プロローグ
――私の所為だッ!
神宮司ミエコは走っていた。
暗い中、上がる息をも気にせずその細い脚で一生懸命に駆け抜ける。全力で、高等女学校の授業でも出したことがない全力を、今この瞬間に発揮して。
――私がそそっかしいからッ!
自責の念が胸を詰まらす。
悔いても遅い。後悔先に立たずと思っても、何の慰めにもならない。たった独り、頭の中で思索がグチャグチャに掻き混ぜられ、混乱と情動の坩堝に堕ちる。
――いっつもこうだ!
イキアタリバッタリズム。
楽しい事も多かったが、反省する事も多かった。面白そうだったら面倒ごとでも首を突っ込んでしまう。
思慮深いなんて私らしくない――、物心覚えた頃には自分を規定してしまっていたが、生来の気性はやっぱり変えようがない。三ツ子の魂百まで。きっとおばさんになっても、おばあちゃんになってもずっとこのままだろう。
それでも……、これではいけない。
――これじゃいけないのッ!
私が不幸になるのは良い。
因果、自業自得、自分の行動の責は全て自分が背負うべき。
当たり前だ。
だけど人を巻き込み、人を不幸にしては絶対に駄目なんだ。
私の所為で――、人が死ぬなんて絶対駄目なのッ!
喩えこの身が淪落しようと、喩えこの身がカタストロフに潰えようと構わない。面皰連の野郎共をぼこぼこにしてやっても全然気にしない。
だけど、死ぬのは違う。
将来の全てを奪ってしまう。
改心する機会も、隠れた良心を発露する機会すら奪われてしまう。それに何も悪くない人が、自分の行いに巻き込まれて死ぬなど、天地がひっくり返っても納得出来ないし、自分自身を許せない。
だから走る。
只管に走る。
頬を撫でる暗闇を拭い、飛び込んだ先で後悔しないように、駆けて、駆けて、駆け抜けるしかないんだ。後悔しないために。
――死なないで……、お願い!