膝枕
俺の体はもう限界だったらしい。それを無理して動かしたのだから、こうして倒れることは当たり前と言えよう。地面に突っ伏しながら閉じてしまいまそうな瞼を上げているが、目の前がよく見えないぐらいに暗くなってきている。ただそれを怖いとは思わなかった。
悪夢の中でとはいえ、一度死に触れているから分かるのだ。このぐらいではまだ死なない。自分が死ぬラインというものが、人が死ぬ前兆というものが、なんとなくわかるようになってしまったようだ。いいことなのか、わるいことなのかは不明である。
その真っ暗に近いつまらない視界の中突然、首だけが少しの間だけ持ち上げられた。その後、特別に柔らかい最高の枕のような感触がした。
これはまさか・・・伝説の・・・・
膝枕ッ!!
なんて興奮する余裕もないほど、俺は消耗しているのだろう。頭の中では俺ならはしゃぐようなシチュエーションなのだろうな、と考えてはいるのだが、どうにも実感がわかない。恐らく何にも見えていないからだろう。中途半端に薄暗い視界に飽きて、すでに俺は目をつぶってしまっていた。かといって今更目を開けてももふもふの太ももが拝めるわけでもない。俺は何も言わずそのままにすることに決めた。
というか、はっきり言って少し気まずい。いろいろと聞いてしまったこともあるし、それに勢い余って思いきり抱きしめてしまった。仮にも相手は女の子だというのに。
「・・タクミは全部話してくれたのに、わたしはなにも教えてあげなかったね」
鈴のように、可愛らしく響く声。ミルの声だ。見えなくてもわかる。ただなぜ膝枕をしてくれているのかはわからない。
「さっき聞いちゃったけどな」
答えることすら億劫な気だるさに抵抗して、俺はただ一言そう答えた。言ったあとにその内容を思い返してみると、拗ねていることが丸見えなセリフである。俺が前言撤回する前にミルはくすりと笑った。
・・幼女に嫉妬を見抜かれて笑われるというものがこんなにも屈辱的だということを、俺は今思い知った。屈辱的と同時に、穴があったら入りたいほど恥ずかしい。あー、顔赤くなってきた気がする。
「じゃあ、今から教えてあげるね」
俺が居心地悪そうにもぞもぞすると、ミルはまたもや小さく笑った。苦笑というか、失笑というか、小さな子供の無邪気さに微笑むような、そんな笑い方だ。俺の顔はもう茹でダコの如しに真っ赤になっていることだろう。




