はじめての公式生放送同時視聴
いつものようにインすると、ツェルトはクランチャットに挨拶を流した。
C:ツ「こんばんは」
C:ナ「こんばんは」
C:レ「こんばんは」
まず返事があったのは、ツェルトが所属する冒険団〈沈黙騎士団〉の団長、ナイトハルトだ。
レイマンの返事もまぁまぁの速度ではあったが、ナイトハルトはまさに神速のレベルである。
それが常態なので、ツェルトは疑念を抱かざるを得ない――戦闘中だったりしないの? いつも、なにやってんの?
〈沈黙騎士団〉は、オンラインRPG『クリスタル・ライジング』に集う、団員四名の冒険団。唯一の団則は、ヴォイス・チャット禁止である。必然的に、全員の打鍵が上達。結果、チャットの流れが早くなる。
それはわかる。
だが、いついかなるときでも反応できるかというと、話は別だ。別のはずだが……だいたい即座に反応があるこの冒険団、皆いつ遊んでるんだろうなとツェルトは思う。
団員同士でパーティーを組んで冒険しないままログアウトあるいは寝落ち、なんて日も多い。ただし、チャットはする。
C:ツ「ごめーん、ちょっと遅刻しちゃった。ふたりで予想会してた? 惰狼はまだなの?」
C:レ「してないよ。あと、まだだよ〜」
C:ナ「いけませんね、レイマン。そんな風に返事をしては、ヴォルフを惰狼と認めたことになってしまいますよ」
C:レ「アッ……コンプラ大丈夫かしら?」
C:ツ「コンプラwww」
C:レ「コンプラってテンプラに似てない? あ〜、海老天食べたい」
C:ツ「やwめwてw もう夕飯終わってるのに、天麩羅食べたくなるじゃん!」
C:ナ「奇遇ですね。わたしも同じことを考えていたところです」
奇遇もへったくれも、あるかーい!
……と思いつつ、ツェルトはデイリー・クエストの一覧を確認した。よし、今日は重たいクエストはなさそうだ。
それから、ウェブブラウザのウィンドウをチェックした。
今までに食べたもっとも美味しい天麩羅の話などしているあいだに、時間はどんどん経過する。
C:ツ「それにしてもヴォルフ遅くない?」
C:レ「ヴォルフが遅いのは、なにも珍しくないと思うよ!」
C:ツ「そりゃそうだけど、今日は別じゃん。ちゃんと時間を設定しての待ち合わせだよ?」
ブラウザには『クリスタル・ライジング 公式生放送 20時開始』と表示された配信画面。出演者は全員声優で、それぞれが担当しているNPCの名前も併記されていた。
今日は公式生放送の配信日――せっかくだから皆で見ながらチャットしませんかとナイトハルトが提案して、いいね! という話になったのだ。もちろん、ヴォルフも同意したはずである。事前に予想会もできたらいいねと話し合って、生放送の三十分前にはインすることになっていた。
なお、現在時刻は 19:52 と、かなりギリギリな感じである。
ツェルトがインして挨拶から天麩羅へと脱線しているあいだに、こんなに時間が経ってしまった。
が、8分あればいちばん軽いデイリーくらいは消化余裕と踏んで、ツェルトはクエストを受注、淀みなくフィールドへ向かった。
C:ナ「いつも遅れて来る人間が、約束をしたくらいで遅れなくなるとは限らない、ということですね」
C:レ「地味に辛辣ッ!」
C:ヴ「真打登場ッ!」
C:レ「おっ、ヴォルフキターー!」
C:ヴ「俺キターー!」
C:ツ「こんばんは」
C:レ「キタキター!」
C:ヴ「キチャッタキチャッター!」
C:ナ「こんばんは」
雑魚を蹴散らしながら、ツェルトは思う――あれっ、ナイトハルトの反応が珍しくちょっと鈍い?
と思っていたら、次のチャットが表示された。
C:ナ「インが遅めなのは本人の自由なので構いませんが、約束をしたのに遅れるのはよくないです」
あっ。これガチ説教っぽい!
