番外編 全乙女憧れの…
ここで一度本編お休みで番外編が続きます。
ボッケ事件からカステカートに行くまでのアレコレをしばらくお付き合い下さいませ
ナッシュルアン皇子殿下ボッケ詐欺被害事件(私だけ勝手に呼んでいる)が一応の解決を見せ、一日お休みを頂いた日の朝、私は自作のロールパンの生地を捏ねていた。
ヴォルナの酵母よりジーロとかいう黒ビール?っぽい方がパンの発酵には向いているらしい。
これでも研究熱心なので、半休でも休める時には市場に行って色々と食に関するリサーチも欠かさない。
もはや何かの中毒だ。動いていないと死んでしまう。貧乏暇なし、特に今は少しでもお給与を蓄えておかねばいけない。うん、来るべき日に向けて頑張ろう。
さて、発酵(時間魔法)している間に、裏庭に植えている葉野菜の収穫に外へ出た。
貧乏くさいぞ!と言う声も聞こえそうだが、折角これだけの広大なお庭があるのだし?何か植えてみたくて、野菜をチョイスしたのが自分でも少し渋いな〜とは思うが渋くて何が悪いのだ、文句があるか?と最近では開き直っている。
裏庭から少し離れた所で魔力の波動を感じる、ナッシュ様だな。
最近は魔力を感じる感度、みたいなのが上がっている気がする。それに何と言っても、魔力そのものが視える時もあるのだ、なんだか怖くて誰にも言ってないけど。
葉野菜を収穫していると、私に気が付いたのかナッシュ様が一瞬で近づいて来た。相変わらず気配が無い、忍者みたいだな。
「おはよう、アオイ」
早朝に起きて鍛錬をしているナッシュ様は、そういう意味では真面目だ。
仕事もだらけずにこれぐらいの真面目さでキリキリ動いてくれるといいのだけど。
「おはようございます、ナッシュ様。今日は朝議がありますよ?少し早目に出て下さいね」
「あ、そうか、カステカートの視察先の関連資料いるんだった」
「昨日、コロンド君に渡してますから大丈夫ですよ」
私がそう言って葉野菜を籠に入れて立ち上がり掛けると、ナッシュ様はさり気なく私に手を差し出してくれる。
こういう所が皇子様なんだよね~レディファーストていうか、日本男子とのは女性の扱いが違うよね。
そもそも比べるのが失礼か、こちらは異世界の皇子殿下様だもんね。
私は手をナッシュ様の手に重ねた。グイッと引き上げて、私の腰を支えてくれる。
「アオイ、今日は午後からどうしてる?私も半休だよな?どこか、その一緒に行くか?」
ん?これはなんだろう?俗に言うデートのお誘いか?いやいやまさかね。仕事を手伝えとかのオチじゃないかな?
そう、実は午後から行きたい所がある。そうだ、土地勘のあるナッシュ様と一緒の方が探しやすいかも?
「では、ちょっと行きたい所があるので、一緒に行って頂いてもいいですか?」
ナッシュ様の顔が光り輝いた!比喩でもなんでもなく、体の内側から魔力が発光した感じだ。
視えるってこんな感じなのかしら?これはイカン、常に目つぶし攻撃に備えねばならんのか。
後でフロックスさんに聞いた所、視える目をお持ちの方々は常に光をある程度遮断する魔法を自身にかけているらしい。
そうしないと常に魔力の粒子による光で目を患うことになってしまうからだとか。
視える目を持って生まれた子供はまず真っ先に魔法で自身の目にサングラス(私はそう思った)を装着する術を覚えるらしい。
大変ね、素晴らしい能力だけど、人と違うって。
ナッシュ様は軽い足取りで、午後には帰って来るから~と、めっちゃ浮かれて?出勤した。
私は自室に戻ると枕元のチェストを開けた。
二ヶ月分の給与が入っている。
最近は忙しすぎて食料品の店と雑貨屋くらいしか行けてないけれど、是非とも行きたい所がある、それは不動産屋だ。
そう、今日は一人暮らし用のアパートメントを探しに行きたいのだ。
第三部隊のジャックスさんやシーナさんは、地方から皇都に出て来ていて共にお一人暮らしで、詳細を聞いた所によると女子専用の一人暮らし用のアパートメントもあるらしい。
オーナーさんの意向で多種多様な外観や内装のもの多いらしく、自分好みのお部屋も頑張って探せば見つかるそうだ。
当たり前だが、建築基準に煩くなく、魔法で常識を覆す平衡感覚の建物も作れるので、独創的ではあるらしい。
確かに城下の建物はおとぎの国みたいな、あくまで私の感覚での、おとぎの国みたいな可愛い建物からおどろおどろしい建物まで色々ある。なるほど……
そして昼過ぎ、上機嫌で帰って来たナッシュ様にカルボナーラとソーナ和風サラダとデザートに木の実のパウンドケーキを出して、喋っている時にことは起こった。
「そろそろ、一人暮らしを始めたいと思いまして」
私がそう切り出すとナッシュ様とニルビアさんのフォークを持つお手がピタッと止まった。
ナッシュ様は皇子あるまじき行いで、ガチャンと音を立ててフォークを乱暴に食器をぶつけた。
「今、何と言った?」
震える声で聞き返してきた。
え?なんでこれって、怒っているの?どうしてよ?魔力がやばいくらいに膨らんでいる!?ニルビアさんが小声で何か術を唱えている!?
