カステカート表敬訪問
私はナッシュ様の後ろに隠れると、ギリデさんをキッと睨みつけた。この〜元祖変態剣士めっ!
「カステカートに用事〜?」
「ユタカンテ商会にウチのが行きたいと言ったんで…まあ表敬訪問になってしまいましたが…」
ナッシュ様が私を促す…渋々ギリデさんに挨拶をした。
「初めまして、アオイ=タカミヤと申します」
ギリデさんは少し目を丸くした後、微笑んで挨拶を返してくれた。
「ギリデ=テットリーです。ナッシュ君と同じトリプルスタークラスです~宜しくぅ!」
…な…?なんですって?私の思考が追いつく前にザック君とリュー君が歓喜の悲鳴を上げた。
「ト、トリプルスターですかぁ!?現存のトリプルスターの方にまた会えるなんてぇ!」
ザック君とリュー君はギリデさんに興奮して近づこうとしたが…私はグイッと腕を抑えると、二人をこちらに引き寄せた。こんな変態師匠に幼気な子供達を近づけさせるわけにはいかないわっ!
「アオイ様…?」
「アオちゃんなに~?」
「知らないおじさんに無暗に近づいちゃいけません!」
ちなみにザック君は私を様つけで呼んでいる。リュー君はアオちゃんだってっ可愛いね!許すよ!
ギリデさんはわざとらしくなのか…大きい声を上げて
「おじさんっ…いやそうだけどぉ~心が痛いよぉ~」
と叫んだ。ナッシュ様が呆れたようにギリデさんを見ている。
ギルドの入り口で目立たせるなよっ!それでなくとも大所帯で悪目立ちしているのにぃ!
「アオイ、口座作ってこい…ザックもリューも付いて行ってやれ」
ナッシュ様の言葉に私は顔を上げた。なんだっ?私、大人だけどっ?ナッシュ様は私の全財産の袋を出して私に持たせるとちょっと微笑んだ。
あ、何か…トリプルスター達の間で話があるのかもしれない。仕方ない…スゴスゴとザック君達と護衛の男の子に導かれて私はギルドのカウンターまで行って申請用紙を貰った。利用規約と注意事項の書かれた冊子を一緒に頂いた、当然…熟読する。
「全部読まれるのですか…すごいですね!」
護衛の男の子がそう言ったので、若者達(内2人は子供)をしっかり見ると私は話し出した。
「こういう約款をしっかり確認しておかないと後で不利なことになったりした場合、困るでしょう?それに見ておいて損はないわ…ここ見て」
と私は規約の一文を指示した。
「自分が戦闘に参加しなくても…強い人に倒して貰えば報酬貰えるそうじゃない?階級を上げたい方には自分の実績にならないからどうでもいい項目だけど、楽したい人にはナッシュ様とかに戦わせておいて、ガッポリ儲けられるわよ」
「や、やめて下さいよっ!?あ、あの…仮にも皇子殿下ですよっ」
護衛の子が真っ青になって首を横に振る。冗談も通じないのね…真面目ねぇ…
「僕、お金は要らないけど…実戦経験したいからアオイ様がいいなら討伐付いて行きたい…」
「僕もアオちゃんと一緒がいいっ~」
私はザック君とリュー君の頭を優しく撫でた。ものすごい前向き且つ恐ろしい7才と6才だわ。
「気持ちは嬉しいけど、12才以下の子供を討伐地に連れて行くのはSクラス以上の同伴が必要ですって。ナッシュ様がいい、とおっしゃるなら構わないけど…私は反対よ?」
「ええっ!?どうして?」
「何故ですかぁ?」
「あなた達みたいな子達が恐ろしいモノを見るのはまだ早いわ。子供のうちは楽しいモノ、綺麗なモノ、心を幸せにしてくれるモノを多く見ておくことをお勧めするわ。素敵で優しい人ね~と女の子にモテる男の子になる為には必要なことよ」
ザック君とリュー君、何故か護衛の子も目を輝かせて聞き入っている。
「じゃあ、ちゃんと守っていれば僕も兄上やナッシュ様みたいにカッコいい大人になれるっ?」
おっとぉ…ザック君の判断基準はあの2人か…ヴェルヘイム様は良く知らないけど…アレは子供の時から捻くれてるからまったくもって目指す目標じゃないと思うけど、反面教師という点では役に立つかな?