クエストを完了させ、ツェルトは街へ戻る。もう一個……は、さすがに無理そうだ。
C:ヴ「いやだって今日はさー、親が残業あったとかで、飯が遅くてさー」
C:ナ「自分が悪かったのに、まず言い訳から入るのもよくないですね」
C:ヴ「……すみません」
C:ナ「約束を守れないこともあるでしょう。突発的な事情もありますからね。ですが、約束を破ったなら、相応の反省を見せるくらいのことは考えてください。なんでも笑って許してもらえるとは誤解しないように」
C:ヴ「はい」
ナイトハルトは、たまに厳しい。理不尽ではない。というか、だいたい正しいのだが、正し過ぎていたたまれなくなる。
まぁ? でもまぁね、ヴォルフはね? 反省した方がいいよね! ……などとツェルトが思っていると。
C:ナ「では、この件はこれで終わります。ツェルトさん、もう街に戻りましたか? 残り1分ですよ」
……クエストに行ったことがバレている気配がする。ナイトハルトは、これも怖い。なぜか団員の行動を逐一把握しているっぽいのだ。これを団内では「内藤力」と呼ぶ。
C:ツ「街にいます!」
C:レ「なぁなぁ、せっかくだから冒険団の拠点に集まらない?」
C:ヴ「イイネ!」
なるほどと思ったツェルトは移動しかけて、ん? とクランのメンバー・リストを眺めた。
C:ヴ「俺いっちばーん!」
C:レ「なにをぅ、俺様の方がいっちばーん!」
C:ツ「いやいや……皆違うサーバにいるじゃん」
そりゃ違うサーバで団拠点に移動したら無人であるし、全員いちばんである。
** ナイトハルトからパーティー要請が届きました **
そして、ナイトハルトがさすが過ぎた。サーバをまたいで呼び寄せるなら、これが簡単だ。
** 参加しますか **
** ナイトハルトのパーティーに参加しました **
C:ナ「はい、召喚」
C:レ「邪神に召喚されるぅ! ……ふつうは邪神が召喚される側じゃないの?」
C:ナ「わたしは破壊神ですので」
** レイマンがパーティーに参加しました **
** ヴォルフがパーティーに参加しました **
C:ツ「チャットはクランのままで良い?」
C:ナ「いいんじゃないですか? それより、始まりましたよ」
C:ヴ「早っ!」
いや早くはない。定刻より五分も押している。始まるのが早く感じるのは、ヴォルフが来るのが遅かったからではないだろうか……。
C:ツ「生放送って何時までだっけ?」
C:ナ「二時間予定ですから、22時までですね」
だったら寝落ちでデイリー残っちゃう心配もないか……と安心して、ツェルトはホールへ向かった。長いテーブルには美味しそうな料理が並び、湯気までたちのぼっているが、天麩羅はなかった。……まぁ、あったら世界観的にどうかと思う。
団旗の周りで追いかけっこをしていたヴォルフとレイマンが、ツェルトが食卓についたのを見て追って来た。ナイトハルトもそれにつづく。
C:レ「天麩羅ないねー。海老天食べたい」
C:ナ「要望出しましょうか。食卓に海老天がほしい、と」
C:レ「食べられる機能も追加で……」
配信画面では、声優のお嬢さんやお兄さんたちが挨拶と自己紹介をはじめている。
C:ヴ「おっ! レイニアの中の人、すっげぇ可愛いんだな! 知らなかった」
C:ナ「中の人などいない! と返すべきでしょうか」
C:レ「いやいや、配信は中の人だらけだろ! いなかったら進まないよ」
C:ナ「それもそうですね。便宜的に、今は認めざるを得ないでしょう」
なんの話をしてるんだよ、こいつらは……。
ともあれ、団則のせいで全員がタッチタイプ余裕であり、ろくに手元を見なくても会話ができるため、配信を見ながらのチャットなのに流速がすごい。
C:レ「おっ、キタキタ、来シーズン予告PV!」
C:ヴ「新エリア解放来る? 来る?」
C:ナ「ついにハイ・エルフの妖精郷が来るのでは?」
C:レ「いや、それにしては暗くない?」
C:ツ「でも妖精郷来てほしいな〜」
なぜなら、ハイ・エルフにからむ新ジョブの仄めかしがあるからだ。
