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00.運命の悪戯の始まり


 今から八十年前、人類を恐怖に陥れていた魔王が勇者によって倒された。

 勇者の活躍はそれだけに終わらず、各地に蔓延る魔物を全て能力によって封じ込めた。


 平和が訪れたかに思われた世界だったが、勇者の封印を破る魔物が現れた。

 それらを退治するために結成された魔物対策機関“勇者機構”は三つの学園を設立した。

 その中の一つ、空挺学園“空星”。

 上空5000メートルに浮かぶ空飛ぶ城であり、勇者と呼ぶに相応しい才能を持った者が集められ、今日も魔物の災害──魔災に立ち向かうため、日々研鑽に励んでいる。


 その空挺学園“空星”の第一訓練場は草原を戦場と想定された空間だ。

 訓練場は自由に戦闘状況を組み立てることができ、仮想敵の想像から天候気温の変化、更には自分自身の傷の具合まで選べる高機能な魔術式が施されている。

 現在、第一訓練場は静謐な空間であった。

 淡い月光放つ満月が地上を照らし、そよ風に靡く草原はまるで踊っているかのように波立てている。


 その丘で一人立つ女性。

 肩まで伸びたプラチナブロンドの髪が楽しげに髪に靡き、こめかみに垂れる一筋の汗が、彼女が今まで修行に励んでいたのを示していた。


 彼女の名はリヴ・マリーゴールド。

 この学園でも最強の名を冠した勇者騎士団長である。

 彼女が最強と呼ばれる所以はひとえに彼女が持つ能力にあった。


 ──絶対耐性。

 それは一度でも経験した事象全てに適応し、耐性を獲得するという能力だ。

 事柄により時間差は生まれるが、彼女が克服出来なかったものはない。

 直径一キロを吹き飛ばす爆発から、大嫌いな野菜まで、彼女に獲得出来ない耐性はなかった。

 斬撃も、打撃も、銃撃も、魔術も。

 彼女からすれば全て経験済みの無効の攻撃である。

 多少の人の癖で、ある程度の差はあれど致命傷を負うことはない。

 現にここ十年、リヴが血を流したところを見たものは誰一人いなかった。


 そんな彼女は今。

 窮地に立たされていた。


「好きです!!!!!」

「……は?」


 リヴの前に立つ少年が勢いよく頭を下げて、顔を赤らめて手を突き出している。

 まるで握手でもしてほしいかのように。

 修行の終わり目を狙って現れた小柄な少年だった。

 学園の生徒の身でありながら、その強さ故に騎士團長並びに教官として教える立場であるリヴは一般的に触れ難い存在だ。

 本人も自分が異性から好感を得られるような性格をしていないのは理解している。

 だというのに、これは一体なんだ?

 今一体。何が起きている?


「ひ、一目見た時から、ずっと好きでした!! 付き合ってください!!」


 誠実な思い。誠実な言葉。誠実な姿勢。

 リヴも一目みただけで、彼が悪ふざけや冗談でこの場に立っているわけではないことが理解出来た。

 だからこそ、リヴは示さねばならない。

 大人としての余裕を。

 教官としての体裁を。

 深く息を吸おうとして、


「わ、私のことが、しゅ、しゅきにゃって!!??」


 盛大に噛んでしまった。

 そう。

 このリヴ団長。

 あらゆるものに耐性を持つ能力を持ちながら、異性への耐性が一切ない。

 恋愛をしたことが一度もないのだ。


 これはそんな最強なくせに初心なリヴと、誰よりも弱く、誰よりも強くあろうとした一人の少年の冒険譚である。

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