終幕
最終回となります。
これまでの誤字脱字のご指摘ありがとうございます。
アルフレッドの婚約破棄に伴う王都の騒乱から一ヵ月が経過していた。
その間に騒乱の首謀者であるジョルジュ・ダリューはこの世にはいない。
一方でジョルジュの協力者である者たちの処分はビョルンの審問で次々と行われていた。
ガラファノーロ子爵は騒乱を計画した罪で死刑を言い渡された。
しかし子爵は鎮圧の際に受けた傷が深く審問後の五日後に息を引き取った。
ガラファノーロ子爵の長子であるマリサはジョルジュ殺害後も精神に異常をきたしたままであり心神喪失として狂人のまま治癒院に収監されることになった。
また、彼らに関わった貴族階級や騎士階級の人々は爵位の降格と共に懲役刑と罰金刑、領地の没収など重罪に処された。
これで王家に対する反抗勢力はほぼ一蹴されることになった。
もっとも注視すべき審問は王グスタフの長子であるアルフレッドであった。
後継者である彼の扱いにユリウス国の国民の誰もがどのような裁きが下るのか関心を集めていた。
王グスタフからは配慮することもなく裁きを下すようアトルシャン長官から申し伝えがあったが、もとよりそのつもりであったビョルンは王家に忖度関係なく審問を行った。
審問の場に現れたアルフレッドは高慢な態度が消え去っておりビョルンの審問を従順にして答えていった。
その姿を見て弟であるフィリップはのちにこう語った。
「兄上は昔の兄上に戻られた」
フィリップは涙を堪えながらアルフレッドの審問を傍聴した。
ビョルンが下したのは終身刑だった。
ただこの審問には裏があった。
王族や高級貴族の収監される場所であるマーラー監獄にアルフレッドは収監された。
そこに父である王グスタフがアルフレッドの元に訪れた後、彼は急死した。
アルフレッドは王グスタフにより賜死を受け賜ったのだった。
これは敵対する隣国や王族に対する反抗勢力に対してアルフレッドを奉じられないための対策だった。
なにより王である前に父であるグスタフ自身の息子に対する最後の愛情であったかもしれない。
アルフレッド自身も覚悟をしていたのだろう。
彼は素直に毒を賜った。
その日、ビョルンは王都にある時計台に足を運んでいた。
ジョルジュの息絶えた階段の踊り場に献花するとビョルンは窓に歩む。
外を見ると王都はどの通りも行き交う人々の活気があり、小さく見える公園には子供たちがはしゃぎ騒いでいる。
それまでの婚約破棄騒動や騒乱が嘘であったかの思わせない光景だった。
「終わりましたね」
後ろからエヴァが声をかける。
「そうですね」
ビョルンは振り返るとエヴァに向けて微笑む。
「今回は半年以上も関わるとは考えもしませんでした」
「はい。ですがビョルン様は頑張りました」
「なんか私が子供のように褒められている気がしますが?」
「そうですか?私は素直に感想を述べているだけですよ」
エヴァが首を傾げる。
「トリスタン君ですがコスタ様のお弟子になることになりましたね」
「彼も前の世界では学ぶことができなかったようですし素晴らしいことだと思います」
「フィリップ殿下は属州の旅団に戻られましたね」
「あの方は権力に興味がない方ですから」
そのフィリップは農業立国であるカルタゴに留学中の次男が後を継げば良いと父である王グスタフに伝えるとそのまま元の旅団に帰還した。
ただ、彼はこれまで同様に軍人としてこの国を守ると誓っている。
今後もこの国を外部からの侵略から守り続けるだろう。
時計台から離れた二人はそのままいつも通うダイナーへ向かう。
その時、エヴァが一つの疑問をビョルンに問い掛ける。
「ビョルン様はなぜジョルジュが女性だとわかったのですか?」
「それは彼女が私に恋をしたからではないでしょうか?」
エヴァが足を止める。
「恋ですか?」
エヴァは驚きが隠せない。
嫉妬も見え隠れする。
「はい。理由はこうです」
ビョルンの人差し指が唇のくぼみに置かれる。
「彼女が私の前に現れた時と二回目に現れた時のことを比べたのです。最初の彼女は私の調査がどこまで進んでいるのか知るために接触した。ですが二度目の場合は私の手帳を渡してもすぐに返した。そればかりか私との話にしか興味がなかった」
「でも、それはあくまでビョルン様の印象論ですよね?」
エヴァが少しばかりの悋気を見える。
「その前に実は彼女の特徴を見て女性ではと考えていました。彼女は長身だったので皆がその姿に騙されていましたが我々人間には特徴と言うものがあります。普段あまり意識することのない歩き方ですが、実は人によって癖と言うものがあります。彼女は男性の振りをしていましたが不意に歩く際に腕の振りは外回りで内股気味になっていました」
「もしかして王城で会った時に気付いたのですか?」
「そうですね。君の後ろ姿を見た時に女性の歩き方を知りましたので」
その言葉にエヴァが頬を紅潮させる。
「つまり・・・あれですよね。男性は肩と膝で歩くと女性は腰と足で歩くと言いたいのですね?」
「そうです。その上で彼女と関わった際にジョルジュ・ダリューは女性だと確認しました」
そこでビョルンは言葉を止める。
・・・それなら僕を抱き締めてくれないかな・・・それくらい許してくれるだろ・・・
ビョルンの脳裏にジョルジュの最後の言葉が蘇る。
「どうしました?」
エヴァが不思議な表情を浮かべる。
「もしかしてジョルジュのことを思い出したのですか?」
エヴァは嫉妬を隠さない。
「・・・彼女はどうして私に好意を抱いたのでしょうね」
考え込むビョルンにエヴァが呆れる。
「ビョルン様は異性の気持ちがまだまだわかってないです。自分で考えてみて下さい」
それはまるで宿題だと言わんばかりの態度をエヴァが取る。
「エヴァ、どうしたのですか?」
ビョルンが戸惑いを覚える。
「言いましたよね。宿題だって」
そう言うとエヴァは急ぎ足でダイナーへ向かい出す。
「ちょっと待って下さい。まだ話が・・・」
ビョルンが後頭部を掻きながら少し考え込むとため息をつく。
「まだまだ私も勉強が足りないですね」
そう呟くとエヴァの後ろ姿を追うのだった。
これで本作は終了となります。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
感想お待ちしております。