「ナッシュ様っ!」
ニルビアさんが鋭く叫んだ。ニルビアさんは術を放った。その術は私の周りで鈍色の防御壁を構築した。
魔術防御だ、すごい完璧だ。
ナッシュ様は真っ青な顔色のまま茫然としている。ナッシュ様が魔力を放出してしまっている?なかなか魔力の奔流が収まらない。
ナッシュ様は顔を覆い、自身の魔力で体が辛そうだ。
それにさっきからこの部屋の空間が魔力で歪んでいるみたいだ。このままでは異空間が生まれてヤバイことになるではと、焦って来た。
私は行儀が悪いと思ったが、テーブルの向こう側へ飛び移って、苦しみ体を折るナッシュ様を抱き締めた。
鎮まれ、鎮まれっ!必死にナッシュ様の体を摩る。
やがてナッシュ様が私の手をギュッと握り締めてきた。
本当にどうしたんだろう?やがて魔力の奔流が収まってきた。私の周りの魔力障壁も解かれていく。ニルビアさんの手が私の肩に置かれた。
「私、夕方までお買い物に出ておりますから、ゆっくりお二人でお話下さいませ」
ニルビアさぁん?こんな状態で置いておかれるのぉ!?ちょっとーー気まずいよ、気まずいったらぁーーああ、出て行かないで!
ナッシュ様にがっちりホールドされて、一ミリも体っ動かせないんですけどっ!
どうしよう……
流石にさっきの話の流れ的に、私の一人暮らし宣言がナッシュ様の激昂を呼んだことは分かってるけど。なんで怒られなきゃならないのよ?だっていつまでもここに居候する訳にはいかないもの。
「アオイ」
「はい」
名前を呼ばれて返事をしたものの気まずい……
ナッシュ様は少し体を離した。私はナッシュ様の顔を覗き込んだ。
って…おーーーいぃぃ!
泣きそうになってんのよぉ!?またこのパターン?私がまた意地悪なこと言いました的な、お局ポジな訳ぇ!?
ナッシュ様の菫色のそれはそれはお綺麗な瞳が、涙を溜めて今にも真珠のような水滴を零れ落としそうになっている。
そんじょそこらのお姫様より美しいじゃないかぁ!なんだよ、その顔っ羨ましいなぁ~泣き顔って大概不細工になるよ?
「アオイはここに居るのが嫌なのか?私の側が嫌なのか?」
またこの質問~?と思ったけど、この皇子殿下様はどうも親御さん、特に母親とは仲を拗らせている。
そのせいか、過剰なまでに捨てられるとか、嫌いとかの感情や言葉に、物凄い敏感に反応してしまう気があるのよね。
ナッシュ様はとうとう真珠のような涙をツーゥと頬に流された。
あぁ……美しい。舐めたい、あらっいけない、今のは私が完全に変態だったわ。
「ナッシュ様……私、いつまでもここに居候する訳にはいきませんもの。ここはナッシュ様がお住まいの離宮ですよね?皇子殿下の御住いの皇宮の中の皇族のお住まいです。一般人、しかも異世界人の私が図々しく居座る場所ではありません」
「違うっ違うっダメだっダメだっ!」
駄々っ子炸裂かぁ……ここまで聞き分け無いの久しぶりだな。いつもポーズで駄々っ子のフリは良くしているけれどいつもは、あくまでポーズだ。
ナッシュ様は菫色の瞳からまだ涙を流している。でもお綺麗な顔は崩れない。もはや奇跡の美貌というしかない。
「私が一人暮らしするのが不満なのですか?あ、もちろん仕事は辞めませんよ?当たり前じゃないですか?シテルン再生計画もご一緒に遂行させて頂きますし」
ナッシュ様はまだ首を横に振っている。もうっ本当にどうしたんだろう?