「いい、ザック君、リュー君。周りを必要以上に妬んだり羨んだり、ましてや人を悪しざまに罵ったりしてはいけないわよ?その気持ちがザック君とリュー君の心を蝕むのよ?心の病になっちゃうの…悪い気持ちは自分に跳ね返って心を病気にするけど…良い気持ちは周りの人に拡散してたくさんの人に幸せを分けて上げることが出来るのよ。カッコいい大人はそれが理解出来る人ね!」
「名言ですね、アオイ様っ!」
護衛の子が頬を上気させる。もう大人のあんたが感じ入ってどうするんだよっ。
「じゃあ幸せなことや良いこといっぱいすれば僕も…素敵なカッコいい大人になれるのぉ?」
リュー君の天使のようなご尊顔を見詰める。ザック君の美しい顔予備軍フェイスも見詰める。
「ええ、そうよ~ザック君とリュー君の心と体が元気で幸せでいっぱいなら、とっても素敵なお兄様になれるわよ!」
とかなんとか、○○先生みたいな説教を声高に説きながら、申請用紙を書き上げて受付カウンターに提出した。
「はい、はい…記入漏れはありませんね。お呼びするまでしばらくお待ち下さい」
と受付の女の子に言われたので待合室?のような所へ移動する。するとザック君がモジモジしながら「お手洗いに行きたい…」と言ってきた。7才の子だしね、付いて行きましょう。
護衛の子に私の名前が呼ばれたらお手洗いに…と言ってもらうように頼み、ザック君とリュー君とでお手洗いに入った。メイドの女子2人はトイレのドアの前にいるようだ。ザック君が用を足し…手を洗って風魔法で手を乾かしているとドアがスーッと開いて、入って来たのはメイドの女の子で…ところがその子はいきなりザック君を抱きかかえると彼の喉元にナイフを突きつけた。
「このガキの命が惜しいなら勇者の剣を持って来い!」
なっ…これ…?剣…?このメイド…沢田美憂の仲間なの?
ナイフを突きつけられているザック君はキョトンとしている。私はリュー君を背後に庇った。
するとお手洗いのドアが開いて、もう一人のメイドが
「どうされました~?」
と顔を覗かせた。
あっ…と思う間もなく、この状況に入りかけたメイドの子は悲鳴を上げた。ナイフを持ったメイドは悲鳴を上げたメイドを突き飛ばし、ザック君を抱えてトイレのドアを蹴破って外へ出た。
メイドの悲鳴にギルドに居た冒険者の方々は流石に反応が早かった。瞬時に判断して、逃げようとしたメイドの前に立ち塞がってくれた。
「おいっ!何やってるっ!?子供を離せ!」
「ナイフを捨てろ!」
切羽詰まってきたのか…メイドはザック君の喉元に更にナイフを近付けた。私は思いっきり叫んだ。
「ザック君っその人悪い人だよ!」
するとザック君はニヤッと笑うと、メイドの腕の筋を捩じ上げ拘束から逃れると…反動を利用し、逆上がりの要領で彼女の背面に回り込み、背後からメイドの首筋に手刀を叩きこんだ。メイドの女が音もなく崩れ落ちた。時間にして1~3秒。鮮やかな手際である…しかも今の体術、私が教えた合気道の技だ。飲み込み早くて教えがいがあるね。
騒ぎを聞きつけて、ナッシュ様とギリデさんが走って来た。ザック君は満面の笑みである。
「師匠!僕、悪漢にも怯みませんでしたよ!」
怯むどころか、完璧に叩きのめしていましたけど…すると周りにいた冒険者のお兄様方がザック君を取り囲んだ。ちょっとちょっとぉ~ザック君に何すんのよっ!
