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小満

昨夜はチャコの言葉がずっと頭に引っかかって、よく眠れなかった。



部活の時間になると、私は真っ直ぐに藤代のもとに向かって彼女の肩をたたいた。

ちなみに、みんなには見えていないだろうが、私の頭にはチャコが乗っている。


「藤代おはよ!今日の調子はどうだい?」

「古河先輩、どうしたんですか、なんだかいつも以上にお元気ですね」

「いやあ、今日はどうしてか藤代の調子が気になって気になってしかたないんだ。どう?体調になんか変なとこはない?というか、最近なんか変わったことはなかったかい?」

藤代は、きょとんとした顔をしている。

「別に、何もないですよ。先輩、すいません。私自分の練習したいんで、もう行っていいですか?」

動揺している様子もないし、これは本当に何もなさそうだ。

うーんやっぱりチャコの勘違いかな?でも、念のためもう少し様子を見たい。

「そっか。あ、じゃぁ、今日もバトンの練習しない?」

「…ありがとうございます。でも、私今日は自分の練習をしたいんです。私、先輩みたいに練習しなくても速いわけじゃないから、バトンの練習だけしてればいいってわけにもいかないんで」

藤代は私の目を見ずにそう言うと、練習用の直線レーンに向かって行ってしまった。


「あーあ、言われちゃったね。練習してないってさ」

どこにいたのか、吉沢がぬっと現れて私の心の傷に塩を塗り込んできた。

「藤代は人一倍努力して、それでもあんた達他のリレーメンバーには及ばないから、そう思っちゃうのも仕方ないのかもね。古河が練習さぼってるわけじゃないけど…」

でも、と鬼の吉沢はつづけた

「へらへら練習している古河も悪いよ。エースなんだから、実力だけでなく態度でも、みんなから信頼されるようにならないと」

私はしかとその言葉を受け止めた。

「うん。そうだよね…態度、改めるわ」



その時、頭上から声がした。

「大丈夫そうだな」

「え?」

「どうかした?」

吉沢がいぶかしげに眉を寄せた。

まずい、吉沢の前でチャコと話すわけにはいかない。

「ごめん、ちょっとトイレ行ってくる!」

「い、いってらっしゃい」

呆気にとられた吉沢を残して、私はグラウンドを離れ、部室棟の裏に駆け込んだ。



「チャコ、何かわかったの?」

「あぁ、あの子、確かに屍神に憑かれてたぞ」

「だ、だめじゃん!大丈夫じゃないじゃん!」

「いや、といっても低級の屍神だったから大丈夫だろう」

「低級のだと、害はないの?」

「低級でも、成長しちまうと厄介だが…あの子に憑いていたのは実体も何もない、黒い靄みたいなやつで、明らかに初期状態の屍神だった。だから俺らが何もしなくてもあの子の心次第でそのうち離れていくだろう」

「屍神って成長したりするんだ?」

「あぁ。低級の屍神は、人の心の闇に引き寄せられ、妬みとか怨みとかそういうものを食い物にして、成長する。中級・上級の屍神がその性に応じた怪異を起こすのとは違って、低級は人間に憑りついて精気を吸うのが特徴だな。まぁ、人の闇を増幅したりはできないから、憑りつかれた人間が強い心を取り戻せば食い物が無くなって成長できず、自然に離れていくから害はないんだ」

「…そうなんだ」


屍神は、藤代のタイムが伸びないっていう悩みとか、もしかしたら私への妬みとか、そういうものに引き寄せられちゃったのかな。だとしたら私ができることは


「…藤代と、もう一回話してみるね」


チャコはうんうん、とうなずいてくれた。




藤代に憑いているという黒い靄みたいな屍神、どうして私には見えなかったのかなと不思議だったが、チャコ曰く「あまりにもかすかな存在なので、気を付けないと見過ごしてしまう」とのことだった。