「アオイはずっとここに居ろっ命令だぁ」
そんな泣きながら言われても、ナッシュ様は泣きながら私の手をご自身の口元に持って行った。
チュッ……リップ音が妙に艶めかしい。
こらーっ指先にチュウをするなっ!と、思ったら泣き濡れたお顔を少し傾けてこう言った、確かに言った、言いやがりましたよっコイツっ!
「愛してるよ、アオイ」
人間、びっくりすると固まるっていうアレ、嘘じゃないね。
時間にしたら数秒間くらいかもしれないけど、自分的体感では数時間は固まっていた感覚はあるね。
バキバキバキッと音がしそうなほど体の関節を軋ませながら、首を何とか下に向けた。
今、愛してるって言った?言った、かな?段々自信なくなってきた。幻聴だったんじゃ?そうか!それで幻聴なのに痛い女が盛り上がって、浮かれて先走って捨てられてみじめになるパターンだ、コレ。あのババア痛ーいっ皇子殿下に告られたとか浮かれてやんのっなんて、若いメイドの女子の嘲り笑いが聞こえてきそう。
「アオイは私のこと……嫌い?」
コテンと小首を傾げてナッシュ様は聞いてきた。
私が色々思考しながらボンヤリ見詰めているとナッシュ様のお顔が段々曇って来てまた泣きそうになって来た。
はっと我に返った。
「嫌いじゃありませんよ」
「じゃあ、好き?」
「はい、勿論!」
あ、あら?つい大声で返事をしてしまったけど、ナッシュ様が泣き濡れたお顔を内側の魔力発光で更に輝かせながら私に抱き付いて来た。
あらら、これは……勢いで返事してしまったけど、どうしよう。
「お互い好き同士なら一緒に住んでいても問題はないよなっ!よってアオイずっと離宮に居ることに決定だ!」
呑気なナッシュ様の言い方に気持ちがスンと冷静になる。
何を夢みたいなこと言っているのだ、この皇子殿下は現実を見ろっ!と言いそうになる気持ちをグッと堪えながら、体を離した。
「何をおっしゃるのですか、ずっとは無理ですよ。いつかナッシュ様もどこかのお姫様とご婚姻される日が来ますでしょう?申し訳ありませんがその時は、私はさっさとここを出て行きますよ?」
ああ、イヤだ。声が震えちゃう。
ずっと、本当にずっーと想像していたことが現実になる日が来ることにその日が確実に来ることに…今、気が付いてしまった。
ああ、胸が痛い。私いつの間にかこんなにもナッシュ様の事が好きだったんだわ。
やっぱりここを出て行こう……想像だけでこんなに胸が苦しくて、こんなに涙が出てしまうなら今から諦めて、気持ちを切り替えていこう。散々前の世界でもやってきたことだ、諦めるなんていつもしてきたじゃないか。
私はドンッとナッシュ様の体を突き放すとヨロヨロと立ち上がって、そのまま外へ出ようとした。
早く外へ……とドアノブを掴もうとした私の手にナッシュ様の手が重ねられた。
ナッシュ様は俯いている。肩が揺れている。また泣いているの?すると……
「あはっはっ、アオイッお前っ何いつもっちゃんと話を、あはっ聞けってあはははっ!おこ、怒るくせにぃ……はあっ、自分が聞かないなんってぇ……あははっ」
なんなの?何笑ってるのよ?私は真剣よ?これ笑えるとこ?怒りで涙も引っ込んだ。
「どうして笑えるのですかっ!そりゃ私みたいな一般人が皇子殿下とあれこれなんて先の話を望んでいないのは当たり前の話じゃないですかっ!身ぐらい綺麗にひかせて下さいよっ?引き際は格好よく去りたいのです!」
言いながらまた泣けてくるっ!この~~許さんぞっ!つい不敬も忘れて溜まりに溜まった鬱憤を、大声で泣きながら叫んでしまった。
