように鍛えなおしといたが、あんまり力任せに振り回すんじゃねぇぞ。切れ目、裂け目、節目、何でもいいがちゃんと魔物を見て剣を使え。斬れる、突ける、そういう部分を見極めて振るえ。それができなきゃ来月には得物じゃなくて誰かが欠けることになるぜ」


 厳しい指摘とともに送り出されたコウメイたちは、約一週間ぶりの愛用の武器を手に森に向った。


「まずは慣らしだな」

「切れ味が良くなってるって言ってたし、最初は軽く魔獣で試してぇな」


 進む方角は森の中心部分だ。大蛇戦の時に見つけた大樹の方角へ森に入ると、草土が踏み固められた細い道があった。明らかに獣ではなく、人の足で踏み固められてできたものだ。


「他の奴らが頻繁に使ってるルートみたいだな」

「目的地はあの大樹か?」

「色も珍しかったし特別な木なんだよ、きっと!」


 それを目的として人が通っているということは、何かしらの理由があるはずだと期待したくなるのも仕方ない。


「天地を支える世界の中心かな。それとも蘇生の秘薬になる葉を落とす聖樹かな?」

「ゲームじゃないんだぞコズエ」


 弾むような口調のコズエに、周囲の警戒を怠るなとヒロがやんわりと注意を促す。


「単なる目印にしているだけかもな。地図で見た感じだと、島の南部と町の中間点にあるようだし」

「着いてみればわかるだろうぜ」


 先頭はアキラ、コウメイとコズエが続き、ヒロ、サツキ、しんがりがシュウの順でその道をたどって進んだ。掻き分ける雑草や障害になる岩などを確認する必要のない歩みは、いつもよりも速いペースで奥へ奥へと順調に進んだ。


「三体、四本足だ」


 足を止めたアキラが譲った立ち位置にコウメイが一歩進み出て、長剣を抜き構えた。

 ヒロがコウメイの横に並ぶ前に三頭の銀狼が連続で襲い掛かってきた。


「早いっ」

「後ろ、頼む」


 コウメイとヒロは銀狼の攻撃を薙ぎ払った。

 アキラが身をかわして避けた一頭が、最後尾のシュウとサツキに向ってゆく。


「まかせろって」


 左右に素早いフットワークでシュウを牽制する銀狼は、回り込んだサツキの一撃を避けると、ひと蹴りで方向を変えシュウの背後を狙った。

 むき出しの犬歯が後頭部に噛み付く寸前、振り向きざまの剣が銀狼の頭を殴った。

 サツキの足元を狙って殴り飛ばされた銀狼を、待ち構えていたメイスが打ち割る。


「とどめ、お願いしますっ」

「まかせとけ」


 肩の辺りの骨を割られヒクヒクと痙攣する銀狼の首をシュウが切り落とした。サツキが素早く魔石をほじり出す。


「あっちも終わってる」 


 ヒロの足元に横たわる銀狼からは既に魔石が取り出された後だったし、最後の銀狼はコズエの槍が胴を貫いて絶命したところだった。


「コウメイがしとめ損なったのか?」

「久しぶりの重さでちょっとな」


 出掛けにロビンに指摘された事を考えていたコウメイは、戦闘の間も見極める事に専念していた。銀狼相手なら動きを読み、どこにどう攻撃を加えれば最小限の力で屠れるのかはだいたい分かる。だが強化されたゴブリンやヘルハウンドを相手にしたときに見極める自信はない。まだまだ鍛錬が足りないな、とコウメイは剣を鞘に収めた苦笑いで誤魔化した。


「レベルが上がったって感じでしょうか、剣が軽く感じます」

「数字は目に見えねーけど、強くなったって実感はあるよな」


 ヒロやシュウも短い戦闘でも自分の身体の動きや武器の扱いやすさの変化を実感していた。

 冒険者たちが踏み固めた道は、魔物が襲い掛かる道でもあった。コウメイたちはゴブリン、双頭大蛇、大蜘蛛、ヘルハウンドに火蜥蜴と次々に襲われた。数体の群れで襲ってきたが、覚悟していたほど苦戦することもなく全てを屠った。