ツェルトは新ジョブが好きだ。実装が予告されたときの、あの期待感。ぽかりと空いた新しい穴を、早く埋めたいという焦燥と高揚。
もちろん、新エリアの解放も好きだ。早く探索し尽くしたい、どこになにがあるのか見て回りたいと思う。
C:ヴ「キターーー!」
C:レ「キタキターーー!!!」
C:ヴ「キタキタキタキターーー!!!!」
C:ツ「うるさい。テキスト・チャットなのにうるさい」
C:ナ「妖精郷にしては暗いですね。これはダーク妖精郷……くっ、魔王の出番か」
ナイトハルトはたまに厨二病が隠せなくなる。というより、喜んで表に出してくる。
C:ツ「破壊神じゃなかったっけ?」
C:ナ「魔王も捨て難いので……」
C:ヴ「うわ、マジでダーク妖精郷じゃん! 堕ちてるじゃん!」
画面に表示される新エリア――〈いにしえの光の地〉というロゴが載っているが、まったく光っていない。枯死した樹木、朽ちた倒木。かつては木漏れ日にあふれた豊かな大森林があったのだろう……という匂わせの残骸が残されている。
カメラは進んで、廃墟に向かう。崩れた石積み、繊細な細工の家具が引き倒され、砕かれている。
C:ナ「ホラー・ゲームみたいな絵面になってきましたね」
C:レ「あそこの角から敵が出るやつだ」
C:ヴ「上も注意しないと。天井高いから、なんかいるかも」
C:レ「ハイ・エルフの怨霊って強そうじゃない?」
C:ツ「霊的な敵とは限らないじゃん」
C:ヴ「ほら〜、コウモリに襲われたよ!」
C:ナ「ただの演出のように見えますね。あれは敵じゃないでしょう」
C:ツ「あっ! なんかハイ・エルフっぽいものいない?」
C:ナ「見えましたね」
C:レ「どこどこ?」
C:ツ「もう見えなくなった……生き延びてるハイ・エルフがいるって設定かな」
C:ヴ「え〜、こんなドロッドロに暗い場所にエルフいる気がしないよ」
それはそう。
C:ツ「これシーズンのストーリーを進めると光の地になったりしないかな」
C:レ「うーん、それやるとクリア済みのプレイヤーと未クリアのプレイヤーがパーティー組めなくならない?」
C:ナ「そこは未クリアに合わせるか、パーティー・リーダーに合わせるかでいけると思いますが……エリア全体のヴィジュアルが変更されるほどのものは、望めない気がしますね」
C:ヴ「あっ、今度こそ見えた! ハイ・エルフっぽいやつ!」
廃墟となった建物の影に佇むのは、見覚えのない新キャラだ。尖った耳、美し過ぎる相貌、なによりアップになったときに表示された虹色の眼! この眼の色はハイ・エルフのみの特徴である……というのが『クリライ』での設定だ。
C:レ「ハイ・エルフですね……」
C:ヴ「ですねですね……」
C:ツ「……でも表情が暗くない?」
C:ナ「廃墟にパリピっぽいイェイイェイしたハイ・エルフがいる方が不自然ではないですか?」
それもそう。
暗い顔つきのハイ・エルフは、思いつめたようにこちらを見ている。口が開き、台詞が流れた。
『ここは〈いにしえの光の地〉ファーラハーン。ええ、今となっては光を失いし地と呼ぶべきでしょう。何人も、近づくべきではありません。あなたの意志が確固たるもので、この先に進みたいとおっしゃるのなら――相応の覚悟をしてください』
エルフの姿もろとも、背景の景色もすべてモザイク化してかき消えたあとに、バーン! 『新シーズン「光の地に希望を」開幕!』のロゴが出てきて、アウトラインがキラ〜ン! と光ってPV終了。
C:ヴ「相応の覚悟って、なに?」
C:ナ「相応の覚悟でしょうね」
C:レ「課金とか……」
C:ツ「尋常じゃなく低確率のレア・ドロップとか……」
C:ヴ「覚悟したくないなー」
配信画面では、声優の皆さんがパチパチと手を叩いてる。レイニアの中の人――さっきヴォルフが可愛いとびっくりしていた女性声優だ。たしかに、すごく可愛い――が、「あの、すごくびっくりしたんですけど、ハイ・エルフの故郷ですか、あそこ? あんなになっちゃってるんですか?」と、我々の疑問を代弁してくれる。
端に座っていた開発スタッフが、にこにこと答える「今回は、意外性を重視しました」……ナンダッテ?