「何がっ何が皇子殿下だぁ!私だって、私だってっ夢ぐらい見るんだからなっ!大好きな人と結婚して……子供を作ってぇヒーークッ幸せにグスッ、家族に囲まれて最後まで、笑って生きてたいんだぁ!何が結婚なんて許さないっだぁ!一生働けだぁ子供は作るなだぁ私だって、わたしだってえぇ愛されて幸せになりたいんだぁぁ!」
そう言って泣き叫ぶ私を軽々抱き上げて、下から覗き込みながらナッシュ様はこう言った。
「ああ、幸せになれ、私が幸せにしてやる。愛してやるからというか、もう目一杯愛しているな、うん。だから安心して子を産め、体力には自信があるぞ?好きなだけ産め、全員幸せにしてやる。私と一生幸せになれるぞ、どうだ?それでも逃げるのか?」
なんだって?ポカンとしてナッシュ様を見てしまう。ナッシュ様は私を床に降ろすと、私の頬っぺたを軽く両手で挟み込むとご尊顔を近づけてきた。
「なんだ?どうした?言い返さないのか?だったら婚姻を進めてしまうぞ~あ、今から父上に報告に行って来るか?アオイと婚姻しますって!」
私は仰天して声をひっくり返しながら聞き返した。
「私と婚姻するの?」
「さっきからそう言っているではないか?」
「言ってないよっ!?それにこんな生活感の漂う所でなんて雰囲気っ……そう婚姻のお申し込みの雰囲気が無いわ!」
ナッシュ様はキッチンをぐるりと見回した。
昼食を食べてる途中でプロポーズなんて、ムードが無いわよっそうよ!するとナッシュ様は小さく何かを呟くと、私を抱きかかえた。
一瞬、目の前が暗くなってそして急激な眩しさに目を閉じた。
何っ!?眩しいっ!
そして足元のサクサクッと草を踏み鳴らすような音と、何かの甘やか香りにゆっくりと目を開けた。
「なっ!き、綺麗ーーっ何これ!?」
目を開けた私の目に飛び込んで来たのは、純白で大ぶりな薔薇?のような花が一面に咲き誇る場所だった。
すぐ横に真っ青で綺麗な湖があり、まるで絵画のような場所である。
私が感激の声を上げていると、ナッシュ様は私の真正面に静かに膝をつかれた。
こ、このポーズはま、まさかぁぁぁ!
「ナッシュルアン=ゾーデ=ナジャガルはアオイ=タカミヤ、その一人を永遠に愛し、共に沿い歩むことを請い許し願います、どうかこの私と永遠の婚姻を結んでは頂けませんか」
ぎゃあああああ!!ちょっとーーーーコレ全宇宙の女子が憧れるプロポーズじゃないぃぃっ!?
静かな湖畔で白い薔薇に囲まれて、跪く超美形の皇子殿下と永遠の愛を誓い合う。
これで断れる女子がいるだろうかっ?いいや存在しないね、断言できるね。
だって目の前には、自分好みの美形の少し泣き虫で情けないけど、実はすごく強くて頼りになってすごくすごく好きな人がいるんだもの。
ああ、涙が止まらない。ナッシュ様は美しい微笑みを向けて私に手を差し出した。私は震える手を何とかナッシュ様のお手に乗せた。ゆっくりと握り返されて指先にチュッと口づけを落とされた。
「ああ、今死んでもいいわ」
「こら、まだこれからだぞ?死んでもらっては困るなっ!」
ナッシュ様の顔がゆっくり近づいてくる。ああ本当に幸せ。ナッシュ様の唇が触れたなと思ったら、勢いよく後ろに倒されて…アレ?濃厚なキスをされて、ちょっと待て?服を脱がせようとしていないかい?おいこらっ。
「初体験が青姦なんていやよーー!」
私の絶叫が白いお花畑で遠くまで響き渡った…
皇子様生まれを初めて活用出来たプロポーズになりました