実際、藤代が練習している傍まで行くと、その首元あたりにうすぼんやりと黒いわたあめみたいなものが見えた。なるほど、これがそうか。


「藤代、次、並んで走ろうか」

藤代の練習に一区切りついたタイミングで私は彼女に声をかけた。

「先輩」

「タイムも計ろう。吉沢、いい?」

吉沢はちょっと目を細めてオッケーサインを出した。

「ちょっと、個人競技のほうのイメージを掴んでおきたいんだ。本番のつもりで走るから、藤代も本気で走ってね」

藤代はあまりうれしそうな顔はしなかったが、無言でうなずいてくれた。


二人で、スタートラインに並ぶ。

吉沢の「位置について」という声が聞こえた。私はいつもこの瞬間、目をつぶることにしている。

集中。

耳に、全神経を傾ける。


パァン、と、合図が鳴った。


前だけ見て、走る。手は抜かない。全力でゴールラインを駆け抜けた。私に続いて藤代もゴールラインを踏む。


「先輩、やっぱり速いですね」

肩で息をしながら、藤代がつぶやいた。

「うん。速いよ。―――でも私、毎日坂道ダッシュしてるし、家で体幹トレーニングも欠かしてない。藤代より一年歳上だし、その分体もできてる」

藤代の目が、ちょっと大きくなった。

「藤代は間違ってるよ。リレーの結果に全責任を感じる必要はないんだよ。4人でやる競技なんだから、責任は私たちにも分けなさい。…私をもっと、頼りなさい」


その時、スタートラインにいた吉沢が、ぶんぶん手を振りながらこっちにやって

きた。

「藤代―、よかったね、自己ベストだよー」

「え!?」


ほんとうですか!?と喜ぶ藤代の首元には、もう黒い靄は見えなかった。





一件落着、かな?

私は自室のベッドにあおむけになって目を閉じた。チャコが、隣で私の雑誌を読んでいる。少女向けのファッション雑誌読んで楽しいのだろうかこいつは。


「よかったな、あの子、もう大丈夫そうじゃねぇか?」

「うん。でも、なんだかなぁ。結局、結果がすべてなのかな」

もちろん、藤代と並んで走ったのは、速い人と一緒に走ることでタイムが伸びる効果を期待したからってのもある。自己ベストを出してくれるとまでは思わなかったけど。

「そりゃ、結果が出ないことが原因で闇を抱えちまったんだから、結果が出ることが一番の処方箋だろう」

「そうだよねー」

でも、先輩ぶって説教垂れてた自分を思い出すと、顔から火が出るほどハズカシイ!やっぱり向いてないなぁ、こういうの。

そんな私の気持ちを見透かしたように、チャコが口を開いた。


「でも、ちかこの話も少なからずあの子の心に響いていたと思うぜ?チームへの責任感とか、自分より速い人とかへの妬みがこじれたから、あの屍神が引き寄せられるほどに闇が深くなったんだ。結果が出ただけじゃ、屍神を消すまでの効果はなかったんじゃないか?」

「うん、そう思うことにする…」

チャコのやさしさに、思わずぐっと来てしまった。

ともかく、一件落着だ!なんだか疲れたから、今日はもう寝よう。



変な夢を見た。

私は図書室にいた。阿久津君もいる。幸せな夢だなぁ、と浸っていると、阿久津君がすっと手をあげて、私の足元を指さした。私の足元には、チャコがいた。いつかのように阿久津君が少し驚いた顔をして、口を開き、言った。


「古河さん、けだま」


けだま?毛玉?阿久津君はにこにこしている。私は訳が分からなくて、頭を抱えた。

チャコが、「なんか変な人間だったな」と言った。

ちがう、阿久津君は変な人じゃない!私の理想の――――


場面が変わった。

真っ直ぐな長い黒髪を低いところで一つに結わいている知らない女性が、立派な神社の境内に立っていた。

巫女のような、それにしては少し派手な服を着ている。


その人の前に、こうべを垂れて、男の人がひざまついていた。

女の人がすっとその人に手を差し出した。男の人はその手を恭しくとって…口づけをした。


ざあっと風が吹いて、桜の花びらが舞った。


ふと、男の人がこちらを向いた。

「え!?」




私は自分の叫び声で目を覚ました。驚きでまだ心臓がばくばくいっている。

しかし最後に見た顔が何だったか、どうしても思い出せなかった。よく知っている人のような気がしたけど…。


「ちかこー、起きた?遅刻よー」

お母さんののんきな声が聞こえる。

「えぇ!?」

時計を見ると、8時5分を指している。

やばい!いつもぎりぎりだけど、本当にこれはまずい!