「坊主!今の技すごいじゃねぇかっどうやった?」
「チビッ子ぃくせにえれぇ強ぇじゃねえか!将来冒険者になるのか?」
ザック君大人気だ。むさ苦しい筋肉達に阻まれてザック君の姿が見えないよ…おーい。
護衛の方とフロックスさんが気を失ったメイドを確保している。ふぅ~やれやれ。もう一人のメイドの子に駆け寄った。大丈夫みたいね?「イタタ…お怪我ありませんかっ?」と逆に聞かれてしまったわ…
ナッシュ様がオロオロしながら私とリュー君の顔を見ている。
「アオイもリューも大丈夫か?」
「全然大丈夫ですよ。寧ろザック君がナイフなんか突きつけられて怖かったんじゃない…?」
と、思ってザック君を見たら冒険者のお兄さんに体術のレクチャーをしている。すごいね…
「私、7才の時あんなに動けたっけ?ザックは流石、ヴェルヘイム閣下の弟だなぁ~」
「あの子ヴェルちゃんの弟君か!どうりですごい魔力だと思った!」
ナッシュ様が戸惑い気味に笑っている。ギリデさんは嬉しそうにザック君を見ている。
それにしても…ヴェルちゃん…あんなごっつい人をヴェルちゃん呼び…流石トリプルスターだ。
「アオイ様っ!お兄さん達が技を教えてって!」
ぎゃっ!こらっザック君っ何故そうなるのだ…筋肉達が熱い眼差しを送ってくる。何故かSSSの二人も見てくる…仕方ない。
ギルドカードを作り、緊急連絡先は…未来の旦那とカデちゃんとカッシュブランカ様にしておいた。後で変更も可能らしい。重い全財産を預け入れ、筋肉達とSSSに連行されるようにギルドの奥にある鍛錬場…で技の指導をすることにした。
基本は相手の力を利用する体術で…投げと返しや転換…ナッシュ様に相手になってもらって容赦なく一教は決めさせて頂く。
「痛いっ!?痛いよアオイィ…魔人に蹴られた時より痛いぃぃっ!」
嘘つけよ…と思うが綺麗に決まれば痛いのは分かるけど…飛びかかって来るナッシュ様の体をかわし、流れるように受け流してナッシュ様をこれでもかと投げ飛ばした。すると筋肉達とザック君とリュー君なぜかギリデさんまでもが「師匠!」と呼び出した、本気でやめて欲しい…
とにかく、おもいっきり着崩れてしまったドレスをメイドの子達に直してもらってから、ユタカンテ商会に向かうことになった。フロックスさんと護衛の一人は襲ってきたメイドを一度ナジャガルに連れて行くらしい。お手数おかけします…
「さきほどギリデさんに聞いてみたんだが…人捜しならポルンスタ爺に頼んでみたらどうか…と言われた」
人捜し…ガレッシュ様ね、ポルンスタおじいさん?て誰なんだろ…
「爺はSSS、トリプルスターの一人だ。ものすごいじいさんだが、術使いで私の知る限るこの世で最高の術士さ」
なんだってっ…そんなすごいおじい様がSSSの人なの?ザック君とリュー君がまたも食いついた。
「SSSの術士!あの先読みの術が使えるっていうあの方ですか?うわーっ僕会いたいです!」
「僕っ未来にカッコいいお兄さんになれるか聞いてみたいっ!」
先読みの術…予知とかだろうか?それならもう超能力とかシックスセンスなアレで…魔法関係ない気もするけど…
とか、話している間にユタカンテ商会についた…なにせ隣だし…お店(販売)は若いお嬢さん方でなかなか盛況だ。入口は化粧品売り場で少し奥へ入ると家魔商品?というのか大型なモノが売っている。あ、ドラム式洗濯機がある…金額、たっ高いよっ!これはニルビアさんのお手柄だわ。
「あら、ザック君、リュー君、こんにちは。カデリーナさんは事務所よ?」
売り子のお姉さんがザック君とリュー君に気が付いて声をかけてくれた。ザック君は丁寧に、リュー君は元気にお返事している。売り子のお姉さんは嬉しそうに微笑んでいる。ザック君達、皆のアイドルなんだろうな~可愛いものねぇ~
あっいけない!忘れる前に…私は売り子のお姉さんに『コラゲンドリンク』を3ヶ月分を3人分…大人買いをお願いした。大量にご購入なので割引があるらしく…なんと1月ごと新鮮なコラゲンドリンクを送って下さるようだ。タクハイハコが第三部隊に設置してあるので、送り先はそこにして代金は一括払いにすることにした。なんとナッシュ様が払ってくれた。コラゲンドリンク結構高いのよ?大丈夫?
「これは公費じゃなく俺の金だ、SSSで討伐依頼もこなしているから依頼料、結構あるんだよ」
そういえば冒険者の方々って依頼料が収入だもんね。SSS様ともなるとさぞや良い依頼料なんでしょうよ…
「SSSに上がった後、やたらと緊急性のある依頼ばかり私のとこに直接来るんだよな…なんだか断りにくいし…どうも押し付けてやれ!というギルド上層部の黒い思惑もありそうな気がするんだよ。その分依頼料はもらうけどさ…なんだか納得いかない」
「これは…思いっきり黒い思惑でしょうよ…まあいいじゃないですか?依頼料もらえるんでしょう?皇子業も忙しいしSSSで更に忙しいけど…困っている人の為頑張って下さい!」
ナッシュ様はそう言った私の顔をジッと見た。な、なによ?