「砂浜トレーニングもやったし、八岐大蛇での経験が活きてる感じか?」

「死闘をくぐり抜けただけのものは身についているという事だ」

「ロビンさんの手入れのおかげもあると思いますよ。槍が凄く扱いやすくなってますし、先がすって刺さっていくんです」


 火蜥蜴から魔石を取り終え、死体をいつものように埋めようと、場所を探して道から離れ踏み入ったところでコズエの足が止まった。


「これ、骨ですよね?」

「魔獣も魔物も、色々混じってるみてぇだな。これは魔猪の頭蓋骨で、こっちのはゴブリンのだ。この長いやつは大蛇だろうな」


 白骨化したものや、乾きこびりついた血肉の染みのある新しいものまで、魔物に食い荒らされたらしい死骸や骨がごろごろと転がっていた。


「道からそれほど離れていないし、魔物の死体の捨て場だな」

「それって他の冒険者たちがここに死骸を捨ててるって事ですか?」

「俺たちほど丁寧に後始末をしないんだろうな」


 つい習慣で魔物の死骸は必ず埋めていたが、冒険者ではコズエたちのような処理をするほうが少数派らしい。


「ここに固めてるって事は、魔物避けのためでもあるんだろうな」

「死骸に群がっている間に先に進むわけか」


 アキラはつま先で四足の魔獣らしき骨を蹴った。魔物の死骸も使い方次第かと小さく呟いた。


「どうします? 私たちも他の人たち見習ってみます?」

「気分的には埋めておきたいかな」

「撒き餌に群がりすぎても面倒だしなぁ」

「大樹までたどり着くことを優先するなら、埋めずに放置だな」


 道があるとはいえ、こうも魔物の襲撃を受け続けていればいつかは疲弊し、目的地にたどり着く前に引き返さざるを得なくなる。郷に入っては郷に従え、だ。今は他の冒険者の知恵を見習っておこう、とコウメイは火蜥蜴の死骸を転がっている骨の上に投げ捨てた。


「不必要な戦闘はできるだけ回避したい、虹魔石を持ってそうな魔物と、大物狙いでいこうぜ」

「今日は目的地到達が最優先だな」


 六人は再び道に戻り、大樹を目指した。


   +++


 ナナクシャール島は島の中央部分に向って緩やかに盛り上がった一つの小さな山のような形をしている。大樹があるのはその山の頂上より手前、密集していた森の木々がまばらに散るようになった辺りを抜けたところにそびえ立っている。


「煙の臭いがする」

「火事か?」

「ちげーよ。これ肉焼いてる臭いだぜ」


 シュウの鼻は煙に混じる脂の臭いを感じ取っていた。臭いの先を見据え、木々の隙間から見える巨大な幹を指差した。


「目的地のあたりで、誰かが肉焼いてるみてーだ」

「他の冒険者か」

「そろそろお昼時ですもんね」


 昼食休憩中の冒険者が居るようだ。のんびり焚き火をして肉を焼くだけの余裕があるということは、大樹の根元は比較的安全が確保された場所なのだろうとコウメイは足を速めた。


「……面倒なパーティーじゃなければいいが」

「お兄ちゃんは何を心配してるの?」


 アキラの呟きを聞いたサツキが心配そうに兄を見上げた。


「島にいる冒険者の中に、揉め事になりそうな人がいるの?」

「狩場争いに発展すると面倒だと思っただけだ」


 この島に滞在している冒険者たちは、虹魔石のために狩りをしているといっても過言ではない。過去に虹魔石を得たエリアや含有率の経験などから、それぞれのパーティーが独自に活動場所を定めているのは間違いないだろう。滞在している冒険者の数に対し森は広大で、狩場を争う必要もないのだが、大樹を基点に狩場を持っている冒険者たちのところにコウメイたちは割り込む形になるのだ、ひと悶着あっても不思議ではない。


