表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そう遠くない未来。  作者: 薄桜
葵×聡太
5/26

理由とキスと疑惑

「葵×聡太」の5話目です。

ではどうぞ。


予鈴に逢瀬を邪魔されて、葵姉と別れ自分の教室に向かっていると、廊下で交わされる会話が耳に飛び込んできた。

「安田と石川が教室でキスしてたらしいぞ。」

「マジか? んな目立つとこでよくやるな、つーか、あの二人なら気にしないか?」

無責任な伝聞の情報を笑う奴らを通り過ぎて教室に入ると、噂の二人を遠巻きにしながらも、とても気にしているクラスメート達。

そして、一向にそれを気にした風も無い当の二人がいた。

この教室内の雰囲気は、伝聞の情報の信憑性をかなり高めていた。

・・・まったく、どんな頑強な神経をしているんだか。僕は時々この二人が分からない。

何で人前でキス?

何でこの中で平然としていられるんだ?

でも、その二人に真偽を確認しようとしている僕も、実は結構な神経の持ち主なのかもしれない。

そんな自嘲の笑みを浮かべたまま僕は、朋ちゃんの席で話し込んでいる二人に近付いて声をかけた。

午前中の喧嘩の事は、もう今はどうでもいい。

「航、朋ちゃん、」

・・・が、話はそこまでしかできなかった。

「あ、聡太くんお帰り。」

「聡太っ、俺が悪かった!!」

・・・何が?

勢いよく縋りついてくる航に、僕は一歩退いた。

「俺自分の事ばっかでお前に嫉妬してた!」

「一体何の話だ?」

一方的に話す航は、確かに自分の事ばかりだが・・・嫉妬って何だ?

「俺、お前がねーちゃんとキスしてる写真見て、先越されて焦ってたんだ!」

「なっ、何大声で言ってんだお前!?」

朋ちゃんは、やっぱり今も笑っている。

「だから、謝ってんだ。」

必死で真っ直ぐな航の気持ちは分かる、だけど・・・

「そうじゃなくてだな、頼むから僕まで巻き込むな・・・」

まったく悪意の無い、ましてや謝罪の言葉を口にする航を、怒る気にもなれず・・・僕は抜けていく力に逆らわず、その場にしゃがみ込んで頭を抱えた。


航の機嫌が悪かった理由は、そんな事だったのか?

僕はただ、完全に八つ当たりされてただけじゃないか。

色々考えて、気を回して・・・それがものすごく損をしたような気分で・・・


何も分かってない航の、的外れに心配してくれる声と、朋ちゃんの笑い声だけが聞こえる。

しかし朋ちゃんは、いつも笑い過ぎだ。

・・・これ、そんなに面白いか?

僕は恥ずかしくて堪らないんだけどな・・・。

遠巻きにしている連中は、だまってこの成り行きを見守っているはずだ。

後でこの事を言いふらせるように、見逃さないように・・・

もちろんこの後、二人に向けられていた視線は僕にも向けられるだろう。


・・・お願い、僕は二人みたいな毛の生えた心臓なんか持ってない。ナイロンザイルのような神経はしてない。

・・・世の中には羞恥心ってものがある事を、二人には是非とも理解して欲しい。



予鈴を聞いて屋上から教室に戻り、何かの紙とにらめっこをしている美晴に話しかけた。例の話をするためだ。

お昼を聡太と一緒に過ごし、やっぱり一緒にいられる時間は多い方がいいなって、実感したから・・・膳は急げよね。

「ねぇ美晴? ちょっと話があるんだけど・・・いいかな?」

「なに?」

そう返事をしたけど、目は紙に向けられたままで、ちゃんと聞いてるのかどうかよく分からない。

それでも、まぁいいかと私は話を続けた。

美晴はこういう事が時々ある。何かに集中してると、どっぷりはまり込んでしまう。

「美晴ごめん、明日から聡太と一緒に学校行くね。」

「あ、そう。いいんじゃない?」

その返事はあっさりし過ぎで、私の方が困惑させられた。

あれ、そんなもの?

その時、ちょうど先生が教室に入って来たので、気になる事はありつつも、そのまま自分の席に戻った。

実は聞いていないって事もあるかもしれないけど・・・でもそれはそれで、美晴のせいよね?



夕方、家に帰ってリビングに顔を出すと、定位置のソファに妹がいた。

「あ、お兄ちゃんお帰り。」

今は携帯ではなくテレビに向かい、録画しておいた番組を見てるらしい。

「ただいま。」

「・・・ってあれ? 最近機嫌よかったのに、今日は暗いじゃん、どしたの? いきなり葵さんと喧嘩でもした?」

僕は葵姉との事を、妹には告げていない。

だがしかし、今の言葉はその事を知らなければ出てこない。

・・・つまり理佐は、僕と葵姉が付き合っている事を知っている。

そうか、最近理佐の態度が軟化してたのは、葵姉との事を知ってたからか。

美晴さんと親密に繋がっている妹だ。

今日あの写真を渡された事で、初めて納得が行った。

・・・って事は、あの写真も見てるんだろうか?

新たな悩みの種に囚われそうになるが、ここは知らぬ振りを決め込む方がいいだろう。

「違う。その弟にムカついてるだけだ。」

「ふーん、ならいいや。」

あっさり流され・・・いや、流してくれる方がありがたいんだが。

再びテレビに意識を集中させている妹は、やっぱり機嫌が良い。

今見ているテレビの影響というのではなく・・・最近は、僕に接する時の態度が明らかに変わった。

今朝、美晴さんに言われた台詞。

『やるじゃん、見直したよ。』

もし、そういう事なのならば、やっぱり妹はその事実を知っているという訳で。

・・・僕はいつまで耐えられるだろう?

一人気まずいものを抱えて、足音を立てないように静かに後退りリビングから出た。

そして、そのまま自分の部屋に向かう。

・・・これは敵前逃亡ではない、戦略的撤退だ。

そう、内心で自分自身に言い訳をしながら。

どこかで読んだ台詞の引用なのだが、今の僕の心境にピッタリだと思った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