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柔道館の鍵

アールブリュット・ミステリー

2


学校に通い始めて、すぐ1週間がたった。桜の花が空に散りばめられてて、なんだかんだ楽しそうな高校生活が待ってそう。

菜穂子ちゃんと言う女ボスみたいな女の子を味方に付けて、ヤンキーとも一言二言、話をする時があったが、喧嘩になったりはしなかった。

今日から部活の仮入部が始まる期間。菜穂子ちゃんは柔道部に入るらしい。

私はどうしよう、セミロングの流し髪だから、柔道部に入ったら憧れの菜穂子ちゃんと仲良くなれそうだけど髪をばっさり切るのはちょっと嫌だな……


そんな時、柔道部はしばらくお休み、との話が菜穂子ちゃんづてに耳にした。何やら事件があったらしい。まあ、この学校ならいくらでも事件ありそうだけど……


私は中学では美術部だったから、運動部もありかな、と思って、菜穂子ちゃんと一緒に事情を聞きに行く事にした。


柔道館は立ち入り禁止になっていた。どうやら、柔道館から顧問の先生の見ていない所で中から部室のロッカーの鍵が盗まれたらしい。

しかし、昨日それが柔道館にあるのを部長は見た、と話していた。それに、普通部活が終わった後、全て扉の鍵は締め切るし、柔道館の鍵は顧問が職員室に持って帰ったから出入りは出来ないとのことだった。