「とりあえず行ってみて、面子を確認してから考えようぜ。流石に全部のパーティーがそろってるわけじゃねぇだろ」


 今日狩りをしていない空いた場所を借りるくらいはできるだろう、コウメイは揉めそうになればそういう方向で交渉するつもりだった。


「二組いますよ」


 身を隠すのも難しいほど細い木越しに、距離をあけて座り込んだ集団が見えた。コズエが発見したのとほぼ同時に、あちらもコズエたちに気づいていた。警戒するように気配が引き締まる中へ、コウメイは武器から手を離し敵意がないことを示しながら進み出た。


「そこの端で飯食わせてもらうぜ」


 先客は中堅冒険者のパーティー「黄金の戦斧」と、奴隷の腕輪をつけた三人を従えたベテラン冒険者の「青い疾風」の二組だった。「黄金の戦斧」は気さくで何度か話した事のあるパーティーだが、「青い疾風」の方は町ですれ違うときに軽く会釈する程度の面識しかない。


「肉はこれから狩るのか?」 

「いや、弁当持参だ」


 黄金のリーダーにそう返したコウメイは、二組のパーティーから距離をあけた大樹の影に腰を降ろした。アキラたちもその脇へと順番に座り、リュックから弁当を取り出した。小さめのピザ生地のようなパンをナイフで裂き、そこに酢漬けのレトの葉と魚の揚げ焼きを挟んだサンドイッチと、焼いた芋餅もどきがコウメイたちの弁当だ。


「「「「「「いただきます」」」」」」


 声をそろえた六人を黄金の戦斧の面々が珍しそうに見ていた。パーティーリーダーは二刀流の剣使いで、杖を脇に置いているのが魔術師、焚き火の反対側で気まずそうにコズエたちをチラチラと見ている二人が人形遊びの彼らで、サツキの使っているものよりも格段に重そうなメイスを背負っているもう一人は、焼ける肉にしか興味はなさそうだ。


「変わったパンですね」


 魔術師の、名前は確かドミニクといったか、彼がコウメイの手にある芋餅を珍しそうに見てきた。


「とても柔らかそうだ」

「これはパンじゃなくて餅……って分かるかな」

「モチ? 異国のパンでしょうか?」


 こちらでの小麦粉にあたるハギ粉を使っているので、パンの亜種と言えば言えるだろうか。そんなやり取りをしている間も、コウメイは周囲の観察を怠らなかった。太陽の光を遮る枝を伸ばした大樹は、とにかく大きい。神社の境内で樹齢三百年の御神木を間近で見たことがあったが、それよりもはるかに大きく太く力強く感じる。


「太いですね……一回り何メートルくらいあるのかな」

「直径は五メートルくらいありそうですよね」


 コウメイの視線につられるように見あげたコズエとサツキは、思わずラ○ュタと呟いた。互いの声を聞いてぷっと小さく吹き出し笑う。

 大地の表面に出た根も太く硬く、濃い緑の葉をつけた枝も包み込むように広く伸び、もしもその根が青く巨大な魔石を縛っていたとしたら、本当に空へ飛んで行ってしまいそうに思える大樹だ。


「若葉が紫色だな。かすかに魔力が漂っている……」


 アキラはサンドイッチを食べる事も忘れ見惚れていた。遠くからでは気づかなかったが、こうして枝の下に入ればはっきりと魔力を感じ取れる。樹木の魔力は、例えるならその若葉の色のように淡く眩しい紫色をしていた。


「それって大丈夫なのか?」

「ああ、ふんわりと包み込むような優しいものだから、心配はない」


 常緑の広葉樹らしい濃い緑の葉からはほとんど魔力を感じないが、枝の先にある新芽や若葉からは、かすかな魔力が放出されていた。葉の一枚一枚ではそれほどではないが、全ての紫葉から放たれる魔力は大樹の周辺に漂い一帯を覆っている。