C:レ「意外性は……まぁ、あったよな?」
C:ナ「なくはなかったですね」
C:ヴ「あったけど、ここに意外性は求めてなかったなー」
C:ツ「やっと綺麗なエリアが追加されると思ってたのに……」
無人でもいい。建物が廃墟になっててもいい。ハイ・エルフが住んでましたといわれて、わぁ〜! と夢心地になれるようなステージが欲しかったのである。少なくともツェルトはそうだった。
『クリライ』は戦乱で荒れた設定なので、廃墟は珍しくない。魔物の巣も大量にあって、そういうところはグチャドロしたオブジェクトが置かれており、ツェルトは不快だった。だって、汚いものを見たくてゲームをしてるわけではない。
かろうじて、エルフの里のひとつがほとんど荒れておらず、そこに行くのが心の癒しだったのだ。ハイ・エルフの里なら、それを上回る美しさだろうと期待していたのに……またグチャドロか! 汚せばいいってもんじゃねぇぞ! と、叫びたい。
四人はそれぞれに不満を口にした。
ステージが美しくないことに文句をつけているのはツェルトだけで、ほかの三人は覚悟の内容について議論をしているようだ。
C:ナ「あ、新ジョブ告知ですよ」
ででん! という効果音とともに、キャラクターが表示される。手にした武器は、長槍だ。
C:ツ「ハイ・エルフって槍使いなの? エルフは弓系のイメージあったけど」
C:レ「それな〜。あっでも、なんかエフェクトが派手?」
C:ナ「魔法槍なのではないですか?」
C:ヴ「おっ、近接職かぁ」
新ジョブは妖精槍士……と書いてエルヴンランサーと読むらしい。まぁ読みかたはどうでもいい、通じれば。
ナイトハルトが看破した通り、魔法が使える槍のようだ。溜め攻撃で魔法が出て、溜め中にターゲットを指定すれば追尾するらしい。しかも、場合によっては複数追尾。
C:ヴ「えっ、つよ」
C:ツ「なにそれ、エイム難民のわたしに早く寄越せ」
C:ナ「そこを敢えて自力でエイムしてこそ」
C:ツ「しないよ!」
C:レ「しないな!」
C:ヴ「しないね!」
C:ナ「残念です」
開発スタッフが「場合によっては」の説明をはじめたとたん、ツェルトは眉間に皺を寄せた。
C:レ「武器依存か〜……固有ってこと?」
C:ナ「実装当初はそういうことになるでしょうね。あとで追加もあるでしょうが」
C:ヴ「これまた高難度クエストを固定アイテム集めるために毎日クリア、その上で激レア素材のドロップも集めろってやつ?」
C:ツ「いつものー」
C:ナ「いえ、いつものとは違うようですよ」
画面に、見たことのないダンジョンが映し出されている。
開発スタッフによれば、パーティーを組んでも違う場所からのスタートになる特殊ダンジョンで、この中にある宝箱から、例の「場合による」武器の基本素材が出るらしい。
C:ヴ「え、ほかの武器種でも追加効果つけられるの」
C:レ「パーティー・メンバー間でのみ、宝箱の中身を交換できる……」
C:ツ「こういうの好きよねー、『クリライ』の運営!」
C:ナ「まぁ、都合がつくときはクラン内で回りましょうか。それなら、お互いに優先する武器もわかってますし、譲り合いもしやすいでしょう」
C:ヴ「パーティー・メンバーの人数分の宝箱があるとしても、中身はどうなんだろ」
C:ツ「? 空箱はないでしょ、さすがに」
C:ヴ「いや、四人でやって全部長剣とかさ〜。ありそうじゃない?」
……ありそう過ぎる。正直、ツェルトは長剣はあまり使わない。アイテム欄を埋めるために集める必要はあるが、一個でいいし、長剣に複数ロックできる追尾魔法がついたときの使い勝手が、こう……イメージできない。
C:ナ「盾に追尾魔法つけられるのは助かりますが、溜めると防御できなくなりそうですね」
C:レ「だよなー」
C:ヴ「俺の拳が光って唸るぅ! 必殺! マルチロック追尾拳ッ!」
ヴォルフのメイン武器はナックル系である。タイマンなら強いが雑魚の群れには弱いので、マルチロック魔法が撃てれば……と思わなくもないが。
C:ツ「それ使いやすそう?」
C:ヴ「いや、たぶん趣味武器になるかな? インファイトの最中に溜めって無理があるじゃん? でも、趣味としては使ってみたいよねー」
C:ナ「そうですね」
皆でわいわい話しているあいだに、配信は進んでいく。新シーズン、新エリア、新ジョブ……ときて、次はレベル・キャップの解放。冒険団機能の拡張。団拠点内に個室機能!