遅刻のことで頭がいっぱいになって、私は見た夢のことなど、すっかり忘れてしまった。



結局、今日はついに遅刻をやらかしてしまった。あぁ、ツイてない。そして、ツイてない日はとことんツイていない、らしい。

数学の授業では、抜き打ちの小テストがあって惨敗し、追試を受けることに。さらに、4月に受けた校外模試の結果が返ってきた。親に見せることを思うと気が重い。他にも、お弁当から汁が鞄の中に零れていたり、何もないところで転んだり、トイレがなかなか流れなかったり……。


「はぁ…」

やっと部活の時間になった。私はぼろぼろの心身を引きずって、なんとか部室まで向かった。


「ちかこだいぶやられてるね。大丈夫?今日は休んだら?さっき転んでけがもしてたでしょ」

笑いながら千鶴が言った。私とは反対に千鶴は模試の結果が思ったより良かったらしく、ご機嫌だ。

「かすり傷だし、大丈夫。後輩の手前、大した理由もなく休むわけには…」

「あはは、えらいねぇ」


そんなやり取りをしながら、二人で体操着に着替えていると、がらりと扉が開いて、藤代が入ってきた。

「あっ、先輩方いらっしゃったんですね。すいません。」

「いいよいいよ。それより、はよ扉閉めて」


千鶴はあっけらかんとしている。去年までは、後輩は先輩が部室にいる間は入ってはいけないというルールがあったのだが、私たちが最高学年になって、そのルールを撤廃した。ただ、真面目な藤代はできるだけその因習を守ろうとしているのだ。

藤代はあせあせと扉を閉めると、自分のロッカーに向かい、体操服を引っ張り出した。

そんな藤代に、千鶴がいそいそと絡みに行った。

種目は違うが、同じ努力家同士、気が合うらしい。


「そのお守り、どうしたの?手作りっぽいけど、かわいいじゃん」

千鶴は、藤代の鞄についていたお守りを目ざとく見つけて、手に取った。

「あっ、だめ!それ、貰いものです!」

藤代が、ばっと千鶴の手からお守りを奪い返した。

ちょっと異常なほどの反応だった。

千鶴も一瞬驚いた顔をしていたが、すぐに理由を思いついたのか、にやにやしながら藤代に顔を近づけた。


「なんだ?彼氏にもらったんか?」

「ちがいます。彼氏なんていませんよー」


千鶴の無駄がらみに笑いながら応える藤代の首元に、昨日のような黒い靄は見えなかった。

よかった。もう完全に吹っ切れたのだ。


ふと、藤代が私を呼んだ。

「そうだ、古河先輩、今日ちょっと部活後に練習付き合ってもらってもいいですか?」

さっそく、前向きなこの姿勢!さすが、努力の申し子だ。

「いいよ!」

私はにこにことそう言った。


火曜日は、いつもより練習時間が短い。

まだ夕日が明るいうちに全体練習は解散となる。残りたい人は自主練していってもいいが、今日は私と藤代以外に残る人はいないようだった。

しんと静まり返ったグラウンドで、藤代がこちらに歩み寄ってきた。夕焼けを背に、藤代の長い影が地に落ち、私を包む。


「先輩」


ん?と私は首を傾げた。藤代の様子がすこしおかしい。もしかして、私を練習に付き合わせたのは、何か話があったからだろうか。

「藤代。どうかした?…話があるなら聞くよ?」


「先輩」


逆光の中で、藤代の表情はよく見えなかったが、口が奇妙に大きく、裂けているかのように三日月形にゆがんだのが分かった。笑っている、のだろうか。急に背筋に悪寒が走った。


