あなた誰でしたっけ
夜が明けて再び、俺は王都へ向かう馬車に揺られていた。昨晩は野宿だったのだが、与えられたテントでは床が固くて心地よく眠れなかった。
はやく手に入れたばかり我が家に帰りたい。俺が切実にそう願っていると馬車を運転している従者さんから声がかかった。
「もうすぐ王都アルアーラに着きます。ロゼッタ様、シオン様、門に入り次第準備をお願いします。」
準備って何でしょうか?そんなことを聞き損ねたまま、馬車はアルアーラへと到着した。
高くそびえ立つアルアーラの街を囲う外壁。その中の貴族達が通る門からアルアーラの街へと馬車が入った瞬間、あちこちで歓声が上がった。
「あの馬車は聖女様のものだ!」
「聖女様がお帰りになったぞー!」
「きゃー!聖女様ー!こっちを見てくださーい!」
それらの歓声は全て聖女を讃えるものだった。驚いた。アルアーラの聖女はこんなにも民衆に人気があったのだな。
ヒズミルの聖女も人気ではあるのだが、あちらは熱狂的ファンに崇められるというよりは、働き者の優しい少女。というような感じで親しまれている。そんな感想をして心でまとめていると、
「ほら、こっち来なさい。」
そう言って聖女に引っ張られ、馬車の窓のところまできた。
「聖女様がお顔を出された!」
「聖女様ー!今日も凛々しいですー!」
聖女は馬車から顔を出し、民衆たちへと手を振る。すると爆発的に歓声の量が増える。
「何ぼーっとしてんのよ。あんたも一応顔だけは見せときなさい。白女神様に招待された人間なんだから。」
そういう意図があったのか。逆らっても良い事は無さそうだったので、素直に従い馬車から顔を出し、ぺこりと一礼だけする。なるべく目立たないよう、顔は伏せ気味で。
しばらく歓声を浴びつつ馬車は進み、やがて大きな⋯⋯それこそヒズミルの町で一番大きな建物であるヒズミル教会が5つは入りそうなほどの⋯⋯とてつもなく巨大な教会へと馬車はついた。
「ついたわよ。ここが白女神教のアルアーラ教会。部屋を与えられるはずだからそこで待機してなさい。あとであたしが迎えをだしてあげるわ。」
馬車から降りて、教会の入口で聖女から指示を受ける。
「迎えって、これから俺に何かあるのか?」
「仕事であんたを連れて街を案内しなければならないの!本当、面倒ったらありゃしないわ。言っとくけど今回あんたが招待されたからと言って調子に乗らない事ね。勇者でもないあんたを白女神様が見たらすぐに呆れられて追い返されるわ。」
コイツは一々小生意気だなあ。だが年長者の余裕として我慢してやろう。⋯⋯ちょっとくらい帰り際に仕返ししてもいいかな?
「返事は!?」
「はいよ。それじゃああてがわれる部屋とやらに案内してくれ。」
そう言うと、教会の職員の人が案内をしてくれるとの事だったので、その人へついてその場を離れた。
「まったく!せっかくこれからの祭りで勇者様に会える希少なチャンスが訪れるというのに、なんでこんな男の案内をしなければならないのよ!」
去り際の聖女の愚痴が耳にはいる。なるほど、勇者もこの祭りに来ているのか。まあ国に仕える勇者が国教とされる教えの女神を讃える祭りに来てもおかしくはないか。
出来ることならば関わりを持たなずに済むよう祈り、教会の職員を追うのだった。
しばらく自室で待機していると、職員の人が聖女ロゼッタの準備が出来たとので入口まで来るようにとの伝言を伝えてくれた。確か街の案内とか言っていたな。と、指定された場所まで行くと、
「遅い!」
そう憤慨する聖女の姿があった。ほんと、ヒズミルの聖女とは大違いだな!もちろんあっちの方が優しくていい!