「気がつきましたか? この大樹を中心にして微力な結界が張られているんですよ」


 放たれた魔力の行方を見極めようと目を細めたアキラに、黄金の戦斧の魔術師が声をかけた。


「結界……だからのんびり肉を焼いてられるのか」

「いわゆるザコ魔物はこの木には近寄ってきませんからね」

「魔猪とか大蜘蛛あたりですか?」

「獣もだけど、虫系魔物はほとんど近寄ってこないよ。木が自分に害のある魔物を排除している感じかな」


 そう言ってドミニクが大樹の枝を見あげると、彼の言葉を肯定するかのように紫色の若葉がざわめいた。


「植物にも意思があるのか……」

「これくらい大きくて魔力を貯えた木だ、そういう事もあるかもしれねぇな」


 同じように枝を見あげたアキラとコウメイは、世界の不思議に感嘆の息を吐いた。

 コウメイたちの食事か終わる前に、青い疾風の六人が焚き火を消し腰を上げた。無言で装備と武器を確認し、腕輪付きの三人を従えて森へと入っていく彼らは、歩き出した瞬間から殺気が迸っていた。


「おっかねー」

「気合入ってる感じですね」


 虹魔石を狙う競争相手であっても、黄金の面々とは情報交換なりの会話ができるが、疾風の冒険者たちは声をかけづらい雰囲気がある。


「疾風さんは期限があるからね、どうしても稼ぎ優先になるからああなっちゃうんだよね」


 島にいる冒険者たちはそれぞれワケアリばかりだ。それぞれの事情に立ち入ることはしないが、限られた場所で暮らしていれば自然に耳に入る事もある。青い疾風の目的は、人の頭ほどのサイズの虹魔石だ。クズサイズの魔石は見向きもしないのだという。


「君たちはここに来るのは初めてだよね?」

「ええ、東よりの岩丘あたりで狩りをしていたので。皆さんはいつもこの大樹の辺りで狩りですか」

「ここを拠点に、南に攻め込むって感じだな」

「狩場の縄張りとかあるんですか?」

「この島では狩場の占有は意味がないからね、好きなところで狩ればいいよ」

「やはり島の南側がねらい目ですか?」

「そうだね、虹を持つような大物は南の端に多いね」


 黄金の戦斧の五人は狩場情報を隠すことなくコズエたちに教えた。


「南下するにしたがって魔物は強くなるし、虹魔石も大きくなるよ。西よりに南下した所にある池の辺りには雷蜥蜴がいるんだけど、火蜥蜴よりも雷蜥蜴の方が虹を持ってる割合は多いかな」