なんか面白そうだな、なんて他人事の様に事件にワクワクしていた。

菜穂子ちゃんは中学から柔道をやっているので中を見れたらしいけど、不満爆発で帰ってきた。

「あーもー、練習出来んと、面倒なことなったなぁ、なんやねんもう」

「まあ、仕方ないよ…先生は結構ショックだったんじゃない?」

「犯人探しなんか外でやれっちゅうねんアホ」

「ねえ、なんか不自然な物見なかった?」

「何言っとん?」

「犯人見つければ早く部活再開出来るじゃん」

「せやな……そういや床に輪ゴムがいくつか落ちてたで」

「輪ゴム?」

「輪ゴムなんか、部活では使わんやろ、あれが床に落ちてんねん」

「なーほーこーなーほーこー」

ロッカーの鍵をかけている時、菜穂子ちゃんは自分の名前をいつもこうやって言う。

その後、菜穂子ちゃんには、私の部活選びに付き合ってくれながら、事件の分析をしてみようとした。

美術部とか陸上部とか見て回ったが、興味は謎解きに向いていてあまり考えていなかった。

「そもそも、なんで鍵なんか盗むのかな」

「なんかな、先生が大事にしてる掛け軸が部室に入ってるのを知ってるんかな、侵入して売る気やったりして」

「売る気って、流石に売りものになるのかな?」

「確かに、そんな訳ないか」


ここまで考えて、犯人が見つかりそうにはなかった。

でも輪ゴムが床に落ちていたのは、少し証拠になるんじゃないか、そんな気がした。


3日後からは柔道館は生徒の使用許可が降りたらしい。

授業後、仮入部に参加しながら、部屋の中を隅々まで観察してみた。

まず、輪ゴムが落ちてた所を探したけど、1日経って片付けられてしまった様だ。それは仕方ない。柔道館に入るためには錠のみの手でロック出来る鍵のついた窓が4つあった。

鍵が開いてれば、十分登って侵入可能な広さだった。

それと、カバンとか制服をしまうための棚が部員の人数より多めに。

その時、ぐるん、と視界が一瞬で回った。

「なーにぼさっとしとんねん、隙だらけやんけ」

「胸いったぁ、何すんのよー」

「背負い投げやん、それくらい分かるやろ」

「いや、今寝技食らってるし、今犯人探ししてたのよ」

「もええやろ、柔道出来るんやん」

菜穂子ちゃんにとってはもうどうでも良いらしい。

その時、前回菜穂子ちゃんにすっ転ばされたヤンキーボーイの顔があった。

あいつ、柔道部見に来てるんだ、ヤンキーなのに何やってんだろ。殆どやる気がある様には見えない。

部室のロッカーを見てる顧問の目を盗んでサボっている。入部しそうには見えない。

私の顔を見て睨みつけられた気がしたので、思わず目を逸らしてしまった。


家に帰って、ヤンキーボーイのことを考えた。まずお互いに第一印象が最悪。

菜穂子ちゃんの存在が彼にとっては邪魔なんだろうって位だけど、私に恨みがある様には思えなかった。むしろ、菜穂子ちゃんに対して、嫌悪感を抱いている様に思える。

何か引っかかる、あの表情……


今朝からずっと鍵の行方を考えていた。少し寝不足。教室の席に着いて、菜穂子ちゃんに欠伸しながらおはよう。

菜穂子ちゃんは相変わらず元気そうに「まだ犯人探ししとるん?眠そうやなぁ」

「犯人の動機がどうしても分からなくてねー…」

「合鍵でも用意しときゃええねん…てうわっはあ!?」

「どうしたの?」

「ロッカーにさっき入れたはずの柔道着が無くなっとる」

「なんで!?鍵は?」

「掛けたわそんなん」

見るとナンバー式のロックが外れていた。でも、決定的な欠点があった。ナンバー式は答えの数字が分かっていれば鍵が無いも同然だからだ。

ナンバー式の鍵を見ると、開いた状態で000だった。

どうやら、証拠隠滅をされた様だ。ロックナンバーを菜穂子ちゃんに聞くと、「705」らしい。もちろん今のを除いて誰にも言うはずが無い。

菜穂子ちゃんを見ると、心当たりがあり気だった。

「うちいつも、なほこゆうて開けとるやろ?なほこ→705やねん。誰もうちのもんなんか盗らん思って自分で答え言っとんねんな……」

それで閃いた。目的は菜穂子ちゃんへの嫌がらせ、菜穂子ちゃんを分析してる人がいる事。

あのヤンキーの集団だ。そして、柔道部員と関係がある人と言えば、仮入部に来ていたヤンキーボーイしかいない。


ただ、方法がわからないと犯人と特定出来ない。

私は、柔道の仮入部の時、あいつがいたこと、目を逸らしてしまった時、手首に輪ゴムがはめてあったことを思い出した。

それを菜穂子ちゃんに話した。「ほー、春香頭ええなあ、じゃああいつブン殴って聞けばええやろ」「待って待って待って!流石に証拠が無いと認めないよ!」

「だからブン殴って聞くんやんか」「いやいや、いくらなんでも……掛け軸の方がよくわからないじゃん」

「んー……鍵やない?」「鍵?」「柔道館の鍵ってちゃっちいやんけ、鍵かけた後でも輪ゴムで動くんちゃうか?」

「試してみよう」

柔道館の鍵の前に行ってみた。輪ゴムをいくつかはめてみたが、なかなか動かなかった。

「おかしぃなぁ……じゃあ輪ゴムどうやって使うたんや」

鍵が丈夫過ぎた。どうしても輪ゴムだけでは勝手に動きそうに無い。

輪ゴムを外して、床に落ちたのを拾い上げた時、床近くに換気用の窓がある事に気付いた。ここの鍵に輪ゴムをはめてみた。

「ガチャン」

「上手くいったやん!」

「でも、輪ゴムをかけてすぐ開くんじゃ不自然だよ、バレると思うし、一人通るにも狭そう」

「あああもう訳わからん!!」

上の窓の鍵を開けた時、ベタッとした。鍵に何か細工がしてある。という程でも無いが、ガムテープの跡があった。


「なんだろう、これ」「しらーん」菜穂子ちゃんは疲れて制服のまま受け身の練習を始めてしまった。

鍵は金属製、だけどアルミ製だ。磁石には着かないからそもそも輪ゴムを使ったのだと思える。ガムテープの跡はどう説明しよう……「磁石?」「磁石がどーした?」無心になってホワイトボードから磁石を取り、ガムテープのところで輪ゴムと磁石を押し付けてみた。「…………ガチャン」

開いた!!

その際、外れた輪ゴムが床に散らばった。それが思いの外広範囲になった。床の通気用の窓から手を出して回収したら取れない輪ゴムもあっただろう。それが床に残された証拠だろう。

練習後、鍵を全てかけてから部屋を出るから朝鍵を全て確認する事は普通しないだろう。部長も気付かなかったのだ。

鍵を外す時は輪ゴムをして、ガムテープで固定した磁石を窓の外から磁石を反発させれば、窓の鍵は開けられる事になる。

「これだ…!」「これやな…!」「うわっ!」いつの間にか菜穂子ちゃんは戻ってきていた。鍵の実験をしている時に興味が戻ったらしい。

「これで外進野郎だって証明できるな」

「で、でもさ、どうやっていう、私、ちょっと無理なんだけど……」

「しょーもな。うちが言うわ」


次の日、ヤンキーボーイ、荒木俊介が登校するのを見計らって菜穂子ちゃんが一人で証拠を挙げていった。

案の定、ヤンキーボーイはキレてきたので、菜穂子ちゃんに投げられてたから、私も仲裁と説明に参加せざるを得なくなってしまった。

説明は完璧に正解だった様で、荒木は反論はしなかった。

ただ、「盗んだ物は家に持ち帰った」とふんぞり返っていた。

菜穂子ちゃんは柔道着を着て練習が出来ない事に気付き、「女の子の服盗むなんてありえへんわ変態!!」とすぐ帰って来させ怒りながらヤンキーボーイはまた宙を舞った。


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