山口春香と村山菜穂子
アールブリュット・ミステリー
1
「いってきまーす」
「ちょっと、はる、お弁当」
「あ、忘れてた」
「改めて、いってきます」
あの時は、前の席や後ろの席の女の子達と友達になって、新たな生活に胸を躍らせているはずだと思い込み。山口春香、ただいま高校生になりました。
不安と期待の入り混じる中でも期待の方に期待しちゃうのが普通だと思う。誰だってそうだって。
何故か最初の登校日に、既にヤンキーみたいなグループが出来ていて、それが不穏な雰囲気を教室いっぱいに幅を利かせてた。
「うっせえんだよ文句あんのか?」
「い、いや、だから……」
「外進がしゃしゃり出てくんじゃねえよ」
「うっっ」
殴られてたひ弱そうな男の子は私と同じ外進生だ。
臆病者の私は、助けに行くことも出来なかった。他の人達も唖然としていて、状況を理解している人は少なそうだった。
ホームルーム前から嫌な感じがしてたけど、担任が来た時も案の定
「うっわこいつかよ」「だりーなセンコウ」
ここは私立の中高一貫校。中学から上がってきた内進組は既にグループが出来ていた。よく考えなくても当たり前なことだった。でもどう考えても学校をなめきってる内進生はタチが悪い。友達を作る前にこの混ぜこぜになった中の誰かから目をつけられない様に行動しないといけない。そんな思いでホームルームが始まった。始まった。あれ、始まらない。
「かえれー!クソ教師!」
めんどくさすぎでしょうが!馬鹿かこいつら!やってらんねえ!先生ビシッとビシッと!!
「えっと、ほ、ホームルームを始めたいので、静かにしてください」
弱い!押しが弱いよ先生!!見た目から頼りなさ溢れてるけど!そんなんじゃこのクラス内進生に占領されちゃうよ!
いくら心で叫んでも届く訳がなかった。でもとにかく先生に全面的に味方しとかないとやばい。流されやすい性格の私にもこの状況の打開策なんか分かりゃしない。
プリントと座席表が配られて、とりあえず外進組があらかた区別がついた。
目の前の席には身長低めで茶髪のショートヘアの大人しそうな切れ長の瞳、といった感じの女の子。参加してない様子からみると外進だな。こそっと話しかける。
「私、山口春香。ね、なんか、やばくない?」
「知らんかったんか?地元じゃ悪名高いおバカちゃん校やんここ。」
関西弁?とりあえず座席表を見て名前を確認。「えっと、村山菜穂子ちゃん?」「なんや、あんま喋って気ィ付けんと目つけられんで」「そ、そだね」
会話はそこで終わってしまった。別に、私の気にするところじゃないけど関西からここに来る理由なんてあるんだろうか?
授業中も足を机の上に置いたり机に座って騒いだりで男女共になかなかのヤンキーっぷりだった。
今日は昼まで、昼まで我慢してすぐ帰ろう。
菜穂子ちゃんはとりあえず友達?で良いのかな……
帰りのホームルームもグダグダに終わって、帰ろうとした時、ドアの前にヤンキー達が固まってて教室から出られなかった。教室前の扉は既に別のヤンキーグループがいて帰れそうになかった。怖いよ何これえ……
「菜穂子ちゃん、どうしよ」「せやなあ、後ろ付いてきぃ」
そのまま手ぶらでヤンキーグループに向かっていく。勇猛果敢にも程がある、女の子なのに頼もしいな。
「おい、おまえらそこいたら帰れる奴も帰れんやろ、どきいや」
マジかマジかマジか!口で戦うのは無茶だよ!
「ああ?ふざけてんのか?」やっぱりいい!!
襟首をつかもうとヤンキーボーイが手をかけた時、菜穂子ちゃんはスッと手首を引っ張って右足を相手の支えの左足に伸ばして引っ掛け、あっさりぶっ倒した。
「おい外進、うちにも勝てんでようヤンキーやっとんなあ?内進に上下関係教わっとき。ま、うちも柔道なんか道場以外で使っちゃあかんねんけど」
こうして菜穂子ちゃんの助けによって教室から出られた。
ん、え?菜穂子ちゃん外進って呼んでた?
「ねえ、菜穂子ちゃんって外進じゃないの?」「何言っとんねや、うちが外進に見えるか?ははっ、面白いな、春香?よろしゅう〜」
どうやら一番強そうなヤンキーガールと友達になってしまった様だ。頼もしい味方をつけた様な、なんか危ない橋を渡っている気もするけど、とりあえずなんだか穏やかじゃない学園生活が始まっちゃった。