「いや…私はアオイと婚姻出来て幸せだな…と思って…」
ちょ…何を…!こんな日の高いうちから…しかもお店の中で!近くに居たお嬢さん方からものすごい悲鳴が聞こえるよっ「ちょ何あのババアこんなとこでイチャついてるよっ」とか言われてるのよっやめてよもうっ!
「師匠っ今のが素敵でカッコいい大人の言葉ですか?」
「ザック兄ぃ、今の大人だけが使う言葉なの~?」
いやーっ!こらこらっ間違ってないけどっ…キメ台詞だけどっザック君とリュー君の言葉でまた店内から悲鳴があがる。
「何を騒いでるのですか~?」
と、のんびりした声がしてカデちゃんがカウンターの向こうからニヤニヤしながら歩いて来た。さては聞いていたな?さすがおば様は地獄耳…おっと失礼。
「来たわよ~店内盛況じゃない?」
「うふ、お蔭様で~今日はコラゲンドリンク…すごくたくさん買って頂いたけど…配るのですか?」
「違うわよ…うちのお局トリオが買って来いって言ったのさ…」
カデちゃんはお局…と呟いて、思いついたようだ。
「カッシュブランカ様達ですねっ!」
そしてヴェルヘイム様とカデちゃんがナッシュ様と初めて会った時の事とか、色々話しながら事務所の方へ行った。そして例のヨジゲンボッケ事件を話し、ナッシュ様にボッケの方を出してもらってカデちゃんに渡し、ガーベジーデ商会の目録を机に叩きつけたりしながら…バルミング主任さんを交えガーベジーデ商会の悪口で大いに盛り上がった。あぁスッキリした…
そういえば人を悪しざまに罵っちゃいけない…なんてザック君達に偉そうに言ってたのに、私が率先して悪口を言ってたわ…まあ人じゃなくて、商会だから…まあ、いいよね?
ヨジゲンポッケ(本物)と化粧品類を大量に買い込んで帰ろうとすると、カデちゃんがおずおずと資料みたいなのを見せてきた。
「実はですね~化粧品の成分で悩んでいまして…」
私はその資料…化粧品の成分表を見せてもらい、分からない薬草などは聞きながら確認した。なるほど…
「もし新たに何か作るなら…ヨモギに似た植物はどうかしら?後…紫根や当帰などもあれば口紅にいいわよ」
カデちゃんはぱああっと頬を上気させた。そしてガバッと抱き付かれた。
「葵っ~ユタカンテに就職してぇ~それが無理なら相談役で在籍して~」
おや、それぐらいなら構わないよ?困った事があるなら聞きに来るがよろしいよ!
カデちゃんが抱き付いているので、ザック君もリュー君も私に抱き付いてくれた。皆可愛いなぁ~まとめてグリグリしちゃうぞ!私がグリグリ頭を撫でているとナッシュ様が混ざりたそうな顔をしていた。あら?遠慮せずに混ざればいいのにねぇ…?
本日のお宿はカステカートの王宮でございます。
翌日の予定はナッシュ様は国王陛下と視察に出て、それから私も合流してSSSクラスのポルンスタおじい様に会いに行くことになった。準備された貴賓室でナッシュ様とお喋りをしながら寝る準備をする。
「そういえば~今日の午前中、ザック君とリヴァイスラント殿下が木刀で打ち合い稽古をしていたのですが…ザック君が随分手を抜いていて…リヴァイスラント殿下はちょっと運動が苦手なのかもですね…」
ナッシュ様は苦笑いをしている。
「あ~あの子は確かに反射能力は低そうだね…でもアオイ、体術は教えてあげたのだろう?国王陛下喜んでいたよ~」
ものすごい婉曲だけど…緑豆は運動音痴ということだね…
「私の体術は攻撃を仕掛けるものではなく、相手の攻撃を利用して技をかけるものですから…緑…違った…合気道は殿下に向いていると思いますよ」
「アオイ…また何かあだ名で呼んでいたな?リョク…なんだって?」
おうっ…鋭い。どうしよう傷口抉るかなこの話題…いや、でもナッシュ様は…よしっ!
