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剣の精は怒りっぽいー1

 寝起きからの巨人との戦いの連続で俺たちは皆疲労困憊だった。

 その後もヴァンパイアバットとかいう吸血蝙蝠の大群が追い打ちを掛けるように襲い掛かってきた。

 この蝙蝠は危険度は低いのだがキーキーという泣き声が布団に入って電気を消してから顔の周りをプーンと飛び回る蚊のような鬱陶しさだ。

 ひらひら飛び回るので、攻撃がなかなか当たらず、逃げようにも飛行速度が意外に速く逃げ切れない。

 疲れてこちらの動きが緩慢になったところを見計らい体に群がってきて噛みついてくる。


「もう、イライラする」


 突然怒ったデネブが四方八方に魔法を放つ。

 麻痺の効果があったようでヴァンパイアバットは一瞬にしてぼとぼとと地面に墜落し、簡単に一網打尽にできた。


 それでも結局、大した距離を移動することもできないまま夕間暮れが訪れてしまい、俺たちはテントを張り周囲に魔液を噴霧して露営に取り掛かった。


 風呂に入り体を点検すると至る所に擦り傷や打撲による青あざができていた。

 アルタイルもヘカトンケイルとの戦いで足を捻挫したようだった。

 しかし、それもデネブの魔法で治癒された。これもサイズ魔法の延長らしく、患部の腫れを小さくすることで痛みが治まるということらしかった。


「やっぱ、デネブの魔法がなかったら、この旅は成り立たないな」


 夕食を食べながら俺はデネブに「ありがとう」と感謝の言葉を伝えた。

 夕食は昨日よりも質素で、パンと干し肉のスライスだけだが、これだけでもデネブのサイズがなければありつけたかどうか分からない。


 デネブはアンサーを膝に抱きながら「ようやくあたしの価値を正しく理解できたみたいね」と胸を張った。

 しかし、その顔には疲労が滲んでいた。

 魔法を使うというのは想像以上にデネブを消耗させるようだ。


「分かったなら、よしよしって頭撫でて」


 冗談かと思ったが、デネブが頭頂部をこちらに傾けるので「よしよし」と優しく撫でてやると、デネブは気持ち良さそうに目を閉じた。


「アンサーは大丈夫なの?」

「うん。頭の傷も治したし、食欲もあるみたいだから大丈夫だと思う。心細くなっちゃったのか、甘えがいつもより強いけどね」

「でも、アンサーはすごいよ。あんなに大きな奴らにも猛然と向かっていくもんな」

「あたしを守るために頑張ってくれてるのよ」


 デネブは愛しそうにアンサーの背中を撫でた。


「それよりも、どう思う?」


 アルタイルが唐突に訊ねてくる。


 俺との時間を邪魔されたと思ったのか、「何がよ」とデネブが不機嫌そうにアルタイルを睨み付ける。


「シリウスたちはどのあたりかと思ってさ」

「ああ。そう言えば全然姿を見ないな。どこに行ったんだろ」


 デネブは「んー」と声を出しながら思案気に唇に人差し指を当てる。


「フォワードに向かってるのは間違いないけど」

「どうして?」

「魔族の巣窟で大きいのは二つなんだ。闇夜の森と叫びの洞窟。そのどちらもフォワードからほど近い。だから、まずはフォワードに向かい、情報を収集しつつ装備を整える」

「ふーん。じゃあ、何で会わないんだろ。大分先にいるのかな」

「ルートが俺たちとは違うんだろうな」


 アンタレスの発言にデネブが真面目な顔で頷く。


「あたしたちは安全な川沿いのルートをとったけど、これってちょっと遠回りなのよね。シリウスたちは直線的にフォワードに向かったんだと思う」

「やっぱり、そう思うか。危険だけど当然真っ直ぐ向かった方が早いからな」

「どうして川沿いが安全なんだっけ?」


 そこが俺はよく分からない。


「水の流れはあたしたちのにおいを薄めてくれるのよ。だから、魔族に遭遇する可能性も低い。それにこの広い天川の向こうから魔族に狙われることも考えにくい。直線ルートは自分たちのにおいを四方に拡散するし、全方向から魔族に襲われる危険性が高いの」

「こんなに魔族と遭遇してるのに、これでも少ないってこと?」


 俺は驚きの声を上げる。


「シリウスたちは俺たちの倍の魔族と戦ってるだろうな」


 アンタレスは平然と言うが、そんな行程を進んでシリウスたちは大丈夫なのだろうか。余計なお世話なのかもしれないが心配になってくる。


「アル。あいつらの心配なんてしなくていいんだからね」


 デネブは俺の心の中を読んでいるように顔を覗き込んでくる。「あいつらは敵だと思わなきゃ。あたしたちよりもフォワードに近づいているかもしれないのよ」


「ひょっとしたら、もうフォワードに着いてるかもな」


 デネブはアンサーを抱きかかえて立ち上がった。


「さあ、もう寝ましょ。明日は今日の遅れを取り戻して、何としてもフォワードに入らないと」


 そうだな、とアンタレスも立ち上がって蝋燭を手にテントに向かう。

 今日はお邪魔しないからゆっくり寝てね、とデネブもテントに下がっていった。


 俺も蝋燭の灯りを頼りに疲れた体をテントに運んだ。

 体を横たえると遠くで犬か狼のような何かが寂しく吠えている声が聞こえる。

 全身をじんわりとした疲労感が包む。

 急に眠気が兆してきて、俺は手探りで毛布を探った。

 

 ゴフッ。


 突然鳩尾に何かが落ちてきて俺は「ウゥッ」と呻いた。

 眠気が吹っ飛び、ハッと目を開くとアスカロンの精が冷ややかな目で俺を見下ろしていた。

 俺の腹の上には精の足が載っている。


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