「先輩、私、あなたが嫌いです」


「…え?」


「練習もろくにせず、どうして速いんですか。私は先輩の何倍も努力してるのに、どうして先輩より、遅いんですか?」

「藤代、それは…」

「…先輩なんて、いなくなってしまえばいい!!!」

「!!」


叫んだ藤代の背後から、異形のモノがずるりと姿を現した。闇そのもののような真っ黒な体からは、触角のような大小さまざまな突起がいくつも出ていて、うねうねしている。

「何、これ…」

藤代の身長の何倍もある“それ”は、獲物を狙う蛇のように一瞬ぐっと鎌首をもたげると、私めがけてものすごい勢いで突っ込んできた。

「ぎゃぁ!!」

間一髪、横へ逃げて、衝突は躱したが、私の代わりに地面に追突したそれは、液体のようにどろりと地面に広がった後、またムカデのような姿を構成し、今度は地を這って、私を追いかけてきた。


やばいやばい、なんだあれ。

あんな怪物聞いてないよ。あれも屍神なの?


チャコに聞こうにも、今日は他に用事があるとかで、学校についてきていない。

「わぁ!!」

足に何かが絡みついて転んでしまった。見ると、巨大ムカデの節足の一つが私の足を捕らえていた。振り払おうとする間もなくムカデの節足が蛇のようにぐねぐねしたものに変わって、私の体を這いあがり、のどを絞めた。


「う…」


意識が遠くなる。いやだ、死にたくない。目の端を涙が伝った。その時



「古河!大丈夫か!?」



誰かの声が聞こえたと思うと、ふっと息が楽になった。

「…結城くん?」

結城大悟が、私を背後にかばって、竹刀を構えて巨大ムカデと対峙して

いた。その竹刀でムカデの胴体を分断したらしい。おかげで、私にまとわりついていたモノは、本体から切り離されたせいか、蒸発するかのように消えていった。


「いつも一緒にいる犬はどこにいるんだ!?あれがいないと、葬送できないんだろう?」


…え?結城くんが、屍神を見ている。チャコのことを、知っている?


混乱して動けないでいる私をちらっと見て、結城くんは小さく舌打ちすると、遠くにいる藤代のことをにらんだ。

「依代はあいつか。仕方ねぇ、本体が叩けないなら、あいつをやるしかねぇな!」


私はその言葉を聞いて、はっとした。だめだ。試合を控えた大切な時期に、藤代に怪我させちゃいけない。


「だめ!!」

私は藤代に向かって走り始めた結城くんに猛ダッシュで追いつくと、飛びついて動きを止めた。


「え?」

結城くんが驚いたように目を見開いた。思ってもみなかった背後からの襲撃に、バランスを保てなかったのだろう、二人して地面に転げた。

「な…なにすんだよ!!」

「藤代は傷つけないで!大切な後輩なの!!」

「んなこと言ってる場合か!」

結城くんの言う通り、巨大ムカデがすぐそこに迫っていた。

降り注ぐ槍のような黒い節足を、態勢を立て直した結城くんが私を抱えて避けた。

そのまま走って、十分に距離をとったところに私をぽいっと置くと、結城くんは地面に落とした竹刀を拾って、私に襲い掛かろうとするムカデに再び斬りかかった。

結城くんがムカデの足を切り落とすたびに、その切り口から倍もの足が生えて、化け物はすでにムカデというよりは巨大な毛虫のようになっていた。


「くそ、やっぱりだめか。剣道部からの借り物の竹刀じゃ、数分しかもたない。…おい、古河!それまでにお前がこの化け物どうにかできないなら、俺はあの子を斬るからな!」


どうしよう。藤代は傷つけたくないけど、あの怪物をどうにかする手立てなんて、一つも思いつかない。チャコ、なんで今日に限っていないのさ…!