「池なんて地図に載ってませんでしたよ?」

「アレックスからいくらで地図を買った? あいつ値段によって情報を削るよ」


 苦労して得た地形情報や魔物の情報を地図に書き加えてきたが、それらが最初から書き込まれた地図がギルドにはあるらしい。


「言い値を払ったんですけど」

「情報料を追加するべきだったね」


 悔しがるコウメイたちにドミニクは冒険者の常識だよと笑って言った。


「楽して情報を得たいなら金は払わないとね。島の外なら白地図でも十分だけど、ここじゃかなりキツイだろ」

「そうですね、何が出るか分からないのは結構大変です。この前は大怪我もしましたし」

「東よりの岩丘だっけ? 多頭の大蛇に囲まれた?」

「巣がありました」

「そこを越えた先にオークの巣があるよ。島にいるオークは肉が硬くて食えたものじゃないけど、一番小さい虹魔石ならゴブリンよりもオークだね」

「情報は金なんですよね、俺たちにぺらぺら喋っていいんですか?」

「これくらいは大した情報でもないし。それに知ってても活用できるかどうかは分からないだろ」


 にっこりと笑う魔術師の表情には少しばかり人の悪さが見え隠れしていた。


「安全に虹魔石を狙うなら、ここで待ってればいいよ。大樹の結界を物ともしない大物がたまにやってくるからね。数カ月に一、二匹くらいだけど」


 無料の情報提供はここまでだとでも言うように立ち上がった黄金の戦斧の五人は、焚き火の始末をして疾風の後を追うように南の森へと立ち去った。


   +++


「どうする? 俺たちも南下するか?」


 食事を終えミント水で喉を潤したコウメイが思案顔のアキラに聞いた。


「いや、試したいことがあるから大樹の結界から外れる辺りで狩りをしよう」

「何を試すんですか?」

「虹魔石の探知だ」

「あー、あのピリピリするってやつか」

「闇雲に狩りをするよりも、感じる方角に狙いを定めたほうが効率的だ」


 六人は武器を確かめ、錬金薬の数を数え万が一の備えを確かめると、ゆっくりとした足取りで大樹から離れた。先頭を進むアキラが大樹の魔力を感じなくなったところで足を止め、全てを感じ取ろうと神経を研ぎ澄ませた。


「……」


 アキラの邪魔にならないようにと、五人は可能な限り気配を殺し周囲の警戒にあたっている。


「かなり小さいが、ある」

「どこだ?」

「あちら、だな」


 言葉で表すのが難しいのか、アキラは指を刺して示した。


「遠いから小さいのか、魔石が小さいから痛みが小さいのかは分からないが」

「方角的には南西寄りだな」


 アキラを先頭にいつもの隊列でゆっくりと進んだ。数メートルごとに足を止め、虹魔石の気配を感じ取るために目を瞑るたびに、足取りは確かなものになってゆく。


「ドミニクさんが教えてくれた池の方角ですね」

「となると獲物は雷蜥蜴かな」


 蜥蜴と聞いて思い出すのはアレ・テタルでの羽蜥蜴だ。


「羽蜥蜴ん時も思ったけど、あれは蜥蜴と言うよりもワニだよな」

「ワニでしたよね、空を飛んできたけど」

「空を飛ぶワニ?」


 シュウは蜥蜴と名のつく魔物に遭遇した経験はないらしい。


「ワニかー。じゃあ雷って事は、雷落とすのか?」


 魔法を使う魔物がいるというのは聞いた事がなかった。コウメイの魔物図鑑にもそれらしい魔物は載っていない。蜥蜴と記された魔物一覧の中に羽、雷、火、氷とあった。


「……魔法攻撃って表記じゃなかった気がするんだよな。雷に注意、って書き方だったような」


 魔物図鑑は何度も読み返したが、出会ったことのない魔物に関しての記憶はおぼろげだ。


「まあ戦ってみれば魔法かどうかも分かりますよね」

「避雷針になるものでも用意するべきかな」


 そんなことを話している間に木々の間から濁った水面が見えた。ぽかりと開けた小さな空間に、少しばかり大きな水たまり。


「うわー、ウジャウジャいるぜ」

「これが雷蜥蜴なんでしょうか?」


 水面から出ている頭や背は鉛の混じった青い色をしている。デコボコとした表皮は見た目にも硬そうだ。


「ワニだ」

「ワニですね」

「ワニだよなぁ」


 一匹二匹ではない。三十匹か、五十匹か、それ以上のワニが、並び、押し合い、重なり合うようにして水面から顔を出し、こちらを見ていた。人間が現れたというのに、雷蜥蜴は池から上がり攻撃してこようとしない。


「この中にいるぞ。多分、池の真ん中あたりに」 

「こっちから行くのは無理そうだな。あっちから向ってきてくれねぇかな」

「全部倒すしかなさそうですよ?」


 それぞれの武器に手をかけた。


   +


 見た目がワニの魔物は、やはり雷蜥蜴だった。

 魔物図鑑の記載に誤りはなかった。

 雷に注意、そのとおりだ。

 バチィ!