C:レ「拠点内なんだ」
C:ナ「……まぁ、ひとりでも冒険団は設立できますから。ソロで遊んでいても、使えないわけではないですし」
C:レ「それもそうだな。あっ……」
C:ツ「あっ?」
C:ナ「察するに、謎の愛ちゃんからメッセージでも来たのでは? いつもの、ふたり冒険団設立しない? のお誘いかと」
謎の愛ちゃんとは、レイマンに執着しているプレイヤーの通称である。出現当初はヒューヒューと囃していたが、独占欲が強過ぎて笑えないと判明し、扱いに困る存在となった。
ころころ名前を変えるので、団内では通称で呼ばれている。今どういう名前で活動しているのか、ツェルトは知らない。知りたくもない。
C:レ「内藤〜」
C:ヴ「内藤〜」
C:ツ「当たったんだ」
C:ナ「さすが内藤」
C:レ「内藤は自分だろ! いやでも、なんでわかんの」
C:ナ「前例が豊富ですので。個室が団拠点にあるとなったら、同じ団になりたいですよね、あちらとしては」
怖い。
C:ツ「あれ、でもさー、謎の愛ちゃんって今はフリーじゃなくない? たしか、大手の冒険団に所属したんじゃなかったっけ? どっかのイベントで……タイム・アタックかなんかのときに」
C:ヴ「なんか聞いた気がする」
C:ナ「それを蹴ってでもレイマンとイチャイチャしたいのでしょう」
C:レ「したくねぇぇぇ!」
C:ナ「今、団長をレイマンにしたら移籍せずに済むのではないかと考えていたのですが……」
C:レ「おっ?」
C:ナ「レイマンが団長になったら、謎の愛ちゃんが『わたしも入れて? わたしを入れたら、残りの団員は追い出して?』という方向性で活動しそうな予感がしますね」
C:レ「……内藤、ずっと団長でいてくれ!」
C:ナ「とりあえず今は、オフライン表示に変更することをお勧めします。リアフレから電話がかかってきたとか、そういう突発的な理由で」
C:レ「わかった、親戚から電話が来たことにする」
宣言から間もなく、レイマンはオフライン表示になった。……まぁ、珍しいことではない。謎の愛ちゃん対策の一環として、レイマンはオンラインなのにオフラインなことが多いのだ。
C:ナ「謎の愛ちゃんのせいで、生放送の内容がわからなくなりそうです」
C:ヴ「まぁ、まとめサイトとか動画とかで情報出るっしょ! すぐ! そっちの方が、内容まとまっててわかりやすかったりするし」
まとめサイトやまとめ動画は、インプレ稼ぎのために迅速に動く。たしかにヴォルフのいう通り、内容もダラダラとつづく公式生放送よりコンパクトにまとめてくれて、わかりやすくもある。
でもまぁ……。
C:ヴ「だから俺、いつも生放送見てなかったんだけど、今回は皆と一緒に楽しめてよかったな」
……ヴォルフめ! そういうことを恥ずかしげもなく発言できるヴォルフめ! ほんっとヴォルフ!