「いやこれでも言伝を聞いてから出来るだけ早く来たんだが。」
「それでも聖女であるあたしを待たせるなんて許されないことだわ!」
お前こそ神王に対する不敬だっ!て言ってやりたい。まあ言えないんだけど。
そんなこんなで不機嫌そうに教会から街へと歩く聖女の背にここまで具体的に説明されていなかったいくつかの疑問をぶつけてみた。
「なあ、白女神様に招待されたっていうのは具体的には何があるんだ?」
「ああ、言ってなかったわね。白女神様は祭りの二日目にこの地に降りなさるの。その時に勇者様や神聖騎士団長、高位神官や私たち聖女は謁見の機会が設けられるのよ。で、そこにあんたも加われるわけ。光栄に思いなさい。」
「それは俺が勇者のジョブになる権利があったからか?」
「ええそうね。でもあんたみたいな一般人に勇者としての責務が務まるとも思えないし。実際何の実績も上げれてないじゃない。なんで勇者のジョブの選択権が出たのか不思議でしょうがないわ。」
「あーそうだな。俺も勇者なんか出来るとは思わん。⋯⋯それで、その勇者の情報はギルドから漏れたのか?」
「違うわよ。白女神様の神託で、ヒズミルの町でのAランク依頼一日のうちに全て達成された事を聞いたわ。それで、白女神様はその偉業を成し遂げた人間を呼ぶよう命じられたんだけど、調べてみたら全てギルド職員がやったってなってるじゃない。」
それは、前にリリを奴隷として買う時にAランク討伐依頼で稼いでた話だな。まさかこんな所で反動が返ってくるとは。
「教会は不審に思ってヒズミルの噂を調べたわけよ。そしたら勇者のジョブが現れたって話だったの。でもまさかあんたみたいな普通の人間だったとは⋯⋯。ねえ、あんたがAランク討伐なんか出来たの?」
「んー?どうだろうな?」
「とぼけるつもり?⋯⋯ふんっ!まあいいわ、幸運が重なったのでしょう。でも本物の勇者様はSランクの討伐もこなしちゃうわ!調子に乗らない事ね!」
「だから乗ってないって。」
そんな会話をしているうちに、俺たちは闘技場のような場所へとたどり着いた。ちなみにここまで、聖女はすれ違う市民達にこれまた歓声を浴びせられていたが、凛とした表情で応対していた。
俺の時とは対応が違いすぎる、猫を被りやがって。
それにしてもこの建物は何なのだろうか、そう思い俺は尋ねた。
「ここはなんだ?」
「王都の闘技場よ。戦士達が人間同士や魔物と戦うアルアーラで一番大きな娯楽施設なのよ!」
どうやらそのまま闘技場であってたらしい。
「どうしてそんな所に?」
「ここには貴族達が集まっているの。招待者であるあんたを紹介して挨拶回りをしてこいって上からの指示だったけど、あんたみたいな小市民は心が持たないでしょう?だからあたし一人で回ってくるわ。というか邪魔になるからついて来ないで!」
と、俺を散々に言って聖女は闘技場の中へと入っていった。
どうしよう、取り残されてしまった。闘技場から離れると多分また聖女に愚痴を言われる。
とりあえず闘技場の中を見てみるか。そう思い足を踏み出そうとしたその時、
「な!貴様ぁ!こんな所にいるとは、忌々しい!」
そう言って一人の男が俺を苛立たしげに罵る音が聞こえてきた。
誰だろう、とその方向を見ると⋯⋯ブクブクに肥えた醜い男が喚きながらこちらを指さしていた。
⋯⋯いや誰?
まったく心当たりが無かったので、その男の様子を首をかしげて眺めていると男が、
「俺の女に手を出した罪は重いぞ!平民がこのブヒータ様に楯突いたことを死ぬほど後悔させてやる!ぶふふっ、ほんとうに死んでしまうかもなぁ?」
⋯⋯⋯⋯⋯⋯
⋯⋯⋯⋯⋯⋯
⋯⋯⋯⋯⋯⋯ああっ!思い出した!
そう、俺に声をかけてきた男は、ちょっと前に俺の仲間(奴隷)のリリを巡って一悶着あった、豚貴族ことブヒータだった。
仕返しとか言ってから音沙汰無かったからすっかり忘れてたよ!
それにしても⋯⋯
面倒事の予感!!!
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