そんな私の思いが通じたのか、なじみの声が遠くから聞こえてきた。


「ちかこー!!無事か!!?」

「チャコ!!!!???」


声は聞こえるが、姿は見えない。

「チャコ?どこにいるの!?」

「ここだ!」

ぽん、と音がして、空中に茶色の毛玉がいきなり現れた。

そのまますとんと地面に降り立って、チャコは鋭く声を発した。


「惚けてる暇はないぜ!ちかこ、これを」

チャコが差し出したのは、この前数珠の屍神を葬送する時にも使った小さな短刀だった。


「これで、あの屍神の核を突け」

「核って!?」

「俺がサポートする。核の場所はおのずとわかるはずだ!」

よくわからないが、詳しく説明を聞いている時間もなさそうだ。チャコもそれをわかってて、適当な説明しかしないのだろう。

「いくぞ!」

私は腹をくくった。

こうなったら、やるしかない!


チャコが、私を先導するように前を走った。私も刀を鞘から抜きはらうと右手に構えて、化け物毛虫に向かって走った。

結城くんが、私たちに気づいて、場所を空けた。竹刀が折れていて、怪我したのか、服が血の色で染まっていた。

気づくと前を走るチャコの姿がだんだんと大きくなっていた。毛色も深紅色に変わり、犬というよりは獅子のような体躯になり、唸り声をあげながら膨れ上がった屍神に爪を立て地に組み伏せた。

屍神は、無数の触角を伸ばし、チャコを包み込んだ。


黒い触角がチャコをすっぽりと覆ってしまう一瞬前に、チャコが大きな口を開けて屍神に噛みつこうとしているのが見えた。


「チャコ!!!!」


一瞬ののち、いきなり、目を開けていられないほどの光が屍神の中心から発せられた。

スポットライトに照らされた影のように、黒々とした屍神の体は霧散して消えた。


「すごい」


あとにはただ、高温の炎のような白い毛に包まれた獅子が、地面に立っていた。


「チャコ?」


私が駆け寄ると、その獅子は、水をかけられた焚火のようにシュウウと煙を発しながらしぼんでゆき、煙が晴れた時にはもとの茶色い毛玉の中型犬が姿を見せた。


「ちかこ、まだだ。そこに黒い球が浮かんでいるだろう?あれが核だ。あれを壊さないと、葬送は完了しない」


チャコが言うように、そばに、人の頭ほどの大きさの真っ黒な球が浮かんでいた。私は固く唇を結ぶと、力を込めて、短刀をそれに突き刺した。


パリンと硝子が砕けるような音がして黒い球は粒子に変わり、夕焼けの光を反射しながらキラキラ輝いた。


「やった?」

「いや、何かがおかしい」

粒子はしばらく空中にたゆたっていたが、磁石に吸い寄せられる砂鉄のように、ゆっくりと一つの方向に動き出した。粒子が向かう先には、藤代がいる。


「ちかこ、こいつらに力を与えている何かがあるぞ!あのおなご、何か持ってやがるな!」

藤代はうつろな目で、何か祈っているかのように手を胸の前で組んでいた。

粒子は次第にスピードを上げて藤代のもとへ向かっている。


「だめだ、あの子のもとに粒子が戻ってしまったら、またあの怪物が復活するぞ…!」

「そんな…!」


「なら、俺に任せろ!」


いつの間にか藤代のそばに結城くんがいて、藤代の手から何かを取り上げた。

「お守り?」

結城くんが、驚いたようにぽつりと言った。


「お前、結城家の者か!よくやった!それをこっちに!」

結城くんがチャコの呼び声にはっとして、それからわずかに眉を寄せると、びゅんとそれを私に投げてよこした。


結城くんが投げてきたものは、藤代が鞄に付けていた手作りのお守りだった。

「ちかこ」

「分かった」

チャコに言われなくても、そのお守りにとぐろを巻いて絡みついている禍々しい黒い筋が見えていた。

私は短刀を振り上げると、そのお守りに突き刺した。


お守りは一瞬反発するかのように震えたが、人の吐息のような音を漏らすと消し炭のように真っ黒になり、ぼろぼろに崩れた。そしてそれも、かすかな風にふかれ消えてなくなった。

お守りにつられるように私の周りに寄ってきて漂っていた粒子も、お守りが消えたのと同時に光の粒になって消えた。


「終わった…のかな」


どさり、と音がして、そちらを向くと、藤代が意識を失ったように地面に倒れていた。


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