「リヴァイスラント殿下はちょっとモヤシっ子っぽいのでモヤシよりは高級な緑豆モヤシと呼んでいました。でも、ちょっとだけですよ?ひ弱だな~と思うのは…あの子は頑張れば出来る子だと思います」
ナッシュ様は…モヤシという単語にやっぱり思い出したのか…少し俯かれた。
「あの…後で好きなだけ怒って下さっても構いませんので、言わせて下さいね?私は…気にしたり思い出したりしてはいけない、とは思わないですよ?」
ナッシュ様はぼんやりした目で私を見た。私は話を続けた。
「ずっと…弟だと思っていた方が急に他人…ではないけれど、家族じゃなくなるなんて…気持ちがすぐに切り替われるなんて思いませんもの。血の繋がりは薄いかもしれませんが…やっぱり形は違うけど家族ですよね?そして…新しく、もし弟殿下が見つかったら…その方とはまた違う家族の繋がりを作ればいいと思います。どうですか?ダメですか…モヤシ…リディックルアン殿下への気持ち…断ち切らないで欲しいです」
ナッシュ様は静かに泣き出してしまった…ああ、これは…また苛めてるお局の構図再来だよ…しかし今度はナッシュ様は本気泣きだ…私も涙が零れる。お互いに抱き締め合いながら泣き出した。
「偉そうにごめんなさい…」
「いや…いい、…本当に…私は…いいのかな…んっ…どちらの弟にも…まだ…戸惑っているんだ…」
そりゃそうだよ~すぐに割り切れたり忘れたりなんて出来るはずないよ。
やがて二人でベッドに入り…ナッシュ様の腕の中にしばらく体を預けて…眠りに落ちた。
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朝……なかなか良い目覚めだった。
ナッシュ様も起きてきたので、今日の予定とかを話している時、フト思い出した。
「そういえばあの襲ってきたメイド…誰の指示で動いているのでしょうか?」
ナッシュ様はうぅ…んと小さく唸ると私の頭を撫でながら、ポツポツと話し出した。
「最初はサワダミユの指示だと思っていたが…誰かの援助が無ければ毒の入手も難しい。しかし勇者の剣ね…あれを手に入れてどうするつもりなのだろうな…」
魔の眷属を切る剣。今、魔の眷属をどうにかしたい人…ん…まさかね?
さて、ルーイドリヒト国王陛下とナッシュ様が視察に出られたのでカデちゃんとルヴィオリーナ様とで女子会を催した。カデちゃんの作ったレモンパイ、美味しいね~
「そういえば昨日はリヴァに体術を伝授して頂いてありがとうございます。リヴァってば、アオイ様に褒められた…筋がいいと言われた…と大層喜んでいて、良かったですわ」
ヴィオ様(こう呼んでと言われた)は安心したような顔で微笑まれた。緑豆の…ナッシュ様風に言うと反射能力の低い所は妃殿下の眩しいお顔を沈痛の面持ちに変える原因のようだ。カデちゃんは…少し悲しそうな表情をしている。
「なんだか運動音痴は私もそうだから…変な所で似てしまったのかしら…ごめんね、ヴィオ姉様…」
「カデリーナのせいじゃないわ…私なんて運動も方向も鈍くて一人で歩けないくらいだもの…きっと私に色濃く似てしまったのだわ…」
キラキラ姉妹はどよーんと落ち込んでしまった。心なしか身体から発光するキラキラ度が下がっている気がする。そうなのか…緑豆の運動音痴は遺伝か…そういえばカデちゃんも小石に躓いたり、ドアの敷居に蹴躓いていたわね。
そして気分を上げようと…異世界の話の主に美容方面の話をしている所へ、リヴァイスラント皇子殿下の御付きのメイドが慌てて飛び込んで来た。手にヴィオ様の二番目のお子様、エミリアーナ姫様を抱きかかえている。
「あの、あの先ほどリヴァイス殿下とザックヘイム様達と遊んでおられた…あの女の子はこちらに来ていませんか?」
あの女の子…とはエフェルカリードの事だ。今日は人型でザック君達の鍛錬の様子を見るとか言っていたはずだが…
「いえ、戻ってきていませんよ?」
メイドは目に見えて狼狽え始めた。どうしたのだろう。
なんだか嫌な予感がするよ…!