 コウメイの長剣がワニの頭を殴り斬ったとき、瞬間的に火花が飛び、柄を握る手に強烈な痛みが走った。


「ってぇな」


 バックステップで安全域までさがったコウメイは、痺れる手を振っている。


「大丈夫か?」

「凄い音がしましたよ」

「なんか、静電気っぽかったような?」

「コズエちゃん正解、これ静電気のすげぇやつだ」


 長剣を地面に刺しもたれるように身体を預けたコウメイは、水辺でうごめく雷蜥蜴を見ながら痺れの残る手を何度も動かしている。

 頭を斬り割られた雷蜥蜴は絶命し、他の蜥蜴たちに踏まれ水中へと沈んでいった。


「触れてもビリってくんのかな?」

「試せば判る」


 コズエの槍を借りたアキラが、柄尻でコツンと雷蜥蜴の青みがかった背を小突いた。

 雷が発生する様子はない。

 だんだんと強さを増して叩いてゆくと、それなりの力で衝撃を与えるとピリッと電流が走るのを感じた。


「一定以上の衝撃で、それに応じた強さの電流が流れるみたいだ」

「物理攻撃できねーよ」

「どこ殴ってもバチッてくるのかなぁ」

「そっちも試すか」


 コウメイは一匹の雷蜥蜴の腹の下に長剣を指し込み、よっこらせと持ち上げて投げ上げた。池から無理矢理引き上げられた雷蜥蜴はじたばたと暴れて地面に落ちる。短い手足で水場に戻ろうとする前に、コウメイは尻尾を斬りつけた。


「痛ってぇ、尻尾も駄目だ」


 コウメイは一撃で尾を切断したが、相応の電流が流れ痛みを受けた。

 ヒロが前足を刺す。剣先に小さく火花が見えた。


「足も駄目っぽいですね」

「ひっくり返すぞー」


 コウメイがしたように剣先を腹の下に突っ込んでフライ返しするように雷蜥蜴をひっくり返したシュウが、天向いた土色の腹の皮に剣を突き刺した。


「……お、腹は大丈夫そうだぜ」


 串刺しにされた雷蜥蜴は四肢をヒクヒクと痙攣させてから息絶えた。


「攻撃手段は噛みつきと強力な静電気だが、対処方法があるなら難しくねぇな」

「けどこれ全部屠るのか?」

「流石に殲滅戦は……」

「とりあえず、より分けるか」


 噛みつき攻撃の射程外からアキラが虹魔石の魔力を感じるか否かを判別していった。


「違う、違う、それも違うな」

「ほいほい、っと」


 アキラの指示を受けたコウメイとシュウが、鞘で雷蜥蜴を持ち上げ遠くへと放り投げてゆく。投げられ木に激突した雷蜥蜴は、その衝撃でバチ、バチ、と小さな雷を木々に落としていた。


「それ、怪しい」

「ヒロ頼むぜ」


 虹魔石持ちと思われる雷蜥蜴は、コウメイによってすくい上げるようにしてコズエとヒロの待機する場へ投げ転がされる。コズエが槍先でひっくり返し、もがいている間にヒロが腹を突いて屠り、サツキが解体用ナイフを入れて魔石を探した。


「ありました、オパールみたいな魔石です」


 サツキが摘みあげた魔石を高く掲げて見せた。いわゆるクズ魔石といわれる小さなサイズだが、確かに虹魔石独特の配色をしていた。魔石が露わになったことで受け取る刺激が強くなったのか、アキラは複雑そうに眉をしかめながらも、感覚の扱い方に自信を持ったようだった。アレックスから買い取った遮断布の巾着袋に虹魔石をしまいこみ池に向き直る。


「まだあと何個かはあるようだぞ」

「じゃあ片っ端から索敵頼むぜ」


 アキラの虹魔石鑑定、コウメイとシュウの選別、ヒロとコズエで屠りサツキが解体と言う流れで時間ギリギリまで雷蜥蜴を相手に奮闘したのだった。


雷蜥蜴も一応食用。

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― 新着の感想 ―
>シュウは蜥蜴と名のつく魔物に遭遇した経験はないらしい。 この大樹にたどり着くまでの道のりで火蜥蜴と戦闘しているので、蜥蜴=ワニだとシュウが知らない展開に少し違和感があります。 火蜥蜴の形象について…
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