ZERO
ネスニア星の宇宙港の中は静まり返っていた。
今ここで一つの生命が誕生しようとしていることを、人類は誰も知らない。
母親は一匹の美しい白猫だった。彼女はターミナルのカウンターの影に隠れて、陣痛に苦しんでいる。
手足を精いっぱいに突っ張って、体を大きく曲げて、彼女は産道が広がる激しい痛みに耐えようとしていた。胎の中からは、そんな彼女の苦しみなど無視するように、胎児を押し出そうとするさらなる痛みが襲ってくる。
「ぐぎゃ」
痛みに耐えかねて奇声を発したその時、広がった参道から一匹目の胎児がぬらりと産み落とされた。手足を固く丸め、産膜に包まれた子猫だった。
子猫は……いくらか体を揺すって張り付いていた粘膜を脱ぎ落す。毛皮は見事な父親譲りの、黒色にベージュを吹き付けたサビ柄の……その子猫が伸ばした四肢は、猫としては規格外のものであった。
前足はひょろりと細くて長く伸びている。まるで人間の腕みたいだ。その先端にあるのは肉球ではなく五指をそなえた手のひらだった。
脚も股関節からやや真っすぐにのびて、いかにも二足歩行に適した形状をしているのだから、子猫というよりは人間の赤ん坊を思わせる姿である。
――さび色の毛皮に覆われた『猫人間』という方が適切だろうか。
その赤ん坊は身を揺すって肺に大きく息を吸いこみ、そして、産声をあげた。
進化は、終焉へと向かう……




