どうして毎回こうなるの!?
目の前にはこちらを睨みつける肥えた男。何でも死ぬほど後悔させてやるとの事で。
「どーすっかな。」
何とかしてこの状況から抜け出したいが、それは許してくれなさそうだ。
「なんだなんだ?」
「あれはヒズミルの町の貴族、ブヒータ⋯⋯様と、⋯⋯誰だあの男?」
「また貴族が暴れているのか?」
まずい、まわりに興味本意の観衆ができ始めた。すると、
「貴様はこの闘技場の試合に出るのか?」
そんなことをブヒータが聞いてきた。丁度いい、それを理由にここから抜け出そう。
「ああ、そうなんだ。だからはやくエントリーに行かないといけない。じゃあな。」
するとブヒータは驚くほどあっさりと見逃してくれた。しかし去り際に、
「ぶふふっ、そうかそうか貴様も出場するのか⋯⋯おい、アイツらを今日の闘技場に出させろ。」
と、自分の従者に指示を出していたことが気になった。
もちろん俺は試合に出るつもりなどさらさらないので、ブヒータと別れたあとは適当に隠れようと思う。
しかしそんな俺の腕をつかみ引き止める人があった。
「ねえキミ、さっきのちょっと聞いてたけど闘技場の試合に出るんでしょ?急がなきゃ!出場受付はこっち!うちが案内してあげる!」
そう言って俺を引っ張るのはくせっ毛の強い髪をポニーテールで束ねた燃えるような赤毛の少女。だがその髪は彼女が着ているフード付きのコートに覆われ近くにいる俺にしか見えない。
一見普通の活発そうな少女に見えるが、そのしなやかな肢体は良質な筋肉で締まっており、全身に魔力を淀みなく循環している様子も見れた。
冒険者か何かか?と思いながら、彼女に試合に出るつもりは無かったとの返答をしようとしたところで、こちらの様子を探っているブヒータが目に入る。
今否定するとブヒータに嘘がバレてしまう。
「ほら早く早く!」
そうして少女に連れていかれるがまま、なし崩し的に闘技場の試合への出場が決まってしまったのだった。
その頃、ヒズミルの町
ご主人様が数日前、王都に行ってしまった。なんでも、白女神様からの招待だということで⋯⋯ますますご主人様の謎が深まるばかりだ。
でも、ご主人様は自分の事を詳しく聞かれるのを嫌がっているように感じる。なのでアタシは不用意にご主人様についてずかずかと聞くわけにはいかないのだ。
アタシ、リリはサキュバス12歳の頃にサキュバスの集落を出て、人間達の町で働くことになった。
人間とアタシ達では成長する速度が違う。人間の成人が16歳だが、アタシ達の成人は12歳なのだ。
就職した宿はアタシのお母さんの友人だというリエラさんが経営している所だったので、アタシは随分と良くしてもらった。
仕事の内容はサキュバスにとっては簡単なことで、日々の仕事で疲れた男の人たちを癒してあげることだった。
と言っても、ベッドで添い寝をした後は魔法で眠らせて、後は男の人にとって幸せな夢を見せてあげるだけなのだが。
ほとんどの冒険者はアタシ達を抱けると勘違いして、気が緩んでいるので簡単に魔法をかけることができた。
翌朝になると夢だとも気づかないで満足気に帰っていく。
たまに魔法に対する抵抗力が強いお客さんが来たが、その時はリエラさんに魔法を使ってもらった。
リエラさんはサキュバスのなかでも上位種の『クイーンサキュバス』なのだ。とっても魅力的な人なのでアタシも少しでも近づけるよう常日頃がんばっている。
そんなこんなで仕事も順調になり15歳になった頃、アタシはご主人様に出会った。
初めて出会った時は、アタシ達のお店に来たくせにまったくアタシに手を出そうとしなかった。その上ただ部屋を貸してくれと来たもんだから。男色なのかと疑ってしまった程だ。
が、今思うとアタシに全く興味が無いと言うよりは悟られないように我慢しているようだった。なのでアタシの当面の目標はご主人様をその我慢から解き放ってあげることだ。その折には⋯⋯ふふっ!
二度目に会った時は、アタシはとても落ち込んでいた。なぜなら以前からしつこくアタシを買おうとして断られていたブヒータが権力を使って無理やりアタシを買えるようにしてしまったからだ。
ブヒータは奴隷をいたぶる趣味があると噂されており、そんな主人を持つのは絶対に嫌だった。
ブヒータが来るまで三日の猶予しかなかったため、アタシは絶望的名状況にあった。このまま逃げ出したかったが、それではリエラさんに迷惑がかかってしまう。そんな時ご主人様に再開したのだ。
その日はご主人様は元気の無いアタシに優しくしてくれて、アタシも大分気が楽になった。
しかしもっと驚くべきは、ご主人様がブヒータに買われる前日の夜にアタシを買ってくれたことだった。
サキュバスは高級奴隷なので決して簡単に買える値段ではない。なのにご主人様はブヒータの話を聞くとすぐにお金を用意し、であって数日のアタシを救ってくれた。
アタシはとても驚き、そして感謝した。アタシを救ってくれたこのご主人様に心から尽くそう、と。
また、今はまだご主人様に抱いてもらえていないが、いつかはご主人様に愛してもらいたい。そう強く思うようになった。
⋯⋯⋯⋯
「⋯⋯ん、⋯リちゃん!聞いてますかぁー?」
と、そこで意識が目の前に戻されふくれっ面のクラネっちが目に入った。
「ごめんー!ちょっと考え事してたのー。」
今アタシ達は幽霊屋敷の件でクラネっちにあげたプレミアムケーキチケットを使い、2人でたくさんのケーキを楽しんでいるところだった。
「何考えてたんですかぁ?」
「んー、ちょっとご主人様のこと!やっぱり素敵な人だなって。」
「そうですかねぇー?ケーキくれたのは良かったですけどぉ、シオンさんにはパンツ取られましたしぃ!」
「え!?何それ詳しく教えてクラネっち!!!どういう事!?」
そうしてアタシはご主人様に与えられた、平穏で⋯⋯でもとても充実して楽しい日常に喜びを噛みしめるのだった。
ここは王都アルアーラの闘技場。
人々が熱き戦いを求め集う場所。その地にて俺、シオンは⋯⋯
「まさかキミが勝ち上がってくるとはね?まあ勇者の力があれば当然か⋯⋯それじゃあ⋯⋯いくよ!!!」
先程の赤毛の少女。
アルアーラの勇者パーティーの武闘家。竜人族の少女。
『炎舞姫』カーラ=ドラゴニアと対峙していた。
どうして毎回こうなるのっ!?
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