思ったより元気そうじゃないか
「そういやリリは戦えるのか?」
幽霊屋敷へ討伐に向かうにあたって俺はふとした疑問を尋ねてみた。
「お布団の上でのサキュバスは最強だよー♡」
「つまり普段は?」
「スルーしないで!普通に戦うんだったらほとんど足でまといかも?あ、なんなら荷物でも持つ?」
「いやいい、収納スキルがあるしな。となると基本的には戦闘に加わらずにサポートだな。炊事とか頼むかな。」
「りょうかーい!それでご主人様はゴーストとか大丈夫なの?」
「まあ大丈夫だな。大丈夫なんだが、今回俺はゴースト討伐に直接関わらないつもりなんだ。」
いや本当に怖くないぞ?処理し終えたはずの天界の仕事が休憩から帰ってきたら二倍になって積み重なっているほうがよっぽど怖い。
「えー?私がやるのー?むりだよー!」
「違う違う、あてがあるんだ。今日はそいつの所に行こう。」
そう言って俺たち二人はその人物の居るところへ向かった。
そんな訳でやってきましたヒズミル教会。
やっぱりゴーストの浄化とかは専門家に任せたほうがいいよね!なんで自分でやらないかって?もちろん目立ちたくないからだ。
先日、ブー⋯⋯??なんとやらさんに目をつけられたばっかりなんだ。それに加えて長年放置された幽霊屋敷を単独で解決したなんて事があったら、多くの人の噂の種になってしまう。
守ってみせるぞ休暇ライフ!
「ご主人様、教会の人に頼むの?アタシちょっとここ苦手かも。」
魔物であるリリは何か感じるものがあるのだろうか。まあ今日会うやつはまったく神聖さとはかけ離れてる人間だから、いざこざは起きないだろう。
「こんにちわー!クランネちゃんいますかー?」
そう言って俺はずかずかと教会に入っていった。前回の出来事を思い出すと礼儀正しくなんて気まずくてできない。むしろこれくらい軽い方がまだ上手くやれるだろう。
「教会ではお静かに。⋯⋯と、シオンさんでしたか?その⋯⋯お久しぶりです。そちらの方は?」
予想外の人物が受付にいた。ヒズミルの聖女⋯⋯名前なんだっけ?
「あ、聖女ルナ様だ。」
そうだルナだった。横でリリがボソッと呟いてくれなかったら思い出せないところだった。
「ああ⋯⋯元気そうで何より。こっちは俺の冒険者仲間のリリだ。」
なんとなく奴隷と言うのは、はばかられたので俺はそう答えた。
上司である彼女が受付をしているなんてクランネはどこに行ったんだ?そう気になった俺は聖女に聞いてみた。
「クランネは今日は居ないのか?」
すると聖女は難しそうな顔をした。
「その、居るには居るんですが⋯⋯」
そう言って彼女は今ここにクランネが居ない理由を語りだした。
なんでも『あの事件』以来、クランネは教会にいる間中引きこもってしまい、働かなくなったというのだ。
その事について注意すると「パンツが⋯⋯」と言って涙ぐむので、引け目のある聖女は強く言えない。
結果クランネは教会では私物と化した部屋にこもり、そのまま勤務終了時間とともに家に帰る。という何のために教会へ来るのか分からないような生活になってしまったというのだ。
⋯⋯やっぱりやり過ぎだったかな。謝罪はできないが見舞いくらいはいってみるか?
