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月の少女   作者: 高見 リョウ
子どものSOSを見逃すな
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暴れる子どもを落ち着かせる方法

 遊ぶ時間が始まると、最初の緊張感が嘘のような楽しい楽しい時間となった。心に傷を負っているとされた子どもたちであったが、その傷を感じさせないほどのはしゃぎっぷりであった。レゴブロックを組み立てたり、プラレールで線路を作って電車を走らせたり、学生のみんなも今日だけは童心にかえったような面持ちであった。何よりも子どもたちの笑顔が彼らをそうさせていることに間違えはない。たまに顔をのぞかせる年配の教授たちも、子どもたちと一緒になると、心は子どもになっていたみたいだ。

 あっという間に時間が過ぎお昼になった。お昼ご飯を食べるため、子どもたちの遊びをいったん止めて、最初の部屋に座らせなければならない。その時トラブルが起きてしまった。

「俺は、まだ遊ぶんだ!離せコノヤロー!体罰で訴えるぞ‼」

甲高い男の子の声が聞こえてきたのだ。

見てみると、一人の男の子が学生の指示を嫌がり、駄々をこね、逃げるように靴箱の上に上っていた。

「パワハラ!パワハラ!」

小学二年生にしてはとんでもないことを口にしており、「家の人に言いつけてやる‼」とか言っているおり、高いところに上っているためうかつに手を出せない状況にあった。その時学生たちは、国小田ら教授の姿を探したが、午後からの打ち合わせがあっているらしく、この場にはいなかった。

「静かにしなさい‼迷惑をかけないの‼」

「うるせー!くそババア‼くそジジイ‼」

学生たちが注意をすればするほどその子は逆上してしまう。

「いい加減にするんだ!」

駿太郎は思わず大きな声を出してしまった。

次に瞬間だった。

「うるせーな!」

顔を真っ赤のしたその子は、隣に置いてあった花瓶に手をやり、学生たちが集まったところへと思いっきり投げた。床に打ち付けられた花瓶は、見事なまでにバラバラとなり破片が飛び散った。何人かの学生が、破片が足に飛び散ったのであろうか、「痛い!」と言いながら顔をゆがめた。

「うわー!」

男の子はさらに逆上し、破片が飛び散った所へと飛び降りようとした。

「危ない!」それを見た誰もがそう思った。

その時、男の子の横から鍛えあげられた女の人の小麦色の腕が男の子の上腕をつかんだ。男の子はバランスを崩すと、横に跳ぶようにして、その女の人の胸へとダイブした。女の人は慣れた手つきで、男の子を抱きかかえる。

桃子だ。

「離せ―!離せ―!」

男の子はその胸の中で再び暴れだしていた。

「分かった…離すから!落ち着いたら離すから」

桃子は笑顔で男の子を落ち着かせだしていた。

「離せ…離せ…」

「今離したら、下ガラスいっぱいで大変なことになるよ。静かにしたら離してあげる」

「フウ~フウ~」

徐々に男の子は落ち着きを取り戻していった。


 「郷司くん、いっつもあんな感じなの…」

駿太郎は帰り際、一人の女の子にそう言われていた。

「いつも?」

「桂木先生がさとし君たちたたいた時も、さとし君暴れてたもん」

「そうなんだ…」

駿太郎は、その暴力を振るった担任の気持ちが少しは分かるような気がした。確かにあの男の子が言ってた、“パワハラ”とかは小学生が言いそうな言葉ではない。しかしどこでそんな言葉を覚えたのだろうかという疑問が、駿太郎の頭の中をぐるぐるとまわっていた。


 「今日、郷司くんが暴れた時、多少のけが人は学生の中に出たが、子どもたちに怪我なく、終えたことは、小柴さんがあそこで郷司くんの気持ちをくみ取ったことにある。学部生にしては上出来だ」

桃子は照れた様子でその言葉を聴いていた。

国小田は「明日からの計画を言います」と言いながら、席を立つと背筋をピンと伸ばしレジュメを配布し始めた。その次に席に戻るとバックから老眼鏡を取り出し、それをかけて説明を始めた。

「明日までここで遊び、明後日の金曜日午後から、彼らの小学校に散歩に行く。中には入らない!徐々に慣れさせるための必要なものだ」

学生たちは配られたレジュメに必要事項をメモしながら国小田の話を聴いていた。国小田に言わせると、大事なのは「引きこもりにしないこと」らしい。


 駿太郎は帰り路、褒められて胸を張っている桃子と一緒に歩いていた。今日は桃子のほうが高身長ようにも感じられ、駿太郎としてはなぜかすっきりとしない気分になっていた。

「なんであんなに慣れてるの?」

駿太郎が桃子に尋ねる声には、悔しさが隠れているようにも感じられた。

「経験だよ!私が教えてるバレークラブの子どもたちもあんな子がいて、たまにあばれだすからさ…怒ってもだめだから、聴いてやるんだ!カウンセリングみたいに!」

「へぇー…」

駿太郎はまた少し感心してしまった。桃子と一緒に行動し始めて光と出会い、人の知らなかった部分が次々に出てくることに気付いた。駿太郎は、成績優秀と自分の中で威張っていたが、気づけばみんなに勝てるところは勉強だけじゃないのだろうかと考えるようになっていた。


大学の近くにある公園付近で駿太郎と桃子は別れる。桃子が住んでいるアパートは公園の中を横切った所にあり、公園を過ぎてまっすぐ歩くとアパートに着く駿太郎とはここでお別れだ。最後は「お疲れ‼」と言いながら公園の中に入っていった。

桃子は公園の中に入り、遊んでいる子どもたちを眺め、目が合うと時より微笑みを浮かべながら歩いていた。その時後ろから昼間に聞いたあの甲高い男の子の声がした。

「お姉ちゃん!…お姉ちゃん‼」

自分が呼ばれていると感づいた桃子は、慌てて振り向き斜め下のほうを見ると、昼間暴れていたあの男の子が立っていた。

「郷司くん…どうしたの?」

男の子はそう言われると、薄ら笑いを浮かべて桃子のところに駆け寄り、一言こう言った。

「お姉ちゃん…抱っこして・・・」


郷司君はどうして暴れてしまうのでしょうか?

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