C:ナ「そうですね。企画してよかったです」
C:レ「俺も俺もー! 個室の要素、ちゃんと見れてないけど……あとで確認しよう」
生放送はツェルトが死ぬほど興味ないリアル・イベントの話になり、つづいてグッズの話になり、声優のお嬢さんたちがNPCぬいぐるみやランダムのアクリル・キーホルダーなどを手にして、「可愛いー! ぜったい欲しい!」などとキャッキャしていた。
クランチャットの方はといえば……どうやらナイトハルトらは配信画面を戻して個室情報を確認しはじめたらしい。
C:ヴ「この暖炉いいな! マイ暖炉!」
C:レ「単体で見るとよさげだけど、デザインが部屋に合わない気がするな。ゆくゆくは壁紙とか窓の形とかもいじれるようになってほしい」
レイマンはオシャレに気を遣う方だ。装備なども、染め粉を使って色を調整することで、さりげなくスタイリッシュに決めていることがある。どうやら家具にもそのセンスは発揮されるらしい。
C:ツ「家具の素材どう? エグいの?」
C:レ「ん、いや……よくわかんないなぁ。通常素材を数集めれば買えるのもありそうだけど、イベント家具とかは、イベントのポイントか特殊アイテムかが必要になるっぽい?」
C:ツ「無茶な数を要求されなきゃいいけど」
C:ナ「だいたい無茶な数を要求されますけどね」
そこなー! などと盛り上がっているあいだに、公式生放送は終わってしまった。
あっという間の二時間だった。
時間が短く感じるということは……楽しかったということなのだが。
C:ヴ「じゃあ俺、今日は落ちるねー。学校の提出物、間に合ってなくてさー。あっ、遅刻してすみませんでした! ほんと! だけど特殊ダンジョン行くときは呼んで!」
C:レ「呼ぶ呼ぶ」
C:ツ「起きてるあいだにインしてくれたら」
C:ナ「提出物、ちゃんと間に合わせてくださいね。もうゲームするなと親御さんに叱られないように」
C:ヴ「イエス、内藤さん!」
C:レ「イエス、内藤! ……イェッサーみたいにしたいけど、イェッナイトー! って変じゃね?」
C:ヴ「ウケるw おやすやー!」
C:レ「おやすやー!」
C:ツ「すやー」
C:ナ「やー」
C:レ「俺も落ちるわー、うっかりして愛ちゃんに勘付かれても困るし」
C:ツ「おやすやー」
C:ナ「おやすやー」
C:レ「おやすやすや〜Zzz...」
C:ナ「ところでツェルトさん」
流れるようにクラン拠点を出て行こうとしたツェルトにナイトハルトが声をかけた。
C:ツ「はい? わたしデイリーの残りを消化しに行くけど、一緒に行きます?」
C:ナ「よろしければ。それはそれとして、今日はどうでした? 楽しかったですか?」
ぐっ、と言葉に……いや打鍵に詰まったツェルトである。
楽しかった気はするが、そういうのをストレートに伝えることができない性質なのだ。理解してほしい。
……いや、ナイトハルトはたぶん理解している。理解した上で、尋ねているのだ。酷い。さすが破壊神だか魔王だかである。
C:ツ「そういうめんどい質問するなら、ひとりで行くわ」
C:ナ「ぇー。しかたないですね、今の質問への返事は不要です。お供させてください。なにも終わらせていないので」
C:ツ「そういうことなら許して進ぜよう」
C:ナ「パーティー・リーダーわたしのままなので、好きなところから回っていいですか?」
そういえば、集まるときにパーティー組んでたんだった。
C:ツ「いいよー」
C:ナ「ではラヴァの街に飛びますね。今日は楽しくてよかったですね。返事は一回で大丈夫ですよ」
内藤ぅ〜〜〜〜!!!!! と、内心で思いつつ。
C:ツ「おっけー」
C:ナ「くっ……! そこは『はい』という返事を期待していたのに、はずされました。難敵ですね」
珍しくナイトハルトの裏をかけた!
ツェルトはご機嫌で、クエスト受注場所であるラヴァの街に移動した。
その後。
P:ナ「次のクエストはこれでいいですか? 今日は楽しくてよかったですね。返事は一回で」
P:ツ「内藤さん……もういいから」
P:ナ「ジョブ変更しましょう。このクエストは、火力二人の方が楽ですよね。今日は楽しくてよかったですね。返事は一回で」
P:ツ「わかった、わかりましたから」
P:ナ「なにがわかったんですか?」
P:ツ「内藤さんがしつこいということが……」
P:ナ「そこは以前からご理解いただいているのでは? 今日は楽しくてよかったですね。返事は一回で」
内藤ぅ〜〜〜!!!
と、いう感じになったとか、ならなかったとか。