俺は悪くない?のだが罪悪感がすごい。そこまで落ち込まれるとは思っていなかったので、俺もやり過ぎたと反省した。
聖女にクランネがどこにいるか聞くと、前に俺が祝福を受けた第三儀式室に居るそうなので顔を見に行ってみることにした。
今回、ゴースト討伐をクランネに任せるつもりだったが他の方法を探さないとな。
第三儀式室へと到着した。簡素な作りの扉の中からは確かに人の気配がする。ノックをして声をかけようと思い、俺が扉へ近づくと何やら声が聞こえてきた。
「ふふーん!いやぁ最近のお勤めはとっても楽で嬉しいですねぇ。聖女様もあの件には強く出れないみたいですしぃ!このままずっと楽してやりますぅ!パンツ1枚で楽ができるならいくらでも持ってくがいいですぅ。」
⋯⋯心配して損した。傷心かと思いきやそれを利用してダラけてるだけじゃねえか。やっぱり働いてもらおう。
とりあえず俺は扉をノックした。
こんこん
「ふぇ?誰ですぅ?わたしちょっと心が傷んでいるのでそっとしておいて欲しいですぅ。」
こんこん
「聖女様ですかぁ?⋯⋯⋯⋯うぅ⋯⋯ぐすぐす、聖女様がわたしのパンツを⋯⋯ふぇぇん。」
こんこんこん
「もぉ構わないでくださいよぉ!わたしならもう少しだけ心を休めたら大丈夫になりますぅ。」
ガチャリ(神の力の施錠無視)
「どうもこんにちわ、楽をするためにならいくらでもパンツを売るアホシスターさん。」
「ぴぇっ!?な!シ、シオンさん?もしかして聞こえて⋯⋯」
「悪巧みの成果を独り言で呟くのはどうかと思うぞ。」
「な、何のようですかぁ!パンツならあれ以上あげませんっ!」
いや1枚目はいいのかよ。
「いらんわっ!そうじゃなくて仕事の依頼に来た。」
「いらないんだったら返してくださいよぉ!」
その言葉に俺はギクリとして固まってしまった。パンツはリリを買う時の金の足しにして親衛隊共に売り払った。それをバレるわけにはいかない。
「あー⋯⋯なんだ、なんて言うか⋯⋯失くした?」
「何で失くすんですかっ!しかも何で疑問系なんですかっ!」
「おっさんが⋯⋯おっとこれ以上は。」
何だかツッコミに専念するクランネは新鮮でちょっとだけ可愛らしかったので、わざと口を滑らせてみた。
「おじさん!?おじさんがどうかしたんですかぁっ!その先を言ってくださいよぉ!」
「からかうのはここまでにして、仕事の内容だが。」
「さらりと流さないでください!わたしのパンツはどうなったんですかぁ!」
やっぱり普段の性格は小憎らしいが、困った顔でオロオロとツッコミをするクランネは可愛いかもしれん。
もちろんペット的な意味で。
「安心しろ、敬虔なる信者のもとに返してやった。」
おっさんだがな!
「信者?聖女様ですかぁ?」
なんかいい感じに勘違いしてるし、それでいいだろ。
「それで仕事の話なんだが⋯⋯」
「やぁーですぅ!せっかく手に入れた安息の日々を手放したりするもんですかぁ!」
こいつ⋯⋯開き直って働こうとしなくなりやがった。だが、働きたくないその気持ちはわかる!
だから俺は前もって用意していたカードを提示することにした。
「リリさんや、例のアレを。」
と、ここまで後ろで控えてこの騒動の顛末を見守っていたリリに合図をする。
「はーいご主人様。どーぞ!」
俺はリリからそのチケットを受け取りクランネに見せた。
「そ、それは中央通りにある人気のケーキ屋さんの、ケーキ食べ放題プレミアムチケット!喉から手が出るほど欲しいですぅ!」
はい説明ご苦労さん。俺はここに来る前にリリに頼んで女の子を食べ物で釣る場合のオススメを教えて貰っていたのだ。
食欲、特にお菓子に対する欲が凄まじいコイツには効果的だと思った。
このチケットは一週間に数枚しか入手することが出来ないとても価値あるものらしい。
もちろん言われて1日で用意出来るわけがない。これはリリが持っていたもの譲ってもらったのだ。いや主人だがリリさんには頭が上がらんわ。
「仕事⋯⋯な、何が望みですか?まさかそれを餌に私に一日彼女をやれと!?」
「違うわ!除霊だよ除霊。ゴースト退治。お前の専門だろ?」
「え、そんなこと?そんなことでチケット貰えるんですかぁ!?」
「ああ、どうする?」
「やりますぅ!シオンさんいい人ですぅ!」
よし、ちょろい!
「例ならこっちのリリに言ってくれ。」
そんなわけでクランネはケーキに釣られてゴースト討伐に協力することとなった。
『神王』パーティーに『アホシスター』が一時加入した。




